消失の惑星【ほし】

  • 早川書房
4.07
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感想 : 54
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152100030

作品紹介・あらすじ

カムチャツカの街で幼い姉妹が行方不明になった。事件は半島中に影を落とす。2人の母親、目撃者、恋人に監視される大学生、自身も失踪した娘をもつ先住民の母親……女性たちの語りを通し、事件、そして日々の見えない暴力を描き出す、米国作家のデビュー長篇

感想・レビュー・書評

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  • 女たちの喪失と希望の物語〜ジュリア・フィリップス『消失の惑星』 | ガジェット通信 GetNews
    https://getnews.jp/archives/2977158

    「女だから味わわされた屈辱や怒りや恐怖」を思い出させてくれる藤野可織と『消失の惑星』 - QJWeb クイック・ジャパン ウェブ
    https://qjweb.jp/journal/47655/

    ロシア極東の街で姉妹が失踪。この事件が、ばらばらに生きてきた女たちを結びつけた――長篇小説『消失の惑星【ほし】』ジュリア・フィリップス|Hayakawa Books & Magazines(β)
    https://www.hayakawabooks.com/n/n2f447638c9ad

    消失の惑星【ほし】 | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000014751

  • 舞台はロシアのカムチャッカ半島。
    冒頭、海辺を散歩していたアリョーナとソフィアの幼い姉妹(11歳と8歳)が、男に声をかけられ、車に乗り込み、攫われるところから話が始まる。カムチャッカの閉鎖的な世界の中で、苦悩を抱えた女性たちが主人公。

    突然妹のリリヤが行方不明となり、その喪失と、現実を見ない母と兄に苦しむナターシャ。
    同じアイデンティテイを持つ恋人を愛するも、大学で出会ったクシューシャ。
    都会のサンクトペテルブルクで働くレズビアンのマーシャと、カムチャッカに残る幼馴染のラダ。
    誘拐された姉妹の最後の目撃者であり、自立して生きるも、思わぬことで愛犬を失うオクサナ。
    2度結婚し、2度夫を失ったレヴミーラ。
    パートナーを持つも、己の人生の不自由を呪いつつ、子供のために生きるナージャ、ゾーヤ。
    一見バラバラな個々人のストーリーが、カムチャッカを揺るがせた姉妹の誘拐事件から少しづつ絡み、1年近くを経て誰もが諦めたとき、事件は急展開を迎える。

    誘拐から始まる仄暗い、閉鎖的な世界の中で、大きな喪失と苦悩を抱えた女性たちの物語。
    日本でも”田舎”と呼ばれる地域の女性は、似たような苦悩を抱えているのでは、と思いますが、良き時代が過ぎ、孤絶された半島での逃げ出せない悲壮感・喪失感が重い。
    幼いアリョーナとソフィアに光が刺すのが救いでしょうか。

    人物の相関が複雑なことと、ロシアの方は本名とあだ名表記が併用されるので、読みながら混乱してしました。また読み返す時には混乱しそう。
    ちなみにカムチャッカは成田から4時間で行けるらしい。アイヌとは関係が深いんですね。(日本からの観光客も間接的に本作に出てきます)

  • カムチャツカ半島を舞台にした連作短篇集。ひとつひとつのお話を大切に噛みしめたいんだけど、先が気になってどんどん読んでしまった。女性差別、先住民と白人、都会と北部の格差や対比を一貫して描きつつも、けっしてテーマありきではなく、物語としてとにかく読ませるし、それでいて名前しか知らなかったカムチャツカ半島が忘れ得ぬ場所となるような力もあって。どのお話も良いのだが、個人的白眉は20~30代の若い女性が主人公のお話で、カーチャとマックスのカップルがキャンプに出かける「十月」、大学生のクシューシャが主役の「十二月」(冒頭の人物表ありがたかったけど、チャンダー好きなのでチャンダーも入れてほしかった)。「一月」では娘のナターシャから見た母親(鈍いおばあちゃんみたいな印象)だったアーラが「六月(←夏至のお祭りがちょっとミッドサマーみたいだった)」では威厳と暗い悲しみを併せ持つ複雑な女性として描かれるなど、同じ人物の違う側面を映し出す手際もみごと(ただし、マックスだけは毎度マックスで、そこもいい)。好きな短編集と言うと挙げたくなる『ヴァレンタインズ』(オラフ・オラフソン著、岩本正恵訳)を思い出したんだけど、アイスランドも火山の国だからかな。井上里さんの翻訳はノーストレスで物語に没入できて素晴らしかった。

