世界しあわせ紀行

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (438ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152093295

感想・レビュー・書評

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  • 「世界しあわせ紀行」エリック・ワイナー

    オランダは売春と大麻が合法で、それはしあわせスイッチのようなもので、スイッチを押し続けなければしあわせは続かないし、同じくらいの幸福感を得たければより強い刺激を必要とするようになる。ロバート・ノージックの「経験機械」という言葉でそんなことが説明されている。日常と非日常、日本的にいえばハレとケの差が無くなることは鬱々とした日々による不安さをより強固にしてしまうと思う。

    スイスはお金が禁句になっている。それは幸福のために嫉妬がなにより良くないことを心得ているからだ。スイスは退屈なところで、かわったこともしない。平凡だけれど、不幸を感じにくい社会になっている。
    スイスは日本に似た空気(読む方の空気)がある。自然とのつながりが強いし、街のトイレがキレイだとか、他人の目を気にするとか、買ったものを見せびらかさないとか、人を信用する文化とか。
    統計上は幸せな国であるスイスだが、自殺率が高いことも日本と似ている。Wikipediaによると10万人当たり、日本は21.7人でスイスは17.5人だ。この点については特に突っ込んだ記述はないが、日本との類似があるのかないのかとても気になった。
    國分功一郎「暇と退屈の倫理学」での退屈の第2の形式(生命の危機が少なく、物質的にもほどほど幸せな中で生じる退屈)が充満しているのかもしれない。
    政治的なことでは、住民投票が多く政治に参加していると感じる民主的な仕組みが幸福感につながっている(実際に相関関係があるようだ)。

    ブータンは欲張らないことで、皆が幸せでいられる。坊さんみたいな国だ。もう一つ興味深い点は、死が身近にあることだ。死体が横たわっていて、腐乱死体さえ見かける。
    ということは僕なりにこんな仮説ができる。死への準備がし易いだろう。死を隠蔽してしまう西洋文明は、死が不安や恐怖になる。命が惜しくなる。その命を惜しむ気持ちは、所有する感覚に大きな影響を及ぼすだろう。死の隠蔽は資本主義のエートスの一つかもしれない。
    ブータンは資本主義は根付き難いかもしれないが、資本によって土地や人が分裂されることもないだろう。

    カタールもは全てお金。お金がなければ文化は生まれないが、全てをお金で買おうとするところには文化は育たない。カタールは外国人が80%を占めているそうだ。移民については日本でも受け入れることを考える機運が年々高まっているように思える。
    幸福感が減退しないものと、不快感が減退しないものについて書かれていて、それは女性の豊胸と大きな騒音だという。

    アイスランドの章は酒浸りなのだけど、大きな示唆を含んでいた。寒冷地で生きることはとても辛そうだが、統計上は幸福度が高い、なぜだろう。どの文化でも、肯定的な感情を表す言葉より否定的な感情を表す言葉の方が多いのだという。あまりにも否定が多いと人は参ってしまうが
    、アイスランドには特筆すべき風土がある。それは失敗への寛容さだ。アイスランドでは、人は多様な経歴を持つ人の方が幸せになれると考える。日本や西欧のように専門性を重視するのと真逆だ。
    アイスランドは元々多神教だったそうで、資本主義のエートスが行き届いていないのが良いのかもしれない。日本の学生に関する調査に記述があった。個人主義的傾向の学生と集団主義的傾向の学生を比較すると前者のが幸福度が低いということだった。
    日本には八百万の神がいるのだから、そういった一つの価値軸でない社会があったろうに、経済ばっかりで計測されてしまう。経済と社会の軋轢が大きくなりすぎている。経済を社会に合わせるようなことは大変困難なのは理解しつつ、期待も持てない。

