「明治」という国家〔下〕 (NHKブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140016831

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  • 「木村摂津守を憎んではいけない。わるいのは、封建制だ」
     というのが、勝のこの場合での醸造酒です。その醸造酒を、さらに蒸留してアルコール純度を高めたものが、蒸留酒でしょう。比喩になりますが、思想は、酒(※蒸留酒?)というべきものです。
     思想は人を酔わせるものでなければなりませんが、勝の中で粗悪ながらも醸造酒が出来たのです。ただこの酒は、勝当人だけを秘かに酔わせるだけのもので、他に及ぼすことはできません。〝木村がわるい〟では素材であっても酒ではありません。〝封建制がわるい〟となると、やや普遍化して酒になります。が、かといってわるければどうすればよいかがないため、単に自分自身を酔わせるだけになります。ただし相当悪酔いする酒ですね、仏教でいう往相があって還相がありませんから。
    〝ではどうすればよいか〟
     が、蒸留化への道でした。そこで、勝は長崎時代、全身で吸収したカッテンディーケのオランダ国の国民思想とその体制を思いだしたでしょう。
    〝国民を創出すればよい〟
     つまり、国民という等質の一階級をつくりだすことです。

  • 前半は、若き日の新島襄、東郷平八郎の姿を通して、「日本」という新しい国家を担おうとする気概に溢れた時代状況を生き生きと描き出しています。

    「明治」という新しい時代を築き上げていったのは、江戸時代からの遺産である武士のエートスを持つ人びとでした。著者はこうしたエートスを示す例として、西南戦争に身を投げ出していった西郷隆盛と、そのことを高く評価した福沢諭吉の『丁丑公論』を紹介しています。

    しかし、「日本」という新しい国家の「国民」となったのは、彼らのような著名人だけではありませんでした。「阿Q」のような、道徳的緊張や士族的な文化を共有していない大勢の人びとを「国民」にまで引き上げようとしたのが、自由民権運動から憲法発布に至るまでのプロセスにほかならないと著者は言います。著者自身は、プロイセンを範にとった「国民国家」の創出にやや批判的な立場を表明していますが、国家と一体感を持ち、国家の運命を自分で決めうる「国民」がこうして生まれたことは認めなければならないと著者は考えます。

    こうした著者の明治時代の理解には、曲がりなりにも近代国家を築き上げた先人たちの偉業に対する尊敬の念と、後年の日本が陥ることになった問題の種子が生み落とされたことに対する痛切な思いが、ない混ぜになっているように思えます。

  • 読了

  • 明治時代の人物とかあまり知らなかったけど、彼らの働きによって今の日本が作られていることが少しは理解できた。

著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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