われらが痛みの鏡 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ル 5-5)

  • 早川書房
3.49
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本棚登録 : 172
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151814556

作品紹介・あらすじ

戦禍におびえる1940年のパリ。戦争で顔の半分を失ったエドゥアールが身を寄せた下宿先の娘ルイーズを主人公に、数奇な運命に翻弄される人々の姿を生き生きと描く傑作巨篇!

感想・レビュー・書評

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  • あのときこうしてたら
    ああしてたらと、

    正しい選択と間違った
    選択があったかのよう
    に、

    私たちはあとから思い
    返しますが、

    どのように振舞おうが
    けっきょく行き着く先
    に大差はないのではと。

    フランスの歴史が転換
    する激動の時期に、

    戦争という極限の状況
    下で、

    すべては必然であるか
    のように進行する物語。

    千年の時を僅か一瞬に
    感じるような、

    大きな大きな存在から
    眺めれば、

    大河に浮かぶ木の葉の
    ように、

    私たちは運命という名
    の大きな流れに逆らえ
    ない存在。

    極端な喩えをするなら、

    静止画とさして変わら
    ない存在ではないかと。

    三部に及ぶ長大な物語
    の最初と最後の一文を
    読んで、

    そんな感慨に耽ります。

  • ピエール・ルメートル『われらが痛みの鏡 上』ハヤカワ文庫。

    『天国でまた会おう』『炎の色』に続く3部作の完結編。前2作とは間接的には関連するが、全く独立した物語である。

    ミステリーなのか、歴史小説なのか、どういう展開になるのか全く読めない展開の作品。一応、乗り掛かった船ということで完結編も読むことにしたが、期待はしていない。

    ドイツが進行し、戦火が迫る1940年のパリが舞台。『天国でまた会おう』に登場した戦争で顔を半分失ったエドゥアール・ペリクールが身を寄せた下宿先の娘、ルイーズ・ベルモンの数奇な運命とフランス軍の兵士、ガブリエル、ラウール・ランドラードの物語、天才的な詐欺師デジレの物語の3つを軸にストーリーは展開する。

    公立小学校の教師でレストランでも働くルイーズは『ドクター』と呼ばれる常連客の老人から奇妙な申し出を受けたことから、事件に捲き込まれ、自身に関わる過去の秘密を知る。

    本体価格900円
    ★★★

  • 『天国でまた会おう』『炎の色』に続く三部作完結編。間を置いて読んでいるので前二作の詳細は覚えていないのですが、一作目を読んだあとの感想で、「面白かったけれどあえて言うならば男性ばかりでなくマドレーヌとルイーズについてもっと読みたかった」と思っていたら、二作目の主役がマドレーヌで我が意を得たり!と小躍りしたところ、完結編の主役がルイーズでした。素晴らしい。戦時下の話ではありますがルメートルの筆にかかるとどこか洒脱たような乾いた明るさがあって、気重にならずに読めました。教師をしながら週末に近所のカフェを手伝うルイーズとカフェの主人ジュールさん、軍の曹長フェルナンと病弱の妻アリス、真面目な兵士カブリエルと抜け目のないラウール、希代の詐欺師デジレ、という複数の人生が平行してばらばらに語られて行って、結末に向かうにつれ糸をつむぐようにつながっていくのは読んでいて気持ちが良かったです。ルメートルも楽しんで書いたように感じられたエピローグが素敵で、読後感をいっそう満足な形にしてくれました。今後も追いかけたい作家さんです。

  • 上下一括感想
    下巻にて

    第三部は第二次世界大戦の始まりの様子から。
    主に三つのエピソードが、交互に語られる。
    それがどう繋がるか……。

    前半から、もう目が離せない展開。

  • 「天国でまた会おう」の三部作の最終作。

    小学校の教師で週1回レストランでウエイトレスとして働いているエレーヌ。
    レストランに訪れた客の男から、裸を見せてくれと頼まれる。
    逡巡したあげく望みに応じると目の前で拳銃自殺をされてしまう…。

    一方、ドイツ軍の侵攻に備える軍隊の軍曹。
    調子が良く賭け事や物資の横流しに長けている部下に振り回される。

    三部作のはずがどこにつながりが、と思っていたら、
    エレーヌが「天国でまた会おう」に登場した、
    二人の主人公が住んでいた家の貸主の娘だった。

    拳銃自殺をした男が母の昔の恋人であり、
    二人の間に息子、エレーヌの兄がいるとわかり、
    探そうとするエレーヌ。
    だが、そのころドイツ軍が迫って来ていた…。

    (下巻へ)

  • 『天国でまた会おう』『炎の色』に続く第三部の上巻。今度の舞台は第二次世界大戦、ドイツがフランスに迫る時代の出来事。時代の波に翻弄される人々の群像劇。冒頭の強烈な出来事をきっかけに次々と新たな事実が明らかになっていく。ルイーズは、これからどうするのか?

