華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF フ 16-7)

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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150119553

感想・レビュー・書評

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  • 本が禁忌とされ、見つけ次第燃やすと言う未来の話。
    気になっていていつか読んでみたいと思っていた。
    何も考えず燃やす職業に付いてた主人公があるきっかけで本に興味を持ってしまい追われる側になると言う。
    話の展開的には思ったよりあっさり事が展開してそこで終わるのか…とはなるけど、古典の名作と言われるだけあって深く解釈すればきっといつまででも語れる1冊だと思った。
    人類は何度も同じ過ちを繰り返し、過去の記憶からは何も学ばずいつも唾を吐きかける行為しかしないという言葉はなかなか刺さった。

  •  本を読んだり持つことが禁止された世界で、書物を焼くことを仕事にしている主人公が様々な人物に会い、自身のやっていることに疑問を持つようになる話。
     1953年に出版されたとは思えないほど、未来における本や人に関しての洞察が深くとても驚いた。特に、本を読まなくなったり禁止される過程が、例えば権力者が主体となって行う検閲のようなものではなく、人が実践的で分かりやすい役に立つものだけを大切にしていった結果愉しみと快い刺激を求めたため廃れていったというのが、妙にリアルで生々しく感じた。
     物語が進むに連れ周りとは違う人と会うことで主人公は本に興味を持つようになるが、本というものが本当はどういう意味や力を持つか分からず、周りの人に驕りや怒りとして振りかざすようになる。これもまたなんというか、テレビとかネットとかで新しく得た知識をよく調べもせずに喜び勇んでひけらかすようで自分にも心当たりがあり読んでいて身につまされる思いだった。
     自身の本に対する考えの変化に戸惑う主人公に対し、本の大切さを知ってはいるが無力感に打ちのめされている元英文学の教授のフェーバーや同じように以前本に興味を持ったが本を焼くことには賛同している上司のベイティーといった本の先輩が、対照的なことを言っていくシーンもまた人の本への態度の違いを端的に描いていて面白かった。「必要なものは本ではない。かつて本のなかにあったものだ」と言って本の意味を主人公に教えていくフェーバーに対し、単に新しいものに触れ「いっとき、酔っ払っちまった」だけだと言い本はあってもなくても世の中は上手くやっていけるというベイティー。興味深かったのはフェーバーよりもベイティーの方が本からの引用をたくさんして話をしていたところだった。主人公はベイティーも苦しんでいたんじゃないかと感じていたが、ベイティーは最後まで本心が分からなかった。
     最終的に主人公は街から逃げることになり、その結果本を覚えることで守ろうとする遊牧民に会う。一人では社会に対し怒りしか覚えなかったが、仲間が集まることでできることが少しずつ増えていき、力を蓄え時機を待つという結論に達することに納得感があった。日本には以前観念小説というジャンルがあり、これは自身の不条理を社会に責任を求めるものなのだが、発展性がないとして廃れてしまった。今回のこの結論は観念小説の先にあるものではないかと思い個人的にすごく感動した。
     ところどころ表現が独特でついていけないと思うことがあったり、特に最後の方で主人公の描写が実際に起こったのか想像の中だけなのかと分かりづらいことがあったり、案外全編を通して会話劇なのでしっかり理解しないと話が繋がらなかったりと難解さを感じた部分もあった。ただ、妻に関してはなぜ主人公が惚れたのか全く分からず、共感できなかった。4.3。

  • 映画みて好きだなと思い、原作に興味持った。
    今読み始めたけど、冒頭からまじで読みやすくて、面白くて早くも心鷲掴み。
    映画観たのだいぶ前で、おばさんがリビングで燃やされる本とともに燃えるハウスの中でぐるぐる回ってるシーンが強烈なインパクトすぎて、それ以外のシーンを忘れてしまったのだった。

    わくわくしながら今読んでる〜♪

  • 本は燃やされる。
    人は考えることをやめる。

    本を燃やす昇火士であるモンターグが燃やすことに疑問を感じ、本の魅力に憑かれ燃やすべきものではないと考え始め人生が大きく変わっていく。

    スピード感がすごい。一気に読んでしまった。
    近未来ディストピア小説だけど、これは近未来の話ではなくて現在の話だ。
    本は燃やされないが以前より重要視されていない。
    人々は自分の頭で物事を考えない。

