野獣死すべし (ハヤカワ・ミステリ文庫 17-1)

  • 早川書房
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150710019

感想・レビュー・書評

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  • 男手ひとつで育てていた幼いひとり息子を交通事故で失った探偵小説作家ケアンズは、深い悲しみのなか復讐を誓い立ちあがる。遅々として進まない警察の捜査に業を煮やしたケアンズは、個人でひき逃げ犯の分析と捜索に着手する。偶然も手伝って加害者の目星を付けることに成功し、目標達成のために作家としてのコネも利用しながら犯人への接触を試みるケアンズは、同時に復讐を果たすための構想を練りつつあった。

    作品の舞台はイギリス、時代設定は、会話においてナチスドイツの名前が挙がることや、ラジオ放送を通して日本が中国を攻撃するニュースを伝える箇所が存在することから、発表当時の1938年頃と思われます。冒頭で記載した内容が第一部となっており、ひとり息子の復讐を誓ったケアンズが犯行にいたるまでの日々が描かれるのですが、これが日記形式で綴られていることがポイントです。ここまでのストーリーだけであれば犯罪小説として読むこともできるのですが、事件当日を描く第二部で趣きが変わり、第三部のおしどり夫婦である探偵夫妻の登場にともなって、完全に本来の探偵小説としての形式に転調し、この探偵パートと呼ぶべき第三部に続く解決編で完結する全四部の構成となっています。

    事前に情報を調べず、犯罪小説を予期していたこともあって、大きくは第一部にあるケアンズの日記形式による記述と、典型的な探偵ものとして描かれる第三部以降という、異なった形式と視点が同居する特徴的な構成には驚かされました。ただし、構成だけの作品というわけではなく、作者の描写からはそれぞれの人物像や情景が自然に伝わり、全体を通して楽しく読むことができました。探偵であるナイジェルが天才型ではないことも、本作については有効に機能していると思えます。また、真相を知ったあとになって、ある有名なミステリ作品を思い出すことになりました。

    最後に書名に関して。本来探していた大藪春彦の同名ハードボイルド小説が書店になく、本作が検索機の在庫情報にヒットしたのが読書のきっかけでした。刊行の順序から、大藪氏の小説タイトルは本作から取られたものなのでしょう。激しい印象を受けるタイトルですが、作品のイメージとは違っていました。

  • 息子をひき逃げされたミステリ作家が復讐を誓い、犯人を捜して追いつめていく。日記形態の倒叙ものとして物語の幕は上がります。

    少ない手がかりから犯人像を絞り込んでいき、次第に近づき犯行に及ぶプロセスにスリルあり。一人の人間を犯罪に駆り立ててゆく、細やかな心理描写も巧い。

    読み進めていくうちに、これはあの有名作のアレみたいになるのか、それともあの人のアレか、と変なドキドキ感を味わいましたが、そこは一味違いました。

    構成が面白い、古典の名作でした。

  • 最愛の一人息子を轢き殺された小説家が犯人を見つけ、私刑を下すべく日記をつけ始める。
    犯人に目星がつき、接近して決行に至るが失敗…、しかし目星は死んだ。日記が弁護士に送られたため、自分は違うと証明を頼まれた探偵ナイジェルが出てくる2部から面白くなる。
    なんというか、古いぶん、情緒を感じさせるミステリでした。
    このタイトルの邦訳は乱歩がつけたそう。死すべしという強い助詞を使うところが流石の才能、なるほどね。

  • 訳:永井淳、解説:植草甚一、原書名:THE BEAST MUST DIE(Blake,Nicholas)
    フィリクス・レインの日記◆仕組まれた事故◆この死の体より◆罪は顕われたり◆エピローグ

  • 息子を轢き殺した犯人を自力で探して殺そうとする。思いの丈を日記に書く。
    第2部で日記が犯人と思われる人物にばれる。犯人はDV。
    第3部 探偵。
    第4部。警部の推理。犯人を毒殺したのは彼の息子。父方の家系の血か。告白文もあり。

