ダイナミックフィギュア〈上〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)
- 早川書房 (2011年2月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (404ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152091956
作品紹介・あらすじ
太陽系外からやってきた謎の渡来体が地球上空に建設した軌道リング・STPFは、地球の生物に"究極的忌避感"と呼ばれる肉体的・精神的苦痛を与える作用があった。リングの一部は四国の剣山に落下し、一帯は壊滅する。そこから発生した謎の生物・キッカイは特殊な遺伝メカニズムにより急速に進化し、駆逐は困難を極めていた。日本政府はキッカイ殲滅のため、圧倒的な力を持つ二足歩行型特別攻撃機・ダイナミックフィギュアを開発、栂遊星は未成年ながら従系オペレーターとして訓練を続けていた。しかし、巨大すぎるその力の使用には世界各国との不断の政治的駆け引きが必要とされ、遊星の人生もまた大国のパワーバランスや思想の対立に翻弄されていく-。日本SF新人賞作家が満を持して放つ、リアル・ロボットSFの極北。
感想・レビュー・書評
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ロボットSF小説なのだが、世界観が独特でよい。世界観とロボットの設定だけで、私は十分に楽しめた。
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巨大ロボットには3種あるんじゃないか。
自立型、遠隔操作型、搭乗型。などと考えてみて、すでにネットにはその手の分類があることに気づいたが、さて──
自立型は鉄腕アトムに出てくる巨大ロボットやマグマ大使で、あるいはトランスフォーマーもこれだが、自意識を持った巨大ロボットを人類が建造する意義はない。あくまで人間がコントロールできなければ危なくて仕方がないから、これはまずリアリティがない。
遠隔操作型のハシリは鉄人28号。リモコン自動車と比べて格段に操作個所の多い人型ロボットをどう操縦するのか、無線回線の維持は十分できるのかといった点が問題である。
搭乗型のハシリはマジンガーZ。巨大ロボットに憧れる男の子としては、ロボットに乗り込んで、ロボットと一体化して戦うファンタジーが是非必要だった。その点、永井豪の創意は計り知れないが、こんなものに搭乗して戦った日には急激なGで生身の人間はすぐに肉塊だ。『20世紀少年』では、巨大ロボットを根性で乗りこなすという描写がおかしかったが。
巨大ロボットものがおおむねマンガとアニメで主流なのは、こうした細部のリアリティの問題を絵自体の持つ強力なリアリズムで吹き飛ばしてしまえるからである。とりあえずマジンガーZが歩き出せば、搭乗者が乗り物酔いするとかそういうご託はいらないのだ。
しかし絵で説得できない小説では、巨大ロボットもののリアリティをそれこそ詰めていかないといけない。それが巨大ロボット小説が少ない理由じゃないだろうか。
まずなぜ人型でなければならないのか。兵器としてなら機能的であれば形は問わない。ただ、人間も進化の過程でこの形態をとるに至ったのであり、この形態に一定の機能性があることは確かで、理屈としてはそのあたりに持っていくしかないだろう。
それは戦う相手が何かという問題とも絡んでくるわけで、巨大ロボットをどこに置くかという設定がものをいう。
「ダイナミックフィギュア」とはここに登場する巨大ロボットの名称である。
設定は実に周到で、そのおかげで巨大ロボットものがリアルな話になったというべきなのだが、ひと言では説明できないような設定である。