    モルドバは本書の中で一番不幸な場所だ。なぜなら年収が8万程度でありながら、物質的な価値観が資本主義であるからだ。バングラディッシュなどはとても貧しいが、社会の仕組みがお金が少なくて住むようになっている。一方、モルドバではものの価格や価値観は先進国なのだ。一時は良い時代もあった為、落胆の暗い影が覆っている。庶民はマクドナルドなんて高価過ぎて買えない。縁故主義だから、階層の流動性も全くなく、努力は報われることがない。そしてなにより、それが染み付いた結果多くの人が希望をもてず、人のせいばかりにすることだ。
    モルドバの人は感謝するとか、他人を助けるといったことが少ない。最近の研究によると利他主義的な欲求は食欲や性欲をつかさどる領域にあるということで、人間に古くから備わっているものだと分かってきている。
    集団で狩りをするなどの過程がそういう機能を進化させたのかもしれない。
    良いことは野菜が新鮮なくらい。
    著者なはモルドバ人になるのを避けるべき教訓として
    その一、“「私の問題ではない」というのは人生哲学の一つではなく、心の病である・・・他人の問題は実際に自分の問題でもあるのだ”
    その二、“彼ら(モルドバ人)の不幸を証明するのは、経済的問題に対する彼らの反応であって、問題そのものではない”

    インドではホームレスといっても、家の建物はなくても、家族はある。アメリカ等では、家もないが家族もない。インドではやれるべきことをやったら、あとは天命に任せる。どれでダメなら仕方がないと考える

    他にはタイ、イギリス、アメリカの章がある。

  • 感想書くのを忘れてた。

    紀行文を読むと、その土地について先回りして教えられたようで、それが嫌だから普段は読まない。けど、これはテーマが『しあわせ』という特殊分野なのでそうはならず、かえってそれぞれの国を旅したくなった。軽妙で読んでる端から笑みがこぼれた。
    幸福学の入門書としても、オリエンタリズム(なんて簡単に言ってはいけないのかもしれないけど)としても、色々な角度から楽しめるので、何度か読んでみたいと思える作品。
    紀行文ジャンルそのものを見直した良作。

    追記:私もアイルランドが気になる。

  • しあわせとはなんぞや?てなことで、色々な国に出向いてみた本。

    いろいろな国に行っているのはいいが、肝心の地元の人へのインタビューが充実していない。

    まあ、作者が思ったことをごちゃごちゃと書いている感じ。

    でも、色々書いてあるので、自分が考える切っ掛けをつかめるし、面白いところもあったので星4つ。

    ただ、しあわせとはなんぞやなどと考えるのは、自分が幸せでなく、性格に難がある奴だろうと皆さんが思うような人が作者なので、人によっては嫌いな文体かもしれない。

    私は、誰もが幸せの定義を知っていると思う。
    つまり、よく言われるように、本人が幸せだと思っている人がしあわせ。
    だから、お金とか、愛とか、名誉とか、対象は関係ない。(人によって違うので、定義に入れようがない)

    個人的には、作者がこれくらいのことを分かった上で、じゃあ、個人がしあわせだと思う脳の回路というのは、その国の文化に影響を受けやすいのか、宗教に影響を受けやすいのかなどと分析していって欲しかった。

