象は忘れない (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300325

作品紹介・あらすじ

推理作家ミセス・オリヴァが名づけ親になったシリヤの結婚のことで、彼女は先方の母親から奇妙な謎を押しつけられた。十数年前のシリヤの両親の心中事件では、男が先に女を撃ったのか、あるいはその逆だったのか?オリヴァから相談を受けたポアロは"象のように"記憶力のよい人々を訪れて、過去の真相を探る。

感想・レビュー・書評

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  • あらすじ

    十数年前、とある夫婦が心中します。
    その夫婦の娘が婚約するにあたり、相手の養親が心中事件の詳細を知りたがり、紆余曲折をへてポアロが調査することになります。

    感想

    十数年前におきた心中事件がテーマで、新しい事件が起こるわけではありません。
    また、当時の関係者の話を聞いていく、という地味な展開のため、退屈してしまう読者もいるかもしれません。
    私はこの落ちつきが嫌いではありませんが。

    事件の真相は、"家族愛"だと思いました。
    精神障害と遺伝に強い相関があると思われていた時代。
    夫婦は真相を隠すことで、姉を守るだけではなく子供たちも守ったのではないでしょうか。

  • 「五匹の子豚」のような過去の真相を探る系ストーリーだが、五匹の子豚ほど容疑者がいないので犯人ダービーの盛り上がりはイマイチ。また、双子が出てきた時点で真相はある程度察してしまう。事件の前段階でもう少し何とか出来たのでは?という感想になる。

  • 再読。
    クイーンの「フォックス家の殺人」を読みながら、これクリスティなら「象は忘れない」か「五匹の子豚」ってところだよなって思ってた。
    で、読み直してみた。オーソドックスだよね、今からみればさ。でもやっぱり品があって好きな作品だ。「五匹の子豚」も読まなくちゃだな。

  • アガサ・クリスティーの才能が迸る物語。

    小説家のミセス・オリヴァは、とあることから過去の事件について、関わった人たちから当時の話を集めて真相を解明しようとするも手に負えず、友人のエルキュール・ポアロに助けを求める。

    『象は忘れない』のタイトルは、「象は過去のことを忘れないで、いつまでも覚えている」という逸話をもとに、オリヴァが話を聞きに行く相手のことを「象」と呼びだしたことからきている。

    私には、もう一つの逸話「盲人と象」のように触った感触だけで「象」という生き物を語る人たちの情報を、ポアロが丁寧に全体像に置き換えていく状態も指しているように思えた。

    ラストシーン、ミセス・オリヴァの締めくくりの言葉……「象は忘れない、でも、ありがたいことに人間は忘れることができるんです」

    悲しくとも未来に向かって前向きな結末が、心地よい。

  • 過去に起こった事件の真相を究明するため、ポアロが動く。最後にはこれぞクリスティといわしめる真実が解き明かされる。ポアロ作品の後年の名作。

  • クリスティの長編ミステリー。ポアロシリーズ。相棒はオリヴァ夫人。
     冒頭のオリヴァ夫人の葛藤はクリスティのそれを反映したものだろう。スピーチへの嫌悪感や分別の無いファンへの煩わしさというのはとても共感を持てる。売れっ子作家としての人生は本人達でなければ気づく事は出来ないが、様々な苦労があるのだろうと勘繰ってしまった。
     今作は作中でも触れられているが「五匹の子豚」と対をなしているイメージだ。過去に戻りながら事件の真相に辿り着くという一連は、どちらにも共通しているテーマだ。
     今回珍しく幾つかの作品に触れられており、上記作品と「マギンティ夫人は死んだ」、「ハロウィン・パーティ」についても簡単だが言及がされている。ネタバレ等はないが少しヒントが出ている為未読の人は注意が必要だ(五匹の子豚はだいぶ言及されている)
     結婚を控えた若い二人の男女。男の継母がオリヴァに近づき(オリヴァが女性の方の名付け親だった為)息子の相手の両親が拳銃で死んだ事件について根掘り葉掘り引き出そうとする。オリヴァは娘の母親と面識はあるが、当時、オリヴァが海外にいた為、事件の真相はわからず、更には警察などでも詳しい内容の究明がされないまま、自殺という事で決着した。オリヴァはなんとか継母から逃げ仰せたが該当事件の真相が気になりポアロに相談する。
     クリスティ作品でありがちな全く事件に関係無さそうな手掛かり(夫人の四つのかつら。かつらを四つ持っているのは違和感。飼っていた犬が夫人に噛み付いた事。愛犬は警察よりも賢いというポアロの皮肉が印象的)を皮切りに、警察に保管されている当時の資料や当時事件に関わった人達への聞き込み等(オリヴァ夫人も活躍!!)を繋ぎ合わせ、ポアロが悲しい事件の真相に辿り着く。
     クリスティ作品は古典にあたり、現代と表現や感覚、考え方が難しい部分がある。今回、事件の真相には一卵性双子の入れ替えが関わるが、彼女達の遺伝的な考え方や過去の殺人についての姉への処遇等について、理解が難しい部分が多い。
     一方で、若き娘シリヤの両親や家庭教師ゼリーが家族愛に溢れ、全てが報われないドロシアへの愛故の行動である事は、シリヤへの救いであり、シリヤの相手であるデズモンドの継母の怪しげな行動についてもデズモンドの実母から多額の遺産が入り、それが原因であるという事も作中では真実として知る事ができ、読者としては物語通して納得のいく物語だった。
     クリスティ作品は意外にコッテリした味付けが多く、最後真相究明後、家庭教師とポアロがその場に留まって会話をしていたため、残りページは全くないながらももう一つ変化があるのかと期待してしまった。悪い癖だ(笑)出来栄えは「五匹の子豚」に軍配が上がると思うが二作連作で読むとそれぞれ何倍にも面白さが膨らむ様に思う。
     「象は忘れない」の諺は教訓になるだろうが、知らない人から見れば「サファリに象狩りに・・・」となるのだろう(笑)