ごく近い未来。「カラス」といわれることになる装甲化された生命体が突然宇宙から渡来し、わずか16日で大気圏内の軌道上に、STPFと呼ばれるようになるリング状の建造物を築いた。「カラス」が2つめのリングを作ろうとしたとき、別の渡来体「クラマ」がやってきて圧倒的な力で「カラス」を駆逐、その後、「クラマ」は地球には関心がないかのように周回軌道を回ったまま何の動きも見せなかった。しかし、この戦闘でSTPFの一部が落下、「クラマ」の1体が追撃して、7つの破片にまで破壊し、5つは海に落ちたが、1つがニューギニアに、1つが四国に落ちた。
STPFは地球の動物がそこに近づきたくない究極的忌避感を発し、1日に2回、STPFが頭上を通過する「弧介時間」の13分間、人々はこの忌避感に耐えなければならなくなった。しかも弧介時間中は人間同士の思考が伝わってしまうのだ。また、その破片の落下点から半径35キロは昆虫も住めなくなってしまった。ここを化外の地という。この忌避感に鈍感なダルタイプと通常のナーバスな人間が存在するというのも重要な設定。
さらにSTPFの破片には「カラス」が侵略用の生物兵器として準備していたキッカイが含まれており、キッカイは増殖を始める。
キッカイは概念を学び次代に伝える生命体である。牡種のキッカイは例えば人間が木登りしている姿を見ると、木登りという概念を走馬燈といわれる臓器に記録する。そしてその個体が死ぬときに走馬燈から情報が牝種のキッカイに伝わり、次に生まれてくるキッカイは木登りができるようになる。キッカイは化外の地に留め置かれているが、もし翼や飛行の概念を学んだとき、限局化ができなくなる。ニューギニアでは翼を持った個体が現れ、国連が核兵器を使わざるを得なかった。それでもキッカイは生き残っていた。
四国については、日本政府は国際管理を許さず、そこで、キッカイにはなるべく新しい概念を学ばせないようにしつつ、まず走馬燈を破壊してから殺すという作業を手作業で続けられることになった。飛行機は飛ばせないので、司令塔は飛行船である。それでも当初は6本足だったキッカイは二足歩行の概念を学び、二足型の個体に進化し、さらには巨大化して、四国から中国地方をめざそうとし始めたのである。
このキッカイがダイナミックフィギュアの対戦相手である。操縦方法は二系統。主系パイロットはダイナミックフィギュアの頭部に搭乗して、直接、操作する。転倒してしまったくらいで、エアバッグがパイロットを守るために作動し、その時点で操作不能となる。従系オペレーターは飛行船から遠隔操作で操縦する。現実的で妥当な設定だ。
主人公は従系オペレーター栂遊星、19歳。一応、彼を主人公に周囲の人々が描かれる。主系パイロット、藤村十、鳴滝調は化外の地にはいれるダルタイプなのでパイロット、遊星はナーバスなので遠隔操作。
ダイナミックフィギュアは四季彩(シキサイ)と神柄(カムカラ)の2機が登場し、3機目の花鳥風月(カチョウブウゲツ)も控えている。その動作原理は秘密。
細部のリアリティの積み上げで、あり得ないものをあり得るように思わせてしまう力業はまるで良質な特撮映画のようだ(CGではなくて)。
巨大ロボットものは、しかし天才的なパイロットを必要とするのだが、遊星がまさにそれ。へそを曲げて戦線離脱し、現場は苦境に陥り、戻ってきて大活躍という、既視感のある見せ場が上巻の終わりのほうに用意されている。そして物語は、渡来体の正体やテクノロジーの謎とともに、政治を巻き込んだ広がりを見せ始め、下巻に突入する。
超一級の面白さを保証させていただく。 -
なかなか面白い。 エヴァをもう少し規模小さくした感じ?
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昭和日本語SFの香りがプンプン。だが、それがいい!
