シーラという子〔新版〕虐待されたある少女の物語 (ハヤカワ文庫NF)

  • 早川書房
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (451ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150505677

作品紹介・あらすじ

暴力、貧困、虐待によって心身に傷を負った少女シーラ。彼女が一人の献身的な教師と出会い、徐々に心を開いていく姿を描く。

感想・レビュー・書評

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  • とても興味深い本だった。ノンフィクションとは思えないほど毎日がジェットコースターのような日々が書き留めてあった。シーラという女の子に起こる様々なこと、またシーラが起こす動物的衝動のような暴力的なこと、父親や叔父から身体的に受けたものでさえも父親と叔父を責めるわけではなく彼らもまた同じような環境で育ってきてしまった。と問題はとても根深い部分にあることを指してあった。
    人間に起こりうる問題として全ての人に可能性があり、根絶やしにすることや、どこかで止めること、愛を伝える伝え合う信じ合うあことの忍耐力の必要性をとても感じた。本としてはとても読みやすくシーラに対して惹きつけられる魅力の多さにページをめくる手がとまらなかった。とても面白い本だった、続編もさっそく読んでみる

  • 虐待されて育ったシーラという子どもと、シーラを指導することとなったトリイという教師の出会いから別れまでの話。

    シーラが辛い環境下で育てられ傷ついていることに胸が苦しくなり、とても重い内容だったが、私はトリイへの尊敬がとても強く心に残った。

    自分が関わった子ども達との記憶を重ねながら、トリイならこのような冷静で温かい対応ができるのだと反省と感心が混ざった。

    トリイはとにかく忍耐強い。またシーラの態度がどんな背景からくるものなのかを察する力を持ち、丁寧に愛情たっぷりに接した。
    自分が話をする時も、シーラの話を聴く時も、言葉で伝えることの大切さを自ら示して心の距離を少しずつ縮めていく様子に、学びがたくさんあった。

    「畏敬の念を感じた」と何度も出てくるように、「抱いてあげようか」ではなく「抱きしめてもいいかしら?」というトリイの、子どもへの見方が伝わってくる。
    大人だからと決して上から目線ではなく、子どもに対しても人間として対等だという意味での深い敬意が見えた。

    このほかにトリイの人間性がよく表れていたのが、シーラに謝ったり、降参したりする場面だ。

    どんなことでも自分が間違っていたと認めることはなかなかできないものだ。
    ましてや子どもへの指導に対して非を認めることはプライドも邪魔をして、私は素直に謝れたことがないかもしれない。
    でもトリイは違った。シーラに対して、自分の指導が間違っていたのではないかと悩み抜き、間違っていたと認めたり、時にシーラに譲ったりと、誠実に彼女と向き合い続けた。

    きっとそんなトリイの信念、情熱、愛情がシーラの心を少しずつ溶かして、良い方向に導いたのだと思う。


    また私は、シーラから発せられる質問の一つ一つにとてもドキドキした。

    「悪いことをしたらあなたもぶつんでしょ?」と聞くシーラに、父親から浴びせられる辛辣な言葉や、服も買ってもらえずぞんざいに扱われ殴られる日常がどれだけ彼女の成長に影響を及ぼしているのかを思った。

    お母さんに置き去りにされた過去から、トリイが二日間出張でいないだけで、またすぐに帰ってくるということがどうしても理解できないというシーラ。これはひどく胸に刺さるものがあった。
    人は経験したことからしか学ぶことができず、シーラの過去があまりにも酷いものなので頭で分かろうと思ってもできないとはこういうことなのかと胸が痛んだ。

    そんなシーラにとって、トリイとの出会いによって得た温かい経験はこれからのシーラにどんな影響をもたらすのだろうかと、シーラのその後がとても気になった。
    続編が出ているので時間を見つけてそちらも読んでみようと思う。

    トリイ・ヘイデンさんの魅力にどっぷりとハマった読後感は、時代も国も違う場所で同じように悩み傷つき、成長する人々がいることを身近に感じられる素晴らしいものだったとともに、私の心の支えの一つになった。

