サイバラバ-ド・デイズ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5003)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (462ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350038

作品紹介・あらすじ

分離戦争まっただなかのインド。サンジーヴの村にも戦火がおよぶ。アニメさながらの巨大ロボットの戦いに、子供も大人も大喝采。ロボット戦士にあこがれて、サンジーヴは都会へと向かうが…「サンジーヴとロボット戦士」、ダンサーのエシャは、レベル二・九という高い知性を持つAIの外交官A・J・ラオに求婚される。怖ろしいまでに魅力的な彼に、エシャはすっかり夢中になるが…。AIと人間との結婚が産みだす悲喜劇を描き、ヒューゴー賞、英国SF協会賞を受賞した「ジンの花嫁」など、猥雑で生命力あふれる近未来のインドを描く連作中短篇7篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • いいね、この装丁、この紙質、この表紙。遠目に見たとき「あれ、またバチガルビ?」と思った。「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」はこれで統一しているんだね。近未来のインドを舞台にした日常をたんたんと描く。爆発的な面白さは無いけれど、設定と雰囲気で読ませる。SFの舞台設定として東南アジア流行ってるのか?この人の長編も読んでみたい。

  •  2011年末、早川書房が満を持して刊行を開始した叢書「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」。50年以上前に刊行が始まり、日本SF界の屋台骨となった「ハヤカワ・SF・シリーズ」の復活である。その間、日本SF叢書「ハヤカワSFシリーズ Jコレクション」はあったものの、今回は銀背などの造本も受け継いだ正当な後継シリーズだ。3000番台から始まった旧シリーズだが、新たなシリーズは5000番台からのスタート。
     そしてその第3回配本が5003番『サイバラバード・デイズ』。近未来のインドを舞台に描かれる連作中短編集Cyberabad Daysの邦訳である。

    <太陽は、世界の藍色の縁に沿って回転する、黄銅の碗だ>(p160)

     2047年。現在のインドがそのまま続いていれば独立100年祭を祝うはずだったこの年、伝統様式と最先端の科学技術に満ち溢れたインドは大小8つの国に分裂しようとしていた。旱魃による水不足に喘ぎながらも、熱い生命力は新たな時代を切り開こうとしていく。混沌の中の秩序、文化に溶け込んだ先端科学。そんな激動のインドに暮らす人々の人生を丹念に描く、エキゾチックなSF世界。2010年フィリップ・K・ディック賞特別賞を受賞。
     収録作品は下記の通り。収録順。

    「サンジーヴとロボット戦士」Sanjeev and Robotwallah
    「カイル、川へ行く」Kyle Meets the River
    「暗殺者」The Dust Assassin
    「花嫁募集中」An Eligible Boy
    「小さき女神」The Little Goddes
    「ジンの花嫁」The Djinn’s Wife
    「ヴィシュヌと猫のサーカス」Vishnu at the Cat Circus

     耳掛けや手袋型のウェアラブルコンピュータが生活に浸透し、「ヌート(中性人)」と呼ばれる第3の性が存在するインド。AI(人工知能)が人間を超えようとしており、AIによるメロドラマが絶大な人気を獲得している。
     この小説の面白さを一言でいうなら「異文化SF」という点に尽きるだろう。インドという欧米から距離を置いた世界におけるテクノロジーの発展は、日本人にとってもある種のカルチャーギャップを楽しませてくれるのではないか。
     その世界は、先端の科学技術を駆使しながらも、まるでアラビアンナイトの世界のような豊穣で豪華絢爛なおとぎ話のような伝統的インドの姿も色濃く残っている。欧米SFとはまた違った空気に浸る事ができるだろう。
     本当にインドの人が読んだら、こんなん偏見ばっかりだ!と言うかも知れないけど。

     インド中南部の都市ハイデラバード(Hyderabad)はハイテク産業に力を入れており、Cyberとかけて実際にサイバラバードと呼ばれているそうだ。僕は恥ずかしいことにその事自体知らなかったのだけど、この本のタイトルはこの都市の通称から取られていたのだな。「サイバラバード」という単語自体は作中に登場しなかったと思うが、サイバーシティと化したインドの日々を描いた小説なのだ。

     SF作家の大御所アーサー・C・クラークは、高度に発展したテクノロジーは魔法と見分けがつかないと言っていたけど、まさに魔法のように進化した技術が彩るインドの街は奇妙に鮮烈で、不思議と懐かしい。
     そんな世界でもそこに暮らす人々は男女関係に悩んだりもするし、成長する子供の対応に親はやきもきしたりする。『火星夜想曲』などで知られる作者だが、そこらへんは実に丁寧に描いていて、でもその分スピード感はあまりない。説明も無しに頻出する独自の単語も相まってそこらへんは退屈に感じてしまう人が多いかも知れない。SFってそういう世界を少しずつ読み取っていくのも楽しさの一つなんだけど、SFを読み慣れていない人はそこらへんに躓いて読みとおすのがかなりしんどいかも知れない。
     比較的ストーリー性のある「暗殺者」や「ジンの花嫁」なんかは結構読み易いかな。

