円 劉慈欣短篇集

  • 早川書房
3.91
  • (56)
  • (65)
  • (57)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 809
感想 : 71
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152100627

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ワンアイデアで驚かせてやろうみたいな気概にを感じられてよい。

    ・鯨歌
    バイオ電極つけた遠隔操縦鯨というだけでぶっ飛んでるのに、それでヘロインを密輸しようという話。あたまおかしくて笑った。結末はあっさりしてて物足りない

    ・地火
    石炭ガス化を鉱山で直接実行するが、フラグを立てまくったあげく失敗する。この失敗描写がカタルシス。
    故意ではない技術的失敗で損害を出した責任者が「犯罪者」として扱われるのはさすが中国という感じだ。ラストの科学技術に無限の信頼を置いているあたりもイケイケの国っぽさがある。
    最後の中学生日記は読後感からすると蛇足に思う。

    ・郷村教師
    異なる視点を同時進行するよくあるやつだが、最後にオーバーラップするスケール感はなかなかよかった。三体のような酷薄とした世界ではない、超文明による不干渉保護という形でのフェルミのパラドックスの解決を描いている。
    あと数千年でワームホール技術に到達できるという見立て、三体を読んだあとだと随分悠長に感じてしまう。

    ・遷移
    平行世界に迷い込む話。アイデアに対して話が長い。星新一が5ページぐらいで書くとよさそう。

    ・メッセンジャー
    老人が誰のことなのか一瞬でわかるのでもったいぶる必要ないのではないか。メッセンジャーのやることの意味はよくわからないし人類に対して希望を抱きすぎだと思う。小さめの戦術核なら知られてない紛争とかでもガンガン使われてる気がするんだよな。

    ・カオスの蝶
    意図的バタフライ効果で祖国を守るぞ話。こういう歴史に絡めて物語にうねりを出すのがうまいよね。
    読後の寂寥感は悪くない。しかし座標が安定しているというなら最後もCRAYなしでナビゲートできたのではないだろうか。あと当時ってGPSなかったよね?

    ・詩雲
    「大牙は大急ぎでくそ真面目に訳しはじめた」のギャグパートよかった。
    やはりこの人は滅びの挽歌を書かせるととても味わい深くなる。神宇宙人はちょっと性格適当過ぎる気がするし、知性のわりに全組み合わせ列挙しか思いつかないのは頭悪いなって感じがする。
    単に全組み合わせを列挙するなら、生成結果を出力する必要はなくて、プログラムを置いとけば足りるじゃんね。まあ実際に傑作がどこかに作られているのだ!というロマンを採ったんだろうけど。

    ・栄光と夢
    だしぬけに北京登場するので笑ってしまった。「これが北京!」うける。
    サイエンスじゃなく空想社会実験小説。最後は珍しく"人類の善性が絶対勝利する!"的エンドではなかったけど、現実に発案されたらこんなん失敗するに決まってるじゃんて最初から思うよね。
    シニがスタジアム周りの状態に違和感を抱くシーンで、生まれてから一度も先進国に来たことのないシニの視点としては違和感の解像度が高すぎない? と思う。知らないんだから変な状況でも普通だと思ってそのまま受け入れちゃうでしょ。
    マラソンのシーンは荒木飛呂彦の短編ぽいなって感じがした。勝負をしながらも別の勝負や心理戦を重層していく作りがちょっと似てる。

    ・円円のシャボン玉
    現実感のなさでは随一かもしれない。たぶん科学的なツッコミをするんじゃなくロマンと雰囲気を味わうお話なんだと思う。実際にやったら実現できたとしても問題山積でやばいことになりそうだが…… 中国のあまたの大迷惑大事故はこうして生まれているのだろうか。読後感は清涼。

    ・二〇一八年四月一日
    金で寿命を買う者の話。この作者これ系のテーマ好きだよね。経済力による命の格差みたいな。
    主人公はあきらめのよい童貞。たぶんこれが作者の思う男の美徳というか、ある意味理想の自分なんだと思うけど、ひたすら鼻につく。こういうキャラがいるだけで一気に話がイカ臭くなる。

    ・月の光
    未来からの情報で歴史を変えてもやっぱりダメだったねの話。破滅に向かう話なので(?)まあまあ面白い。これも主人公はあきらめの潔い童貞。
    「地磁気発電世界で実用化された無尽蔵核融合技術そのものを伝える」というわけにはいかなかったのか。

    ・人生
    物理SF作家が生命SFに手を出すととたんに嘘っぽくなる現象なんなんだろうな。母親の全記憶を持った胎児の話。ただのファンタジー。微妙。

    ・円
    三体からのスピンオフ。荊軻を出してくることで壮大な歴史ロマンの味が足されているのがよい。この人はやはり歴史に絡めた滅びを描かせると良い。

  • すごいSFを描ける人は、自分達が通常想像もし得ないようなガジェットや世界観を提示してくれることが、肝要となると思うのだけど、もはや常軌を逸している(褒め言葉)

