プロトコル・オブ・ヒューマニティ

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 306
感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152101785

作品紹介・あらすじ

身体表現の最前線を志向するコンテンポラリーダンサーの護堂恒明は、事故で右足を失いAI制御の義足を身につける。彼は、人のダンスとロボットのダンスを分ける人間性の手続き(プロトコル)を表現しようとするが、待ち受けていたのは新たな地獄だった――。

感想・レビュー・書評

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  •  時代設定が2050年代でAI技術が発達していることを除くと、SF要素はあまりない。
     
     事故で右足を失った若いコンテンポラリーダンサーが主人公。彼はAI制御の義足を身につけることになる。彼の父は高名はダンサーであり、彼も父を追って身体表現の高みを目指していた。

     その父親が交通事故を起こし頚椎を痛め、同乗していた母は亡くなってしまう。さらに父親は認知症が出始め、一人で介護せざるを得なくなる。なにやら重苦しい展開になり、読み続つけるのがしんどくなった。自分も親の介護の経験があるので、主人公の気持ちが痛いほどわかるのだ。あとがきを読むと、作者も親の介護を経験したとのこと。

     主人公は親の介護に苦悩すると同時に、人のダンスとロボットのダンスを隔てる「人間性の手続き/プロトコル」を表現しようと苦悩する。SFというよりは、純文学の香りがする。
     
     ☆はあくまでSFとして読んだ評価です。第54回星雲賞、第44回SF大賞受賞作。

  • 熱、の一冊。

    人は何かを表現する時こんなにも熱を発するものなのか。

    時は近未来2050年。

    事故で片脚を失くした主人公がダンサーとしての再起をかけてAI制御の義足と共に人間性の表現を模索していく物語は明るさは皆無、容赦ない地獄の連続。

    認知症の父との関係は決して絵空事ではなく現実問題として心を殴打すると同時に、ダンス、対極にある父と息子、数々の融合がそれこそ言葉による"速度"と"距離"の熱で圧倒してきた。

    今、この想いを伝えたいという熱、それはAIと共存はできてもその部分は譲れない、人間だけが持ち得る権利だと思う。

  •  人間性とは何かを問うたSF。
     伝説的な舞踊家を父に持つ新進気鋭のダンサー護堂恒明は、事故で右足を失ってしまう。一時はダンスの夢をあきらめかけた恒明だったが、高度なAIを搭載した義足と出会ったことで、人とロボットによる新しいダンスを創造するプロジェクトに参加することになる。
     人間によるダンスとロボットによるダンスを分けているものは何か。おそらく人間にしか無い内面的な人間らしさを伝える手続き(プロトコル)が存在するはずで、それをロボットとも共有して再現したいと主張する友人のカンパニーに参加した恒明は、地獄のような特訓の日々に没頭する。
     そんな恒明を今度は、認知症になった父の介護という終わりのない絶望的な生活が待ち受ける。当初「ロボットのダンスに人間性が感じられない」と父からひどく指摘された恒明は、無意識のうちに”人間性”を何かすばらしい崇高なものとして追求していこうとしていたが、兄からも見放され独りで父の介護を背負わされて、人間性を少しずつ失っていく父の姿を目にしていくうちに、”人間性”への信頼が揺らいでゆく。

    ”介護とは、たぶん、人間性だと思っていたことをすこしずつ諦めてゆく過程なのだ。”(P.204)

     片足をなくした恒明のダンス表現へのストイックな探求、人間の動作を学習し極限まで近づこうとするAIの技術的な進歩、さらに作者自身の体験を反映したと思われる、認知症の父親の介護という非情な現実が並行して書かれているが、いずれにも「人間性」とは何かという重いテーマが通底している。
     恒明の育った家庭環境も含めて重苦しい話だが、途中で出会う永遠子の存在には恒明ならずとも心が救われる。ありきたりだが、人間を人間たらしめている”人間性”は、やはり他者との関係性の中で生まれているのだと実感する。