  • ポアロシリーズあと2冊。小説家が集まる昼食会に出席したオリヴァ夫人。見知らぬ夫人・ミセス・バートン・コックスが話しかけてきた。「あなたが名付け親のシリヤの両親が心中した事件覚えている?母親が父親を殺したのか?それとも父親が母親を殺したのか?」という質問。オリヴァ夫人はポアロに真相を依頼する。オリヴァ夫人、ポアロは関係者に話しを聞く。シリヤの母親は【ミステリーでは禁じ手?】であった、そうきたか!ポアロが登場するラストストーリーで若干納得いかないものの、完成度は高く、楽しめました。次回がラストポアロ(泣)⑤↑

  • とある婦人の奇妙な質問から幕を開く本作、作中で描かれる殺人はその質問対象となる1件だけというのに退屈させないのは著者の卓越した構成能力故だろうね


    昔に仲睦まじい夫婦が自殺した。果たして先に銃の引き金を引いたのは父か母かどちらだったのか
    そんな取り留めのない疑問が多くの興味を掻き立て、過去への探求を始めさせるのだから面白い

    十年以上前に終わってしまった事件。センセーショナルであっても迷宮入りではないから現代でもその事件を探り続ける者は居ない
    ならヒントを探る聞き込みは出来ないかと思いきや、意外や意外に覚えている者が居る。勿論、断片的だったり間違っていたり思い込みが多分を締めていたりと事実全てを覚えている者は居ないのだけど、それぞれがそれぞれの尺度で何かしらを覚えている
    そういった好奇心が凝り固まった噂を集める事で過去へ迫っていくわけだ

    思えば探偵役となるオリヴァやポアロだって捜査を始めた理由は好奇心に似た感情
    でも、事件の影を引きずる若いカップルが前面に出てくるに従って、二人の行動理由も変わってくる
    だからこそ、次第に見えてくる事件の光明はその新しい行動理由にリンクしているし、最終的に到達する事件の真相もその類である事に納得できる

    そうして積み上げられた諸々が美しく描かれるクライマックスで真相が明かされた際には思わずうるっと来てしまったよ……

  • 過去に拳銃で心中した夫婦
    自殺か他殺か
    夫が妻を殺したか、妻が夫を殺したか
    妻の双子の姉

    p104
    五匹の子豚
    ハロウィーンパーティ
    マギンティ夫人は死んだ

    p116
    五匹の子豚

    p188
    五匹の子豚

  • 「アガサ・クリスティ」の長篇ミステリー『象は忘れない(原題:Elephants Can Remember)』を読みました。

    『鳩のなかの猫』に続き「アガサ・クリスティ」作品です。

    -----story-------------
    推理作家「ミセス・オリヴァ」が名づけ親になった「シリヤ」の結婚のことで、彼女は先方の母親から奇妙な謎を押しつけられた。
    十数年前の「シリヤ」の両親の心中事件では、男が先に女を撃ったのか、あるいはその逆だったのか?
    「オリヴァ」から相談を受けた「ポアロ」は“象のように”記憶力のよい人々を訪れて、過去の真相を探る。
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    1972年に刊行された「エルキュール・ポアロ」シリーズ長編第32作目の作品、、、