    ベイティー隊長が対照的な存在。
    本は下らない、燃やすべきだと言っておきながら口から紡がれる言葉は本の引用ばかり。おそらく、考えて考えて考え苦しむことを知っているのでは。
    ベイティーの「気安く詩を引用するなんざ愚の骨頂。通を気取った大ばか者のやることだ。」というセリフが印象的。やりがちなので。。

    私の頭の中に本は入っているだろうか。
    本がなくなったとき、伝道できるものがあるだろうか。

  • 淡々とお話が進んでいって作品世界にのめり込む前に終わっちゃったという感じでした。短い...
    本の所持が禁止された世界の話ですが、敢えてなんでしょうが説明が少なくて、深掘りすると面白いんだろうけど分からないという箇所が多かったです。
    よく引き合いに出される1984年ですが、あちらは未来は悲観的に描き、こちらは未来を信じている本だと感じた。

  • やっぱりブラッドベリは苦手だ。詩的な文章が特に。でも何故か彼の本を手にとってしまう。読書が禁止されメディアによって情報が支配される世界は、私たち本が好きな者からすれば実に恐ろしい未来の姿である。現在でも書籍や音楽、映像がどんどんデータ化され、手に触れる事のできない不確かなモノに変わりつつある。便利さと引き換えに何かを失ってはいないか、考えさせられる作品。

  • 先にあとがきを読んだのだが、新訳の意味がとうとうと語られており、とくに序文の訳の違いの説明はかなり説得力があった。お・これは翻訳に期待!と読みはじめたら、まさかの「おや?この訳文はかなり読みづらいのでは…」とまったく期待はずれで、最初に結構つまずいてしまった。ページ数も大分削減されたということが良いこととして書かれていたが、もしかしたらタイトにしすぎなのでは…?などと思ったり。えてして、翻訳への期待値は、こういった形であげるべきではないのである。そして、こういう名作は意外と古びた旧訳のほうが単語は錆びているが、文構造はがっしりしていて読みやすかったりすることもある(この本は比較していないので分かりませんが)
    と、最初につまずきまくったのだが、波に乗ったら信じられないくらい面白かった。おそらく、原作の力だろうなと思いましたね。どこへ連れて行かれるのか分からない恐怖感・不条理感と、主人公の行動の「オイオイ、それは駄目だろ…」感が非常に物語にドライブ感を与えており、乗れば一気読みでした。しかし、人の思考を鈍らせたかったら不燃性の情報を頭に詰め込めばいいんだ、というくだりはなんというか本当にその通りだと思いますね。SNS上のくだらない情報とかが1日100個くらい頭に入ってくると、なんだかそれ以外のことがどうでもよくなり、真剣にひとつのことや大きなことを考えられなくなる。そのことが非常に端的に表されていて震えた。本を読みながらこんなことは絶対に言いたくないのだが、やはり何百年という時の流れを耐えてなお読み継がれている本にはなにかしらの理由があるのだ、と思わずにはいられない読後感、私たちは本を信じているのだ、と簡単に言いたくなるような読後感がまあ読書人には受けているのであろう、私も軽率に心打たれました。

  • 記録を調べたら、違う装丁の本書を2年半ほど前に読んでいた。

    自民党総裁選が終わったこの時期に、また読むべきだと思ったのはなぜなんだろう?

    日本人が白痴化して、マスメディアや時の為政者に蹂躙されることを避けようとして、抵抗の証として本書をまた読んだのかもしれない。

  • 難しいことを考えないことが果たして幸福なのか。

    娯楽以外の書物の焚書が行われる社会を舞台に、主人公が自分自身の思想を得ようとしていく物語。
    市場の拡大による効率化、人口増加に伴い、
    難解で理解するのに時間がかかり、多様化する人々の間で諍いを起こすような書物が読まれなくなった。
    人々は小型ラジオ、テレビの娯楽を享受するばかりで、物事に対して疑問を持たなくなり、愚民化した。
    もし書物を持つ者がいれば密告され、焚書官によって捜査・焚書されてしまう。
    まさにその焚書官である主人公は、隣家の少女、本ごと焼却されることを選んだ老婆との出会いを通じて、自分の生活の「幸せ」について疑問を持ち始める…

