- Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150117245
作品紹介・あらすじ
遙か未来、銀河帝国の崩壊によって地球に帰還することを余儀なくされた人類は、誕生・死さえも完全管理する驚異の都市ダイアスパーを建造、安住の地と定めた。住民は都市の外に出ることを極度に恐れていたが、ただひとりアルヴィンだけは、未知の世界への憧れを抱きつづけていた。そして、ついに彼が都市の外へ、真実を求める扉を開いたとき、世界は…。巨匠が遺した思弁系SFの傑作、待望の完全新訳版。
感想・レビュー・書評
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NHKの100分de名著で取り上げられるということで、積読を消化したのですが、予想以上の面白さにビックリしました。古典SFって思索的なイメージが強かったのですが、この作品はそのイメージにプラスして、冒険小説のようなワクワク感があるのです。
物語の舞台となるのはダイアスパーという都市。そこでは人間の誕生や死の概念すらも、現代とは全く違います。生まれてくる人間は、始めから成人の身体。不老不死となった人間は、死のタイミングも自ら選ぶようになり、その記憶はメモリーバンクに保存され、新しい身体へ移されます。そして、その記憶は概ね20才前後で蘇る。
そんな人間の誕生から、都市のシステムまで全て管理しているのが、政府や国家でななく、ダイアスパーにある巨大コンピュータ。このコンピュータの管理により、ダイアスパーは完全・完璧な都市として常に機能し続けているのです。
こうした設定が70年前のSFで既に書かれていたという事実……。改めてクラークのすごさを実感します。
この作品の主人公となるアルヴィンは、そんな完全・完璧な都市に違和感を持ちます。そして、都市の外の世界に思いをはせます。しかし都市の他の人々は、外の世界に対し恐怖心を持っていて……
そしてアルヴィンは徐々に都市の秘密に迫っていきます。謎の怪人物の登場、都市の地下に眠る巨大な地図、そして都市の外、他の惑星への誘い……。
アルヴィンの強い好奇心に読者である自分も感化されたのか、都市の秘密にアルヴィンが迫っていく描写が、どうしようもなくワクワクするのです。何より都市の地下に潜る場面は本当にワクワクしたなあ。映画のインディ・ジョーンズを観ているようというか。
アルヴィンの冒険はついに都市の外へ。未知の惑星、文化や自然、超能力。しかし、クラークの想像力はまだまだ終わりません。物語は際限なく広がり、アルヴィンの冒険は、これまで何千年と続いてきた都市や文明の関係性を揺るがす事態にまで、発展していきます。
作品を読み終えた段階で、これはSFの何のカテゴリに当たるのかな、と少し思いました。それほどこのSFで使われるギミックや設定は多いのです。未来社会、テクノロジー、管理社会、宇宙、ファーストコンタクト、超能力、異生物、ロボット、コンピュータ、そして神……
こうした様々な要素を使いこなし、際限なく広がる世界観や作品のビジョンを表現する。本当にただただ圧倒されます。
しかしそうした圧倒的な物語、世界観、ビジョンが展開され示されるなかで、人間の普遍的なものの素晴らしさを謳いあげている作品であるようにも思います。
未知のものに対する好奇心
外の世界を恐れない心
アルヴィンのこの心と行動が、文明、そして銀河系の新たな胎動となるのです。それだけ壮大な物語でありながらも、その根底にあるのが人間の誰しもが持つ心にあることに、クラークの人間観が表われているように思います。
クラーク作品のイメージは『幼年期の終わり』のような思想的な作品のイメージが強かったのですが、困難な状況の中で人の強さや技術の可能性を描いた作品であったり、ジュブナイルを描いたりと、人に対する熱さや暖かさを感じる作品もあったことを、この作品で思い出しました。
思索的な部分もありながら、人間の可能性を強く信じた作品でもあり、ジュブナイルもののような冒険、そして成長物語でもある。様々なSFの要素を、そして様々なクラークの側面を楽しめる贅沢で、そして面白い傑作でした!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
遙か先の未来、人間から死が失われた何千年もの生を何回も享受することができるダイアスパーと、テレパシーを発達させ自然と共に生きるリス。アルヴィンがダイアスパーから出て、リスを訪れ、さらに宇宙にまで飛び出る物語で、後半に差し掛かったあたりからはぐんと面白くなった。アルヴィンは久しぶりに誕生した子供ということで、勝手に小さい子供かな?と思っていたが、青年でした笑
