人類との遭遇:はじめて知るヒト誕生のドラマ

  • 早川書房
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152098252

作品紹介・あらすじ

私たちの祖先は人食い人種?ヒトは体毛をいつ失った?なぜ人間 だけ老齢期が長い?身近な疑問から深遠な系統学まで、人類進化の謎とドラマを平易にかつ興味深く説く。アメリカで教鞭を執る韓国系女性人類学者による、韓国ベストセラーとなった古人類学入門。

感想・レビュー・書評

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  • 最新の知見による「サル学」のエッセイだが、わかりやすく現在の到達点がよくわかり、翻訳もこなれている。実に興味深い本だ。
    本書によると「色の薄い皮膚がヨーロッパに出現したのは5000年前」とある。白人の誕生がつい最近だったとは驚く。DNA考古学の進歩は凄まじいものだと思った。
    これが事実なら人種差別とは一体何なのだろうか。その馬鹿らしさを痛感する。人間とは何と見かけに左右される愚かな存在なのか。
    我々はどこから来て何処へ行くのかとは永遠の問いだが、本書を読んで全く同感する思いを持った。

  • 私たちって食人種?
    父親という役割の誕生
    最古の祖先はどのホミニンか?
    赤ん坊の大きな脳とお母さんの大きな苦痛
    われら肉食系!
    牛乳、飲んでる?
    白雪姫の遺伝子
    ばあばはアーティスト
    農業は繁栄をもたらしたか?
    北京原人とヤクザ
    人類誕生の地ーアフリカの牙城にアジアが挑む
    助け合いが結ぶあなたと私
    キングコング
    腰にかかる文明化の重み
    最も人間らしい顔を求めて
    ネアンデルタール人呼ばわりの意味合い
    分子時計は時を刻まず
    デニソワ人
    ホビット
    70億が単一人種?
    人類はいまもなお進化し続けているのか?

  • 普通の摂食としての食人はなかった。食人は儀式的なならわし。クール―病などたんぱくプリオン異常の原因となる。

    ゴリラとチンパンジーの交尾戦略。
    ゴリラは、あらかじめ序列を決めておく。メスの発情期に合わせて戦わなくてすむ。メスは楽。
    チンパンジーは、メスの発情期が決まっていない。精子が多い。オスの精巣は類人猿のなかで最大。
    ゴリラもチンパンジーも、だれが親かはわからない。子育てに手を掛けない。

    メスの発情期がわからなければ、オスはいつも食べ物を運ぶ必要がある。

    ラブジョイ説=セックスと食べ物の交換によって一夫一妻制が生まれた、とする説。その反対説が、人間は父親という文化的な役割をもつ、とする説=男性による創造妊娠現象=クーヴァード症候群。

    大きな脳と狭い産道、二足歩行のためのジレンマ。人間は一人では子供を産めない=生まれてくることに高度な社会性を必要とする。

    肉食は、最初は骨から始まった。

    大人になって牛乳を飲めるようになってまだ1万年。
    農業をするようになって、ビタミンÐが不足しがちになった。メラノサイトの活性が低くなって皮膚の色が薄くなった。

    お腹が膨れるのは、栄養不足(たんぱく質不足)のせい。タワシオルコルという病気。
    農業のおかげで、栄養不足、感染症に弱くなった。定住がはじまると、家畜が出現し、病原体が増えた。
    農業が始まると死亡率は増えたが、それ以上に出生率が増えた。乳飲み子の間は妊娠できない。農業のおかげで、離乳食が増え、妊娠できるようになった。非農耕民族は3~4年母乳を与えて、出産間隔は4~5年。

    犬歯は、オス同士の戦いで重要。オスとメスで犬歯の大きさが変わらないのは、オス同士の競争がない証拠。

    直立歩行は腰や膝痛に悩まされた。
    p207

  • 人類の起源にまつわるエッセイ集。雑誌の連載をまとめた一般向けの啓蒙書のようだ。
    教科書にように体系的に順に書かれているわけではなく、様々なヒト属が登場するため前後関係もその関係もあやふなな理解のまま読み進めた。それでも、各章それぞれで現生人類の特徴が絶滅したヒト属からいかに受け継がれているのか、ヒトの歴史に思いをはせることができる。
    現生人類はアフリカ出身のサピエンスであることが統一見解なのかと思っていたが、著者は「多地域進化説」という様々なヒト属が混血したものだという説を支持しているらしい。
    アフリカ起源でない説が再び賛同を集めていることに驚いたが、新しい知見で異論が出てくることが少しうれしい。
    一般書である故に分かりやすく書かれているのは著者の力量だが、翻訳だと感じさせない訳も良かった。

  • 韓国出身でカルフォルニア大学の人類学教授である著者が韓国の一般向け科学雑誌に書いた文章をまとめて書籍化したもので、文体と切口はくだけた感じだが、人類学の最新の知見からヒトの社会的・文化的生物としての成り立ちを考察する内容で、教科書的に網羅するものではないが、気楽に知的な内容が楽しめる。
    この前に読んだ『絶滅の人類史』とかぶる部分も多いのでスピーディに読んだが、この本のオリジナルな見方も複数あり、なかなか面白く読めた。

  • ●オス同士の争いが激しいほど、オスがメスよりも大きくなる。性的二型と呼ばれる。
    ●誕生祝いを遅らせる理由は、一歳の誕生日を迎えられない子が多かったからでした。
    ●出生率が増えたのは農業のおかげ。穀物やデンプンで作った食べ物を赤ちゃんに与えられるようになったから、農業以前と比べて、赤ちゃんは随分早く離乳して母親の手を離れられるようになり、母体は次の子をはらむ用意を整えられるようになりました。わずか2年の出産間隔で子育てを出来るようになったのです。
    ●人間は類人猿から進化したのであって、猿からではない。チンパンジーは類人猿であって猿ではない。類人猿と猿は、尾があるかどうかで見分けられます。

