ヘラクレスの冒険 (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-4 クリスティー短編集 1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150700041

感想・レビュー・書評

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  • 再読。これは好きで何度か読んでいるのでけっこう覚えていた。
    ポアロが引退を間近にして、自分の名前エルキュール(=ヘラクレス)にちなんで12の難業に挑むことにしたという短編集。
    ヘラクレスの難業に結びつける無理やり感が笑える話もあるが、総じて面白いし洒落た結末の話が多くて楽しい。
    ジョージとミス・レモンもいい味を出している。最終話ではヴェラ・ロサコフ伯爵夫人も登場して、ポアロファンにはお得感たっぷりの短編集だった。

  • #赤背表紙のクリスティーを再読するプロジェクト 039

    重厚なタイトルの短編集だが、個々の作品の読み応えは小粒、というか謎解きを楽しむというより、ポアロ特有の小粋な価値観や倫理観を楽しむ小品集だ。ヘラクレスの12の功業というギリシャ神話がベースだが、事前素養がないので、神々の世界観的な面白さは味わえなかった。後付けでこうした神話を調べてみても、果たしてストーリーにどれだけ資していたかは疑問。結局のところ、ポアロの自尊心と拘りが物語の柱なのである。

  • ヘラクレスの冒険 ※新訳と共有
     ポアロのクリスチャンネームがヘラクレス(フランス読みでエルキュール)は有名。今回はポアロとバートン博士が名前について語らっている。(いつの時代もキラキラネーム問題はあるんだなぁ(笑))
    ポアロは博士の指摘を受け、自身がヘラクレスらしからぬ事、いや、現代のヘラクレスとして引退迄に十二の事件を解決する事、それが古代ヘラクレスの十二の難業を現代に再現する事だ。と考え、依頼を進めていく。
    十二編をコンセプトとしてまとめ、更にはポアロの名前を冠した作品集だ。
    第一の事件 ネメアのライオン
    ミスレモンが整理した手紙について、ポアロが面白い依頼はなかったかと尋ねると、ペギニーズ犬の捜査依頼があると言う。前日に現代のヘラクレスに相応しい事件を解決すると決めていたポアロは怒りに狂いそうになるが、基本的にミス・レモンは勘が鋭い為、渋々依頼の手紙を確認する事に。何か感じるものもあり、依頼を受ける事にしたポアロ。こうして現代版のヘラクレス12の難業がスタートする。
     単なる犬探しだけではなく、その裏に潜む根本的な問題の解決、そして依頼人に隠された秘密など。解決方法に賛否はあるだろうが、最初の謎として相応しい事件だった。ポアロが相手にする「ライオン」は可愛らしい気もするが(笑)
    第二の事件 レルネーのヒドラ
     噂話は決して消える事はなく、まるでヒドラの頭の様に切り落としても生えてくる。妻の死後、噂話ぬ悩まされる医師がどうにか助けて欲しいとポアロの元を訪ねてくる。ポアロは噂の真相を探る為、腹心のジョージを従えて噂話がはびこる町に赴く。途方もない噂を聴きながら、噂の出所を見つけ出す。あわせて、医師の妻の死が自然死ではなく他殺である事を証拠づける為、遺体の掘り起こし、死亡解剖が実施される。
     真相に辿り着き、真犯人を見つけ出したポアロ。ヒドラのしぶとさは確かなものだが、見事ポアロが退治した様だ。
    第三の事件 アルカディアの鹿
     冬の夜にポアロの高級車が故障してしまい、仕方なく歩いて距離のあるホテルを訪れ、宿泊する事に。そこに車の修理工の美男子が現れて修理について説明し、合わせて有名な探偵であるポアロに相談したい事があると切り出す。とある屋敷のボイラー修理を依頼され訪れると、とあるダンサーの美しいメイドがおり、彼女と仲良くなり、再会を約束する。しかし約束の場所に彼女は現れず、きっと何かが起きたのではないかと心配になる。ポアロはこの依頼が三番目の難業に相応しいと考え、彼女の捜索を開始する。ミステリーというよりもロマンスに近い素敵な作品。
    第四の事件 エルマントスのイノシシ
    第三の事件でスイスに来ていたポアロ。ついでに見た事の無い土地を見て回ろうと観光していると、ケーブルカーの車掌が切符と一緒に一枚の紙切れを渡す。それによればとある凶悪犯がこの地を訪れる予定で、既にホテルに警察が侵入しているとの事。ポアロは第四の事件として親和性を感じ、「イノシシ」を捉える手助けをする事に。最後殺人事件や未遂事件が起きるが、他の宿泊客とも協力し、被害を最小限に食い止める。三日後、刑事達が到着し、一件落着と思われる所、ポアロが衝撃の事実を告げ、どんでん返しが起きる
    第五の事件 アウゲイアス王の大牛舎
     ポアロを敵に回すとはどういう事か。万が一ポアロが策略を持って何かを企めばきっと上手くいくのだろう。今回は政治家の不正を元にいかがわしい新聞社がゆすりをしようとするが、相対するのは政治家に雇われたポアロ。政治家側から金銭での解決を提案されたがえ新聞記者は拒否、ポアロ達との交渉を決裂させる。新聞社の記者は政治家の妻の不貞記事や浮気記事などを掲載。世間では記事に対する政治家夫妻の悪い噂が広まり、いよいよ名誉毀損で訴える事に。