普通に面白かったのだけど、もっと思索しながら読めたら良かったなと反省...なかなか言語化が難しい感情を引き起こしてくれた作品です -
地球のはるかな未来の姿、人類の行く末を哲学的な啓示で見せてくれる。SF的手法で思いもつかない未来の都市や人類を垣間見るだいご味を味わえる。今の感覚からいえば自然的には荒廃の極みの地球と、停滞した人類の中から、アルヴィンという未知への探求心に満ちた少年を主人公に、やはり前向きに進もう、という方向でしめくくる。それが、やっぱりそうでなくちゃ、と心地よい。
アルヴィンの住むダイアスパーが人類がコンピュータに生も管理されるという描写は映画「マトリックス」を思い浮かべる。実際文中でアルヴィンが中央コンピュータの前に立つ場面では「都市のパターンは、永遠に凍てついた状態でメモリーバンクに保存され、・・・壁面に埋め込まれた構成情報(マトリクス)と連動している」と表現される。
宇宙へ行ったその後の人類は不死を得、人工知能に管理され、あるいはテレパシーで意思疎通をしているが、新たな発見は無く、停滞している。はるか先の世界で争いの無い世界での停滞、というのは「幼年期の終わり」でも描かれている。はるか未来の地球が現在の感覚からすると「停滞」というのはクラークに限らず、映画でも多く描かれている。これはどうしてなのかなあ。
そして人類の進化の行き着く先は、物理的実態のない「意思の世界」というのも「幼年期の終わり」と同じく描かれている。
確か小松左京の「果てしなき流れの果てに」や手塚治虫の「火の鳥・宇宙編」もそんなだったような気がする。
文庫解説より「銀河帝国の崩壊」「都市と星」経過
1937「銀河帝国の崩壊」の原型となるものを執筆開始
1940 第1稿が完成
1948「銀河帝国の崩壊」の原型となる小説、米雑誌「アスタウンディング」4月号に発表
1953「銀河帝国の崩壊」改稿したものを単行本で発行
1954「銀河帝国の崩壊」を「都市と星」とする作業開始。ロンドンからシドニーへ渡る船上で。(スキューバダイビングに行く途中)
特に情報理論の発展により原子力がもたらしているよりさらに深い革命の起こることが暗示されていた”ため改稿してそれを織り込みたかった。
「銀河帝国の崩壊」を「都市と星」として改稿して発表
1956発表
2009.9.15発行 2020.2.15第3刷 -
やっと読み終わった!ザ・冒険譚!
私はあまり夢らしい夢を見ないからか、いかにも面白い夢、みたいなSFを読むと、夢を見てるみたいで眠くなってしまう。そのせいか「都市と星」を電車の中で開くとすぐに眠くなってしまうので読み進めるのにやたら時間がかかってしまった。面白くなかった訳では決してない。 -
成熟した文明、安定を得た歴史の終わり。人類はその先に何を見るのか。どれだけ文明や社会が進化しようともそこにあるのは、飽き足らずに新しい世界を求め続ける子どもの様な好奇心が人間の人間たりうる条件であった。
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不死と引き換えに生殖を捨てた人類、メモリーバンク、ヴァーチャル世界、都市を管理する全能の中央コンピュータ…「SFあるある」の設定が詰まっているが、これが1950年代に出版されたことを思うと改めてクラークの偉大さを実感する。個人的には、肉体を持たない宇宙知性、ヴァナモンドの強烈な存在感が印象的だった。クラークの発想は、スケールがあまりにも大きく、荘厳でピュアに精神的な、言ってしまえば霊的なものを強く感じることが多い。そして、美しい。
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約70年前の作品とは思えないレベル。途中中弛みを感じるも総合的に面白かった。
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スピルバーグ
アンブリン -
もう決して出会うことがない筈だったダイアスパーの人とリスの人という全く異なる成長を遂げた2種属の人たちが、異端である主人公の活躍によって手を取り合うようになるという話。「もしも自分たちの性格や人生が気づかない内に全て生まれたときから定められていたら」といったことを想像することができて面白かった