    『カーテン』が「エルキュール・ポアロ」最後の作品ですが、『カーテン』は1943年に執筆された作品なので、実質上(執筆順)では本作が「ポアロ」最後の作品となります。

    『象は忘れない』という題名は、英語の諺「An elephant never forgets.:象は(恨みを)忘れない(そして必ず報復する)」に由来しているそうです。

     ■1. 文学者昼食会
     ■2. 象に関する最初の言及
     第一部 象
     ■3. アリスおばさんの手引き
     ■4. シリヤ
     ■5. 過去の罪は長い影をひく
     ■6. 旧友の回想
     ■7. ふたたび子供部屋に
     ■8. ミセズ・オリヴァの話
     ■9. 象探しの成果
     ■10. デズモンド
     第二部 長い影
     ■11. ギャロウェイ警視とポアロ覚え書を検討する
     ■12. シリヤ,エルキュール・ポアロに会う
     ■13. ミセズ・バートン=コックス
     ■14. ウィロビー医師
     ■15. ヘア・スタイリスト・ビューティシャン,ユージン・アンド・ローズンテル
     ■16. ミスタ・ゴビーの報告
     ■17. ポアロ出発を告げる
     ■18. 間奏曲
     ■19. マディとゼリー
     ■20. 審問廷

    十数年前に起きた心中事件の真相と、心中事件の真相を調べるため「オリヴァ婦人」に近づいた「ミセズ・バートン=コックス」の目的を、「エルキュール・ポアロ」が「オリヴァ婦人」を巧く使いながら、見事に解決する物語、、、

    ちょっともどかしい序盤の展開と、縺れて絡み合った糸がスッキリ解けるような中盤から終盤にかけての展開が、「アガサ・クリスティ」らしい作品でしたね。


    心中したとされる「シリヤ・レイヴンズクロフト」の父親「アリステア」と母親「マーガレット」には、自殺すべき動機が見当たらない… 過去の関係者から聞き取りを進めるうち、当時、「マーガレット」の一卵性双生児の姉「ドロシア」が同居しており、心中の数日前に事故死していることが判明、、、

    「ドロシア」に精神的な疾患があったことや、「マーガレット」との結婚前、「アリステア」と「ドロシア」が恋愛関係にあったことが判明… 「ポアロ」は、様々な証言から真相を推理し、真実に行き着きます。


    一卵性双生児だった「マーガレット」と「ドロシア」の容姿が酷似していたことや、「ドロシア」の過去の奇行、「マーガレット」のカツラが4つも残っていたこと等が、大きなポイントになっていましたね。


    「アリステア」も「マーガレット」も、「ドロシア」を愛していたことから起こった事件、、、

    ちょっと哀しい結末でした。


    ちなみに、、、

    「オリヴァ婦人」って、どこかで見た名前だなぁ… と思っていたら、何作か「ポアロ」と共演しているらしく、そのうち、『死者のあやまち』と『ハロウィーン・パーティ』は既読でしたね。

    どうも、「アガサ・クリスティ」本人がモデルみたいです。





    以下、主な登場人物です。

    「アリアドニ・オリヴァ」
     ポアロとは旧知の女流推理作家

    「ミス・リヴィングストン」
     オリヴァの秘書

    「ミセズ・バートン=コックス」
     未亡人

    「デズモンド」
     バートンの養子

    「シリヤ・レイヴンズクロフト」
     オリヴァの名付け子

    「アリステア・レイヴンズクロフト」
     シリヤの父

    「マーガレット・レイヴンズクロフト」
     シリヤの母

    「ドロシア・ジャロー」
     シリヤの伯母

    「マディ・ルーセル」
     シリヤの家庭教師

    「ゼリー・モーウラ」
     シリヤの家庭教師

    「ジュリア・カーステアズ」
     オリヴァの友人

    「ミセズ・マッチャム」
     オリヴァの友人

    「ミセズ・マーリーン」
     オリヴァの友人

    「ウィロビー」
     医師

    「ミセズ・ローズンテル」
     美容院

    「ミスタ・ゴビー」
     情報屋

    「ギャロウェイ」
     元警視

    「スペンス」
     ポアロとは旧知の元警視

    「エルキュール・ポアロ」
     私立探偵

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