夜の闇の中へ (ハヤカワ・ミステリ文庫 ウ 1-5)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (374ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150706050

作品紹介・あらすじ

あなたが果たせなかったことを、わたしが成し遂げてみせる…拳銃自殺に失敗し、誤って見知らぬ女性を死なせてしまったマデリンは、その女性、スタアの身代りとなって生きようと誓う。マデリンはスタアの過去をさぐり始め、彼女が生前に、自分の人生を破壊した人々への復讐を決意していたことを知る-サスペンスの詩人が遺した未完原稿を、実力派作家ブロックが補綴。若い娘の憎悪と情熱、愛と復讐を描く幻の遺作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • ウールリッチの未完原稿をローレンス・ブロックが後を継いで完成させた本書。

    生活に絶望した女、マデリンは以前からある古びた拳銃で自殺をしようとしていた。しかし、その拳銃からは弾は発射されず、自殺は失敗するが、それを勝ち得た生と信じた彼女は喜びのダンスを踊る最中に拳銃を落としてしまい、その拍子に屋外へ誤射してしまう。果てして弾丸は通りすがりの若い女に直撃し、彼女は絶命する。
    目撃者はおらず、誰かが通りがかりの車が殺して去ったという言葉が証言となり、彼女は容疑の外へ。
    マデリンは自分が命を奪った女、スタアの無念を思い、彼女の生前の願いを適えようとする。それはかつて幸せな結婚生活を奪った女とかつて幸せな結婚生活を築いた夫の命を奪うことだった。

    設定は正にウールリッチらしく、流れるような文章で陰鬱な状況が語られる。特に冒頭の誤射の殺人の容疑からマデリンが外れるあたりの都合のいい件(くだり)はウールリッチそのものだ。
    ウールリッチはその設定の面白さを愉しむことに意味があり、この辺のおかしさは気にならず、むしろウールリッチ・テイストに酔ってしまった。

    しかし、詩のように流れる優美なウールリッチ節はその後、成りを潜めるかのように文章が前よりも論理的で整然としているのが見受けられた。
    解説では冒頭と結末の方をブロックが補綴し、中間はほとんどウールリッチの手になるものだとのことだったが、私は読書の最中、ブロック自身が、物語のムードを継承しつつ、自身の作家としての矜持も保ちながら書いていると思っていた。違うとなれば、ほとんど区別がつかないわけで、ブロックの練達の筆巧者ぶりに全く以って脱帽である。

    プロットとしては最後の一撃については結構驚かされたものの、読み進むにつれ、いささか使い古された手法であったと気付く。
    しかしそこはブロック。前に散りばめた布石を固め打ちして、設定の弱さを上手くカヴァーしている。
    特に最後にマデリンがデリックを撃たない場面は下手な三文芝居に堕さないぎりぎりのところで踏みとどまったという感があり、また最後の結末について読者に複雑な想いを抱かせる辺り、憎らしいほどである。しかも、冒頭の一文、「はじめに、音楽があった」に呼応する形で終わる、これが非常に巧い!!
    はじめにある音楽と最後に聞く音楽は全くその意味が異なり、相反するものである。この冒頭文及び結末がブロックの追記によるもので、これによって物語としては一クラス上に行った感がある。

    筆を進めるに連れ、ここいらの始まりと終わりのアレンジはやはりブロックの作家としての矜持を覗かせる心憎い演出で、この二つの、云わば物語にとって最も肝心要の部分において最高の仕事をした、それだけでブロックの手腕は評価に値するのである。

  • 黒衣の花嫁、死者との結婚、喪服のランデヴー、そして――!


     同じような筋立てでしつこくぐるぐる書き続ける作家がいて、そろそろ飽きたらどうかと、自分に半ばあきれながらもめくってしまいます。おなじみのパターンでもかまわず飛びついてしまうから、完全に中毒ですね★
     そうさせる作家がコーネル・ウールリッチです。

    『夜の闇の中へ』は、それまでの己を捨てて別人の人生へと足を踏み入れる女を描いた、未完の長篇……でしたが、ローレンス・ブロックによって補完計画完了☆

     生に望みを持てなくなった女マデリンが、自殺を取り止めにしたその矢先、アクシデント発生。誤って見ず知らずの人物を死に至らしめてしまいます。そのスタアという女に成り代わって、彼女の考えを実行しようとするマデリン。憎しみよりも哀しみを秘めた復讐者の、愛と死に隈取られた物語です。美しかった……!

     洗練された文体を持ち、純文学への未練を断てなかった著者にしてみれば不本意でしょうが、彼の気質にはやはり真っ暗なサスペンスが似合いますね。
     文章は翻訳者の手腕も手伝ってか、どこからがウールリッチでどこからがブロックのものか、見分けがつきません。都会的でもあり映像的でもあり、いちいちおしゃれ。<サスペンスの詩人>の美文体を損なわなかったのは、ありがたいグッジョブ★

     悔やまれるのが唐突すぎる結末で、ブロックの模倣は巧いけれども、土壇場になってその着地は安易では? 過去のない女マデリンと今はいない女スタアの面影が重なって復讐が遂げられるような、そんな狂気がほしかった。……欲を出しすぎでしょうか。

     ところで、安っぽくて男関係にどこかだらしない女が好きで(小説の中に限ります)、なぜと聞かれても困るけど、デルのようなキャラクターが案外嫌いではないです。「なぜ、こんな女が!?」と思うような人がモテるのは、だらしないということも魅力になり得るからだと思ったりする。……と語るほど、デルの出番はないか★

  • 例え最初の一語から最後の一語まで、100%ウールリッチの作品じゃないとしても、それでもやっぱりこれはウールリッチらしさに満ちていると思う。強いて言えば、解説でも述べられているように、ラストは少し甘いような気もするんだけれども。

  • 舞台は1960年代初頭、アメリカのある都市。人生の空虚さに耐えられず、マデリンは死のうとした。こめかみに当てた拳銃は不発だったが、それは置いたとたんに暴発し、通りを歩いていた女の命を奪った。マデリンはその女、スタアの代わりに生きることを決める。スタアがしようとしていた復讐を成し遂げるために....

    ウールリッチの遺筆をローレンス・ブロックが補綴して完成させた。その箇所については詳しく解説されている。 情景と情感をイメージ豊かに描写してゆくウールリッチの文体が違和感なく再現されていて、この作品を完成した形で読めることが嬉しい。

  • 自殺に失敗したうえに見知らぬ女性を死なせてしまったマデリンは、その女性スタアの代わりに彼女の人生を生き始める。そしてスタアが企てていた復讐を知る…。ウールリッチの遺作となった未完原稿をローレンスブロックが切れ目もわからないくらいに見事に補筆した。しかしラストが…。ウールリッチが考えていたラストはこんなだったのだろうか。気に食わないなあ。別の誰か、書き直してみてくれないかな。もっとウールリッチらしく、甘く。

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