    以下、ネタバレをふくむ



    最後の着地には思わず「ありがとうございました」って手を合わせて何かを拝みたくなったけれど、いっぽうで「五月」のオクサナの元に最愛の犬は戻らず、「二月」のレヴミーラのような悲劇も起きるのがこの世なわけで、生きていくっていうのはほんとうにおそろしい。

  •  幼女誘拐事件を扱った小説となると、どんな内容を想像するだろうか?なぜその少女が狙われ、どんな方法で誘拐され、どう監禁されていたか?犯人はどうしてそのような事件を起こす人物になったか?その他諸々のことを書くとしても、読書としての私が興味を抱く点はそういったことだと思う。

     しかし、この本の著者ジュリア・フィリップスはほとんどそういったことを書いていない。著者は、大衆にとって、この手の事件が娯楽のように扱われるのを忌み嫌っているようだ。

     グロテスクな描写や異常犯罪者等のストーリーは、個人的に割と好きな方なので、その手の本を読んだ後、面白かったと思うと同時に、こんな自分で良いのだろうか?と罪悪感を感じることもしばしばある。これはフィクションなんだからという意見もあるだろうが、実際の事件でも被害者のことをマスコミが執拗に取材したり、それを見て視聴者が楽しんだりしている面がないとは言い切れないと思う。

     この本では、事件がそういった好奇の目で、たとえそれが小説であっても、扱われることがないようになっている。では、何が書かれているのか?

     この小説の舞台はカムチャツカ半島。ロシア東部の街で、幼い姉妹が行方不明になる。この半島に住むそれぞれの人生を背負った女性たちの生き様を描きつつ、それが少しずつつながり事件が動く。

     カムチャツカ半島の風土や、先住民とロシア人との確執も描かれて、私にとっては全く想像もできていなかった異世界が、朧げながらも像を結び始めた。

     カムチャツカと言えば、谷川俊太郎さんの詩がまず浮かび、そして、それ以外は何も浮かばない謎の地だった。そこを舞台にした、こんな壮大なものを読むことになるとは…

     きっとこれからも、グロテスクなものを読み続けてしまうと思うけれど、この著者の思いしっかりと受け止めたいと思う。

  • カムチャッカ半島での小さな姉妹の失踪とその後の数ヶ月間。

    事件は地域の人たちに話題と影を与えながらも、人々の生活は変わらず進んでいく。
    それぞれの悩みを抱えながら。

    あるところでの話し手やその友人、恋人、兄弟が別の月では、ちがう表情をしたり、異なる向きから語られたり。
    極東ロシアの一地域は、それでも広く多様で、かつ狭い。

  • 二人の少女が誘拐事件がバタフライ効果のようにさまざまな女性の生き方に変化を与えます。登場する女性たちは、みんなそれぞれの形で苦しみを抱えています。カムチャッカの豊かでありながらも過酷な環境の描写や女性たちの心的描写がとても丁寧に書かれていると思います。本の手触りがとても良いのでそれも含めて星5つです!