  • コンテンポラリーダンスでの新星として未来を期待されている護堂恒明。彼を襲った悲劇。踊るために恒明が選択したAI義足。同じダンスカンパニー所属でロボット工学の会社を企業した谷口裕五の紹介で新しいダンスの道を開拓していく。
    時を同じくして振りかかる母の死、父の介護。 
    誰も成し遂げなかったダンスとAIとの融合、未知なる進化を模索する一方で、介護という生きる事の苦悩が平行していく。

    ダンスシーンの美しさも魅力。コンテンポラリーダンスに馴染みがなくても息遣いや飛び散る汗が見える気がする。

    「脳も臓器のひとつ」。そんなふうに考えたことがなかったから斬新だった。『速度』と『距離』そして『脳』、感情も緻密な数値であり膨大に集積されたそれは人間らしさを人間らしく表すものなのだと知った。
    偉大なるダンサー・護堂森は、父なんだと理解した恒明にシンクロした場面に苦しさと悔しさが押し寄せてきた。

  • 【読者モニターのゲラを読了】

    読み始めたときはAI義足とダンサーのコミュニケーションを描いた物語だと単純に思っていたが、想定外の怒涛の展開。コミュニケーションをとることの難しさが描かれていて、胸が苦しくなる場面が多々あるが、それゆえに現実としてあり得そうな話だと感じた。

    コンテンポラリーダンスとして、AI義足をつけたダンサーとロボットとの共演が試行錯誤の上でいったいどんなかたちで描かれるのか最後まで気になっていたが、クライマックスのダンスは緊張感があり、最高に惹きつけられるダイナミックな描写で、映像としても観てみたいと思えるダンスだった。

    人と人とのコミュニケーションがあまりにも身近に感じる内容で、惹きつけられ、普段SFを読まない人にも薦めたくなる小説だった。

    人と機械、人と人。いずれにしても、意思の疎通のためにはコミュニケーションは不可欠だと思う。人間性とは何かを問いかける『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』というタイトルからして秀逸だと思った。

  • 人間性を表すプロトコルとは何か。AIとのダンスを通して描かれる。人と人の繋がり、その先にある生と死を感じさせながらその大きな疑問に迫っていく。

  • 恐ろしくも真面目な愛の物語。AIとの共生と理解を謳いながら、真実は理解されない人と人とのプロトコルである。父の介護の場面は涙した。

  • 事故で義足になったコンテンポラリーダンサーのお話。2050年くらいのちょっと先の将来の話で、SFにジャンルされてるけど、あくまで現在の延長としての現実的な世界観として受け入れられる。途中ちょいと都合のいい展開に読み進めるのを躊躇したものの、クライマックスに向けてのダンスの描写は素晴らしかった。

  • 主人公の声が聞こえた。身近な人の声ではないから、誰の声なんだろう(普段はメディア化されたものを先に見てしっくり来た場合でもないと、声がはっきり聞こえることはないから不思議な感覚だ)
    キャラがたっている物語も好きだけれど、そうではなくて人が描かれているように感じた。

    ダンスを観に行きたくなった。これまでより少し深く感じることができそう。

  • コンテンポラリーダンス×AI×人間性がテーマ。ジャンル的にはSFだが、近年読んだのが「三体」や「プロジェクト・ヘイルメアリー」だったので、こうした現代社会にも身近なテーマのものはかえって新鮮だった。
    主人公でダンサーの恒明は事故で義足となるが、それだけでは人間性に迫る深度はそこまでではなかっただろう。ダンスのキーとなる「速度」と「距離」に、父の過酷な介護を通して背負う人生の「重さ」が、最後の親子のダンスシーンに集約されていて、公演のダンス場面も合わせて何とも凄まじさを感じられた。
    ダンスもAIも専門的なことはよく分からず、技術が発達しても介護の大変さは大して変わらないなと気が重くもなったけど、人が表現することの根源的な価値観に触れた一冊として、読み応えがあった。

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著者プロフィール

「戦略拠点32098 楽園」にて第6回スニーカー大賞金賞を受賞。同レーベルにて「円環少女」シリーズ(角川書店)を刊行。「あなたのための物語」(早川書房)が第30回日本SF大賞と第41回星雲賞に、「allo,toi,toi」が第42回星雲賞短編部門にそれぞれノミネートされた。

「2018年 『BEATLESS 上』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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