〔少女庭国〕 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

著者 :
  • 早川書房
3.17
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本棚登録 : 236
感想 : 29
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152094452

作品紹介・あらすじ

卒業式に向かっていたはずの中3少女たち。目覚めると奇妙な貼り紙が。「ドアの開けられた部屋の数をn、死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ」――乙女たちの超脱出ストーリー。

感想・レビュー・書評

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  • >卒業式会場の講堂へと続く狭い通路を歩いていた中3の仁科羊歯子は、気づくと暗い部屋に寝ていた。隣に続くドアには、こんな張り紙が
    >>卒業生各位
    >>下記の通り卒業試験を実施する。
    >>【ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとするとき、n-m=1とせよ。時間は無制限とする】
    >羊歯子がドアを開けると、同じく寝ていた中3女子が目覚める。またたく間に人数は13人に。


    扉を開けるたび中3女子が無限に増えてゆく、ホラー(グロ)SF、というジャンルでいいのか、SFシリーズのJコレクションの一冊です。
    少年漫画で長らく流行っているデスゲーム物、の皮を被った不条理小説。

    表題作「少女庭国」と後半の「少女庭国補遺」でなっており、表題作は言うなれば普通の中学生たちの普通の(?)デスゲーム。殺し合いをするなんて思いもつかない13人の選択。

    圧巻は「補遺」。ここがめちゃくちゃ面白かった。
    補遺というからには13人の前日譚やら後日談やらやるのかと思ってめくると、一人あたり数行で新たな卒業生たちが、目覚めた後に殺したり殺されたり自殺したり一般的な(?)行動を延々と繰り返したのち、
    以下ネタバレ















    19人目が2千人の卒業生を起こして回り(最後には一人を残して全滅し)、55人目にして食糞・飲尿を経て食人に発展し、開拓に成功して資源(新たな卒業生を順次目覚めさせ奴隷化もしくは食料とする)開発を進め無限の石の回廊に大帝国を築くにいたるという。
    えー、それはムリがあるのでは、と思ったら著者の術中であることに間違いなく、無限の試行回数の中には大帝国を築く回があっても不思議ではない、というのがSFらしいところ。
    石の壁と鉄の扉、あとは無限に湧き出る女子中学生の衣服とポケットの中身と血肉骨しか資源の無い(つまり水がない)世界で数十年だか数百年続く文明が興せるかというと、どうなの。でも明らかに無理な状況を設定していることは自明なので明らかに無理と思わせるための設定です。

    何もない迷宮で文明をというと「ギャルナフカの迷宮(小川一水)」が思い起こされ、無限でグロというと「最後にして最初のアイドル (草野 原々)」の雰囲気が凄く近い。

    ラストでややメタ的に示唆されるように、色んなパターンを書いてみましたという実験小説かな。
    ラストの爽やかさがまた、たまらない。

  • 中学の卒業式に向かう途中、少女は2つのドアしかない部屋で目覚める。開けられる方のドアを開けると同級生らしき少女が。それが無限に続く。「ドアを開けた数-死んだ卒業生=1」がこの奇妙な状態から逃れる条件の中、様々な条件に対する挑戦が描かれる。短編の「少女庭国」は女生徒達らしい逃避の上での収束がリリカルだが、長編の「補遺」での思考実験が圧倒的で置いていかれた。3行で終わるデスバトルが続いたかと思うと生存するために人肉食が始まったり、さらに豪快な方向に発展して文明が発生したり。ついていける人凄いの一言だ。

  • "講堂へ続く狭い通路を歩いていた卒業生は気が付くと暗い部屋に寝ていた。部屋は四角く石造りだった。部屋には二枚、ドアがあり、内一方には貼り紙がしてあった。
    貼り紙を熟読した彼女はドアを開け、隣室に寝ている女子を認めるとこれを殺害した。"
    そんな無数の女子達によって構成された小説。

    面白かった。
    少女が箱庭に閉じ込められて殺し合うような物語をその内側から批判しひっくり返すような構造をもっていて、そうした構造のなか描かれたのはいかにして少女たちが共存しうるかという問題で、それは本来卒業するはずだった「学校」における社会と、石の部屋を拓いてつくられる「少女帝国」での社会に通底して回帰する。
    ということも小説としてのていをなすために外からあてがわれたテーマという感がしなくもない。

