猫舌男爵 (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-5)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 453
感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150311759

感想・レビュー・書評

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  • 5篇の短編集。

    読後に「ヤン・ジェロムスキ」の名前をググったのは私だけではないはず。
    それから「エーディット・ディートリヒ」と、「ジークムント・グリューンフォーゲル」の名前も。
    引用形式というスタイルで、史実や実在人物名もちょこちょこ出てくるもんだから、これははたして創作なのか? それとも史実なのか? と、訳が分からなくなってしまった人がいるに違いない。

    「オムレツ少年」と「太陽馬」は歴史ものに分類できると思うのだけれど、これらも「史実」と「創作」の境目が非常に曖昧だったように思う。
    特に後者の方では、ロシア・ソヴィエトの歴史を淡々と語る割と長いパートがあるのに、読後の印象としてはやっぱり幻想的なのだ。
    それから「水葬楽」。読んでいるとふわふわした気持ちになって溶けて流れて行ってしまいそうな難解な幻想小説だけれど、
    BackGroundPoemとしての詩句の引用が要所に挿し込まれることで、現実に引き戻されるような感覚があって、尚更頭が揺さぶられる。
    この引用句が旧仮名遣いで書かれていることもあって、その所為か、時間軸も行ったり来たりさせられる感じだ。

    こんなふうに、「実在と非実在の境目」、「史実と創作の境目」、「現実と幻想の境目」を曖昧にしてしまう仕掛けや効果が随所に在って、
    それがこの作品集の、寧ろ皆川作品すべての特徴であり魅力なんだろうな、と思ったりした。

    だからこそ、皆川作品を読んでいると、不安にもなるのだ。
    物語の中のこの人は本当にいたのだろうか?
    どこにいるのだろうか?
    どこにあるのだろうか?
    と、現実と小説の区別がつかなくなってしまうから。

    そう思いながら文字を追って、彼らの後を追いかけていると、
    いつの間にか自分自身が物語に迷い込んでしまって、
    果たして自分は今、どこにいるのだろうか? 
    ということが、分からなくなってしまうのだ。

  • 「水葬楽」
    「猫舌男爵」
    「オムレツ少年の儀式」
    「睡蓮」
    「太陽馬」

    皆川博子の幅の広さよ。
    「水葬楽」「太陽馬」はどちらもひと捻りした幻想文学の手本。

  • 皆川さんの作品は、よく幻想性が基調にあるように思いますが、よくもまあこれだけ無限の色調で書き分けられるものだなと驚かされます。そんな中にあって、『猫舌男爵』は異色(笑)。大真面目に遊んでいるのでしょうかw。“ハリガヴォ・ナミコ”って“ミナガワヒロコ”のアナグラムに思えてならないのですが…どうなんでしょ。

  • 講談社から出ていた単行本の文庫化。講談社版の装丁も良かったが、文庫版も素晴らしい。
    皆川博子らしさ全開の幻想短編集で、どれを読んでもハズレが無い。特に巻頭の『水葬楽』が好きで好きで堪らない……。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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