    『1984年』も似たような内容だが、政府による洗脳・監視が積極的に行われるわけではなく、堕落した国民自身が進んで刹那的な快楽を求め、密告し合うところが違うポイント。

    テレビによる文化破壊をテーマにしているが、現在ではスマホでSNS、まとめサイトや動画サイトをみたりと娯楽は身近(その分発信も身近)。
    ストック情報・フロー情報がどうのこうの言われる中で、書物の意義を問う作品。

  • 本が禁止された時代を描いたSF

    以下公式のあらすじ
    -------------------
    華氏451度──この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士(ファイアマン)のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく……本が忌むべき禁制品となった未来を舞台に、SF界きっての抒情詩人が現代文明を鋭く風刺した不朽の名作、新訳で登場!
    -------------------

    昇火士のモンターグ
    職務に忠実で、むしろ本を焼くことに喜びを感じていた程
    しかし、近所に住んでいるという17歳の少女クラリスと出会いから彼は少しずつ変化する
    雨を口に入れるのが好きなど、不思議な事を言う彼女に出会ってから彼の中で色々な現状に疑問を抱くようになる
    いつから本が焼かれるようになったのか?昔はファイアーマンは火を消す仕事だったのか?
    本は消し去られ、テレビという媒体が大衆の関心事となり、人々に供される内容は単純化されている。
    古典はあらすじやダイジェストだけが伝えられ、人々は「考える」事がなくなっていく。

    タイトルの華氏451は、紙が引火して燃える温度

    本が禁止された世界を本で描くという状況が面白い


    1953年に書かれたというけど、世界背景として当時は近未来を描いていたものが、現代において似たような状況になっているものも多い
    小型の音楽プレーヤーの「巻き貝」はスマホやイヤホン
    リビングのモニターは巨大化している
    デバイスのユーザ間での自由な通信

    メディアが与えるのは娯楽ばかり
    その結果、人々は、煩わしいことや不愉快なことを考えない事が幸せだと思っている
    コミュニケーションは失われ、自分の言いたいことだけ言って相手の言葉を聞いていない
    他人に無関心で感動することもない
    イライラしたら猛スピードで車を走らせたり、レクリエーション施設で物を叩き壊したりして発散する

    一部では実際にそうなってるなぁ

    本が危険視されているのは、人々に「考える」事をさせてしまうから


    モンターグは少女クラリスに出会い、自らの頭で考えることをはじめ、自分が幸福でないと感じていることに気づく
    これはある意味で禁断の果実を口にしたようなものか?


    昔、テレビが一般家庭に普及しだした頃に「一億総白痴化」と言われた時代があった
    テレビの普及による国民の知的レベルの低下を懸念したことがあったけど
    今やそのテレビすら廃れ気味で、ショート動画や玉石混交の動画を見る人が増えている状況
    これはもっと酷い事になってるという解釈でいいのだろうか?

    その割に、人々が幸福になっているようには思えないのは何故なんでしょうね?
    考える事とは?幸福とは?
    果たしてそれは相関関係があるのだろうか

    それぞれの幸せがあるわけで

    考える人の方が幸せとも言えないし、考えない人の方が幸せとも言えない
    となると、自分にとっての幸せが何かを「考える」必要が出てくるという堂々巡りなのかな?



    文体や表現、言葉選びに若干の読み難さを感じる
    「カブトムシ」は車「ビートル」の迷訳かと思ったけど、色々と変形する乗り物なのね
    原文がどうなってるかは知らないけど、「機械猟犬」のように既存の言葉を組み合わせるなどわかりやすくできなかっったものかね?
    でも、これでも旧訳よりもよほど読みやすいって、旧訳はどれだけ酷い訳になってるんだ?

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著者プロフィール

1920年、アメリカ、イリノイ州生まれ。少年時代から魔術や芝居、コミックの世界に夢中になる。のちに、SFや幻想的手法をつかった短篇を次々に発表し、世界中の読者を魅了する。米国ナショナルブックアウォード(2000年)ほか多くの栄誉ある文芸賞を受賞。2012年他界。主な作品に『火星年代記』『華氏451度』『たんぽぽのお酒』『何かが道をやってくる』など。

「2015年 『たんぽぽのお酒 戯曲版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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