迷路 (ハヤカワ・ミステリ 1687)

  • 早川書房
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150016876

感想・レビュー・書評

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  •  ロンドン郊外の邸宅で深夜に発生した殺人事件。殺害された実業家は女性に手が早く、その他のトラブルも散見されたが、犯人を特定する決め手に欠けていた。犯人は当時邸宅にいた10人の誰かに違いないのだが……? ロンドン警視庁犯罪捜査部副総監は、名探偵・ゲスリン大佐に助力を求める。検視官の訊問記録と書簡のみで構成された、フェアプレイを掲げたミステリ。


     図書館本。
     ゲスリン大佐と読者が目にする手がかりは完全に同じ、というのは確かにフェアなのだが、それは出版当時のイギリスでの話。時代や、まして国が違うと習慣や人心も変わってくる。
     正直、犯人の動機は「そんなのわかるか!」レベルだし、見ていたかのように殺害の様子を述べるゲスリン大佐の洞察力はシャーロック・ホームズ並み。そこまで限定できるわけないだろが~!
     現代の日本でこんな理由で殺害する人、いるのかな。しかし、訳わからん理由での暴力沙汰も増えているし、案外、現在の方が……?


     残念ながらおかしな点もいくつかある。

    ・最初のジョージ・クローリィ巡査部長の証言
    『死体のそばに、黄水晶とおぼしき大きな鉱物塊が転がっていました。』
     図を見ると“死体”、“石英”と付記された✕印がある。
     この2つは机の長辺を挟むくらい間が空いていて、とても『そば』などとは言い難く見える。黄水晶とは別の石英があったのかと思ったほどだ。結局、石英=黄水晶ではあるのだが。
     元々の文章にミスがあるのか、訳に問題があるのかは不明だが、混乱を招く表現だと思う。

    ・死体の体勢について
     便宜上“石英”を東、暖炉を西、張出し窓を北、ドアを南とする。
     “石英”の位置が凶行の場所であるなら、被害者はよろめいて暖炉付近まで行ったはず。(東→西)
     そこで倒れて、『頭は張出し窓の中央部に、足はドアのほうに』向くものだろうか?(頭が北方向、足は南方向)
     絶対に無いとは言わないが、蓋然性が低い気がする。

    ・読者に伏せられた情報がある
     読者が得られる情報はゲスリン大佐と同じと謳っているが、関係者の写真だけは読者に提示されない。ゲスリンが推理の根拠を補強するために要求したこの写真、読者が見られないのはアンフェアではないだろうか?


     フェアかどうかはさておき、調書の会話からは、登場人物それぞれの個性が良く出ているのが感じられて面白い。うざい性格の息子、甘やかされたパパっ子っぽい娘、な~んか虫の好かない雰囲気の秘書、話がすぐ脱線する女性たち、などなど。
     こういう人たちを黙らせたり、続きを促すのに懸命な検視官は気の毒というほかはない。胃薬を進呈したくなった……(笑)

     作者のフィリップ・マクドナルドは、「北風のうしろの国」や「リリス」などの作者、ジョージ・マクドナルドの孫だそうで。なんともびっくり。

  • とりあえず読み始めて一番驚いたのは情景描写とか事件の場面とかは一切書かず検視審問の時の証言のみで事件を描き、状況を知らせ、証言を知らせると言うこの簡潔にして分かりやすい物語の進め方。ここまでさっぱりしてくれると逆にすがすがしい。パズル小説だね。でもその簡潔さがいい。ゲスリン大佐の推理は逆説的で面白い。またほとんど気にしなかった矛盾点をついた推理は感心。でもこれは普通の人が読んだら怒り出すだろうなぁ。

  • 珍しいスタイルの謎解き本である。
    資産家が屋敷で殺害され、邸内にいた10人が被疑者になるが、検視法廷で詳述される、それぞれの証言により犯人が判明できるという。タイトルの'迷路'は、被疑者多数の状況で、犯人が特定できない比喩として使われている。殺害があったフロアや犯行現場の見取り図が犯人に繋がる情報として開示されている。被疑者の証言から犯人を特定することにお手上げになってる中で、現場にいないゲスリン大佐(名探偵の触れ込み)は、送られてきた法廷記録だけで真相に到達する。読者はゲスリン大佐と同じ条件のもと、すべての情報が公平に提供されていて、犯人がわかる挑戦になっている。ゲスリン大佐が、犯人を名指しするプロセスには軽さを感じるが、この事件の後、関係者のその後の様子が綴られている構成は、事件の余韻を静かに閉じさせていく趣きが感じられる。

  • 法廷での証言記録だけで推理する、てのはいいんだけど、結局何だかよく分かんなかった。
    何で犯人を有罪にできないのかが分かんない。時代のせい?
    最後の、関係者のその後についての報告書も……何で逮捕されるとかいう話が出てくるのかも分かんない。
    話自体は読みにくくはなかったけど、だから何?みたな。
    何で結局そうなるのかが分かんなかった。

  • この作品は、練習問題なのだそうです。
    面白かったです。

  • 320.初.元ビニカバ、帯付。
    2010.12.20.鈴鹿BF

    .

  • アンソウー・ゲスリン・シリーズ

    殺害されたマックスウェル・ブラントンの裁判記録。
    ブラントンの浮気癖。愛人たちの証言。事件当夜のそれぞれの動きに対する証言。被害者の動き。
    ルーカスからゲスリンへの捜査依頼。

     2010年10月14日読了

  •  警官と探偵役の書簡、および裁判の傍聴記録のみで構成されており、作者が非常に「フェアプイ」に拘った事が感じ取れる。推理の着眼点やその過程も地に足のついた実に堅実なものになっているが、反面いささか「地味」でもあり、その点では評価が分かれるかもしれないと感じた。
     僕自身は評価したいと思うが、いわゆる「新本格」を通り過ぎた世代としては全体的に若干、手垢がついてるような感じがするのは否めない。
     もちろん、書かれた当時としてはそんなことはなかったのだろうけど。

     が、その一方でこの動機は逆に目新しいのではないかと思う。森博嗣的な「動機が必要ですか?」というある意味スマートな姿勢を吹っ飛ばすだけの強烈な印象がそこにはあった。
    探偵役のあまりにあんまりな言い方にちょっと度肝を抜かれたというのもあるけれど……。

     派手さはないが端正なパズラーで、かつ紙数もそう多くないのでこれからの季節、小旅行の合間合間にメモを片手に読まれるとよいのではないかと思う。

  •  読了。☆3.5点。

  • 2008/04/12読了

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