- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140911952
作品紹介・あらすじ
高度成長期に燦然と輝いていた団地文化とは何だったのか?香里団地、ひばりケ丘団地、常盤平団地など、東西の大団地をフィールドワークし、埋もれた資史料を調査した著者が、躍動する団地自治の実態と住民の革新的な政治意識を明らかにする。さらに沿線の鉄道からの影響や、建築・設計上の特徴をも考察し、団地をアメリカ的ライフスタイルの典型と捉える従来の史観に再考を迫る。今日の団地の高齢化や孤独死問題が生じた淵源を、コミュニティ志向の衰退と個人主義台頭の歴史に探り、知られざる政治思想史の一断面を描出する画期的論考。
感想・レビュー・書評
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URの議論をすると、公団自治会の政治力の話がよくでる。なんとなくわかっていたが、この本は、具体的な団地ごとの政治勢力がどう生まれてきたかという観点でよむと、とてもおもしろい。
(1)中央線沿い、西武線沿いで微妙に違いがあるが、革新勢力の孵卵器として、公団の賃貸住宅団地が働いていたこと。
(2)当初は、通勤問題、保育所問題など、生活問題で始まった自治会運動が、政治的な色彩を帯びていったこと。
(3)ニュータウンの高齢化、建物の老朽化から、建て替えが課題となっているが、団地再生の一環として、減築や山本理顕氏の反公共的な空間としての住宅団地への改修など実験的な取り組みが行われていること。
やっぱり、老朽化してきても、団地やニュータウンは新しい都市計画の実験場所だと感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
団地のノスタルジー部分(ハード)に関しての本は数多ありますが、この本は珍しくタイプの住民の生活や文化、共同体の変容(ソフト)の部分を事細かにわかりやすく説明された読み応えのある著作でした。
私は団地育ちですが、特定の政党の党員さんが自治会長を長年勤めていて、ずっと神妙に感じていました。ワープロやパソコンは普及しても手書きで怒りの気持ちを込めたあの自治会会報がいまだに忘れられません。
集合住宅の政治宗教利用は、会社でのそれに同じく、やるべきじゃないよねと、団地生活を終えた今改めて思います。
最後の章で団地の再生に関しての記述がありました。オワコンと思われがちな団地にも新しい活路があることを知り、嬉しくなりました。 -
戦後日本に誕生した「団地」空間にいかなる思想が生まれ、いかなる政治活動が行われたのか。
大阪の香里団地、東京の多摩平、ひばりヶ丘団地、千葉の常盤平、高根台団地。
場の特性が、独特の政治的風土を形成することがある。
今回も面白かったです。 -
社会学部 松澤俊二先生 推薦コメント
『人の住まいと時代、社会がどう関わるか。そしてそこではどのような思想が育まれるのか。今、団地に住んでいる人も、住んでいない人にも。』
桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPAC↓
https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/545864 -
全体的に議論に説得力を欠いている感が強い。世論調査やアンケートの結果の読み方にも、他者の著作物の解釈にも、首肯しかねるところが多い。また本書のなかでしばしば登場する、均質性の強いハコに生活する人びとは均質性の高い生活を求めるというような議論──「団地」に関して何をか説明しているはずが結局単なるトートロジーに留まってしまっている議論には、残念な感じを受ける。
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戦後の住宅政策の一環として建設された団地は、地域コミュニティや公共政策の視点でさまざまに論じられてきたが、団地にまつわる政治闘争や政治思想史の視点で書かれた本著は極めて貴重。特に、団地が交通の便の悪い所に立地されてきたことと高度経済成長期と相まったことから、交通アクセスや住環境の向上を求めて人々が集まって自治体に請願や選挙運動を展開していく様子が、団地通信や聞き取りなど細かく調べられていて、その議論の展開が極めて精緻。
特に顕著なのが、団地の生活環境が団地沿線の鉄道運行本数により大きく規定されていることだ。鉄道輸送力の許容量と沿線居住者数とのギャップが大きくなれば、そこに不満やエネルギーが蓄積されて爆発する。そう、団地の季節にはマルクスの弁証法的唯物論の論理が通用するような土壌があったのだ。
ただし、団地の季節で輝いていた世代は高齢化し、地域コミュニティ問題の縮図として団地が語られることが当然のようになった。しかしながら、住環境の問題をクリアするために、団地の季節での取り組みは忘れられてはならないのである。 -
原武史『団地の空間政治学』読了。戦後の住宅問題の受け皿となった“団地”。保育所不足や交通などの“不便さ”が生んだ要請による自治の発生と、プライバシー確立による自治の衰退。そして高齢社会が要請する新たな空間の在り方に対応する今の団地の姿。団地は政治の一歩先を歩んでるのではないか。
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高度成長期に燦然と輝いていた団地文化とは何だったのか?香里団地、ひばりケ丘団地、常盤平団地など、東西の大団地をフィールドワークし、埋もれた資史料を調査した著者が、躍動する団地自治の実態と住民の革新的な政治意識を明らかにする。さらに沿線の鉄道からの影響や、建築・設計上の特徴をも考察し、団地をアメリカ的ライフスタイルの典型と捉える従来の史観に再考を迫る。今日の団地の高齢化や孤独死問題が生じた淵源を、コミュニティ志向の衰退と個人主義台頭の歴史に探り、知られざる政治思想史の一断面を描出する画期的論考。
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かつて「日本は最も成功した社会主義国である」というフレーズを聞いたことがあります。それは高度経済成長期の産業政策、経済政策によるものだと思いますが、一億総中流という生活意識こそがその表象だったような気がします。その意識は家族四人の核家族による標準世帯モデルによって育まれ、そのモデルを生みだしたのが団地という場所と空間であったことがシンボリックに描かれます。理想としてのアメリカを目指しながら標準設計としてのソヴィエトの方法論を取っていく、そのこと自身が55年体制の葛藤を抱え込んでいたのだと思いました。したがって共産党を中心とする革新勢力の苗代になりながら、プライバシーを重視する個人主義の流れにのみこまれていくことも必然だったのかもしれません。アメリカのスーパーマーケットを目指す西部ストアがことぶき食品の小分けパック商品に敗れ、より大衆化した西友に生まれ変わり、逆に競争に負けたことぶき食品がクルマ社会の到来に合わせてスカイラークという外食産業に変貌していく、なんてストーリーにも日本人の生活の歴史が埋め込まれています。(スカイラーク=ひばり、ってひばりヶ丘団地のひばりだったなんいて!)今考えると必然に思えることも、でも、その時の微妙な変数で方向が変わっていくことも興味深いです。西武なのか、国鉄なのか、大学が誘致出来たのか、出来なかったのか、駅から遠いのか、近いのか…団地といってもそのキャラクターは様々でした。(のび太の創生日記とかシムシティみたい。)本書の「なるほど!」という読後感はスッキリとした歴史のデコンストラクションにあるのではなくて、細かな資料を積み上げて再現している当時の空気感の再現にあるような気がします。今、建て替え問題とか高齢化の問題とか、あるいはレトロフューチャーとしての団地ブームとか、なにかと団地が話題になっています。(もちろん著者の活躍もその一因であると思います。)それは、戦後のある時期、日本の社会を一気に変える装置として機能した団地はこれからの社会デザインを一気に変えるパイロットファームになる可能性も秘めているからなのだと思いました。