  • こういった学問は自然人類学にジャンル分けされるらしい。

    ジャケットからも”サルから人間への進化史”を学術的に描いた本かと思ったが、タイトルを読んでみると全然違う。
    そこで読んでみたら…。

    月刊誌に連載されたコラムを一つにまとめたもので、(一般向けなので)当然、学術的というより分かりやすく面白く書かれてある。

    これを読む限り、私たちが子供の頃に習った人間はサルから進化して・・なんて単純な話ではないというのがよく分かって面白い。
    何より、古臭いイメージの人類学が、遺伝子解析を元に、わずか指の骨の破片から性別・年齢・身長や、(生存していた)年代はおろか、どの人種の遺伝子を引いているかまで分かるという。
    その結果、次々に人類史は塗り替えられていて、実はまだ直接の先祖すらよくわからないというのにはビックリ。
    歴史というのは不動のもの、と思っているのは教科書の弊害かな。

  •  親族の女性たちは、赤ちゃんに続いて出てくる胎盤(後産)を取り上げて始末したり、母親がわが子との絆を深めているあいだしばらく、日々の雑事をあれこれ手伝ったりしたものでした。人類はその系統が始まったときから他者を必要としている、という進化上の仮説を、人間の出産の性格そのものが裏付けていると言えましょう。私たちは産まれた瞬間から社会的な動物なのです。(p.72)

     森が減ってサバンナが増えるばかりのなか、祖先は生き残りをかけて食べ残しの骨髄を食べ始めました。この移行中、私たちの進化で驚くべきことが始まります。高カロリー食を食べるようになって、頭蓋の容量が増えていったのです。脳は作るのにも維持するのにもカロリー面で負担の大きい器官です。大きな脳を維持するためには、カロリー密度の高い上質な食糧源を確保しなければなりません。必要に迫られて食べ物に肉を加えたことで、脳を大きくできるようにもなったのです。(p.83)

     農業が始まる前は、紫外線が少ない地域でもビタミンDを合成する必要はたいしてありませんでした。なぜか?日々食べていた植物、海産物、肉などの食べ物にビタミンDが十分含まれていたからです。ところが、生きるための主な食糧供給減が定住型の農業へとシフトするにつれ、穀物やデンプンから作った食べ物への依存度が高まり、そこにはビタミンDを含めて多くの栄養素が不足していました。ビタミンDを食べ物から摂ることが現実的ではなくなったので、メラノサイトの活性を抑えるような変異が有益になりました。メラノサイトの活性が低くなって皮膚の色が薄くなり、直射日光が少なくてもビタミンDを合成できるようになったというわけです。(p.109)

     環境の劇的な変化を生き延びるために、私たちの祖先は臨機応変でなければなりませんでした。あるとき、大事なことに気づきます。環境が変わったからといって、それが環境資源の一心にすぐさまつながるわけではない、と。実際、経験したことのある環境に戻ることもあり、そうなると過去の経験をもとに蓄えた知識を活かせました。基本的に、文化的な情報を蓄えて次世代に申し送る能力を頼りに進化して、対応力を高めていったのです。(p.169)

    多地域進化説:現生人類発祥の地は1ヶ所ではなく、複数あった。そして、単一の集団として出現して世界中に広がったのではなく、各地のさまざまな集団があちこち移動しているうちに出会って遺伝的に混合してひとつの種として進化していった。こうした過程を経たので、今日きわめて多彩な人類が各地で暮らしているが、誰もがホモ・サピエンスという種に属している、と。(pp.273-274)

     進化において、「有利」ないし「有益」かどうかは本質的な不動の価値ではありません。その時たまたま生殖や適応によって都合の良い新たな特徴が有利、有益なのであって、その同じ特徴が違う環境では不利になることもありえます。有利あるいは不利だと最初から決まっている特徴というものはないのです。(p.284)

     21世紀に入ると、古人類学の研究は新たな一章に突入しました。今では、まとまった化石がなくDNAとしてしか存在しない古代ホミニン集団までいます(デニソワ人など)。古代のDNAを汚染なしに抽出できる技術が進歩し、そうした技術のコストが下がるにつれて、遺伝学が古人類学に与える影響はいっそう大きくなり、その重要性は化石以上とまでは行かないまでも肩を並べるようにはなるでしょう。ですが、新たな化石の発見も続いています。それらを集めて分析する技術が向上すれば、データや研究成果も向上します。そうしたすべてを通じて、私たちはこれからも、人類はどこから来たのか?人類は今日までどのような足取りをたどってきたのか?人類のたどってきた道はどこへ向かっているのか?といった根源的な問いへの答えを探し求めていくのです。(p.324)

     科学は万国共通の手法と理論で行われるものだから、どこの国の出身者だろうと、書くことは同じだと思われるかもしれない。しかし、その手法と理論を使って実際に研究するのは、どこかの国のどこかの文化で育ってきた人間なのだ。たとえ、万国共通の手法と理論を用いても、研究の発想ややり方には、文化が確かに影響を及ぼす。それほど、文化的態度は、無意識のうちに、その人の世界観に影響を与えているのである。(p.326)

  • 韓国の女性人類学者が科学雑誌(日経サイエンスのようなもの?)で連載した記事をまとめたもの。
    人種や生態系に対する著者の控えめで真摯で、それでいながら啓蒙的な姿勢が素晴らしい。

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