     ところでこの小説、全編を通して「結婚」は重要な意味を持つキーワードだ。どれだけ科学が進歩してもやはり人間の営みにとって結婚は運命を左右する重大な出来事である。近未来のインド的カルチャーの中、若い男女は様々な選択を迫られ、思わぬ出来事に遭遇する事になる。やはり人間は根本的にはそんなには変わらないのだ。
     だから、未来であろうと外国であろうと、そこに生きる人たちの一生懸命さやいじらしさは愛おしいのである。

    <カイルにはわかっていた。自分がうんと年をとっても、40歳か、ひょっとするとそれ以上になっても、きっとずっとこの日のことを、この光の色と船縁に打ちつける波の音を、覚えているのだろうと>(p65)

     しかしあれだな。誤植が目立ったな。僕が気付いただけで2か所あった。314ページの「真底」は「心底」が正しいし、372ページの「惑星状」は「惑星上」が正しい。もっとあるかも知れない。急いで刊行したから校正が間に合わなかったのかな。

     ともあれ未訳の姉妹長編River of Godsの訳出も待たれる。

  •  ヒューゴー賞の「ジンの花嫁」が評価は高いのかも知れないけど、自分としてはその前後にある「小さき女神」「ヴィシュヌと猫のサーカス」が面白かった。
     「小さき女神」は、AIや遺伝子改変がされた人間で混沌とした近未来インドを舞台に、ネパールの生き神として育てられた少女が遭遇する数奇な運命の物語。
    「ヴィシュヌと猫のサーカス」は「小さな女神」でも登場する、悲喜劇的な遺伝子改変エリート「ブラーミン」の一人が主人公。この短編集の舞台となっている世界観の総まとめとしても読める。
     そういえば外国人がネタにしそうなインドの風習といえばサティーを思い出すが、ここでは出てこなかったな……女性不足だから無くなった?

  • 世界観がしっかりしすぎていて入り込みにくいのですが、その分入り込んだらすげー面白い!!ってなりました。

  • 面白かった!分割した未来のインドを舞台に超知性やAI、第三の性、ネットワークに存在する複数の人格AIを描く。7つの短編どれも面白かった。なかでも好みは「暗殺者」、敵対する二つの家、ロミオとジュリエットの過激版?と勘繰ったけど、題名がこれなので・・最後はなんとも
    「小さき女神」神になった少女、ワイヤーから落ちて死んだ叔父を笑いながらみていたところから神の資質は・・・神ではなくなってからも面白い
    「ジンの花嫁」「ヴィシュヌと猫のサーカス」も良いです。好きです。

  • イギリス生まれ、アイルランド在住の作家が描く、近未来インド。これだけで面白そうでしょ? それは太古の精霊のごとく、AIが跋扈する世界。それぞれの仕方で新世代のジンと関わる主人公たちを描いた短編集で、時にユーモラスに、時に切なく、彼らの交流の顛末が描かれる。異なる生き方をする者同士つながること、そしてやっぱり、人間とは何なのかということを考えさせられる。

  • 東南アジアなSF→バチガルビっぽい。けど、熱気と匂いがあまりしない。リアリティはバチガルビに軍配

    ロボットとか、未知の世界への憧れとか、男の子だねぇ~というお話。前半。
    後半は結婚に関する話

    AI 3.0とかが出てきて、賢さ別に管理する。将来的にありそうで、リアリティを感じる

    話間で共通のガジェット多い

    表現が耽美。薔薇を燃やした灰の匂い、なんてことがさらっと書いてある。すごいね

    だが、記述がだらだらしているので退屈でもある

    ナノテク、情報技術、AI、遺伝子工学、ロボットとSFネタは盛り沢山だが、アイディアは落ち着いていて、目から鱗程ではない


    これで1,785円は高いと正直思う。前2作の新SFシリーズではそう思わなかった。

  • 2030~2050年代、近未来のインドのおはなし。カレーとITの国というイメージのインドをこうまでSF的に昇華させたところがすごい。AIの進化と、脅威、ホークとパーマーによるコミュニケート(まるでサイバースペースへのジャックイン!)それよりはもっとナチュラルか。散りばめられたガジェットはワクワクもの。ブラーミンはAKIRAに出てくる、あの子供大人たちを思い浮かべた。

  • 2047年のインド。
    現在とは気候が変わり、干ばつ続きで水を巡って争いが続く中、遠隔操作によるロボットが戦う。
    新しいテクノロジーによって作り出された、「宦官」のように性別のないヌート。
    遺伝子操作によって通常の倍の長さの命を手に入れた新人類ブラーミン。
    人類を超えた知性を持つロボットAIが人類を台頭する。
    自らをデジタル化して保存し、死んでもなおデジタル空間ボダイソフトで生き続ける。

    そんなSFなのだけれど、とにかく読みづらい。インドのカースト制度や、ヒンズー教などの予備知識がないと難しいのか?
    久しぶりに読書が苦行になった1冊。

  • 連作短編が浮き彫りにするインド。たのしませていただきました。

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