     新聞記者は名誉毀損について問題視はしていない。一方政治家側は世間の信頼に足る人物の証言、並びに新聞記者が雇って政治家の妻のふりをさせて写真などを準備した女性を召喚、新聞記者が彼女に政治家妻の真似をさせ、様々なスキャンダルを撮影する手伝いをさせられたと証言し、形成逆転、新聞社は巨額の費用を請求され、後々倒産する。政治家ぎほっとする中、実はポアロと政治家妻の仕組んだ罠だったというオチ。ポアロは敵に回すと恐ろしい人物だ!!
    第六の事件 スチュムパロスの鳥
     構成として猛禽類を思わせる様な恐ろしい見た目の双子の老嬢を登場させ、あたかも彼女達が問題の根幹、この話の敵である様に見せかけてストーリーが展開される。ポアロ登場迄に時間ぎある為、どの様に解決されるのか、どういう事件なのかが読者に判明するのが終盤。それまではドキドキしながら読む事ができる。
     世間や上司の評判も良い政治家。独身貴族で自由気ままな人生を送る主人公と、彼と懇意にする母娘。娘は既婚であるが、夫は難しい人であり、娘が男性と話す抱けで嫉妬に狂う様な人物。主人公は娘に想いがあり、彼女の夫を腹立たしく思う。一方、ホテルにポーランドから恐ろしい容姿の双子の老嬢があらわれ、主人公は不吉なものを感じる。そんなおり、娘が悲しみにくれているのを介抱した事が娘の夫につたわり、母娘が宿泊しているホテルに乗り込んでくる。そこから怒涛の展開が起きる。どんでん返しが楽しめる作品。
    第七の事件 クレタ島の雄牛
     女性からの依頼。婚約を破棄されたというが、相手の男性の様子がおかしいという。父親が息子を海軍から呼び戻してしまう。父親は海軍で働く息子を賞賛していたはずなのに。婚約者の家に赴き事情を探るポアロ。動物の遺体が捨てられていたり、洗面所が血溜まりになっていたり。しかし、男性は覚えていない。おそらく一族の精神異常の血が遺伝してしまったと訝しみ、彼女と婚約を破棄。合わせて男の母親は男が幼い頃にボート事故で亡くなっていた事をしる。
     ロマンスからのスタートで、全てが覆される驚きの短編。但し、父親の友人の行動に疑問あり。
    第八の事件 ディオメーデスの馬
    ポアロの友人の医師からの依頼。とあるパーティに呼ばれた医師。コカインを使用した形跡があり、二人の婦人が治療を受ける。合わせて、錯乱した婦人の一人が銃を数発乱射し、偶々付近にいたホームレスにあたり、医師は治療の為呼ばれていた。麻薬の出所を探る為、また、若い婦人を守る為にポアロが捜査をスタートする。途中に出てくるポアロの知人女性が強烈。ポアロもタジタジなのが面白い(笑)。結末はしっかりと意外なものに着地している。
    第九の事件 ヒッポリュての帯
     絵画盗難事件と学生失踪事件。ポアロは特に乗り気では無かった絵画盗難事件を調査する過程でとある女学生の失踪事件が発生、警察から相談を受けて興味を持ち調査する事に。調査の過程で、ポアロが追っていた絵画盗難事件と女学生失踪事件の関わりが明るみになっていく。女学生失踪事件は冒頭から全くの謎なので解決されていく過程が楽しめる作品。最後のオチはとてもチャーミング(笑)。
    第十の事件 ゲリュオンの牛たち
     第一の事件に登場したミス・カーナビィ再訪。犯罪者としてポアロも称賛する人物だが、とある信仰宗教と友人の婦人の件でポアロに相談に訪れる。ミス・カーナビィが信仰宗教の本部に潜入しながらポアロの調査をサポートする。彼女はポアロのスパイとして行動しながら、読者には信仰宗教の怪しさや危険な描写もされており、更には彼女が途中で心変わりがある部分など、とてもスリリングで面白い作品だ。相変わらずペギニーズは利口な様だ(笑)
    第十一の事件 へスペリスたちのりんご
     金持ちが購入した絵画を巡る事件。絵画が金持ちの元に届く前に盗難事件がおき、絵画がなくなってしまう。盗難した犯人も亡くなってしまい、二度と絵画を見つける事は出来ないと思われたが。警察でもどうする事も出来ない盗難事件とポアロの名推理、そしていつの時代も金持ちというのは悲しい人だという教訓に満ちた作品。
    第十二の事件 ケルベロスの捕獲
     ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人再登場。ポアロがロサコフ伯爵夫人に振り回される(騙される訳ではないが、やはりポアロも男性だった(笑))大掛かりな麻薬事件がバックボーンになりながら、ポアロとロサコフ伯爵夫人のやり取りが面白い作品。最後、冷徹なミスレモンがポアロの様子を見て口走る描写があまりにも滑稽で、ヘラクレスの冒険は難しい事件と共に堅苦しい十二編にさせず、作品通してのユーモアをつけた様な形だ。動物を使ったトリックはホームズてもよくあるが今作の方が断然分かりやすい。
     以上、過去と現代のヘラクレスの冒険が無事完了する。この後、ポアロはかぼちゃ栽培に勤しむ訳だが、どうなるかは「アクロイド殺し」を是非読んで欲しい。

