- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150704544
作品紹介・あらすじ
別荘の管理人ビルが大声を上げて指さしたものは、深い緑色の水の底でゆらめく人間の腕だった。目もなく、口もなく、ただ灰色のかたまりと化した女の死体がやがて水面に浮かび上がってきた-フィリップ・マーロウは化粧品会社社長の依頼で、1カ月前に姿を消したその妻の行方を追っていた。メキシコで結婚するという電報が来ていたが、情夫はその事実を否定した。そこで、湖のほとりにある夫人の別荘へ足を運んだのだが……ハードボイルド派の巨匠チャンドラーが名作『長いお別れ』に先駆けて発表した、独自の抒情と乾いた文体で描く異色大作
感想・レビュー・書評
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フィリップ・マーロウは4作目の本作で初めてロスを離れる。化粧品会社の社長から頼まれた妻の失踪事件を追って、彼の別荘があるロス近郊の湖のある山岳地帯の村に入り込む。そこの湖から女性の死体が上がる。その女性こそが社長の妻だろうと思われたが、別の女性の死体だったことが解る。そしてマーロウは別の事件に巻き込まれ、命を狙われる。
本書のテーマは卑しき街を行く騎士を、閉鎖的な村に放り込んだらどのように活躍するだろうかというところにある。しかもその村は悪徳警官が牛耳る村であり、法律は適用されず、警官自体が法律という無法地帯。つまり本書は以前にも増してハメット作品の色合いが濃い。
この閉鎖的な村で関係者を渡り歩くマーロウは今回危機に陥る。この危機はロスマクでも使われていた。
本書の最大の特長は他の作品に比べると実に物語がスピーディに動くことだ。原案となった同題の短編が基になっていることも展開に早さがある一因だろう。
そして事件は解決してみると、死体が3つも上がる。しかもそれは1人の犯人によるもので、けっこう陰惨な話だったことが解る。
しかし上にも書いたが、原型の短編を引き伸ばした感じが否めなかった。最初のスピーディな展開は多分チャンドラー作品の中でも随一なのだが、その後の展開が無理に引き伸ばしたような冗長さを感じた。特に印象に残るキャラがいないせいもあり、出来としては佳作といったところだろうか。
数年後、私はこの原型となった短編を読んだが、これは非常に面白かった。プロット自体はいいのだ。湖から上がった女性の死体と、どこか本格ミステリを思わせるシチュエーション。そして閉鎖的な村に現れたマーロウという名の騎士。ただそれを十分に生かせなかった。
どんな作家もいつもいい作品が書けるとは限らない。全7作を数えるフィリップ・マーロウの物語でちょうど折り返し地点に位置する本書は中だるみの1冊となるようだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ひさしぶりにチャンドラー。ミステリーもあまり読まないので、どうしても細かい部分が読み進めるうちに拾えなくなってくるけど、雰囲気に浸りつつ読むのが楽しかった。マーロウのキャラクター好きだなぁ・・・。
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私立探偵フィリップ・マーロウの四作目。
愛してはいないが妻の行方を捜してほしいという化粧品会社の社長。
湖近くの別荘に探しに行くと、別の女性の水死体があがる。
女性二人の体格が似ているとあったところから、
そこがポイントとなるのかと思いきや、
思いがけない方向に話が転がっていった感じ。 -
1943年発表だが、いささかも古臭さを感じさせない。
本作は、ファンが泣いて喜ぶ名台詞も、マーロウ自身のロマンスも、魅力溢れる脇役やシビれるシーンも、チャンドラーマニアからの人気もあまりなく、いうならば地味な作品に位置する。
けれども、警察権力に傷め付けられながらもストイックに謎を追うマーロウの姿は、ストレートな私立探偵小説の基礎となるスタイルを幾つも提示しており、読まずにおくのは勿体無い。
マーロウの冷徹な視点を通した登場人物たちの造形と、湖畔などの自然や様々な情景での描写力はハードボイルドならずとも、秀れた小説技巧の手本となるべきものだ。すでに完成されていたスタイルはさらに磨き上げられており、硬質な清水俊二の翻訳によって輝きを増す。
情感を抑えた狂言回しとしてのマーロウ。物語的にも、後のロス・マクを想起させる。 -
チャンドラー5作目。他の作品よりも筋が通っていて割と読みやすくストーリーも楽しめるし、いつもの気の利いたマーロウの台詞回しも存分に味が出てるのでよい。状況に翻弄されながらもなんとか乗り回すマーロウの立ち回りも相変わらず格好いい。しかしこのマーロウの作品世界には、良心的な女性というものはいないのだろうか。
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また会えたね、マーロウ君!
さて、この度読んだこちらの本は、
いつもの「東西ミステリーベスト100」では圏外。
サブテキストとして使用している「海外ミステリ・ベスト100」の
ハードボイルド部門で16位。
ストーリーは、化粧品会社社長からの依頼で、
姿を消したその妻の行方を追う為、
まず訪れたと思われる別荘へ向かう。
そこで、管理人とともに湖の底に沈んでいる死体を見つける…
この、一番最初の依頼人とのシーンを、
チャンドラーさんが、どの作品でも腕によりをかけて、
念入りに描いているというのが
ヒシヒシと伝わってきて、毎回嬉しくなってしまうんだなあ。
命が危ないところでも、
余計な話をやめない、マーロウ君。
肝っ玉の据わり具合は半端じゃあないよ。
お話は、
あまりこんがらがることもなく、
ある謎が、ある謎を解き明かしていく…と言う、
どうしたって夢中になってしまう展開で、
そしてもちろん、マーロウ君の魅力も存分に発揮されていて、
もしまだマーロウ君の話を一つも読んだことが無い人がおられたら、
この作品を最初に読むのがお勧めかも知れませぬ。
あらあらマーロウ君含めみんなしてまた、勝手なことを…
(ほんとうだったら大問題)と言うことも、
うん、この本だから良いかな。
謎解きに関して一言、
私も最初、「あれ?この二人…」と思ったのになあ!
(後から言っても駄目ですよ) -
先に「ベイ・シティ・ブルース」を読んでいたこともあって、すんなり文が入ってきた。一番好きなセリフがカットされていたのは残念だが、犯人を知っててなお楽しめる探偵ものも中々出合えない。
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地味ではあるが、印象的なキャラもいるし、謎解きのシーンもよくできている。
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短編である程度わかってしまっている流れはあったがそれを気にさせない面白さだった。かっこいいなあクソッ。
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トリックはわりと早く見える話ですが、かえってチャンドラーの小説の中では筋がはっきりして読みやすい気がしました。この人の小説の最大の魅力はいつも謎解きよりも文章にあると思っているけど。「男に輪をくぐらせることのできる女」っていう言い回しがすごいなー。