    探偵の述べる事実と主人公。
    日記は道具。 犯人が轢き殺したという自白がなかったので殺害をためらう。主人公は犯人に日記をわざと発見させる。自白させ犯行を行なったと確信。犯人の息子が細工したため自殺に見せかけれない。
    息子容疑者として捜索。息子失踪。息子が自殺?と思い主人公は探偵に勧められ犯行手記をしたためる、そして探偵黙認で逃亡。主人公は逃げて溺死。息子は発見される。

    タイトルは伝道之書三章十九節。

    以上斜め読み。

  • 2017/01/15読了

  • 2016/09/23
    子供を轢き殺されたパパの復讐物語
    手記→事件発生→探偵→解決編な流れ

    復讐というか、殺したかった人が死んだという点ではハッピーエンドなのでは?
    相手の身になってのパパ推理だけど、ぶっちゃけ見つけられたのは幸運だったと思う。あ、不運なのか?
    証拠がないことが後にこんな意味を持つなんて思わなかった。
    ハッピーっつったけど、復讐劇なんて悲しみしか産まないわ。

    会話や何気ない一言

  • 主人公の手記から始まる物語。
    ひとり息子を轢き逃げされた男が、運転手への復讐を仄めかす。

    手記で始まったため、最後まで手記で復讐をいかに遂げるのか、成功したのかしなかったのか、そういったことを綴っていくものだと思っていた。原因があり結果に至るまでを読ませる、よくある形だと思っていたら途中でスタイルが変わる。

    復讐する人物が殺されてしまう。

    あれれ、ミステリーだったのこれ。

    突然グイッと方向転換をされ、戸惑いつつ読んでいく。
    最後は誰が殺したかも明らかになり落ち着くところに落ち着く。
    こういうのがハードボイルドというのだろうか。

    物語の中で結構唐突な感じで“22の質問”が出てくる。
    いくつか挙げると

    オランダボウフウの味をよくしないためには、甘い言葉がどれだけ必要か?

    〈ライオンの保母兼乳母〉とはだれのこと、あるいはなんのことか?

    九英傑とはどういう意味か?

    ……ナンダコレ。

    これが事件解決の鍵なのかと読んではみたものの、何言ってるんだかよくわからない質問ばかり。
    結局この“22の質問”が物語にどう繋がったのかよくわからないまま終わってしまう。
    この“22の質問”に関しては翻訳された永井淳さんもよくわからなかったらしく、巻末に原文と翻訳とを記しておられ、不明とかよくわからないといった考察のようなものが記されている。
    翻訳されたかたがわからないことは勿論わたしにもわからないわけで、こっちの方がどんだけミステリーだよとツッコミを入れたくなる。

    よくわからないこともあったりだったが、面白いというかこういう作品もあるのかというのが最も感じたこと。

    本屋さんでこの本を棚に見つけたとき、『あっ、松田優作さんの映画の原作だ。』と手にとって、全く別の作品と気づいて、ひとりコッソリ笑ったのもいい思い出だ。

    それにしてもこの作品のタイトルは江戸川乱歩がつけたらしい。
    死ね、じゃなく、死ぬべし。こう表現するところに乱歩の並々ならぬ言葉のセンスの秀逸さを感じる。

  • ナイジェル・ストレンジウェイズ・シリーズ

    息子マーティンをひき逃げで殺されたフィリクス・レイン。犯人を探すために接近した女リーナ・ロースン。彼女の義兄ジョージに疑いを持ったレイン。ジョージを殺すために計画を立てるレインの日記。次第にリーナに魅かれていくレイン。家庭の暴君ジョージに辛く当られる妻ヴァイオレット、息子フィル。家を守ろうとするジョージの母親ラタリー老婦人。船に乗せて溺死させようとするレインの計画。計画直前にジョージから日記を弁護士に送ったと告げられ計画を中止したレイン。中止した日にストリキニーネで毒殺されたジョージ。日記に隠された秘密。ナイジェルの捜査。

  • すごい。
    ミステリとしても出色の完成度だけど、文学としても十分鑑賞に値する。
    主要テーマは物語中盤、食事時にかわされた会話にあると思う。
    そのテーマをめぐるいろんな人のいろんな葛藤、そして最後のあまりに悲しい結末。

    だけど結末が絶望的であったがゆえに、そこに残ったわずかな希望がより輝いて見えるような気がする。
    読後感は、なんだか映画『トラフィック』を観た後の感じとよく似ていた。

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