    思うにこの作品の本質は、「物語のために作られた世界」で生まれた無限の少女たちが永遠にそこから抜け出せることなく見かけオートマチックに行動し、殺し合い時には慰め合うさまを言わずもがな作者が記述している、そこには面白い人生と面白くない人生とが明確に区別されていて、ここでいうところの面白い人生というのは「非合理的な行為」を内包するものに他ならない。
    これは小説なのだし、小説として面白くなるものを書くのは当然だ。と、いうこと。

    そしてラストの「六二 〔石田好子〕」の章ではその名前が象徴しているように、「石の部屋の女子(=好)」というあからさまに作者がとってつけたような名前の女子の視点で語られる。(それまではほとんど無作為と語感でつけたでしょうという名前だったのに。)
    そこでは最初に目を覚ました好子がドア一枚開けて隣室の女子と出会い、会話し、部屋を交換して背中越しに話すだけで終わる。それ以上のアクションをとらない。
    特徴的なのは彼女たちが唯一「貼り紙について触れていない(明確に読んでいないか、無視している)」という点で、この「(殺し合いをせよ、という)貼り紙」という「物語のための舞台設定」からある種逃れているとも言える。それはあくまで錯覚であるかもしれないにしても。有り体に言えば彼女たちは「この設定を必要としていない」のである。

    彼女たちはこの物語を必要とせず、つかず離れず、25cm厚の石壁を背中合わせに語らい、ささやかな甘い百合に興じる。きっと彼女たちもまた助からず、この無限の少女達の眠る石の空間に出口はないのだが、唯一この小説を終わらせることができる手段があるとすればそれは「彼女たち自身が物語として充足し、〔少女庭国〕という物語を必要としないこと」なのであり、彼女たちはそれを満たしたのだ。少なくとも、作者にとっては。
    よって最後の明らかに登場人物の口から出たとは思えないような台詞は作者矢部嵩からの言祝ぎと充足の言葉なのかもしれない。
    「そのままでいていいよ/君たちはもう補われたのだから」

    • 素以さん
      https://motoietchika.hatenablog.com/entry/2018/12/15/210216
      ブログに長文レビュー...
      https://motoietchika.hatenablog.com/entry/2018/12/15/210216
      ブログに長文レビュー書きました。なぜこの少女たちの断片的な物語は際限なく繰り返されるのか、その「結末」の意味とは……といったところを主に読み解いています。というのを口実に、グリッドマンやANEMONEの話などをしました。
      2018/12/22
  • とんでもない傑作では…。拙い読書量の私では判断できないがとにかくすごく面白かった。

    <ネタバレかも注意>
    途中まで読んだとき、(拙い読書量の私でも)いくつかの思考実験の小説を思い浮かべたけど、読み終るとこの作品は今までのものを更に一歩進めたような斬新さを感じた。
    と言うのも...
    まるで作者が作った要素を単純化した複雑系のシミュレーションモデルをグルグル回し、出力結果の一部(他は省略)を小説に仕立て直したように感じたからだ。出力された結果(と勝手に思うもの)の多様さや壮大なスケール感はSF好きとして楽しめるし、目的や出力結果の一部が省略されている(と勝手に思う)ことで高まる恐怖感も最高である。

    小説を書いたことも無いしそもそも文才も無いわたしが「うわぁぁこんなやり方があったのかあ~やられた~」と思った。

    無責任に言いきれば、国境を越えるべき作品である。もちろん海外でもグロいとか不謹慎といった反応もあるだろうけど、客観的にこの構造を評価する人も多く出てきそうな気がして、<庭国もの>または<庭もの>といった亜流が生まれるのではと勝手に期待する。

  • 再読完了~やっぱりすごい小説だと思う。

    この本を読むとこの世に生きる意味が少しだけつかめる。
    この小説の「無意味さ」と比べると
    鬱々とした時に考えちゃったりする、
    自分が世界が無意味かもなんて思うことは間違いだと明らかになる。
    どこまでも意味がなくそれを散々あらゆる方向から示されてその果てのなさにゾッとする。

