観光 (ハヤカワepiブック・プラネット)

  • 早川書房
3.88
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本棚登録 : 198
感想 : 41
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152087966

作品紹介・あらすじ

闘鶏に負けつづけ、家庭を崩壊に追い込む父を見守る娘の心の揺れを鮮烈に描く「闘鶏師」。11歳の少年が、いかがわしい酒場で大人への苦い一歩を経験する「カフェ・ラブリーで」。息子の住むタイで晩年を過ごすことになった老アメリカ人の孤独が胸に迫る「こんなところで死にたくない」。美しい海辺のリゾートへ旅行にでかけた失明間近の母とその息子の心の交流を描いた表題作「観光」ほか、人生の哀しい断片を瑞々しい感性で彩った全7篇を収録。英米の有力紙がこぞって絶賛し、タイ系アメリカ人の著者を一躍文学界のホープに押し上げた話題のベストセラー。

感想・レビュー・書評

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  • まだ二十代だったタイの青年の書いた小説が、どこかの書評でとても評価されていたのを見てから気になっておりやっと手に取りました。

    どの作品を読んでも感じられたのは、タイという国の背景というか国柄、そしてガイジンに対する見方。皮肉たっぷりに感じられるけど確かにそうだなと納得してしまう身も蓋もない赤裸々な表現。全編に漂う理不尽さと言うか諦観というか、読んでいて決して楽しい物語ではないけれどだからこそ静かに沁みこんでくるようなもの悲しさをも感じます。確かに日本人の二十代の物書きなら理不尽を描いてもこういう雰囲気の物語にはならないだろうと思いました。

    本書のタイトルである「観光」はタイトルからは想像できなかった母と息子の切ない思い合いの話が展開されていました。他のどの作品も良かったのですが自分は「徴兵の日」「闘鶏師」が良かった。
    本書の出版からほぼ14年。この著者はまだ書き続けているのでしょうか。あまり手に取ることのないアジアの作家は新鮮でした。

  • タイ系アメリカ人によるタイを舞台にした、そこに暮らす人々の短編集。
    タイのあの暑さや人々やゾウのいる景色が目に浮かぶような描写と切ないストーリーの数々。
    少し読むのに苦労しましたがこれまで読んだことの無いタイプの小説で面白かったです。
    訳者のあとがきで、邦題は、原題"Sightseeing"の通りの意味と、光を観る、という意味合いで「観光」とした、とありなんだか素敵だなと思った。

  • タイ系アメリカ人の著者による全7偏の短編集。
    とても良かった。
    「ガイジン」のパンチから始まり、「闘鶏師」のドラマチックな残酷さで幕を閉じるという、どれも悲哀の中に燃える生命の煌めきを綴る。
    2007年刊行時は、”日本の過去のどこかの場面とつながっているように思え”たと訳者あとがきにて書かれているけれど、観光立国を謳う2020年の日本に接続してしまったようにも感じられる。
    そういう普遍性をたたえた作品だった。

  • タイへ行ってみたいっ!

    ってな事で、ラッタウット・ラープチャルーンサップ、古屋美登里·訳の『観光 Sightseeing』

    ガイジン
    カフェ・ラブリーで
    微兵の日
    観光
    プリシラ
    こんなところで死にたくない
    闘鶏師
    の7つの短編集。

    タイを舞台に旅行に来たガイジンしか好きになれない少年、
    兄に夜のダークな街へ連れて行ってと頼む弟、
    アメリカから息子の居るタイへ移住した父、
    闘鶏師の父が連勝して安定した生活をしていたが、ある男が現れてから生活が激変……

    等々タイへ来たような感覚に成れる様なお話ばかり。

    話の内容は昭和30年~50年代の日本と変わりない様な懐かしさを漂わせる感じかな

    2019年49冊目

  • 美しい景色、濃く澱む熱気。快楽を求めて押し寄せては去って行くガイジン、身を寄せ合いひっそりと集まっては追い出される難民。生活に深く根付いた不正貧困と、温かくも儚い家族との繋がり。生きている限り決して消えることのない哀しみの海の中で、泡沫のように弾けては光の在処を指し示す温かな感情をそっと拾いあげていくような。全編通して、辛い現実を生き抜くしなやかな強さに支えられているのを感じる。「よお、世の中よ。おい、このボケ。おれはおまえになんかに流されたかないね。この場にとどまってやるからな」

  • タイについての本を探していてたどり着いた一冊。
    人との繋がり、当時のタイの雰囲気を感じることのできる一冊。
    その後どうなるの?という章もあったが、概ね文体が穏やかで、読みやすかった。

  • 海外の本関係なく、万国に共通する’人間’を描いた作品。
    「カフェ・ラブリーで」と「徴兵の日」が好みだった。

  • 内と外、両方を理解しているタイ系アメリカ人の筆者にしか書けない新たな気づきがいくつもあった。
    中でもタイ人女性と結婚したアメリカ人の息子の家inタイにお世話になる身体の不自由なお爺さんを書いた「こんなところで死にたくない」は名作。
    他の作品であまり入り込めなかったものもあったので☆は3つ。
    まだこの本しか書いてないようだが次回作も是非読みたい。

  • 嘘と少しのやさしさで構成されたこのままならない世界で生きる喪失感ときらめきが、熱い風に乗って伝わるような短編集。
    自身のバックボーンを生かし社会問題など生々しく重い題材に切り込みながら、文学として食べやすく調理してしまえる作家。結末で光(希望や温かな光だけではない。闇を引き立てる光、消えゆく光、薄明かり等も)を提示する物語構成力はガチ。この人が長編書くなら絶対読みたい。
    『こんなところで死にたくない』の老人視点すごい。要介護で息子が外国人と結婚して孫たちもみんな外国語で喋ってて不気味で心細くて疎外される恐怖と差別感情とそれでも不器用に愛する気持ちを掬い上げている。
    『闘鶏師』は映画向き。見せ場が明確すぎる!そして人間心理の解像度高い。最低限の台詞やしぐさから人物の背景や人となりまで見えてくる。

  • 昨年の夏、誰かの書評で気になって読みたい本リストに入れていた本。タイ系アメリカ人というアイデンティティを持つ若い世代が英語で書いた短編集の邦訳です。訳者あとがきによるとカズオ・イシグロ『日の名残り』以来の英語で作品を書くアジア系の作家の流れで登場した作家とのこと。どの作品もタイという土地柄の暑さとか湿度を感じさせるだけでなく、「微笑みの国」というキャッチフレーズを持つ国ならではの主人公たちのハイコンテクストなこころの動きが描かれています。主人公たちはほぼ子供と大人の間のティーンジャーであり、ドラマチックなストーリーというより、日常の中でのパッシブな小さな物語でです。そのそれぞれの主人公の心の振動みたいなものに自分もシンクロして共鳴するのは、タイとアメリカ、大人と子供、喪失と獲得、ローカルとグローバルの狭間に落ちていくものを作者が、そのアイデンティティによって救い上げているからなのかもしれません。訳者あとがきにリストアップされているエイミ・タン、日系のシンシア・カドハタ、インド系のジュンパ・ラヒリ、中国系のギッシュ・ジュン、ハ・ジン、韓国系のチャンネ・リーもいつか手に取れれば…

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