  • ・ことの起こり
    ポアロのクリスチャンネーム、エルキュール(ヘラクレス)にちなみ十二の事件を十二の難行に見立てて解決する。

    ・ネメアの谷のライオン
    一つの事件の解決が過去の事件を明るみに出し、犯罪を未然に防ぐ事となった。ペキニーズをライオンに見立て、これに絡む詐欺事件を解決する。

    ・レルネーのヒドラ
    九つの頭を持つヒドラは首を切られるとそこから新たに二本の首が生えてくるという。夫が新しい女と結婚するために妻を毒殺したという噂が噂を呼び、夫があらぬ疑いをかけられる状況をレルネーのヒドラに見立てた。解決は予想したとおりのもの。

    ・アルカディアの鹿
    田舎で立ち往生したポアロはそこで行方が知れなくたった女性を探してくれるよう依頼を受ける。彼女の金色のはねた髪が鹿の角を思わせるため、ポアロは捜査を開始した。探していた人間が別人であることがわかり、彼女のもとを尋ねたポアロはそこで二人のために新たな解決策を示す。

    ・エルマントスのイノシシ
    凶悪な殺人犯人がひそむ山奥のホテルにい合わせてしまったポアロが事件に巻き込まれる。この殺人犯がイノシシと呼ばれる。潜入していた刑事だと思った男が実は探していた殺人犯人だったというものだが、謎の女や怪しげな三人組、アメリカ人旅行客などがうまく真相を隠し物語が展開する。ロープウェイに故障により陸の孤島となったホテルでポアロは危機におちいる。

