P・O・S: キャメルマート京洛病院店の四季 (ハヤカワ文庫 JA カ 10-2)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150312763

作品紹介・あらすじ

利益のでない京都の院内店舗の再生を任された小山田は、不可解な行動をとったり、謎めいた商品を要求するお客に翻弄されるが……

感想・レビュー・書評

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  • 大手コンビニ「キャメルマート」の病院内の店長として単身赴任した小山田。
    売り上げの数字がすべてだというコンビニ本部の意向に逆らい、
    病院という特殊な場所にあるコンビニの役割とは何かを考え、
    患者や医師、そこで働く人々に寄り添い、イベントや新商品の開発に奔走する───

    #さびしいサッカーボール
    事故で片足をなくして大好きなサッカーをあきらめなくてはならなくなった海斗12歳。
    アンプティサッカー(病気や事故で手足を切断した選手が、松葉杖をついてプレーする)の選手と出会い…

    「片脚を失くしただけで、両脚を失くした気になるな!」
    リハビリで、たった一歩しか進めないなんて悲観しないでほしい。
    その一歩がどれだけ大きいことであるかと陽気に語る選手。
    絶望の淵から這い上がり、努力し続ける人の言葉は何より重い。

    #にがい猫缶
    (このお話は、個人的にかなりキツかった…)
    どうしても高級な猫缶が欲しいと訴える、認知症の老婦人の悲しい記憶。
    何十年経っても消えない後悔と、悲しく深い傷。

    戦時中は、軍用犬やお国のためにと飼っていた馬はもちろん犬や猫までが供出させられたという。
    戦争は人間ばかりが犠牲になるわけではない。
    動物たちは、何もわからないまま、愚かな人間の犠牲になる。

    #熱きおまけ
    かつて戦隊もののヒーローだった俳優が余命宣告を受けた。
    誰か一人でも多くの人に勇気を与えたいと、その最後の命の炎を燃やす。

    おぼろげに覚えている「ライダースナック」
    サクサクとしてほんのり甘く、やさしい味だったような…。

    舞台が病院ということもあって、テーマは重かったです。
    でも、不思議と温かな気持ちで読み終えることができました。

    ※タイトルの「P・O・S」とは、ポイント・オブ・セールシステム。
    物品販売の売り上げ実績を、単品単位で集計できるシステムのこと。

  • 思ったより面白かった。
    POSシステムは、小売の業界の方は特に馴染みがあるのではないだろうか。
    確かに、データは大事だけれど、それだけじゃない。

    院内コンビニの話。
    確かに、院内コンビニはPOSデータの活用って難しくないか?と読み始め当時思った。
    そこから物語に持っていくとはなかなか。
    ちょっとミステリーちっくな謎的な部分もあって、楽しめた。
    こういう人との関係って素敵だよなと思わせてくれる作品でした。
    所見の作家さんだったので、他の作品も読んでみようかと。

  • POS(ポス)は『ポイント・オブ・セールシステム』の略。
    コンビニチェーン「キャメルマート」の社員・小山田昌司は、スーパーバイザーとして店舗指導に当たるとき、このPOSデータを大きな指針としていた。
    ある日彼は、業績悪化のため店長が降格人事となった「キャメルマート京洛病院店」の立て直しのため、臨時の店長として、東京から単身赴任することになる。

    現在の店長は若松。
    病院内という特殊な立地を本部に訴え続けていたが、担当のスーパーバイザー・平(たいら)は聞く耳持たず、無理なノルマを押し付けられて売り上げが伸びなかった。
    外に出られない入院患者に「行楽弁当フェア」はつらい。
    糖分を制限された小児患者に「アイスクリームフェア」はかわいそう。
    病院は特殊な空間だ。

    京洛病院店の現正社員は、店長の若松研一と西野緑。
    若松は、院内スタッフにも店舗スタッフにも信頼され、代わりとして本部から派遣されてきた昌司への緑の当たりはきつい。
    昌司は、信条とするデータ至上主義で売り上げの向上を目指そうとするが、ゴミ箱に意外なものが捨てられていたり、特殊な要望を訴えるお客様が現れたり。

    軽く、いい話に、緑に後押しされて巻き込まれ、昌司はデータ主義から次第に人間を見るよう変わっていく。
    途中から、なんだか「思い出探偵」みたいに?
    完璧に見える医師たちにも乗り越えるべき壁があり、平も意外な本音を語る。
    昌司自身も変わっていく中、気がかりの解決がひとつづつ新商品の開発に結び付くのも面白い。
    お仕事小説で、探偵物で、病院もの。
    終わり方が実に気持ち良かった。

    第一話 さびしいサッカーボール
    新品のサッカーボールとシューズが捨てられていた。

    第二話 にがい猫缶
    ペットも家族。
    はからずも被害者と加害者になった人たちの心の傷。

    第三話 熱きおまけ
    ヒーローは戦い続ける!

