さらば、わが愛: 覇王別姫 (ハヤカワ文庫 NV リ 4-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150407148

作品紹介・あらすじ

京劇俳優養成所で女役として修業する蝶衣は、幼い頃から苦労をともにした男役の小楼をいつしか愛するようになる。やがて二人は花形コンビとなるが、小楼が元娼婦の菊仙と結婚することになり、蝶衣は深く傷つく。相手役に友情しか感じない小楼、蝶衣に競争心を燃やす菊仙、許されない愛を貫こうとする蝶衣-。日本軍による占領、文化大革命など、激動の中国を背景に描く愛と憎しみ。カンヌ映画祭グランプリ受賞作の原作。

感想・レビュー・書評

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  • 4K版の劇場公開版を見てきた。DVDでは5年くらい前に初めて見て涙したのだが、大画面でさらに4K版というだけあってさらに迫力を持って時間の大河に翻弄される蝶衣たちに圧倒された。

    原作があると知り読んでみたのだが、解説をみると1981年にテレビドラマのシナリオが大元で、小説としてノベライズされたものだった。・・なのでなんというか骨組みの説明が書かれているという読み心地。しかし映画ではよくわからなかった劇場とパトロンとか養成所のしくみがよくわかった。また内容は1929年の養成所入り、日本軍占領、終戦開放、国共合作、共産党支配、文化大革命、文革終了とまさに中国近現代史に翻弄される京劇人の生きざまであるわけだが、小説では映画以上に国共合作や文革を皮肉っている。そこまで書いて逮捕されないか?と思うくらい。蝶衣が日本軍の前で舞う時も映画でもそうだが青木は京劇や中国文化に理解ある人として描いている。

    映画は1977年に11年ぶりに蝶衣と小樓が出会い演じるところで始まり終わるのだが、小説ではその後もある。映画の終わり方は劇的だが、小説での終わり方も有りかな、と思った。小説版のその後の方がある面ではつらい、あるいは受け入れた人生、なのかもしれない。

    シナリオなりノベライズを読んでそれをああいう映画表現にもっていった監督、また体現した俳優陣がすごいなあと感じた。また訳が英訳からの重訳なので、直接中国語から日本語に訳されたらまたちがったのかも。

    1981:テレビの2時間ドラマのシナリオとして書く
    1985:シナリオを元に出版
    1992:改訂版
    1993:映画化 中国、香港合作
       :1.1香港で公開、7.26中国で公開 
       :5.13-26第46回カンヌ映画祭パルム・ドーヌ賞受賞
    1994:2.11 日本公開


    1993.11.30発行 図書館

  • 映画を見て原作を手に取ってみた。政治・歴史の潮流が中心となり、登場人物たちはひたすらそれに翻弄され流されていくという色合いが映画よりも強い。
    作者の李碧華は香港出身ということだが、軽めで華やかな筆致は非常に読みやすい反面、中国近代史を生きた人々の辛酸を描き切っているかというと疑問が残る。ただし序盤の修業時代に小豆子が垣間見る祭日の市や舞台の色鮮やかさ・艶やかさ、また終幕の香港の雑踏などの描写には心を惹きつけるものがあった。
    蝶衣・小樓・菊仙ら登場人物の書き込みが足りず狂言回しに留まり、そこそこ上出来の少女漫画かハーレクイン・ロマンのような印象がどうにもぬぐえない。これはあの映画の素材であり作り手たちに霊感を与えたもののひとつだと位置づけておく方が、自分には良さそう。

  •  力 山を抜き 気 世を覆う
     時は利あらずして 騅ゆかず
     騅のゆかざるは 如何んとすべきも
     虞や虞や 汝を如何んせん

    ===
    秦の始皇帝死後、乱れた天下に覇を唱える項羽と、後に漢王朝の初代皇帝となる劉邦の戦い。
    覇王と呼ばれた英雄項羽も天下の駆け引きには疎く、劉邦軍に取り囲まれ(「四面楚歌」)死が近づく。
    愛姫の虞美人(覇王別姫、の「別姫」)と、愛馬騅(スイ)との最後の別れ。
    ===

    以下、チェン・カイコー監督映画と、そして来日した京劇を観たのでそれらの感想になります。

    チェン・カイコー監督は一瞬一瞬の鮮やかな表情や色合いを写す手法が好きなんですよ。ハリウッドに移ってからは派手な歴史作品を撮っていますが、中国にいた頃は実際に生きる市井の人々を描いた『黄色い大地』『人生は琴の弦のように』といった珠玉の映画を撮っています。
    映画では文化大革命で京劇役者が迫害されますが、それは実際に行われ、現在男が演じる女形はほぼ壊滅です。(10年以上前に60代男性が「現役唯一にして最後の女形」というドキュメンタリーをみたので、その男性が後継者を見つけていなければ現在の京劇に女形は途絶えたということになる)

    京劇では、立ち居振る舞いの役、歌の役、立ち回りの役など各役者により役割が決められています。
    また、隈取の色で性格を現したり、肩のあげ方、髭のなで方で表情を表すなどの約束があります。
    舞台装置は簡単で、机と椅子が運び込まれれば室内、片付けられれば戦場、みたいな。
    派手で見事なのが立ち回り。戦闘を表す場面では機械体操の床競技の団体のような感じで、10人ずつくらいで十字に交差してのバク転バク宙横っ飛び。これはもうお見事の一言。オリンピック器械体操で中国が優勝するはずだよなと納得。
    立ち回り役者も、武器を使った太極拳とサーカスのジャグリングを組み合わせたような見事な技を披露してくれます。
    元は大衆芸能なので、話も面白く分かりやすくされていて、かなり楽しめます。

  • 小説としての面白さだと★3個でもいいかなーと思ってしまうけれど、映画版のレスリー・チェンが好きだったので……。
    というか、レスリーが好きだったから映画を見た、の方が事実に近いかも。
    なにせ年齢不詳の愛らしさと小柄な可愛らしさと妙な色気が持ち味の、ちょっと他にいないタイプの俳優だったので、ヤキモチやいて「キーキー」言ってるところなんか、もうたまらん可愛らしさでした。
    小説としても、あまり近現代の中国を扱った小説を読む機会がないので、興味深かったです。

  • 文化大革命ごろの京劇役者の愛憎劇。映画のレスリー・チャンが素晴らしかった。

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