明治革命・性・文明: 政治思想史の冒険

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  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (3031ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130301787

作品紹介・あらすじ

奇跡のように安定していた徳川体制――なぜ僅か4隻の米国船渡来をきっかけに,それが崩壊し,政治・社会・文化の大激動が起こったのか.当時を生きた人々の政治や人生にかかわる考えや思い,さらにジェンダーとセクシュアリティの変動を探る.驚きに満ちた知的冒険の書.【東京大学出版会創立70周年記念出版】

感想・レビュー・書評

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  •  本書は5部構成。「はしがき」にあるように第Ⅰ部は欧州および中国との比較による「明治維新論」。筆者は明治維新を「革命」と呼ぶ。第Ⅱ部は日本と異国の双方から眺めた徳川外交論。とくに「鎖国」の是非をめぐる対話と討論が道徳的・思想的問題であり続けたことが、朝鮮と日本の知識人の間での知的交渉から見て取れることが示されている。第Ⅲ部は、政治と「性」の関連について、欧州と中国との比較を通じて検討されている。この第Ⅲ部がもっともボリュームがある。第Ⅳ部は、開国以前の日本での中国思想との仮想対話が、西洋への対応へと結びついていったことが3つの角度、すなわち「教」、競争、「文明」から論じられている。第Ⅴ部は、哲学的・思想的比較の試みとなっている。

     本書に収録されている各篇はすでに刊行されたり、講演録に基づいたものであったりと様々ではあるが、碩学ならではの重要な指摘や着眼点が随所にちりばめられており、読者を飽きさせない。とくに「Ⅲ 「性」と権力」はまとまっていて、そこだけ取り出しても新書1冊を優に超えるボリュームと内容がある。

     また経済思想史的な観点から言えば、「Ⅳ 儒教と「文明」」の「第9章 競争と「文明」—日本の場合」が示唆に富むことは言うまでもない。著者は、山本常朝、荻生徂徠、海保青陵、西川如見、市井の様々な教訓書、井原西鶴、上田秋成、只野真葛、藤田幽谷、中井履軒らの言を自在に引用し、「徳川日本には、『諸国民の富』のような理論は出現しなかった。しかし、市場競争を道徳と結合させる教訓から、競争を否定した質素で平等な農本主義的ユートピアの構想まで、競争をめぐってこのように多彩な思想が展開していたのである」とまとめつつ、明治に入ってからのウェスタン・インパクトの受け止めを福沢諭吉、神田孝平、加藤弘之、小野梓、中江兆民、佐田介石、陸羯南、徳富蘇峰、(注も含めれば、田口卯吉や三宅雪嶺、長谷川如是閑らも)などに言及し、概説する。これだけで日本経済思想史の教科書が書けてしまいそうな内容である。

     もちろん概説しつつ知的刺激を存分に与えてくれる書でもある。続く「第10章 儒教と福沢諭吉」では福沢の有名な「独立自尊」論を取り上げ、「強い主体性を備えた個人が出発点である」という考え方は朱子学と福沢の考えに共通するものだという小室正紀先生の指摘を引きつつ(p.538)強調し、かつ丸山真男の「議論の本位」論(『文明論之概略』)を間違いだと切って捨て、「議論の本当の位、真の値打ちを明らかにし、確定するにはどうすればよいか、即ち「至善」にして「一」なる「定則」に到達するにはどうすればよいか、を扱」っているのだと喝破している(p.547)。

     じっくりと再読したい本である。

  • 明治維新の一時期を切り取るのではなく、江戸から20世紀にまで続く連続した社会変革の過程として維新をとらえなおしたうえで、そこで生じた社会思想について幅広く論じている。非常に共感できる主張となっている。

  • 東2法経図・6F指定:311.2A/W46m/Nakada

  • 最初は面白がって読んでたけど、途中から強引さが鼻についてきた。中断。

  • 江戸期思想史の大家の本だが、本人も言っているように本筋から少し外れて冒険したもの。これまでの著書に比べると主観が多く、今ひとつ的を射ていないのではないか。
    中国や朝鮮との比較はいいとしてもジェンダー論は今の風潮への迎合が過ぎる。価値観が時代によって変遷し、正解などないことは一番知っていると思うが、書き方に激しい違和感を感じた。

    最後の徂徠などの思想史関係は安定して面白かったので、脱線部分の残念感が際立つ。

    付け足しだが、この本の前にイザベラ・バードの奥地紀行を読んだので、開国の章の江戸時代の暮しの礼賛に疑問。一部の表面てはなかったかという気がする。

  • 〈本学教員〉
    コロナ禍において、みなさんも、「理不尽な世の中である」と感じることが多くなったのではないだろうか。本書は、「明治革命」前後の日本がいかにグローバルであったのか。
    その中で、政治・経済・社会・家族・性について、どのような転換の背景にどのような事情があったのかを幅広い教養をもとにして、明快に記している。「理不尽な世の中である」理由は何であるのか。どのように考えれば、「理不尽」なことと向き合えるのか。最終章に2016年における「徂徠とルソー」の対話というかたちで、今への示唆、「一方でのいわれの無い不幸と悲惨、他方での邪悪な者の繁栄と偽善」について語られている。「助け合って生きる基礎的資質」を持つ人間の営みについて、じっくりと考察できる、やさしい文体で記された重厚な著書である。

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著者プロフィール

渡辺 浩(わたなべ・ひろし):1946年、横浜生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部教授、法政大学法学部教授を歴任。現在、東京大学名誉教授、法政大学名誉教授、日本学士院会員。専門は日本政治思想史。著書『近世日本社会と宋学』(東京大学出版会、1985年、増補新装版2010年)、『東アジアの王権と思想』(東京大学出版会、1997年、増補新装版2016年)、『日本政治思想史 十七~十九世紀』(東京大学出版会、2010年)、『明治革命・性・文明――政治思想史の冒険』(東京大学出版会、2021年)など。

「2024年 『日本思想史と現在』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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