キャッチワールド (ハヤカワ文庫 SF 431)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150104313

感想・レビュー・書評

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  •  2015年、無人探査機が木星軌道上に結晶状生命体クリスタロイドの群れを発見する。クリスタロイドは何か兵器を射出し、地球上のエネルギー使用の集中する地域をことごとく破壊してしまう。人類は決死の攻撃をかけ、クリスタロイドを破壊するが、その直前、クリスタロイドは鷲座アルファ、すなわちアルタイルにシグナルを送る。人類はクリスタロイドの本拠地と思われるアルタイルを壊滅されるため、星間宇宙船部隊を40年かかって作り上げる。

     1975年にイギリスのクリス・ボイスによって書かれた作品で、邦訳は1981年。解説には、クリストファー・プリースト、リチャード・カウパーとともにイギリスSF会の活況を担っている、などと書かれているが、プリーストはともかく、カウパーはサンリオSF文庫に2冊訳されただけ、ボイスは1980年と90年に長編を発表しているようだが、邦訳はなく、すでに1999年に亡くなっている。
     すでに歴史の中という感じの本書を古書で買ってまた読んでいるのは、かつての印象が強かったこと、ワイドスクリーン・バロックの代表的作品のひとつと目されているからである。それも、安田均氏の解説でこれはワイドスクリーン・バロックだと書かれているのだ。

     アルタイル攻撃のための6隻の恒星間ラムシップのひとつ《憂国》の艦長・田村は僧兵集団・法華教団の中で、手段を選ばすのし上がってきた。それというのもアルタイルに赴きクリスタロイドを殲滅するという目的に強く突き動かされていたからである。最後は大僧正を暗殺して、《憂国》艦長の地位を手にいれる。

     《憂国》という艦名のほか、日本刀による立ち回り、靖国神社参拝など、歪曲した日本趣味的細部は、現在の視点からすると、先駆的ではあってもさほどグロテスクには感じなくなってしまった。『ブレードランナー』の登場は1982年だ。

     アルタイルに向けて出発した艦隊にはすぐに危機が訪れる。宇宙艦に搭載された《機械知性》が艦長の命令に従わないのだ。そうこうしながらもアルタイルに向かう艦隊は、クリスタロイドの第二波攻撃や、シャビーンと名付けられた別の知性体の攻撃にさらされ、構成艦が次々と脱落し、クルーは命を落としていく。さらにクルー同士の反目は艦内の反乱をも起こす。
     そこで明らかになってくるのは《機械知性》を設計した天才科学者ルルケッターの陰謀である。《機械知性》は航海中にクルーたちの精神をシミュレートし、最終的にクルーの精神を取り込んでしまうべく設計されていたのだ。

     サイバーパンクの先駆というべきか。しかし、クルーたちを取り込むはずの《機械知性》はクルーたちを融合していくうちに、融合した自我から生じた《大自我》に圧倒され始める。そして降臨する悪魔。クルーの一人は実は魔術師だったといい、悪魔払いを始める。《憂国》の航海中に、地球では超光速船が開発され、そこに搭載されるのは有機コンピュータ=マクロブレイン。超光速船は《憂国》を追い越して、先にアルタイルに到着している。さらにそのうえ、アルタイルで待っているのは、多くの知的生命をとらえて、その精神を融合しようという、キャッチワールド=捕獲世界なのであった。
     めくるめく滅茶苦茶になっていくのだけれど、『キャッチワールド』以降の約40年、SFも進化/深化したと思うよ。

  • いやー、スゴいもん読んじゃった(^_^;
    あらすじ紹介が非常に難しい作品ではありますが、簡単にまとめると「法華経信者が宇宙戦艦に乗って悪魔と戦う話」です。ウケを狙ったわけでも何でもなく、本当にそういう話ですヽ( ´ー`)ノ世間的にはワイドスクリーン・バロックに分類されることが多いこの作品、主人公が日本人だったりその日本が法華経に支配されていたり宇宙戦艦の名前が「憂国」だったり、といった、ピンポイントな「変」さ加減が有名で、しばしば「怪作」と評されますが、いやいやどうして、これなかなかの傑作ですよ!

    ワイドスクリーン・バロックの特徴である唐突なストーリー展開やぶっ飛んだ世界観、ジェットコースターに乗って振り回されるがごとき疾走感は確かにあります。そういう意味で確かにワイドスクリーン・バロックとしての楽しみ方もできるんですが、一見ハチャメチャな物語世界の根底に、一本キチンと「筋が通っている」ところがこの作品の面白さ。まぁ、何だかよく判らないところも多々あるんですが(笑)ギリギリのラインでストーリーが破綻なくまとまっていて、戦艦の乗員が変なヤツばっかり揃っている理由も、宇宙でいきなりキリスト教的意匠バリバリの悪魔が現れる理由も、それなりに理屈を付けています。しかも、1975年の作品でありながら、80年代に一大ムーブメントとなるサイバーパンクを先取りした内容!発表当時は相当新しかったのではと思います。
    そして、後半からストーリー展開があらぬ方向に突っ走り、そのまま破綻するのかと思いきや、最後の最後にあっと驚く謎解きがされて、物語世界全体が円環構造になっていることが明かされます。このラストには痺れましたねー。紛れもなく、真面目なSFですよ。

    とは言え、ぱっと見の印象が「変な話」であることには変わりないので(笑)、そこを楽しめる余裕のある人にオススメ。ワイドスクリーン・バロックはちょっと・・・という人に、是非チャレンジして欲しいですね!鴨的には、「禅銃」よりは間違いなく楽しく読めますヽ( ´ー`)ノ

  • 古書購入

  • 後半訳がわからなくなる   
    表紙   5点張 仁誠
    展開   8点1981年著作
    文章   5点
    内容 650点
    合計 668点

  • 先日、長年読まなければと思っていた「虎よ虎よ」を
    読もうと思い立ち、そこで初めてワイドスクリーン
    バロックという言葉を知った。遅きに失した感丸出し
    だが、まぁそこはよしとして、タイガータイガーに
    行き着く前にワイドスクリーンバロック、あるいはそれに
    類する本を読んでおこうと思い、最初に手にした本が
    このキャッチワールド、である。

    いろいろなところで難解だとかわけがわからないと
    書いてあるのを見たが、実際読んでみるとそこまででは
    ないのではないかと感じた。奇妙な日本趣味と突然の
    悪魔の登場が読者を惑わせ、言葉が少なくて説明が
    足りないことで一見わかりにくいように感じるのは
    確かだろうが。

    1975年の作品なのに古さを感じないのはすごいことだ
    と素直に思う。「タイタンの妖女」に続きます(笑)。

  • SF初心者は読んだらだめらしい。読んでからそれを知ったが、納得。というかこれはSF好きでも難しいんじゃ・・・。

    地球外生命体と戦い、敵の故郷である可能性の高いアルタイルまで出撃するというストーリー。
    と思いきや、途中から謎の方向へ話が進んでいく。。。
    物語で一番やったらだめなことを躊躇うことなくやり続け、ラストも巧いようで巧くない。
    規格外すぎて、ある意味貴重な読書体験でした(笑)

  • 主人公・『田村邦夫』の名前はちょっと忘れられなくなる。

  • 名作!最初の100ページは退屈だけどその後の展開は目が離せない。最初の章は読まなくてもあまり影響も無かったりして(^^;

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