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太陽系外からやってきた謎の渡来体は地球上空に軌道リング・STPFを建造する。
それは地球の生物に“究極的忌避感”と呼ばれる肉体的・精神的苦痛を与える作用があった。
やがてリングの一部は四国の剣山に落下し、一帯は壊滅するが、そこには謎の生物・キッカイが生息しはじめる。
キッカイは、個体の経験と学習を死ぬことで次の世代に伝えるという特殊な遺伝メカニズムにより急速に進化する。
人類が総力を挙げて駆逐するほど、キッカイもまたより高度な進化を遂げて繁殖をしていくジレンマ。
日本政府はキッカイ殲滅のため、圧倒的な力を持つ二足歩行型特別攻撃機・ダイナミックフィギュアを開発。遊星は未成年ながらその従系オペレーターとして訓練を続けていた。しかし、巨大すぎるその力は、世界各国の許可・承認がなければ解放されない。
波のように押し寄せるキッカイの進行を前に、不断の政治的駆け引きが必要とされる出撃。
変わってしまった世界ににひしめく大国のパワーバランス、新たな思想の対立。
遊星の人生もまた翻弄されていく―。 -
巨大な人型兵器…つまりロボットに搭乗して異星人から日本を守る戦いを描いた物語。
異星人やキッカイという斬新な世界設定、政治力学の延長線上に存在する軍事力と戦闘行為の表現、青春ただなかの少年少女パイロット達の葛藤、異星人との戦いの最前線となってしまった日本の日常生活が細かく書かれている。
世界設定の特殊性を理解するのに少し時間がかかりました。
文体は少し読みにくいものの、登場人物達を通して強いメッセージを感じます。
巨大ロボットの活躍、特撮怪獣映画、異星人ファーストコンタクト、青春白書モノのジャンルがお好きな人は楽しめるかもしれませんね。 -
リアルロボットに政治劇にファースト・コンタクトに主人公の成長に、といろいろ欲張りすぎているせいか散漫な印象が強かったのですが、終盤の盛り上げかたは良かったです。無敵状態だった最後の敵を倒すのに精神論で押し切ってしまったところで、もっと物理的な理屈をつけてくれればなおよかったのですが…。ついでにもうちょっと読みやすい文章だとさらによかったのですが…。
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巨大ロボットものと一言で言い切ってしまうとあまりに荒っぽいと思うのだが、それ以外に表現しにくいのも事実。キッカイ、カラス、クラマなんていう異星人というか生命体が登場して、それともファーストコンタクトも楽しめると踏んで読み始めたのだが、独特の世界観に没入するまでに時間がかかり、乗り切れないまま上下巻を終えてしまった。
そもそも巨大ロボットの操縦士(?)かつ主人公が癖ものであり、その周辺の仲間たちも同じだし、とってつけたような国際情勢(この辺話を複雑にするだけだからカットしても良いと個人的には思うのだが)が混戦して上巻を読み切る頃には、楽しさよりも早く終わってほしいってな感情が出てくる始末・・・。
クライマックスの人類vs異星人では、なぜか突然弱くなった異星人が自滅するみたいな結末でとても残念。なるべくリアルさをという工夫は随所に見られるものの、最後の最後でまったくの非リアルさが出てしまいあっけなく面白くない。
久しぶりにロボット作品を見つけたということで少し甘めの点をつけたが、もう一度読もうとは思わないなぁ。ちなみに、是沢銀路って最後の相場師・是銀さんへのオマージュ? -
宇宙からの侵略者と、地球の極軌道を取り巻く謎の構造体。進化して行く侵略用生命体。対抗するために開発された戦闘用ロボット。よくある要素が独特の世界設定で絡み合います。日常生活の延長にありそうな生活風景にまざりあう異様な生きもものと巨大なロボット、謎の構造体による影響で変わる生活サイクル。このちょっとしたズレからくる不思議な感覚はエヴァンゲリオン+シミュレーション小説とでも言いましょうか・・・
戦闘シーンの描写や兵器の運用設定、侵略者の生態などがリアルに描かれていますが、そういうものに遭遇することによる意識の変革や価値観の逆転などは描かれません。そういった意味からあまりSFっぽさは感じられず、濃いTVアニメを読んでいる印象です。これはこれでいいか・・・おもしろい! -
面白いんだけど、めちゃめちゃ厚い。
字が小さくて、ぎっしり詰まっている。
随所に『エヴァ…?』と感じさせる部分もあるし、ガンダムの影響もあるんだろうけど、巨大ロボットなんだから仕方がないか。
地球外生命体との戦いのさなかにも、派閥とか利権とかいろいろ絡んできてしまうのが人間のやるせないところかな?
是沢銀路がサイコーです。
日本海軍かっ?という感じですが。