未来派左翼 下―グローバル民主主義の可能性をさぐる (NHKブックス 1110)

制作 : ラフ・バルボラシェルジ 
  • NHK出版
3.50
  • (2)
  • (2)
  • (8)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 78
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140911105

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 左翼の衰退の理由を明らかにし、新たな方向性を提示する書籍の下巻である。上巻と同様に対話形式で進む。世界各地の比較的新しい左翼の動きを一定評価しながらも限界を辛辣に指摘する。
    私は逆に本書を読んで左翼の未来に悲観的になってしまった。たとえば本書は左翼が土地の家族所有への信仰を有していることを限界ととらえ、土地所有制度の構造的転換を志向する(72頁)。しかし、現実問題として土地の私所有権は大資本の開発に対する障害になる。私所有権は強制的な土地買収への抵抗の拠り所になっている。日本にも総有論のような私所有権を相対化する議論があるが、現実問題として私所有権ドグマを放棄しなければならないとしたら、開発への抵抗は今よりも弱体化するのではないか。
    この問題は日本において特に重要である。日本の一番の問題は滅私奉公的な発想が残っていることである。個人の利益よりも集団の利益を優先する全体主義が残っていることである。その右翼的な滅私奉公に対し、左翼的な「一人は皆のために」思想は対抗軸にならず、逆に全体主義を強化する発想となりかねない。古い保守と古い革新が同じ守旧派に映るのは、このためである。
    これは観念的な思考実験にとどまらない現実的な問題である。現代ではブラックバイトが社会問題になっている。私のようなロスジェネ世代は世代間不公正の犠牲者であるが、ブラックバイトは起こりにくい問題と胸を張ることができる。不当な条件のバイトはバックレで対抗するためである。それだけの個人主義精神は有している。
    今の若者が不当なバイトでもバックレをせずに、ブラックバイト問題が起きてしまう原因として、公共心や集団に対する責任など道徳教育の影響があるのではないか。そこに左翼的な連帯の精神を持ち込んでも逆に事態を悪化させるだけではないか。本書は、もっと「公」的になること、さらに「共」的になることを志向する(133頁)。しかし、それが滅私奉公的な支配に苦しむ人々の救済になるか疑問を感じた。

  •  原題は『さらば、左翼』。問題意識と主張は真っ当だが、日本の現状からはあまりにもかけ離れている(「左翼」のだらしなさへの批判だけはあてはまるが)。逆説的に、現代の日本はどこまでも世界の「周縁」にすぎないことを気づかせてくれるとも言える(本書で日本に言及しているのはトヨタの「カンバン方式」に関する個所のみ)。

  • [ 内容 ]
    いまや保守化し自己保身に終始するようになった左翼たち。
    「前衛」「改革」「革命」などの創造的ビジョンはどこへ行ったのか?
    左翼は本来のクリエイティビティを失ったのか?
    シアトルやジェノヴァでの抗議デモ、ブラジルにおけるルラ大統領の試み、パリの郊外からフランス全土に広がった叛乱、不安定労働者たちによる自律的なデモ行進…一九八九年以降、およそ一五年の間に世界中で起きた出来事を分析し、そこに、未来への道を切り開く「新たなる創造性」を見出す。
    コミュニズムの予兆を探る、ネグリ待望の新刊。

    [ 目次 ]
    3 グローバル民主主義のさまざまな予兆(アメリカン・ヘゲモニーの終焉―イラク戦争から考える;マドリード・コミューン―列車爆破事件から考える;運動とともに行う統治―ブラジル・ルラ政権から考える;「帝国」貴族たちの思惑―ダヴォス会議から考える;二一世紀、中国のゆくえ―天安門事件以降から考える;宗教と政治の関係―イランの現在から考える)
    4 目覚めよコミュニズム(プレカリアートは未来へ向かう―May Dayから考える;統一ヨーロッパの役割―イタリアから考える)

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 6/23拾い読み

  • マルチチュードの活動は、ベルリンの壁崩壊以降、世界規模で進展している。例えば、「もうひとつの世界は可能だ」というオルターグローバリゼーションの活動は、シアトル他世界各地でのデモとなって現れた。

    マルチチュードの活動は、党派を形成しない。党派や政治理念の違いを超えて、世界各所で抵抗が起こっている。パリ郊外からフランス全土に広がった叛乱、チベット独立運動、メキシコのサパティスタ蜂起、マドリード・コミューン、ブラジル・ルラ政権の経済躍進などに、ネグリはマルチチュードの活動を感じている。日本における派遣社員の待遇改善、格差社会の是正を求める抗議活動も、マルチチュード的な活動の一種だろう。

    「ようするに彼らは、自分たちがまっとうな生活を営む権利には議論の余地はない、即座に認めろ、と宣言しているのです。具体的に言えば、彼らの望みは、住む場所を見つけ、眠り、食べ、学ぶこと、もちたいときに家庭をもち、多様な情報と文化を生み出したり利用したりすること、遊び、自由に<知>を交換し、健康に気を使い、あらゆる富を創造すること、自由に移動したり定住したりし、都市生活に参加すること、新たな公共空間や社会的生活様式をつくり出すこと、なのです」(下巻 p.183)

    日本でも個人はネット上で自由に意見表明することができる。文章、画像、動画、音楽様々な形式の情報を個人で生産し、流通させることが可能だ。情報技術のプラットフォームとインフラが、グーグルやアップルなどアメリカのグローバル巨大企業に独占されているとしても、社会変化の可能性は、マルチチュードの情報生産ネットワークから生まれる、と信じるしかない。

  • 2008/10/24 購入
    2008/10/30 読了 ★★★
    2014/03/15 読了

全6件中 1 - 6件を表示

著者プロフィール

1933年イタリアのパドヴァに生まれる。マルクスやスピノザの研究で世界的に知られる政治哲学者。元パドヴァ大学政治社会科学研究所教授。 早くから労働運動の理論と実践にかかわる。79年、運動に対する弾圧が高まるなか、テロリストという嫌疑をかけられ逮捕・投獄される。83年にフランスに亡命。以後14年間にわたりパリ第8大学などで研究・教育活動に携わったのち、97年7月、イタリアに帰国し、ローマ郊外のレビッビア監獄に収監される。現在、仮釈放中。 邦訳に『構成的権力』『未来への帰還』『転覆の政治学』等がある。

「2003年 『〈帝国〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アントニオ・ネグリの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×