死にゆく者への祈り (ハヤカワ文庫 NV 266)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150402662

感想・レビュー・書評

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  • ジャック・ヒギンズの名作冒険小説『死にゆく者への祈り』です

    ジャック・ヒギンズといえば『鷲は舞い降りた』があまりに有名なんですが、ヒギンズ本人は自身のベストとしてこちらを挙げたそう

    ありがちでシンプルなストーリー展開

    そうなんです「ありがち」
    でもねこれってとんでもないことなんですよ!
    刊行が1971年ですからね
    つまりこの作品を「ありがち」って感じるっことは、この後に出版された冒険小説にどんだけ影響与えてるかってことなんですよ!

    すごいんです
    しかもシンプルなのに奥深い

    そして、この作品の最大の魅力はとんでもなく魅力的な登場人物たちなんです

    主人公の元IRA兵士ファロウ、彼の殺しを目撃してしまうダコスタ神父、その姪で盲目の美少女アンナ、娼婦のジェニー、敵役となる葬儀屋で裏社会のボスミーアン

    それぞれがとんでもない輝きを放ってるんです
    特に主人公のファロウがかっこよすぎ!
    哀しい!哀しいけどカッコいい

    凄いのは登場人物それぞれ、そこまで深く描写してないんですよ
    ちょっとしたセリフや行動からキャラクターの濃さみたいなんがブワーっと香ってくるんですよ
    一行に三行分くらいの情報が詰まってる感じ

    あとあと「雨」の描写が秀逸
    THEロンドンです!(なにそれ)

    そして結末も哀しい!哀しいけど良い!
    そりゃあ何十年も残るわ

  • 元IRA将校のおたずね者マーチン・ファロンは、逃亡用のパスポートや切符と引換えに殺しの依頼を請負った。仕事自体は簡単にすんだ。が、たまたま現場に居合せた神父とその姪のため、やがて彼は冷酷な依頼主と対決するはめに……。拳銃だけをよすがに血と暴力の世界をさすらう一匹狼の姿を熱く謳い上げる!

    ヒギンズ祭りで、再読を続けてきたが、やはりこの作品は完成度が高い。他の作品との差はどこから生まれたのだろうか。

    翻訳されていない作品の中に、ニック・ミラーを主人公にした警察小説の三部作がある。勝手な想像だが、おそらく、本作の登場人物と同一ではないか。

    92歳で逝去と聞いた。ご冥福をお祈りします。

  • 1973年上梓、ヒギンズの魅力を凝縮した畢生の名作。
    冒険小説史に燦然と輝く「鷲は舞い降りた」(1975)のような重厚な大作ではないが、ロマンとしての味わいでは突出しており、恐らく大半のファンはベストに推すだろう。1981年に「ミステリマガジン」が行ったアンケートでは、ヒギンズ自身が最も好きな作品に選んでいる。その理由は、一読すれば納得できるに違いない。デビュー以来、修練を重ねて深化した技倆と独自の美学が結実し、揺るぎない世界観を確立している。

    物語は、ヒギンズ節ともいうべき馴染みの情景描写から始まる。
    「通りのはずれから警察の車が姿を見せると、ファロンは本能的にいちばん近い戸口に身を寄せ、車の走り去るのを待った。……彼は折りから降り出した雨に襟を立てて、そのまま歩きはじめた。……川を下りはじめた船が、奇妙な、気を滅入らせるような霧笛の音を響かせ――最後の恐竜がすっかり様変わりした世界にただ一頭とり残され、あてもなく太古の湿原をさまよっているかのように思われた。それは、ファロンの現在の心境にぴったりだった」

    文体はシャープで律動的、滲み出るような感傷が漂う。舞台はロンドン。冒頭数行で男を取り巻く情況を伝え、第一章が終わるまでには、その人間性まで的確に描き出す。

    マーチン・ファロン、IRA有数の元闘士。過去にイギリス軍の装甲車を狙った破壊工作で誤ってスクールバスを爆破、罪無き子どもたちの命を奪った。以前から不毛な闘争の行く末を悲観していた男にとって、無残な失敗は〝最後の仕上げ〟となり、その日を境に組織を離れた。今ではロンドン警視庁特捜部や軍情報部のみならず、昔の仲間にも追われる身となった。

    人目を避け埠頭の倉庫へと入ったファロンは、事前に話をつけていた闇稼業の男に会う。英国脱出用の偽造パスポートを要求するが、足元を見られ新たな条件を飲まされた。暗殺。依頼人は暗黒街のボス、ジャック・ミーアン。標的は寂れた教会ホリー・ネームの墓地へ決まった日時に現れるという。
    後日、ファロンは難なく事を終えるが、狙撃した瞬間を神父ダコスタに目撃されてしまう。彼を消すことは容易だったが、そのまま立ち去った。後にそれを知り激怒したミーアンは、ダコスタを殺すことを命じるが、ファロンは拒否した。既に手は打ってあった。カトリックの信仰儀礼。ファロンは同教会で人を殺したことを「告解」し、守秘義務によってダコスタの口を封じた。だが、ミーアンは納得できず、即刻暴力的手段に出た。元テロリストは、図らずも巻き込んでしまった者たちを守るため、ミーアンとの対決を決意する。