    トンデモ合わせ技が炸裂したのは、「郷村教師」
    山村の現実パートから、急に宇宙大戦争にいくから、頭がおかしくなる(褒め言葉)
    でも、上位存在が、自分達のような存在に畏敬を抱くところは、なんとなくしんみりして読後感は悪くない。

    あんまりSF事情が込み入りすぎると、何が何だかわからなくなるので、心の琴線にやさしく触れるようなエッセンスが入っている方が好き。
    分かりやすさや、ハッピーエンド、着地点も含めて「円円のシャボン玉」が一番好きだったかな。

  • <灰>
    解説-違った,役者あとがき-また違った,訳者あとがきで 本書の短編作品群をサマリーしたところに,帝国兄弟卒業の大森望二等兵君がシレッっと書いた「・・SF読みならすぐに分かったでしょうゆ-が,味噌-が,塩-が,ソース-が・・・」って 誰が分かるかいそんな事。
    あ,そうか僕はSF読みでは無いのだから分からなくてもいいのか。隠れSF読みだものな僕は(あくまで自慢げに)笑って読了。すまぬ。

    とまたも,辛辣な役者-いや訳者批判から書き始めてみたが,二等兵君の挙動はともかく本の中身はもの凄く面白いので読者諸兄緒姉もすぐに手に入れて読んだ方が良かろうと朕は思うぞ。はははチーン。笑う。笑うけどマジ面白いですのですまぬ。

    どこまでも天邪鬼な僕は,そのようにしてまずは訳者あとがきを読みその次には最終編として載っている『円』を真っ先に読んだ。そうするとこれが面白かった。で最初に戻って『鯨歌』を読み。ふむふむこれも面白いではないか・・・と読み続けた。

    しかし,もしかしたらSFじゃないかもしれないけどこの本の中で一番面白いのか? と思った『栄光と夢』はラストで強烈にトーンダウン。劉さん,もしかすると締めくくり下手病か? 頑張れ,非凡で面白い素質は持っていると思うので。

    本編中にある各短編の題名の下に『大森望・へのへのもへじ 訳』と必ず書いてあるのはなぜなのだ。そんなに ”京大を出たのにSF翻訳者” という肩書が切ないのか? もう悪あがきはやめたまえ。めっちゃみぢめだぜ!(でも『月の光』だけは どうして大盛海苔弁当¥530の名前しか訳者欄にないのだろう・・・気になる。)

    と,またもや結局りょうけんの高言的毒舌 大盛べんとう批判で終わるのであった。誠にすまぬ。

  • 習作って感じがするけど、流石のアイデアと構成力です。人間コンピュータは好きだな、やっぱ。

  • 短編集も面白い!オリンピックの話とシャボン玉の話が好きだった。最後の話は三体で読んだな…と思ったら三体後に書かれた話だった。
    ただ、割と展開予想しやすい話が多かったのはちょっと残念だったかな。王道なだけに比較的オチがわかりやすかった。その点多分ディテールで読ませるんだろうな。でも星新一だったら同じ展開でももっと短くてピリッと辛いショートショートになってたのかな…とか余計なことを考えてしまった。

  • 「三体」著者の短編集。
    どことなく「三体」に繋がるギミックが所々に。

    どれもよいけど、「カオスの蝶」「月の光」「人生」「円」、特に「円円のシャボン玉」「地火」は秀逸。

    いやあ近未来だねえ。

  • 「郷村教師」の展開のギャップに驚いた。「詩雲」が壮大で良い。「円」はやはり面白い(兵士達が陣形を組んで計算に勤しむ様子を想像すると圧倒される)。

  • まだ読み中

    名前に毎回ルビが振ってあるのが助かる
    (注:僕にとって中国名の読み方はすごく覚えづらい)

  • なんだろう。心に響く作品ばかりだった。「地火」で人間の無力感を感じ、「郷村教師」で身近な重大事項と大宇宙でのどうでもいいことの天秤を感じ、「カオスの蝶」で家族愛を感じ、「栄光と夢」で新しい戦争形態を感じ、「円円のシャボン玉」でやりたいことを貫くことの重要性を感じ、「人生」で人類が踏み込んではいけない領域を感じ、「円」で政治(帝国)の儚さを感じた。どの作品も読みやすく、SFの入門として適していると感じた。日本人の感性に通じるところも読みやすさにつながっていると思う。

  • 2021-12-05
    珠玉の作品集。もう少しユーモアあってもいいんじゃないかと思うけど、それは好みの話。
    13篇中どれが好きかと言われると、多分日によって答えが変わる。それくらい粒ぞろい。
    三体の厚さにビビっている人はまずここから。

全71件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

1963年、山西省陽泉生まれ。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短篇を執筆。2008年に刊行された『三体』で人気に火が付き、“三体”三部作(『三体』『黒暗森林』『死神永生』)は中国で2100万部以上を売り上げた。2014年にはケン・リュウ訳の英訳版が刊行され、2015年、アジア人作家として初めてSF最大の賞であるヒューゴー賞を受賞。2019年には日本語訳版が刊行され、11万部を超える大ヒット。

「2023年 『神様の介護係』 で使われていた紹介文から引用しています。」

劉慈欣の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×