    下巻に続く。

  •  今年はピエール・ルメートルの作品が二作立て続けに読めた年。しかも先に読んだ『僕が死んだあの森』の後は、ルメートルはミステリーをやめたという話もあるくらいだから、今後は本書のようにハヤカワ・ミステリで出版されてはいるものの、冒険小説に近い普通小説の枠で書いてゆくのだろうか?
     本書は第一次と第二次世界大戦の間のフランスの大作三部作の最終編であって、確かにこれまでのルメートルお家芸の謎解きミステリーやスリラーとは縁遠いものがある。それにしても三部作といいながら時代と家系を組み立て繋ぎ語りつつ、一作一作が独立して読んでも楽しめるエンタメ性に満ちており、ルメートルならではの面白さには太鼓判といった味わいはいささかも減じていない。
     本書は三部作の中でも、図抜けた面白さを持っているように思う。キャラクターたちの運命、すれ違い、出会い、絡み、いずれもナチに今にも占領されようとしているフランス国民の逃走を背景としたスケールの大きい群像小説として楽しめる、いわば現代の『戦争と平和』なのである。
     かつて第二次世界大戦をモチーフにした映画には事欠かなかった世代であるぼくら昭和戦後生まれ世代にとっては、懐かしくわかりやすい一時代のヨーロッパが久々に活写されており、まるでエンタメの故郷に還ってきたようなわくわく感があると同時に、ルメートルならではの酷薄な真実と遠慮のない暴力の世界が痛いほどに味わえる力作なのである。
     前作のヒロインでもあった亡きジャンヌ・ベルモンの娘ルイーズが巻き込まれるパリの事件に始まり、一方ではガブリエルとラウールという『兵隊やくざ』を思わせる前線コンビの噛み合わないロードノヴェルが展開。さらにはどこでこの大きなストーリーの流れに組み込まれてゆくのか想像すらつかない稀代のペテン師デジレによるド派手な詐欺のあれこれが語られつつ、戦争の危機感が増幅してくる総体的スリルを読者は味わうことになる。
     後半ではさらに機動憲兵隊フェルナンとその妻が加わり、前半の各キャラの世界に合流して新たな展開を見せてくれる。これら主要キャラクターたちの離合集散やその運命の翻弄そのものが、ひときわ語りに優れたルメートルというストーリーテラーによって構築されてゆく。大作であり力作であり、一見、別々の物語にしか見えなかったものが、集結して大きなうねりをもたらしてゆくダイナミズムは本書最大の読ませどころであろう。
     できれば三部作を順番に読んで頂きたいが、それぞれ独立して読んでも、何ら問題はない。ルメートルという作家の新たな地平を今後も期待したくなるエネルギッシュな本編に、是非とも翻弄され、身を委ねてて頂きたい。

  • 昔、親戚がフランスの方と結婚し、その義理のお母さまが、ドイツはフランスをぐちゃぐちゃにし、大切なピアノも壊された。一生、許さない。
    と言っていた話を思い出しました。
    ちょうど、この頃なんだなぁ…

    下巻へ

  • まったく、だれることなく2部まで読んできた・・完結?しないかもしれないけどラスト3部作。

    この巻だけを読んでも十分に面白く、20Cドイツに蹂躙されたフランスの当時の社会を感じられる。
    ヒロインはパリ在住の元教師ルイーズ。伏線になっている若きエドゥアールとの関係はさらっとしていたが、彼自身の奇矯な存在感からすると、案外出だしは単調。

    しかし、数奇な因縁というのはこれこそと言えるほど面白い絡みで連なっていく。
    突拍子もない医師の自殺、親身に見守るジュール、ルイーズがけなげだけに身の上にほだされてしまう。
    一方、2人の脱走兵の動きや機動憲兵隊曹長の夫婦・・1点は繋がったが、もう一つのつながりが見えてくるのが楽しみ・・下巻へ。

  •  「天国でまた会おう」、「炎の色」に続くルメートルの戦争三部作の最終作。先行作を読んだのは大分前だが、ああそういえばとなんとなく思い出す。ただそれぞれが独立しているので忘れていても大丈夫だ。これは戦時下の群像劇というか、ドイツ軍の進軍によるパリ陥落目前のフランスで、ルイーズとジュール、ガブリエルとランドラード、フェルナンとアリス、そしてデジレ、それぞれの独立した話が交代で綴られていく。最後にベロー礼拝堂ですべての道が交わって、ドイツ軍の出現とともに一気に終結を迎える。それぞれの個別のエピソードはいずれも読みやすく、起伏に富んでいてそれだけでもおもしろい。それらの話が最後にひとつに収斂していく場面の緊迫感もなかなかだ。そのわりに結末がちょっとあっけないのか残念かな。

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