赤い収穫 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 6-2)

  • 早川書房
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150773021

感想・レビュー・書評

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  • 八百長ボクシングの試合から、警官隊による派手な銃撃戦まで、場面のバラエティー豊かで、移動も多く、展開が速い。
    この点、「マルタの鷹」とは大違いで、飽きさせない。

    さらに、

    ※以下、ネタバレにつながるが、

    酔いつぶれた主人公「私」が朝目覚めると、
    手にアイスピックを握っていて、

    その前に死体が…。
    という絶対絶命の展開まであり、ハラハラさせる。

    そういう勢いやスピード感はたっぷり。(所謂「パルプ小説」風情だ)
    なのだが、一方で荒削りなところが難点。
    鉱山町「ポイズンヴィル」を舞台に、敵対する「ギャング団」的な諸勢力がせめぎあい、ドンパチして戦うのだが、その勢力関係図や、怒りの発端や利害関係がとてもわかりにくい。
    (その街は、アメリカ西部近く、モンタナ州やサンフランシスコ近くらしい。)

    サンフランシスコの「コンチネンタル探偵社」の「私」は、依頼人に招かれて「ポイズンヴィル」に降り立つ。
    だが、その依頼人はすぐ殺される。状況不明のまま、「私」も殺されかける。
    そんな案配で虫けら扱いされたことに憤った私は、意地を賭けて、その街の全ギャング勢力を殲滅してやる、と動きだす。(街の実力者の老人から、街にはびこるやくざ者どもを片付けてくれ、と依頼されたこともある)

    主人公「私」は、かなりのダーティヒーロー。
    探偵だというが、えげつないこともやってのける悪人で、会社員探偵とは程遠い。これまでも、殺人のお膳立てくらいはやってきたという。
    今回のミッションでも、探偵自身も、殺しをいとわない。
    法や警察の権威も意に介さない無軌道ぶり。
    小説の中盤あたり、探偵の「私」は(銃撃戦の最中とはいえ)警官を撃ち殺してしまう(なぜか、そのことは不問に付されたように展開が進む。)
    その後街のあちこちで、ドンパチが多発し、警察署長まで撃ち殺される有様で、捜査どころでない、ということなのかもしれない。
    ちなみに、この警察署長、自ら警官隊を率いて、銃撃戦の最前線に立つ。署長危ないよ、と思う。

    パワフルだが、かように荒削りな小説である。

    余談だが、大藪春彦の小説の男たちをふと思いだした。
    (おそらく、大藪氏はハメットの影響を受けているのでしょう)

  • 好きなセリフがある。

    「かきまわしてやるだけでうまくいくこともある。生きのびられるだけタフで、結果が浮かび上がってきたときしっかりみきわめられるように両目をぱっちりあけてさえいればね」

    ハードボイルドの真骨頂であり、チャンドラー、村上春樹にまでつながるエッセンスだと感じた。ハードボイルドにおいては、身体と頭をフルに使い、泥をかぶりながら飛び回ることが重要らしい。

    動機や犯行状況が人間臭くて好きだった。誰と誰が対立し、手を組み、誰が嘘を言っているのかを整理するのにちょっと時間がかかったけど、最後に全ての伏線、一言一句までが無駄なくきれーに解決するエンタメミステリーよりわたしは好み!とはいえ読み終えるとカタルシスはあるのでご安心を。私の読後感を一言で言うと…あれだけワルが跋扈してたのに、終わってみるとその熱量がちょっと懐かしい。

    雄弁さと、はったりのうまさと、腕っぷしがものをいういちかばちかの駆け引きで、主人公は危険な男たちの間を行ったり来たり、互いの利害を弄びながらサバイブ。膿のたまりきった鉱山街をトゲのないバラの温床に変えるまでの不毛な奮闘。手の込んだトリックやありそうもないダイイングメッセージとは無縁の、肉体派ミステリー!