    【メモ】

    p.32
    私はいつも自分が担当するこどもたちに何を期待しているかをはっきりさせようと意識していた。

    p.77帰りの会に「コーボルトの箱」
    朝夕互いの親切を教え合う子供たち
    すぐれた洞察力を示しているもの

    p.96
    私は子供がなにをしたかなんて気にしないの。ただ子供が好きなのよ。それだけよ。

    p.106
    生まれてから六年間、彼女はずっと疎んじられ、無視され、拒否されてきた。

    シーラは私が示す親愛の情を一つ残らず吸収した。
    自分がほしいものを手に入れるためには戦わなければならないということを身につけていた。動物のような攻撃性。

    自分の価値を自分が受け取ったメモの数で量る必要があるなどとは感じていなかった。

    p.116
    私は筆記問題に降参した。
    どうしても人は細かいことにこだわり、もし物事が自分の思っているようにならないと世界が壊れてしまうと考えてしまうのだろうか。一度この苦闘から逃れてしまえば、そのことがどうしてあれほど大事だったのか私にはわからなかった。

    p.186
    シーラのいうとおりだ。あの子は一度も自分を信用していいなんていわなかった。

    自分の行動の仕方は確かに適切ではなかった。たが私だって人間なのだ。

    〜悟った。私たちが自分以外の人間がどんなふうであるかをほんとうに理解することは決してないのだ。
    人間はそれぞれちがうのに、浅はかにも自分は何でも知っていると思いこみ、その真実を受け入れることかできないということも。

    p.
    シーラはいまでも訂正されるということに過度に敏感で、まちがいをおかすと、むだつりとふくれてしまったり、悲痛な溜め息をもらしたりした。
    ちょっと抱いてあげたり励ましてあげれば、またやる気を出した。
    ドラマの一コマ一コマを、〜儀式のように繰り返し語ることでシーラの心は安定していくようだった。
    おそらく、最悪の状態を見たことで、シーラは安心したのかもしれない。
    シーラは自分の問題を言葉で解決することを学んだのだった。
    だからもう身体的な接触を必要としないのだ。

    p.298
    私が急に無関心になったのは、彼女から離れたいという気持ちの表れだと思ってほしくなかったので、私は微笑んでみせた。そしてもっと時間のあるときにゆっくり話し合おうといった。

    p.310
    情緒障害の子供たちと一緒の仕事をしてきて強く印象づけられたことは、彼らの回復力の強さだ。
    一般に広く思われていることに反して、彼らは決してもろくはない。
    私たちの多くがあまりにも当然の道具を与えられれば、自分が持っているときにはそのことに気づかないことが多い愛と支持と信頼と自信が与えられれば、彼らはうまく生き抜いていく。

  • 人間にはそのままを受け入れてくれる存在が欠かせない。一旦受け入れてもらったあとに、成長や改善がある。改めて強くそう思わされた。

  • シーラや子供たちと過ごすトリイの考え方や話し方が、こうすればいいのかと子供に対する接し方のヒントをくれているように思えた。
    学校で毎年訪れる別れの時が思い出された。深く深く愛した友達がこの後どうなるのか気になる。

  • ノンフィクションなのに物語のようにぐいぐい引き込まれてしまいいつの間にかシーラが愛しくて仕方がなくなってしまっている。
    児童虐待、貧困、教育問題など考えさせられる一冊。

  • 問題を起こす子供が、本人の問題ではなく、本当は虐待や育ってきた環境に大きな原因がある可能性がある。もしかしたらほとんどがそうなのかもしれない。問題を起こす大人も同様なのだ。

  • たった6歳の女の子が、俺なんかよりよっぽど深く絶望を知っている。子どもは親を選べない。親ガチャなんて言葉が出てきたけれど、そんな戯言を吐ける輩は、今ある幸せに気づかずに過ごしていくんだろうな。

  • 読んでいて辛いページもあった。ただ、本当に現実に起きていたこと。筆者も子供の姿はもちろん、自身の気持ちもリアルに描かれていて共感する場面が多くあった。他にもシリーズがあるみたい。読むかどうかは今のところ未定。

  • 一気に読んでしまいました。トリイの若さ溢れる情熱とシーラの生命力。まるで映画のようでした。
    個人的には続編のタイガーと呼ばれた子もすごくよかったので、合わせておすすめしたい作品です。

  • 忍耐、感情、はけ口
    知らない、やり返すことからいろいろな感情をもちお互いを信じて尊重する、それはとても大切なことだと思いました

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