  • 鏑木蓮『P・O・S キャメルマート京洛病院店の四季』ハヤカワ文庫。

    書き下ろし作品。正直に言えば、変わったタイトルに若干の不安を感じながらも、珍しく書店に取り寄せてもらい、読み始めたのだが、やはり鏑木蓮らしい良い作品だった。もしも、このタイトルで他の作家の作品だったら読まなかったに違いない。ミステリーの要素もあるハートウォーミングなコンビニ小説。

    コンビニのスーパーバイザーを務めていた主人公の小山田昌司は京都の病院内にあるコンビニの店長を任される。昌司は売上増を目指し、POSデータを活用するが、なかなか思い通りはいかないのが院内コンビニの宿命だった。院内コンビニに訪れる奇妙な客、奇妙な依頼…

    宮沢賢治の信奉者で岩手県好きの鏑木蓮らしいなと思ったのはタイトルにもある『キャメルマート』だ。『キャメルマート』は岩手県を中心に東北地方の各地にあったコンビニ・チェーンである。

  • 恐らくは他の方とは評価の基準が違うため 参考にはならないとは思いますが 私にとって この一冊が今年最高の一冊となりました。

    表面だけを見ていてもわからない人間の善意。
    日々を暮らす人の数だけ 異なる善意の形があることを この作品から知りました。

    「数値は嘘をつかない。でもそれは過去を示すものとしての正しさであり 大多数のニーズは拾えても ひとりひとりの思いに答えるものではない」

    自分が追い詰められてきた仕事のこととも重なり 大いに励まされた言葉です。

    支えながら支えられる。人を思いながら思われる。
    ここに登場するすべての人の心がつながり お互いに寄り添い寄りかかってゆくのを見ているうちに 心の底から元気が湧いてきました。

    なんて素晴らしい人間讃歌なのでしょう。
    綿密に描かれた作品の完成度とともに もはや脱帽です。

    このところ本を読む時間も心の余裕もなかった私への ひと足早いクリスマスプレゼント。そう思っています。

    この作品の隅々にまで目を配っている作者の視野と包容力に 私の心が舌を巻きました。

  • 9月-16。3.5点。
    コンビニチェーン本部の主人公。京都の病院内コンビニの成績が悪く、立て直しに店長として赴任。
    中編3本。院内コンビニならではの特殊性。

    この作者らしく、ハートウォーミングなストーリー。
    面白かった。

  • 病院内という特殊な立地条件にあるコンビニの奮闘記。色々と上手く行きすぎる気がしないでもないけれど、八方丸く収まるハッピーエンドで読後感は良い。ただ、猫のフミちゃんの話はキツかった。

  • 病院のコンビニに求められるサービスは、他と違うのか。

    キャメルマートのスーパーバイザー小山田昌司はその手腕を買われて京洛病院に入っている系列のコンビニの店長となる。前店長の経営方針を疑い、POSによる徹底管理を信条とする昌司が京洛病院の日々で気付いたことは。

    お仕事モノだが、ポイントは病院の中のコンビニであること。そこの常連客は病院関係者、売れるものは何だろう、と考えるところから始まった。突然の入院で必要なものが売れるのじゃないか、怪我で入院して暇な人がいるから雑誌とかはどうだろう、それくらいしか考えられなかった。しかし、話は色々な方向に転がり、コンビニや病院の常識からいったん離れてみるような、そんな売れ筋商品のストーリーが展開されていく。経営目線で読んでも面白いかもしれない。

    悪役かと思ったスーパーバイザーの平や霧島先生にも信念があり、それを知れば憎めない。とにかく悪役がいないのも読後感がよい。別に遠くからアドバイスを送って大活躍するわけでもない奥さんと息子も、なかなかの距離感で、どうして登場したのかと思いつつ、やはりいないと味わいが足りないだろう。

    なんとなく、モデルの病院というか、ここなら合致するのではと思う病院がありますが、どうだろう。

  • 病院内のコンビニ。まったく考えたことはなかったけれど、真実かどうかは別にしても、いろんな難しさや、気づかなかった配慮がたくさんあるんだなぁ、と知れたのは嬉しかったな。
    2018/4/25読了 2018年の20冊目

  • 初めての作家さん。書店でなんとなく目について気分転換に購入。あらすじで、持ち前の効率主義、利益しか頭にない、と書かれた主人公がどんな風に翻弄されるのかと思ったけれど。。(そういうのを期待していたので)、違和感なく人助けしているように見える主人公に、よくある心温まる系だなと、若干飽きている自分が。
    それでも、最後のお弁当の件でまさかの号泣、、、。そんな自分にビックリ。

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著者プロフィール

鏑木 蓮(かぶらき・れん)
1961年京都府生まれ。広告代理店などを経て、92年にコピーライターとして独立する。2004年に短編ミステリー「黒い鶴」で第1回立教・池袋ふくろう文芸賞を、06年に『東京ダモイ』で第52回江戸川乱歩賞を受賞。『時限』『炎罪』と続く「片岡真子」シリーズや『思い出探偵』『ねじれた過去』『沈黙の詩』と続く「京都思い出探偵ファイル」シリーズ、『ながれたりげにながれたり』『山ねこ裁判』と続く「イーハトーブ探偵 賢治の推理手帳」シリーズ、『見えない轍』『見えない階』と続く「診療内科医・本宮慶太郎の事件カルテ」シリーズの他、『白砂』『残心』『疑薬』『水葬』など著書多数。

「2022年 『見習医ワトソンの追究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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