- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150311759
感想・レビュー・書評
-
5篇の短編集。
読後に「ヤン・ジェロムスキ」の名前をググったのは私だけではないはず。
それから「エーディット・ディートリヒ」と、「ジークムント・グリューンフォーゲル」の名前も。
引用形式というスタイルで、史実や実在人物名もちょこちょこ出てくるもんだから、これははたして創作なのか? それとも史実なのか? と、訳が分からなくなってしまった人がいるに違いない。
「オムレツ少年」と「太陽馬」は歴史ものに分類できると思うのだけれど、これらも「史実」と「創作」の境目が非常に曖昧だったように思う。
特に後者の方では、ロシア・ソヴィエトの歴史を淡々と語る割と長いパートがあるのに、読後の印象としてはやっぱり幻想的なのだ。
それから「水葬楽」。読んでいるとふわふわした気持ちになって溶けて流れて行ってしまいそうな難解な幻想小説だけれど、
BackGroundPoemとしての詩句の引用が要所に挿し込まれることで、現実に引き戻されるような感覚があって、尚更頭が揺さぶられる。
この引用句が旧仮名遣いで書かれていることもあって、その所為か、時間軸も行ったり来たりさせられる感じだ。
こんなふうに、「実在と非実在の境目」、「史実と創作の境目」、「現実と幻想の境目」を曖昧にしてしまう仕掛けや効果が随所に在って、
それがこの作品集の、寧ろ皆川作品すべての特徴であり魅力なんだろうな、と思ったりした。
だからこそ、皆川作品を読んでいると、不安にもなるのだ。
物語の中のこの人は本当にいたのだろうか?
どこにいるのだろうか?
どこにあるのだろうか?
と、現実と小説の区別がつかなくなってしまうから。
そう思いながら文字を追って、彼らの後を追いかけていると、
いつの間にか自分自身が物語に迷い込んでしまって、
果たして自分は今、どこにいるのだろうか?
ということが、分からなくなってしまうのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
皆川さんの作品は、よく幻想性が基調にあるように思いますが、よくもまあこれだけ無限の色調で書き分けられるものだなと驚かされます。そんな中にあって、『猫舌男爵』は異色(笑)。大真面目に遊んでいるのでしょうかw。“ハリガヴォ・ナミコ”って“ミナガワヒロコ”のアナグラムに思えてならないのですが…どうなんでしょ。
-
講談社から出ていた単行本の文庫化。講談社版の装丁も良かったが、文庫版も素晴らしい。
皆川博子らしさ全開の幻想短編集で、どれを読んでもハズレが無い。特に巻頭の『水葬楽』が好きで好きで堪らない……。