- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150314439
作品紹介・あらすじ
アメリカ大陸で未曾有の災害が発生。取り残されたのは、仏教を信じ続けるインディアンだった。星雲賞受賞作を含む著者初の短篇集
感想・レビュー・書評
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〉その時、仏陀は目覚めた者になった。
良かった。民俗学×SFというアプローチ。
以前読んだ「ニルヤの島」は自分の読書パワーが足りなかったので難しかったけど、こちらは短編集ということもあって楽しめました。
「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」は星雲賞受賞時の短編電子書籍で読んでいましたが、これが一番好きかな。生まれてから死ぬまでVRゴーグルを付ける民族の話。まさに民俗学研究そのものである「聞き書き」の体で進みます。
「ILC/TOHOKU」にも載ってた「鏡石異譚」は「あなたの人生の物語」っぽくてこれもすごく好みです。粒子加速器をテーマに民俗学を絡めるのすごい。
「アメリカン・ブッダ」のラストシーンも鮮やかで素敵。このラストのために仮想空間で数十億年も「火の鳥」のマサトみたいなことさせるとは。
解説で池澤春菜さんが著者の為人を紹介していてそこも面白かったです。面白い人物のようです。紹介されてたインタビューも読みました。
他作も読みたくなってるけど、難しくて読書パワーが溜まってるときでないと大変なので、時機を見て…。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「アメリカン・ブッダ」というタイトル。そして、このあらすじ。
> 未曾有の災害と暴動により大混乱に陥り、国民の多くが現実世界を見放したアメリカ大陸で、仏教を信じ続けたインディアンの青年が救済を語る書下ろし表題作
こんなの買うしかない。
というわけで、好奇心で買ったは良いものの、期待をはるかに上回る面白さだった。
6つの短編〜中編が収録されているのだけど、すべてが面白い。星4の面白さと星5の面白さが混在している。クオリティの水準が高い。
無機質でライトなテイスト、ダークな雰囲気づくり、大風呂敷を広げるストーリー。作風の幅が広い。
SFファンはもちろんのこと、SFに明るくない読者にもオススメできる1冊。
国内のSF作家にあまり詳しくないのだけど、こんな作家がいたのかと。文化人類学的なバックグラウンドを持つ筆者。それは作風にもよく表れている。それでいて、SF的なギミックが効いているし、ストーリーテリングの力量も申し分ない。
ともすると、日本のル・グインのようなポジションに上り詰めていくんじゃないだろうか…と期待してしまう。
(書評ブログもよろしくお願いします)
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本書を通勤電車で読み始め、何度も乗り過ごしそうになった。面白い本かどうかの基準のひとつは、どれだけその世界に入り込めるかにあると思う。
ペンネームからして「柴田勝家」などという、何とも人を食ったものだが、書く内容はそれに輪をかけて愉快だ。例えは悪いけど、とても壮大なホラ話を聞かされた気分になる。あまりない読書体験だった。
本短編集は正にSFの最先端。柴田さんが大学で学んだ民俗学をSFと融合させて出来上がったのがこのスタイル。他に類を見ない独特な世界観になっている。冒頭話「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」はその世界観が存分に発揮された衝撃的な作品。生まれてからずっとゴーグルをつけVRの世界で生きる少数民族の話を文化人類学風にまとめたものだ。表題作の「アメリカン・ブッダ」も面白い。大災害に見舞われた本国を捨てVRの世界に移り住んだアメリカ人に、現実世界から仏教徒であるインディアンの若者が語りかける。物語は永劫回帰のような天地創造にまで発展し、最後の一文にニヤリとさせられる。
よくもまあ、こんな話を思いつくものだと思うが、ただのアイデア勝負ではなく、その裏には膨大な取材の蓄積がありそう。とても楽しい読書だった。 -
「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」「鏡石異譚」「邪義の壁」「一八九七年:龍動幕の内」「検疫官」「アメリカン・ブッダ」の6篇収録。