  • 早川書房様より贈本いただきました。この作品は刊行前にゲラで読ませていただき、感想を送りました。
    来る2/17に刊行予定で、まさに刊行前夜です(比喩ではなく)!
    https://www.hayakawabooks.com/n/n62bdb5556fc6

    『消失の惑星』というロシアはカムチャッカ半島を舞台にした小説で、著者はアメリカ人。モスクワに留学したあと更にカムチャッカ半島で調査研究をしてらしたそうで、そこで得たものを小説にしたそう。

    ある夏の日に、二人の幼い姉妹が姿を消す。誘拐と見られるが大掛かりな捜索も手がかりが無いまま月日だけが経っていく。その月日を1ヶ月ごとに事件の周辺にいる女性たちの目線で、彼女たちの抱える問題が語られていく。
    これを読むまで全く気付いていなかったけれども、カムチャッカ半島は日本のすぐ近くで(観光客も多い)、さらに原住民とそこに移植してきた白人たちが入り交じった社会を築いているのだ。この物語の主な舞台は、半島内の中でも中心都市となるペトロパブロフスク・カムチャツキーと、それより北にあるエッソという村だ。その対比はある意味原住民と白人の関係性とも感じられ、わたしたち読者はその空気をことあるごとに感じることになるのだ。
    ロシアはあまりにも国土が広い。そのごく一部であるカムチャッカ半島でさえ広すぎる。移動の機会も限られ、そのため人間関係も固定される。人々はそうとは感じないままに逃れられない現実に真綿で首を絞められるように生き続ける。これは、登場人物表を見るとより明らかで、各人物に関係する人物がまた別の章に別の顔で登場することも多い。
    読んでいて、正直気の滅入るようなところもあった。どうしてこんな選択をする、と歯痒く思うことも。しかし、ここに描かれた女性たちは、皆わたし、わたしたちでもあるのだ。違いが見えてくることで更にわたし自身の問題と固く結びつけられていることに気付く。自分だけじゃないし、多分彼女たちもそう。この物語は終わるが、人生は続く。そのどこかで問題が解消したり、少し楽になっているといいなとも思う。
    異国情緒を味わいつつ、今同じ時を生きている誰かの息づかいを感じられる。世界は広く、そしてとてつもなく狭い。そんなことを感じる作品だし、他者を少しでも我がこととして考えようと思い立つきっかけとなる読書体験だった。
    よい機会をいただき、ありがとうございました。

  • 3月のサヴァブッククラブでの選書作品。

    自分では手に取って読まないであろう物語に今月もまた出会えました。
    すっごく面白い作品!

    まずはGoogleマップでカムチャツカ半島を検索して、どんな土地なのか想像しながら読む。これがまた物語に深みが増して良い。

    ロシアの文化と歴史にあまり明るくないが、これを機に学んでみたいなと思うほどに興味深い。
    習慣とか先住民への差別とか田舎独特の閉鎖的な空気とかどこかわたしたちの国にも通じるものがあって、女性の生きづらさもあって、遠い国(実際にはカムチャツカ半島は日本からさほど遠くないが)のことなのに身近でもある。

    『近くにいる人を愛するのは難しい』みたいな表現にすごくハッとさせられました。
    これがデビュー作なんて嘘でしょ!?と驚愕です。
    世の中には才能溢れる人がたくさんいるのね…

    ラストがまたいいんですよ。このラスト好きだなぁ。

  • カムチャッカを舞台に、複数の女性を月ごとに主人公にした小説。
    とっかかりは幼い姉妹の失踪事件だが、事件の解決とかはあまり重きは置いてなく、土地ならではの閉塞感が女性の視点で描かれる。原住民、有色者への蔑視も見え隠れして、重厚だった。

  •  閉塞感、諦念、靄がかかったような感じがして、最初はなかなか読み進められなかった。最後には少女たちは見つかって、一応事件は解決ということなんだろうけれども、そこからまた苦しみが始まると思うとなんともいえない読後感だった。

     その後、訳者あとがきを読んで色々考えさせられた。被害者のみを責める家父長制的な教訓の材料として消費されることに怒りを感じる。犯罪は無作為に人を襲う。被害者の落ち度を責める風潮に決して流されて欲しくないし流されたくないと思った。

    また、カムチャッカ半島は陸路で大陸につながっていないことを今まで知らなかった。孤独な登場人物像に重なる。


    個人的には「五月」のオクサナの心情の描写が心に響いた。壁を築いて用心して慎重に生きてきたのに、うっかり人を信じてしまっていることに気づいて愕然としてしまう感じ。

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