    三人称視点で書かれているのだけど
    その神視点に女生徒っぽさがいくぶん奇妙ににじみ出ているため
    閉じ込められた彼女たちの「今」が
    文体のおかげでより伝わってしまう。若さゆえの独特の一瞬の弾けるような楽しさの空気感&絶望とかを読者に共有させる。

    設定の理不尽さ、舞台の静かさ、残酷な事態の数々の淡々とした記述、全てがあの部屋そのもののようで不気味さは延々と続く。休憩なしでぶっ続けの不気味さをまとわせるなんてすごいことじゃないか?一切癒されない。すごい。

    読後現実に戻ることが憂鬱に感じることはあれど
    現実を実感することで安堵するっていう作品なので
    やっぱりジャンルはホラーなのかなぁ。ホラーSFかなぁ。

  • 38:現代版、ファジーな耽美のようで少女小説のようでホラーのようでSFのようで。面白がっちゃイカンと思うのだけど、楽しく読めました。が、このいかんともしがたい不条理感! なんだかモヤモヤが拭えない……。

  • 卒業式に向かっていたのに、いつの間にか石の部屋に閉じ込められてしまった女の子達のお話です。
    脱出するには卒業試験を終えなきゃいけなくて、それは、自分以外生きていてはいけないという条件で、女子高生たちがどのように行動していくかとなっています。
    表題作品自体は、閉じ込められ系ホラーで、女子高生がワイワイしている感じで楽しいです。
    ところどころ、妙にクールすぎる部分が出てきたりしますが。
    それより、ほんの半分以上を占める補遺の部分がすごく面白い。
    番号付けされて名前とそのエピソードが綴られていて、当初は隣の部屋の子をさくっと殺して終了だったのが、先に進むと集団形成したり、開拓したり、入植したり、自治したり、街を作ったり、畑作ったりと壮大になっていきます。
    部屋は一方通行になっており、扉が2枚、片方にのみ取っ手あり、その扉を開けると、同じ部屋が存在し、そこに女の子が一人寝ているという状況が延々と続く世界です。
    扉を開くと、寝ている女の子が動き出すので、取っ手のある側を未来、無い側を過去として、補遺は語られています。
    開拓や文明の発展が成功した組は概ね過去への開拓も行って、そこにはそれ以前の卒業生たち(補遺の中では番号の若い方になるのかな)の跡が残っています。
    卒業生が目覚める条件は、その女の子いる部屋の過去方向の扉が開くということだけ、明示されていたんですが、過去方向の部屋で卒業試験が終了した場合についても目覚めるんだろうなとは思いました。
    一応レーベルがSFだったので、そのつもりで読み始めたら、あれ?ホラー?という感じだったのですが、補遺でSFになりましたね。
    なかなかに面白かったです。

  •  壮大なる思考実験の結果と言う感じ。いろいろとすごい。
     萌え要素込みでアニメ化しないだろうか。でも怖いから見たくない気もする。

  • レーベルがSFなので、カテゴリSFにしてみたんだけども。
    どっちかつーと、ホラーじゃないかと。
    不条理だし、何故そうなったのかは明かされないし。
    文明の発展を観察するっていう趣旨はSFだと思うけど、個々の事例が余裕でホラーです。
    悪夢見そう………。

  • 唐突に。「CUBE」って洋画を思い出しました。読んでいてこの意味も出口も無い無差別的な(この小説では少女限定ですが)人選、実は何もしない動かないことが正解(なのかもしれない映画も小説も)というより寄り添うことが。仲間を集いどんなに突き進もうと栄枯衰退は変わらず違う場所で同じ足踏みを繰り返している。中心的な富裕層と端に広がる貧困は今の世界だって変わりはしない極端だが縮小図に思えなくもない。「CUBE」も〔少女庭国〕もラストは明確に書かれていないいや補われていない私たちには知る術が無い。

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著者プロフィール

武蔵野大学在学中の2006年、本作で第13回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞してデビュー。

「2008年 『紗央里ちゃんの家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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