    ・アウゲイアス王の大牛舎
    国民からの信頼が厚かった元首相が実は詐欺や横領で不正な金を蓄えていたことがわかった。これを新聞に書かれることがわかったため、現在の首相がポアロに相談に来る。新聞に書かれることも打撃だが、それが真実であることがさらに問題を大きくする。これを一挙に解決するため、この問題をアウゲイアス王の大牛舎に例えた。ポアロは首相の夫人に似た女を男と遊ばせ、それを新聞にスクープさせる。夫人は名誉毀損の裁判を起こし、記事の女が別人であることを証明する。新聞の評判は失墜し、元首相の不正をかすませることに成功した。

    ・ステュムパロスの鳥
    詐欺に会いそうになった男をポアロが助け、事件を未然に防いだ。見るからに怪しげな老姉妹をステュムパロスの鳥に見立てたが、実際には善良そうな母親と娘が詐欺師だった。母親は一人二役で暴力を振るう娘の夫役を演じ、娘が夫を殺してしまうといいう芝居を演じる。そこに居合わせた男は自分と母娘を守るため警察に金を握らせようとする。しかし、その金は母娘がだまし取ろうとしていた。外から観察していたポアロが真相を見抜き、母娘は逮捕される。

    ・クレタ島の雄牛
    クレタ島の雄牛のように健康で頑強な青年が、自分は気が狂っていると言って婚約を破棄した。婚約者がポアロに調査を依頼する。青年はひげそり用クリームに混入された毒により幻覚などの症状を発し、さらに真犯人による動物の殺害を自分の行動だと誤解した。犯人は青年の父であったが、本当の父親は友人である別の男だった。これを恨みに思った犯人は青年を自殺に追い込もうと計画をたてた。しかし、ポアロに見破られ逆に自ら死を選んだ。

    ・ディオメーデスの馬
    麻薬の密売を行っていた男は不良娘達を養女とした。男は彼女たちを通して麻薬を売りさばいたが、ある時その娘の一人が麻薬を自ら飲んでしまい医者にかかる。医者は彼女のため極秘に捜査してくれるようポアロに依頼した。ポアロは娘達の父親が麻薬密売の元締めであることを見ぬき警察に引き渡した。

    ・ヒッポリュトスの帯
    フランスで起きた盗まれた絵画を取りもどすよう依頼されたポアロは同じくフランスで起きたイギリス人女子学生の気車内からの失踪事件に手を貸すようジャップ主任警部から頼まれる。女子学生の通う学校の校長室の絵を見たポアロはこの絵の表面を拭き取る。すると盗まれたはずの絵画が現れた。犯人は女子学生の一人を誘拐しその生徒に成り代わり電車に乗った。そして、その生徒の荷物に偽装した絵画を隠し税関を通り抜けようとした。しかし、犯人が絵を手に入れる前に校長が生徒の荷物を調べ自分宛ての絵を手に入れていた。女子生徒は無事見つかり絵画盗難事件も解決した。

    ・ゲリュオンの牛たち

    ・ヘスペリスたちのりんご

    ・ケルベロスの捕獲

  • 旧版を読む。読みきれなかった…

  • ポアロシリーズの中では、それ程評価の高い作品ではないようだが、自分はかなり好きな一冊。
    読んだのが子供の頃だったからか、連作短編物なのでサクサクと読めた上に、短い中でこう来るか!というどんでん返しがあることに物凄くワクワクしながら読んだ記憶がある。

  • 短編
    ポアロ

  • 1999.10.15 39刷 800
    クリスティーは長篇だけでなく短篇においても卓越した才能を発揮する。本書はお馴染みの名探偵エルキュール・ポアロを主人公としギリシャ神話をテーマにしたオムニバス形式の短篇集である。現代のヘラクレス、灰色の脳細胞を持つポアロが、ギリシャ神話中の有名な「ヘラクレスの難事業」に因んだ12の難事件を快刀乱麻を断つがごとくに次々と解決してゆく。人情の機微に富んだ、ポアロの面目躍如たる傑作ぞろいの短篇集。
    ことの起こり・ネメアの谷のライオン・レルネーのヒドラ・アルカディアの鹿・エルマントスのイノシシ・アウゲイアス王の大牛舎・ステュムパロスの鳥・クレタ島の雄牛・ディオメーデスの馬・ヒッポリュトスの帯・ゲリュオンの牛たち・ヘスペリスたちのりんご・ケルベロスの捕獲

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