- Amazon.co.jp ・本 (441ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152035530
作品紹介・あらすじ
昭和51年南アルプスで播かれた犯罪の種は16年後、東京で連続殺人として開花した-精神にを抱える殺人者マークスが跳ぶ。元組員、高級官僚、そしてまた…。謎の凶器で惨殺される被害者。バラバラの被害者を結ぶ糸は?マークスが握る秘密とは?捜査妨害の圧力に抗しながら、冷血の殺人者を追いつめる警視庁捜査第一課七係合田刑事らの活躍を圧倒的にリアルに描き切る本格的警察小説の誕生。
感想・レビュー・書評
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1993年 441ページ
第109回直木賞受賞作です。
高村薫さんの作品初読みです。
高村薫さんは改稿が多い作家さんのようで、『マークスの山』も文庫版ではかなり改稿されているとのことです。私が読んだのは単行本で改稿前の作品です。
長いお話でした。難解な表現が多く、重厚な物語でしたが、面白かったです。レビューでよく言われるところの硬質な文章に、最初、作者は男性かと勘違いしてしまいました。
警察内部の人間や事件の捜査の描写は緻密に描かれていて、リアリティと迫力がありました。同じ捜査班でも真っ先に手柄を上げようと相手を出し抜こうするところ、喧嘩腰のやり取り、上層部からの圧力、そしてここでも出てくるマスコミ関係者のあしらいなど、きれいごとでは済まない人間ドラマがあります。
一昔前の作品で、今では使われていない精神分裂病という言葉が出てきます。現在は統合失調症に変更されています。
マークスは子供の頃に両親が車内でガスによる無理心中をはかり、1人脱出して辛くも生き延びた。母親の精神疾患の遺伝とガス中毒による後遺症により重度の精神疾患を患う。3年ごとに躁状態と鬱状態を繰り返している。マークスが入院中、献身的に看護した真知子とは、再開して恋人同士の関係となる。その頃、連続して殺人事件が発生していたが、被害者は何の関係性もないような人物たちだった。しかし、凶器が同じものである可能性が高く、同一犯による犯行ではないかと推測された。警視庁の合田雄一郎、他捜査員たちは犯人の手掛かりを追って奔走するが、謎の犯人にはなかなか辿り着けない。そして、第3の殺人が発生する。
この物語は、犯人の手口が情け容赦なく凶悪です。また、被害者サイドが周辺を嗅ぎ回られたくないようで、捜査に対する隠蔽工作を行っています。結末にはどんなエピソードがあるのだろうか、といろいろ考えながら読みました。
謎が明らかになった後は、哀切感とやるせないような気持ちになりました。完全な悪人はいなくて、全ての登場人物に対する不快感がなくなりました。
テーマは山。山を愛する男たち。明るい山と暗い山を行き来していたマークス。最後は、壮絶な山の厳しさ、壮大な山の美しさが全てを浄化するような描写でした。
山へ登るという行為について登場人物の印象的なセリフがありました。
「現実的であると同時に厭世的で、自己陶酔的で、限りなく献身的で利己的で、且つ……繊細なところが」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
出だしの緊迫感や重厚さ等さすがですね。分厚さを物ともせずに引き込まれて行きます。1993年の作品だから25年も前になるけどタイトルだけは記憶にありましたよ。やはり時は流れているので、当時の先端だったらしいポケベルが結構頻繁に出てくる警察内のやりとりが微笑ましい。しかし終盤にかけて真実が明らかにされていく辺りから急に失速感がいや増すので残念でした。タイトルの意味合いもな〜んだ!でしたし 笑。
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合田がかっこいいのと最後のシーンがはまりまふ。
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硬質で、細かい文章と重厚な展開すべてがきちんとまとまっていた。夢中で読んだ。警察内部の軋轢や、犯人の思い。ところどころでいらっとさせられるけれど、それもそれで。メインの登場人物たちが男くさくて、それもまたこの雰囲気にプラスされていて、いい。ちょっと胸やけもしたけれど、たぶんそれもこの本の魅力なのでしょう。
最後あたりの犯人の行動には、心を打つものがあった。純粋すぎたんだろうなあ、きっと。生きてきた中でのはじめての希望。なんだかすごく胸が苦しくなった。最終的に、ひとごろしでもなんだか憎めない犯人だったなあ。いっちゃん悪いのはあっちなんだと思う。でも、いろんな要因が絡み合ってこの展開を生み出したっていうこともある。最後に犯人は光を見れたのかなあ。いっしょに見たいひととは見れなかったとか、さびしすぎる。
今度は1日かけて一気に読破しようと思える作品だった。じゃないと、おもしろさが伝わってこないと思うんだ。
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93年に直木賞を獲得した
「女帝」高村薫の合田雄一郎シリーズ一冊目
高村さんの中では最もミステリ色が強い作品ですが
あくまでもこれは“警察小説”であり
支柱は謎解きではなくて社会悪と人間の情念です
「とても女性が書いたとは思えない硬筆」
「偏執的なまでに緻密な描写」
「ホモソーシャルとホモセクシャルの倒錯」
高村さんの本を読んだ時に誰しもが必ず抱くであろうこの三点は
もちろんこの作品も例外なく当該しています
全ては作者の頭の中での「うそばなし」なんだ、と頭では分かっていても
余りに紙の中の世界の流れにリアリティが有りすぎて
一瞬これは何処かであった実際の事件の記録ではないのか?などと錯覚するくらいの重厚な読み応えでした
先にLJを読んでいたせいか若干の生硬さを感じる箇所もありましたが
やはり人物の心情の変化をスケッチすることに物凄く長けた作家さんだという印象が強いです
人間の情念の変動全てに言葉を与えてやらんでか!という偏執的な熱が文字からびりびり伝わって来ます
高村作品=インテリ中年まみれ の鉄則通り
今作も登場人物はとりあえずオッサンだらけです
冷血漢で口が悪くてキレモノの合田を筆頭に
顔を合わせればメンチを切り合うチーム七係の睦み合いには毎度にこにこが止まりません
そして菩薩顔で義弟を過保護しまくる浮き世離れした義兄が登場するたびに心の中でハードカバーをぶん投げていました
そりゃ根来さんも三年後に河原でいぶかしむよ...! 大笑 -
合田雄一郎シリーズの第1作品、レディージョーカーから照柿と読んできた。
ミステリー色が強いように感じたがミステリー作品として読むと何か消化不良のように感じる、遡って読んできて第1作のこの時点で合田はすでに陰鬱な雰囲気を出しているしシリーズといっても謎解きのヒーローでもないし。
警察組織の内部の問題、外部からの圧力などを描きながら真実に辿り着く様、面白かった。
でも最後林原どうなるのかー、気になる…と言ったらダメなんだな。
三つ読んだ中では照柿が一番好き。