- Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150310059
作品紹介・あらすじ
少女アリス・リデルの生まれたままの姿を撮影していたルイス・キャロルは、その合間に不思議な未来の話をはじめる…暗黒の検閲社会を描く表題作をはじめ、低IQ化スパイラルが進行する日本社会の暴走を描く「リトルガールふたたび」、夢と現実の中間にある"亜夢界"を舞台に、人間と登場人物との幸福な共存を力強く謳う中篇「夢幻潜航艇」など、SF的想像力で社会通念やカルト思想の妥当性を問い直す傑作中短篇7本。
感想・レビュー・書評
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SF系の作品を中心に7編収録の作品集
表題作の「アリスへの決別」は少女アリスの写真を撮るルイスキャロルが語る未来の検閲社会の話。
最近もテレビ番組でアニメ(特にロリコン関連)の規制が取り上げられたりしましたが、それが突き進むとこんな世界が訪れてしまうのかな、と少し考えてしまいます。
疑わしきは規制せよ、そんな風に思考停止してすべてを取り締まれば楽なことは間違いないのでしょうが、それが何を生むのか
ということも考えないといけないのだな、としみじみと思いました。
「リトルガールふたたび」は低IQ化が進んだ未来の日本が舞台。
その場の空気やノリに流される日本人、異質な意見を徹底的に攻撃・排除するネット社会の闇、そして訪れる思考停止と下手なホラーよりよっぽど怖い未来の話になっています。
上記2編はディストピアの色の濃い作品ですが、山本さんらしい想像力の力を信じた短編「オルダーセンの世界」「夢幻潜航艇」や最後の場面での決意の描写が力強い「地球から来た男」など
作品のバラエティも豊かで、SF的な想像力で社会問題について考えさせられるだけでなく、物語自体も十二分に楽しめるものがそろっています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ごめんよ、アリス。僕は君を守れない―。
日曜日の朝、作家ルイス・キャロルは専用のスタジオで12歳の少女アリス・リデルを撮影している。一糸まとわぬアリスはまるで芸術品のような繊細な美しさだ。そんな撮影の合間、キャロルはアリスに不思議な話を始める。曰く、未来では自分の好きな事を空想するだけで処罰されるというのだが。
現代を代表するSF作家の一人、山本弘は自他共に認めるロリコンである。…普通の人はここでちょっと引いてしまうかも知れない。しかし山本弘は堂々と言う。美しいものは美しいのだと。それを性犯罪に結びつけた一部の犯罪者が、ロリータ趣味というもの全体のイメージを悪くしているのだと。そうだ、確かに基本この世の中では、人に迷惑をかけなければどんな趣味を持っていようと自由なはずだ。そもそも少女趣味といっても、本当にその対象を想っているのであれば、傷つけたり本人が嫌がるような事はできないはずなのだ。
本書の表題作は、そんな明確な主張を持った山本弘がずばり児童ポルノをテーマに描いたSF作品。今年世間を騒がせた「非実在青少年」問題への答えが示されている。
ロリコンというものに無条件に“悪”のイメージを持っている人も、この短編を読めばその心理が純粋に美的感覚に根差していることが理解できるかもしれない。何事も考え無しに否定するのではなく、まずはお互いに理解しあうことが重要である。
山本弘は作中に自らの主張を色濃く反映させることで有名だが(本人はあまり認めてないっぽいけど)、本作でもロリコン攻撃への反論を印象的なストーリーに仕立てている。
こんな世の中でもロリコンであることを隠そうとせず、正々堂々と主張を展開し、なんらやましいことはないと反論する姿勢は凄いと思う。そんな事を言えばあらぬ攻撃を受けることは不可避であろうからだ。
しかし山本弘は、自らの作品でその答えを出す。本当に凄いことだ。それだけの覚悟があってこその仕事なのだろう。
この本はそんな表題作を筆頭に7編が収録されている。表題作以外のラインナップは「リトルガールふたたび」「七歩跳んだ男」「地獄はここに」「地球から来た男」「オルダーセンの世界」「夢幻潜航艇」の6編(収録順)。
考える力が極限まで低下した日本、遥か宇宙で明らかになるある人物の過去、似非科学、ニセ霊能力者。それらをテーマにしつつ、どれもイマジネーションに溢れ現代への問題意識がしっかりと描きこまれた作品ばかり。読み終えた後に社会を見る目がちょっと変わる、そんな風刺に満ちた作品ばかりである。
特筆すべきは巻末で本書を締めくくる「夢幻潜航艇」(書き下ろし)の圧倒的なイメージの奔流だ。特に最後の数ページは圧巻の一言。SF文学でしか描けない冒険の世界にダイブしたい。
山本弘はSFというフィールドで確固たる意志をもって欺瞞と闘い続ける作家である。本書はそんな山本弘のエッセンスを凝縮したような短編集だ。
買うのがちょっと恥ずかしくなるような大石まさるの表紙イラストもハヤカワ文庫JAではちと珍しい。でも表題作の一場面を描写した美しいシーンなのだ。 -
いやー、昔は山本氏の作品は結構読みましたね(今でもたまに読み返しますが・・・)ギャラクシー・トリッパー美葉、サイバーナイト、時の果てのフェブラリー・・・
今作によってちょっとインスパイアされて実存世界における不確定性原理なんてネタというか、考察を思いついてしまいました。。。 -
星雲賞をとった『去年はいい年になるだろう』もそうだけど、山本弘って現実がストレートに作品に出ちゃうところがある。
これだと最初の2つと『地球から来た男』。わかりやすいといえばわかりやすいけど、個人的にはストレートすぎて退く……。
最後の2つはおもしろいです。 -
最近またハマりだした山本弘の短編集。
「亜無界」という特殊な設定が妙で面白い。
現実とフィクションの狭間と云うべきか。「シュレディンガーの猫」が意識レベルで現実化する世界。
なれるまでイメージするのが難しいが、この世界はSFという舞台ではいろんか可能性がありそう。 -
後半のシーフロスの2話以外は全くばらばらの短編集。先進波の定義がいまひとつ分からなかった。また、意識を持たず認識できない人間以外のもの、人間にしても意識のない病人や認知症とかが、どう存在を固定しているのかが分からない。とにかくランダマイズとか、ツイストとかの造語がここちよい。
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様々な形の未来を描いたSF短編集。
陰謀論を題材としたミステリ仕立ての「七歩跳んだ男」が面白かった。 -
今を暗示していたのかなぁ。