憎悪の世紀 上巻―なぜ20世紀は世界的殺戮の場となったのか

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152088833

作品紹介・あらすじ

大規模な塹壕戦が繰り広げられた第一次世界大戦、ヨーロッパで相次いだユダヤ人虐殺、スターリンの大粛清、南京大虐殺、無差別爆撃や原爆に象徴される第二次世界大戦、中国の文化大革命、世界各地で絶え間なく発生する内戦…20世紀は史上空前の規模で殺戮が行なわれた血塗られた世紀であった。戦争や内紛の直接の犠牲者だけでなく、それに付随する飢餓や環境悪化のために命を落とした者を含めると、延べ死者数はとんでもない数になる。一方、民主主義や福祉の概念が浸透し、医療や科学技術が飛躍的に発達するなど、20世紀が「進歩の時代」だったことも疑いない。だとすればなおさら、この100年に世界が殺戮の場と化した要因を突きとめておく必要がある。ハーヴァードの気鋭の歴史学者が、世界中が同時多発的に大量殺戮に向かった状況をつぶさに検証し、地政学的なダイナミズムが人々の情動と結びつく瞬間を鋭く見定める。既存の歴史観を問い直す挑戦的な書。

感想・レビュー・書評

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  • 気鋭の歴史学者ファーガソンが
    20世紀の血塗られた世界の歴史を
    真正面から、かつ多軸的視点を取り入れながら
    描き出した大著。

    原題は
    The War of the World; History's Age of Hatred.

    上巻では、
    19世紀終わりから、サラエボの皇太子暗殺から
    WWIが始まり、おわり、そして1930年代までを主に描く。

    WWIについて、著者はドイツが勝てなかった理由として
    「船舶の少なさ、国際世論を味方にできなかった、経済面の弱さ」
    などを挙げている。

    だが、本書が興味深い点は、
    そういった大局的分析に加えて、
    多くの戦時文学や従軍者の手記などから、ミクロ的な
    「現場の声」をうまく引用し、効果的に取り込んで
    くれていることである。

    これによって、事実羅列的な歴史著述でもなく、
    個人レベルに留まる経験記述でもない、
    立体感ある歴史描写を達成している。

    WWIの従軍者という点では、敵味方の双方ともに
    同じような境遇にあることが明らかにされている。

    なぜ彼らが戦場に行ったかという点で、p236で
    戦場の現実について

    「退屈で、感覚が麻痺するほど単調だが、
     『平和時に数百万人の炭鉱労働者が送っている生活に比べれば』
     それほど悪くなかった」

    と表現している。
    これには私はびっくりした。

    とかく戦場というと絶望しかない場所のように私は刷り込まれて
    しまっていたのだが、よく考えれば
    本当にそんな状況であるなら、双方の兵士ともまともに
    戦闘なんてできたわけがないと気づいた。

    公害がひどく、労働者に対する安全など二の次で経済成長すべく
    発展していた工業・産業における労働に比べれば
    戦場のほうがよほどマシだったというのは、
    兵士の感覚として、きわめて筋が通っている。

    日本戦後教育型の「戦争は悲惨で絶対悪」型の思想では
    決して見えてこない真理であろう。

    この論理を現代に当てはめてみると、
    とりわけ先進国では、なぜ大規模戦争なんか起こりそうに
    思えないかのひとつの仮説が出せると思う。

    どう考えても、ぬくぬくしたり、美味しいものを食べたりする自由が
    奪われる戦場に行きたいインセンティブなんか、一般人には
    あるとは思えない。

    人間の生活環境を改善してきた文明の歴史そのものが、
    「兵士を戦場に向かわせる」力を弱める結果を生んでいるのだろう。


    日本が中国で戦争を始めた理由については、著者は
    p472にて

    「日本を帝国主義に駆り立てたのは、楽土を夢見た反資本家の関東軍だった。」

    と鮮やかに切っている。
    これも頷ける。

    植民地経営の歴史とノウハウを持つ英国やフランスと比べて、
    日本は明治になっていきなり外に出たわけで、
    植民地経営には何が重要かという点では、極めて無知で
    現地の統制が下手だったであろうということは想像がつく。

    日本本土からの監視の目が届けば、まだそれらもなんとか
    コントロールできるかもしれないが、
    中国大陸に切り離された関東軍が、
    実行的植民地経営という「戦略に基づくプラン」を行えていた
    とはとても思えず、
    トップと現場の一体感もなく、勝手な暴走が起こっていったのであろう。

    そういった意味では、
    他の同盟国、ドイツやイタリアとはまるで違う戦争の経緯を
    理解する必要があると思った。

  • 20世紀の戦争の時代について著した本。東欧におけるユダヤ人差別や中国の義和団事件から始まり、第一次世界大戦、第二次世界大戦の日本軍までが上巻に記載されています。この間の全ての戦争について言及されているわけではありませんが、主要な戦いについては記載されています。著者は本書を通じて、なぜこのような殺戮が起こるのか、ということを論証しようとしているようですが、現在までは淡々と事実が続いています。冒頭に「民族の不安定さと経済の不安定さには相関関係がある。」との記載があるものの、特に論証はありません。個人的には、戦争は、将軍などがはじめる決意をしたならば、王や皇帝が止められるものではないというのが印象的でした。

  • ふむ

  • ソ連のユダヤ人は帝政時代にもずっと差別されてきた。そのせいかどうか不明だが、革命の最中に、ボルシェヴィキ党内においてユダヤ人が果たした役割は極めて大きかった。1920年代はソ連に住むユダヤ人にとって「良き時代」だった。ユダヤ人の多くは、新しい政治体制であるプロレタリアート独裁政権を歓迎した。ボルシェヴィキ党への入党は全国民の平均が8%だったのに対して、1926年までにはユダヤ人労働組合の11%が入党していた。その1年後、ソ連の人口の1.8%が党員だったころ、ユダヤ人の党員は4.3%を占めていた。当時、ユダヤ人が急速にソ連の社会に同化していった1つの目安として、異民族間の混血婚があげられる。ウクライナや白ロシアは昔からペイル(ロシアのユダヤ人強制居留地)の中心地だったため、混血後はその後も極めて少なかった。ウクライナでは全体の5%以下、白ロシアでは2%ほどにとどまっていた。ところがロシアにおける混血婚の比率は1925年の18.8%から2年後には27.2%に上がった。

  • 第二次世界大戦後の記述が少ない。索引がない。

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著者プロフィール

ニーアル・ファーガソン
世界でもっとも著名な歴史家の1人。『憎悪の世紀』、『マネーの進化史』、『文明』、『劣化国家』、『大英帝国の歴史』、『キッシンジャー』、『スクエア・アンド・タワー』など、16点の著書がある。スタンフォード大学フーヴァー研究所のミルバンク・ファミリー・シニア・フェローであり、グリーンマントル社のマネージング・ディレクター。「ブルームバーグ・オピニオン」にも定期的にコラムを寄稿している。国際エミー賞のベスト・ドキュメンタリー部門(2009年)や、ベンジャミン・フランクリン賞の公共サービス部門(2010年)、外交問題評議会が主催するアーサー・ロス書籍賞(2016年)など、多数の受賞歴がある。

「2022年 『大惨事(カタストロフィ)の人類史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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