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- Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140017883
感想・レビュー・書評
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要約を試みてみる。戦争への反省を背景に戦後日本ではデモクラシーの興隆をみる。それは全体主義に抗しようとするアメリカ的な個人主義的デモクラシーであった。丸山眞男は日本の後進性として官僚への依存、家やムラ的地域共同体への従属、天皇制、これらの結果としての無責任体制を指摘し、責任ある自立した主体としての個人の確立とこれらの個人によって担われたデモクラシーの確立の必要性を近代化のために唱えた。しかし佐伯はこうした流れに懐疑の念を持つことを忘れない。デモクラシーが上手くいく条件として古代ポリス的な社会規模であることと、市民が正確な情報とそれを解釈する力と時間を持ち、私利を超えた公共的見地に立つことが出来る必要があると考えるからだ。しかし個人主義的な民主主義の元では価値相対主義、悪くすればニヒリズムに陥る。個人の自由を至上に考えるならば、個々人の価値や判断はすべて主観的相対的なので個々人の主観を超えた価値は存在しないことになる。しかし個々人の主観とは個人の好き嫌いや個人の都合と何ら変わらない。とすればそれは価値とは呼べず、価値相対主義は一切の価値を失ってしまう。ここにリベラルデモクラシーが歯止めを持たない私的利害の乱立という赴きを呈する。民主主義が「公共的事項」に対して大多数のものが参与するという政治の空間を回復するためには、個人の主観を超えた共有価値が存在することを認めなければならない。イギリスの政治学者ラズはこのような共有された価値体系を「公共文化」と呼び、この「公共文化」に対する人々の敬意とそれを維持しようとする精神こそが自由や民主主義を支えると述べている。
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