「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」は、生まれた直後にヘッドセットを着けて一生をVR空間で過ごす風変わりな民族の話。
「鏡石異譚」は、未来の自分と遭遇するという、ある少女の身に起こった不思議現象。
「邪義の壁」は、ある旧家の一室の大きな白壁 "ウワヌリ" に長年隠されてきた秘密。
「一八九七年:龍動幕の内」は、孫逸仙(孫文)と南方熊楠がロンドンはハイドパークに夜毎現れる天使の正体を暴く科学ミステリー。
「検疫官」は、創作物(物語)の流入を水際で防ごうとする検疫官の苦心。
「アメリカン・ブッダ」は、疫病と天災の大混乱を避けて "Mアメリカ"(コンピューター上の仮想空間)に暮らす人々に、リアル世界から届いた宗教的メッセージ。
今風の斬新なアイデアが盛り込まれた秀作が多かった。「鏡石異譚」では、「もしも、負の質量を持った存在が原子と同じ数だけあるとしたら、それは僕らが認識している宇宙の中に、反転した過去の姿があるという可能性が考えられる」、「僕らの世界が一秒進むごとに、その空間では一秒過去に戻っている。僕らが宇宙の終焉に向かうように、そちらは宇宙の始まりに向かっているんだ。」など、素粒子物理学っぽい説明があったりしてちょっとゾクゾクした。
解説者は、表題作「アメリカン・ブッダ」が一番好き、と書いているが、自分としては「アメリカン・ブッダ」は6作品の中では低評価としたい。展開が遅いのと、後半部で宇宙進化のシミュレーションとリアルワールドがぐちゃぐちゃになってしまっているところがどうも。 -
「伊藤計劃トリビュート』でその名を目にして依頼気になってた作家さん。
民俗学×SFの短編集、どれもおもしろー。
特に最初の「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」とタイトル作の「アメリカン・ブッダ」が好き。前者は論文の形を採りながらリアルに架空の民族の風俗を描く切り口が新しく感じた。絶対にいないはずなのに、ちょっと本当にいそうな気がする。近未来にはもしかしたら。
後者は仏教とメタバースとインディアン(ネイティブ・アメリカン)を組み合わせるというウルトラC級の盛り盛り大スペクタクル。拡げた風呂敷が最後綺麗に畳まれていく展開に感動した。
「鏡石異譚」はファンタジーみのあるタイムトラベルSF。
「邪義の壁」はこの中では異色なホラー作品。オチをはっきりと書かずに読者に想像させるのがかえってゾッとさせる。
「検疫官」少し「華氏451度」や「1984年」を彷彿とさせる正統派?ディストピア小説。この本全体的にテッド・チャンみを感じたけど、この作品が一番それを感じた。
良かった。他の作品も読んでみたい。 -
幼い頃から危険が起きるタイミングで不思議な女性が現れる「鏡石異譚」や、家の壁に祈りを捧げるという不思議な信仰から、壁の謎を追っていく「邪義の壁」のような話もあれば。
そういった、時間や空間、信仰心みたいなものを、ある種の箱に入れてしまう「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」、また物語を国内に持ち込ませない「検疫官」といった作品まで揃っていて面白かった。
人間が仏様になるのか、人間が仏様を造るのか。
そこにヴァーチャル・リアリティが巧妙に組み込まれるという構図は、SFが追及してきた一つのテーマなのだろうけど。
なんだろう。
技術の進歩が激しいからか、人間の繋がりが希薄化しているからか。こうした構図が「ありえる」ように思うことが増えてきた。
人間の空想の箱庭に、人間が生きていく。
社会ってそういうことなんだろうけど、釈然としないのは、どうしてだろう。 -
民俗学とSFの融合、概念を覆しに来る感じ、ケン・リュウとかテッド・チャンを思い浮かべた。劣らず話もまあまあややこしいのが多く、イメージし切れないことも多々。個人的には、鏡石異譚の考え方なんか凄いなと思った。ついていけんのだけど。スー族とかアメリカン・ブッダも、同様に凄いと思いつつも若干引く程の世界観。あと、やっぱりSF自体が苦手かなって思い知った。
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短編集。ガチガチのSFもあれば、オカルトチックなものもある。なにより発想が素晴らしい。1話目の生涯VRヘッドセットをつけて仮想空間に生きる少数民族とか。「ヒト夜の永い夢」の主人公、熊楠先生に再会できるのもうれしいです。
表題作は、インディアン、仏教、加速された仮想世界などなどをミックスした作品。ちょっと思いつかない組み合わせです。