レゾリューションの対決 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152089649

感想・レビュー・書評

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  • 「一対一の決闘でランドール・ブラッグを撃ち倒したエヴェレット・ヒッチは、長年の相棒ヴァージル・コールと別れ、アパルーサの町を出ていった…。ヒッチが流れ着いた町はレゾリューション。小さかったアパルーサよりもさらに小さな田舎町だ。ヒッチは、腕を買われてサルーンの用心棒として雇われる。雇い主は、ホテルや商店、サルーンなどを所有するウォルフソン。彼は、銅山の経営者や伐採所を営む製材業者、さらには入植者たちといったこの町に根ざして暮らす人々までも町から追い出し、それらの土地を手に入れて金を儲けようとたくらんでいた。やがて、ヴァージル・コールが町にやってきてヒッチと合流した。ウォルフソンのあまりの強欲さに、コールとヒッチは、入植者たちを守ろうと考えるが…。『アパルーサの決闘』でお目見えした凄腕ガンマンのコールと相棒のヒッチ。二人が、欲に駆られた非道な者たちに正義の銃弾を放つ―ミステリ界の巨匠が熱い思いを込めて描く、ハードボイルド・ウエスタン最新作」以上、アマゾンに載されていたあらすじ。 クライマックスシーンが、ややあっけないのが残念。でも、スペンサー・シリーズ以上に読ませる力を持っています。

  •  麻袋のようなテキスチャーに、破れ、焦げかけ、脱色した古いフォトグラフ。二頭の馬に乗ったガンマンが、低く垂れ込めた雲の下、地平線目指す写真。彼らの行手に何があるのかを期待とともに匂わせる印象的なブックカバーは、『アパルーサの決闘』を引き継ぐデザインで、この本が前作の続編であることを如実に示している。

     ウエスタンは映画で見るもので本で読むものではないと、半世紀近く思っていた。40年ほど前に盛んに見ていた銀幕の幌馬車やインディアンの襲撃シーンを、まさか活字で読むとは思いもしなかった。逢坂剛が今になってウエスタンを書いているというのも不思議だが、ハードボイルドの売れっ子作家であるパーカーが、何を今さらウエスタンなのかということも、やはり興味廃れぬ話題である。

     昔、アメリカの作家たちの多くは、生活のためにスリラーを書いたと言う。エド・マクベイン、ジム・トンプスン、ミッキー・スピレイン、といったB級娯楽作家たちは、ペーパーバック・ライターと呼ばれ、その怪しげな存在は、ビートルズの歌のタイトルにもなった。今挙げた三人などは有名になった方で、むしろ無名のずっと貧困と向き合いつつ、小説書きで糊口を凌いでいた作家たちは山ほどいた。彼らの多くは、クライム・ノヴェルとウエスタンを書いて、安手の出版物として大衆に読まれたが、後世に残らずに読み捨てにされて行ったのだという。

     そう、ウエスタンは小説の分野でもかつて隆盛を極めていたのだ。しかし、ノワールやクライムは現代に受け告がれたものの、開拓時代の西部劇は小説の世界どころか、スクリーンの世界でももはやレアものとしか言いようがなくなったのだ。

     ジョン・ウエインがもてはやされていた頃の価値観は今は、アメリカにも世界にもなく、観戦懲悪の悪の側に単純にアパッチを配置するというナイーブさ(愚鈍さ?)も、今は世界に受け入れられないだろう。簒奪と殺戮の歴史は、奇麗事ではなく、世界が買える矛盾であることをヴェトナムは世界に示し、西部劇は、あの戦争の終わりとともに姿を消していったのだ。

     ワイルド・バンチのように馬たちの中に自動車が登場する時代。シングル・アクションの旧式な拳銃からマシンガンに変わってゆく時代、古いガンマンたちは時代に追いやられてゆく。ジョン・ウエインが体現した幻想は、サム・ペキンパやスティーヴ・マックイーン、はたまたポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードのコンビたちの手によって哀愁とともに切々と消えてゆく。

     しかし多くの映画作品が表現してきてしまった早撃ちガンマンへの憧れは、銃により何もかもを統制してきたアメリカの力学の中では永遠のものであり、それらは間接的に銀幕というかたちによって日本人であるわれわれのある世代にも純粋なアクション、正義といったかたちで、チャンバラに取って代わるものとなり、真髄が伝わってしまったのだ。

     本書は、そうした日本人の昭和な世代に流れるウエスタン贔屓の血をぐつぐつと再沸騰させる早撃ちガンマンたちの正義の闘いを、思い切り正当に描いたものである。前作で登場するヴァージル・コールを、語り手のエヴェレット・ヒッチが熱く物語る。前作の続編、また違う街で、彼らはある悪漢一味と対決する。他のガンマンチームとも組んでゆき、4人対20人という構図で武器を持たぬ牧童たちを守ろうとする姿は、まるで『七人の侍』へ原点回帰のような痛快で完成された絵である。

     パーカーの文体が、どこまでこうした古いノスタルジックな絵画を描いてゆけるのかというあたりが読みどころであろう。語り口の少ないパーカーだからこそ、日本の「間」の文化、西部劇のあの濃密な緊迫を表すことができているように思うが、いかがだろうか?

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