    粗筋を追うだけでは、本作の魅力は微塵も伝わらない。
    罪と悔恨を抱え、己を「歩く死者」と自嘲しつつ死に場所を探し求めている男/ファロン。物語は、この主人公を軸にして激しく動くのだが、主要な登場人物それぞれにドラマがあり、彼/彼女らがファロンと絡むことによって、より一層劇的な展開を辿る。
    まず、元空軍特殊部隊員として戦場で人を殺めたことを悔い、神の道へと救いを求めた男/ダコスタ。この神父とファロンは深層で繋がっている。罪禍に囚われ続けているダコスタは、ファロンと出会うことで呪縛された過去を解き放つ。
    そして、貧困の中から這い上がり暴力を生業にする一方、葬儀屋を営み老いた者への憐れみと施しを授ける男/ミーアン。貧しい少年期を送り、ルサンチマンに囚われたこの男は、薄汚れていながらも矜恃を崩さないファロンを挑発し、再び無為なる世界へ引きずり込む。
    この常に「死」と隣り合わせの路を歩んできた男三人に加え、「闇」の中で生きてきた薄倖の女が二人。
    ダコスタの姪で無垢なる盲目の女/アンナ。幼い子どもを抱えながら娼婦として暗い人生を歩む女/ジェニー。彼女たちは、危険な匂いを放ちつつも、紳士的で限りない優しさを見せるファロンと出会い、刹那的な愛情を芽生えさせる。ファロンの孤独を見抜き、アンナは「わたしを忘れないで」と死に取り憑かれた男を引き戻そうとする。少女時代からミーアンに囲われ、売春婦となったジェニーは、初めて人間としての尊厳を認めてくれたファロンに対し、叶わぬ恋慕を抱く。

    引き締まった構成、ウエットな色調、臨場感豊かな活劇、淡いロマンス、闘う男の武骨なストイシズム。繰り返しとなるが、本作は長い模索期を経てヒギンズが辿り着いた集大成だ。再読する度に新たな輝きを放つ。人生経験を経るほどに味わいが増す。つまり、大人の小説なのである。とにかく、痺れる。この芳醇な香りを放つ本作に魅了されない読み手がいるのだろうか。単純に冒険小説、ハードボイルドと括ることなど出来ない。原題「A Prayer for the Dying」の直訳となる「死にゆく者への祈り」という哀切なカタストロフィーを感じる邦題の語感も素晴らしい。優れた作品は、内容は勿論のこと、記憶に残るタイトルを持っている。

    物語の起伏に沿って、降り続く雨が静かに激しく呼応する。
    全てにケリをつけるべく、決着の場へと赴くファロン。熱く、静謐なラストシーン。

    頑なで甘美なヒギンズの世界を味わい尽くしてほしい。

  • トールサイズで再読。もう30年以上前に読んだので、うっすらとしか記憶になかったんだけど、たった二日間の出来事だったのね。ヒギンズ、人物の描き方がツボをおさえているというかなんというか説得力があって物語にのめり込んじゃうんだよなぁ。面白いねぇ〜!未読の作品が鬼のように積まれているので、また読んでみよう。

  • 何度目かの再読です。

    ここまで行くとロマンティシズムが臭く感じられる、センチメンタリズムの極致、キャラクター設定盛りすぎ、願望充足小説では、今読むと色々あるかと思いますが、でも大好きな作品です。

    個人的に好きなキャラクターはダコスタ神父です。

    ヒギンズの作品にも名作は様々にありますが、なんだかんだ私はこの作品が一番ですね。

  • 元IRAのファロンがカッコよすぎる!クールで情に熱い殺し屋で、生き様が悲しくも美しい。
    ストーリーは単調だけど、周りのキャラクターが素晴らしく飽きない。

  • 元IRAの天才ガンマン、マーチン・ファロン。元軍人の神父、ダコスタ。そして葬儀屋にして暗黒街のボス、ジャック・ミーアン。

    異なる、そしてそれぞれが豊かな個性を有した男たちが繰り広げる相克のドラマ。緊密なプロットといい、芯の通ったキャラ造形といい、ジャック・ヒギンズ作品の中でも傑作といっていいでしょう。

    とにかくファロンのキャラが魅力的です。哲学と音楽に通じた天才ガンマン。知的で諧謔に富みながらも、自らの過去に絶望し死神を待ち続けるだけの男。その陰影に富んだ個性は強い印象を残します。

    モノクロームの映像が浮かび、雨の音が聞こえてくるような文体もまた素晴らしい。お勧めです。

  •  久しぶりに読み返したが、ジャック・ヒギンズの作品としては文句なくベスト3にはいるのではないだろうか。作者自身が「もっとも好きな作品」と発言した事があるそうだが、うなずける話である。
     まず登場人物が印象的だ。この作者は、気に入ったキャラクターが出来るといろんな作品で使い回す癖があるけれど、どうも登場するたびに影が薄くなってしまう人が多いような期がしてならない。しかしこの本に登場する人たちは、それぞれが個性的である。それぞれに弱さと強さと「こだわり」がある。
     もうひとつは、全体を貫くムード。多くのシーンで雨が降っている。雨に振り込められるように展開する陰鬱なムードが心地よい。小説のタイトルは最後に生きてくるけれど、じんわりと涙があふれてくる。
     ギャングと殺し屋の争いに、神父が絡んでくる物語。アクションもののようだけど、実はずっと深い精神的な戦いの記録であり、魂の救済の物語である。
    2005/12/9

  • ヒギンズ自身が押す一作。鷲は舞い降りたと並んでこれが傑作と押す人も多いでしょう。IRA物ですがファーガスン准将もデヴリンも出てきませんし、ミリタリー・インテリジェンスっぽさもなく、ひたすらハード。元IRAの闘士がギャングと丁々発止の戦いを繰り広げるというプロットそのものは「鷲は舞い降りた」でも「嵐の眼」でも嫌というぐらい使われていますw

  • IRAの殺し屋、神父と盲目の少女、札付きの悪人、そして雨。作者ジャック・ヒギンズの世界はモノトーンに、少しだけ悲しみに包まれています。ハヤカワ文庫からでています。作者が一番気に入っている作品の一つ。

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