  • 登場人物、死にすぎ

  • モンタナ州のとある鉱山町。街の浄化を地元の実力者から頼まれたサンフランシスコの探偵。裏社会のメンバー間の抗争を煽って共倒れを画策していく。一体何人死ぬの?と思うほどの暴力と遺体の山。人が死に過ぎて全体像が把握しにくい。元祖ハードボイルドと謳われた心情描写を排した行動の世界は非情そのもの。
    本作は黒澤明の「用心棒」のモデルとなった。有名な話。
    読後に思ったのが、やっぱりチャンドラーのマーロウやマクドナルドのアーチャーに親しんだ身としては、何か物足りなさを感じてしまう。プロットは面白いんだけれど。

  • 私がハードボイルド慣れしてないせいもあると思うけど、全然古さを感じず面白かった。男のロマンみたいなものも含めて撫で切りにする容赦の無さが好き。無法が過ぎてしっちゃかめっちゃかなわりに、ミステリ面はちゃんと論理的に解決されるところも良かった。

  • そうなのか。こう言うのがハードボイルドの原点なのか。
    描写に乾いた文体、あたかも事実がありましたと、
    何事もなかったように感じさせる言うか・・・
    でもわっち阿呆やでよく解らんちんで拗ねん

  • コンチネンタル探偵社の調査員の「私」は利権の欲にまみれた町の実力者から雇われたが、その雇い主ももちろん汚れた人間。
    警察署長から、町の汚れた実力者まで巻き込んで共倒れさせようと画策するハードボイルド。なんだか黒澤映画「用心棒」を彷彿とさせます。

    周りはみんな信用ならない敵。このアウェー感あふれる環境で仕事をやりぬく姿は、ブラックすれすれで働くサラリーマンの心の支えとなるであろう!

    いや、凄い。やっぱりタフでなくては戦えないな。

  • なんというか、どう読めばいいのかわからなかった。ハメットはどうも合わないようだ。

  • <探偵も麻痺させる毒の町>

     登場人物をひとりも好きになれない話を読み続けるのは、楽じゃない――
    『マルタの鷹』にも似たような感想を寄せた記憶があるなぁ。乾き切った文体で描かれた男たちの攻防戦記に、慣れるまでだいぶかかりました。
     読書後、今度は穢れ(けがれ)への慣れに、恐れを感じました★

     舞台はパーズンヴィル、別名ポイズンヴィルと呼ばれる危険地帯。探偵の"私"は、町にはびこるヤクザなヤツラを共倒れさせようと画策しています。
     繰り返される流血事件。潤いのない"私"の言動を、ひたすらリポート。
     ハードボイルドというよりはヴァイオレンス小説のつもりで、心を鎧をひそませて向かっていったらよかったでしょうか。

     結末まで耐えられるのか謎なまま、活字を追っていた。ところが、いつからか自分の気持ちから柔らかな部分がひからびて、苦痛の所在が分からなくなっていました。
     途中で気づかされました、自分だけに現れる症状ではないらしいと。ハメットの小説は、「非情」なスタイルのわりには女に甘い面がある。女の前で大酒をあおった"私"は、こんな本音を叫びます。

    「毒の町(ポイズンヴィル)とはよくいったもんだ。おれはその毒を盛られちまった。~中略~おれのハートの残りかすは頑丈な衣にくるまれ、犯罪と二十年間かかずりあってきて、どんな殺人でも、自分のメシの種、当然の仕事としてしかみないようになってしまった。だが、こんどのように人殺しを画策して大笑いするってのは、いつものおれじゃない。この町が、おれをこんなにしちまったんだ~中略~どうしようもない単細胞になっちまっている」(p231~232)

     血を洗い落すために血を流させる物語。こころ優しい人や可愛い女子の友人にはとても薦められない代物。だけど、忘れることのできない、なぜか忘れたくない麻痺状態★
     こう書き留めずにはいられないのだから、私もだいぶやられてしまったようです。

  • 町から悪人を追い出すが、依頼人のことを気にしないところがいい。

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著者プロフィール

1894 年アメリカ生まれ。1961 年没。親はポーランド系の移民で農家。フィラデルフィアとボルチモアで育つ。貧しかったので13 歳ぐらいから職を転々としたあと、とくに有名なピンカートン探偵社につとめ後年の推理作家の基盤を作った。両大戦への軍役、1920 年代の「ブラックマスク」への寄稿から始まる人気作家への道、共産主義に共鳴したことによる服役、後年は過度の飲酒や病気等で創作活動が途絶える。推理小説の世界にハードボイルドスタイルを確立した先駆者にして代表的な作家。『血の収穫』『マルタの鷹』他多数。

「2015年 『チューリップ ダシール・ハメット中短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ダシール・ハメットの作品

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