  • 世界各国の文化的側面から幸せについて調べ、紹介されており、非常におもしろかった。
    ・幸福は人間の魂の善なる活動だ とアリストテレス。よく生きることが幸せな生活だということになる。
    ・外向的な人は内向的な人よりも幸せに感じている。楽観的な人は悲観的な人よりも幸福感が強い。既婚者は未婚者より幸福に感じている。礼拝に参加する人はしないひとより幸福感を抱いている。大学卒業者はそうでない人より幸福度が高い。性生活に積極的な人はそうでない人よりも幸福に感じている。など研究成果が各種ある。
    ・ハシシュを吸ってわかったこと①モロッコ産のハシシュはおすすめ。よくない行為をすることによって得られる会館の少なくとも半分は、行為そのものから得られる快感というよりも、悪いことをしているという感覚がもとになっている。
    ・スイス人は非常に保守的でつねに誰かに見られ、監視され、判断されている。自然が幸せにつながっている。
    ・人とのつながりは信頼を生み出し、信頼はつながりを支える、これは双方向の流れであり、どちらも重要。
    ・「概して人は信頼しうる」ということを賛成する人はそうでない人よりも幸せ。一定区域内の犯罪に影響を及ぼす要因の中でも最大の違いをもたらすのは、警察官の巡回回数ではなく、自宅から徒歩15分圏に住んでいる人を何人知っているか。
    ・人を幸せにするのは、神を信じることではなく、何でもよいから、何かを信じること。
    ・幸福と不幸はコインの裏表ではなく、別のコインである、幸せな人が不幸な期間を経験することがあれば、不幸な人が大きな幸せの瞬間を経験することもある。
    ・信頼がモルドバが不幸な国である理由。隣人も家族も信頼しない。
    ・幸せになるには三つの方法しかない。①ポジティブ感情の総量を増やすこと②ネガティブ感情を減らすこと③問題をすりかえること

  • 幸福の探求は不幸の主たる原因の一つである

  • 自称「不平家」の著者のちょっとした皮肉やペーソスやユーモアが利いていて、単なる「幸せとはなんぞ」的な展開になっていない点が読んでいてとても興味深く、そしてたのしい。人はそれが幸せだと信じているものを持っていれば、どこで生きようとどうやって生きようと幸せなのかもしれない。

  • 不幸な国ばかり取材していた著者が「幸せな国」について調査をしていく1冊。もともと記者だけあって、甘くなりすぎず論理的で面白い。色々な国の状況、人々の考え方が分かって面白かった。

    「人を幸せにするのは、何を信じているかではなく、信じると言う行為そのものなのである」
    「幸せというのは100%相関的なもの」
    これは心に刻んでおこうと思う。

    個人的にはアイスランドへ行ってみたくなった。失敗が許される国、というのは現在の日本と対極にある気がする。

  • 130101迷う←121223朝日 ⇨まずは図書館やな天芝
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    幸せはどこにある?
    ○麻薬も売春も合法な国オランダ
    ○国民総幸福量(GNH)の追求を国是に掲げる国ブータン
    ○豊富な天然資源のおかげで税金がいらない国カタール
    ○辺境、極寒、でも失敗には寛容な国アイスランド
    ○何事も「気にしない」が合言葉の国タイ

    戦乱や飢餓に満ちた不幸な国ばかりを取材するのにうんざりしたジャーナリストが、人びとが世界で最も幸せに暮らす国を探して旅に出た。訪れるのは、オランダ、スイス、ブータン、カタール、アイスランド、モルドバ、タイ、イギリス、インド、アメリカの10カ国。各地で出会う人びととのユーモラスなやりとり、珍しい風習や出来事などをウィットに富んだ筆致でつづりながら、ときに心理学や哲学の知見も交えつつ、真の幸福について思いを馳せる。果たして一番幸せな国は見つかるのか? 全米ベストセラーとなり、18カ国語以上に翻訳されたユニークな旅行記。ノンフィクション作家・高野秀行氏推薦!
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    1章 オランダ―幸せは数値
    2章 スイス―幸せは退屈
    3章 ブータン―幸せは国是
    4章 カタール―幸せは当たりくじ
    5章 アイスランド―幸せは失敗
    6章 モルドバ―幸せは別の場所に
    7章 タイ―幸せとは何も考えないこと
    8章 イギリス―幸せは不完成
    9章 インド―幸せは矛盾する
    10章 アメリカ―幸せは安住の地に

  • 全米ベストセラーの旅行記。真の幸せとは?を探しにオランダ、スイス、ブータン、カタール、アイスランド、モルドバ、タイ、イギリス、インド、アメリカへ。幸せの尺度は、場所、金、生活、習慣等と対峙する自分自身にある。

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