王家の風日

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (454ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163199306

感想・レビュー・書評

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  • 「太公望」のスピンアウト作品と思います。著者の他の作品のように、著者の思いのこもった登場人物がいないのが残念です。

  • 三国志以外の中国歴史物には何十年間もまったく興味すら持てなかったのだけど、ひょんなキッカケで宮城谷昌光という著者の作品と出会う。

    とは言え、『商』ってナニモノ?
    周とか召とか宗とか響きも似たのが多いしこの時代の世界に入っていけるかしら、など思いつつものめり込んでいった。

    少し読んでいくにつれ、主人公側の『商』が滅びゆく物語なのねと。その内と外からの視点を微妙なバランスで配置しつつ進行していく。

    主に語られるのは、箕子が国を憂う想いと、しかし時代の波に逆らえず徐々に滅亡への道を辿っていく商という国。
    合戦シーンは極力少なく、宗教的な時代背景に則った幾多の思いが語られる。


    以下、章立てに沿ってあらすじ(ほぼネタバレ)

    ----------

    1.商王朝
    「商」という王朝ははじめて文字(甲骨文字)をもち、青銅器を創った。

    2.箕子と干子
    商王朝28代、文丁王の子であり商王朝の重臣となる箕子(きし)と干子(かんし)。箕子は任地である北部の国を発展させた才徳に溢れる良識人。干子は東の国を治め存在感を放つ清心廉直の人。
    29代の王が自らを帝と称し帝乙(ていいつ)と名付けられた辺りから、箕子の苦悩の色が濃くなってゆく。

    3.王子受の日日
    帝乙の三男である受の非凡な青年時代と商王朝が激動に呑み込まれていく前触れを描く。帝乙の南征に賛成できない箕子は都を離れ国へと帰る。

    4.土方の襲来
    箕子の帰国に合わせ、襲来する北方山岳民族。しかし、箕子は戦わずしてこれを臣下とする。すべては彼の智謀と度量の大きさを表している。

    5.流楽の父子
    滅亡した秦国の君主であった嬴廉(えいれん)とその子である嬴来(えいらい)は流浪の末、商の王子であった受に気に入られ仕えることになる。父の方は馬にも引けを取らない脚力の持ち主、子の方は悪来とも呼ばれるほどの怪力の持ち主。後に受が商王となると、出世し重臣となってゆく。

    6.周への招請
    帝乙が崩御し、三男の受が商王朝30代帝辛(ていしん)として即位する。箕子は西方の周の脅威を進言するが聞き入れられず、商は周と結ぶための使者を送る。

    7.西方の人
    周の君主、姫昌(きしょう)は徳によって国を治め西方から商都の方角へ徐々に領地を拡大していた。いつかは商との衝突は避けられないが、国力はまだまだ及ばない状況にある。そんな矢先に商王朝から人質を帯同し入朝せよとの使者が訪れる。

    8.周の入貢
    姫昌は長男の伯邑考(はくゆうこう)を伴い商に入朝する決心をする。姫昌を警戒する箕子、悪印象を与えないよう苦心する姫昌。商朝内での生活がはじまる。

    9.象牙の箸
    この時代、王と言えども暮らしぶりは意外なほど質素であったらしいが、帝辛の意識が徐々に変化していく。その一つとして箸を象牙のものに変えたことである。小さな変化ではあるが、箸の変化は物のつりあいや調和から言って、衣食住すべての変化に繋がってゆく。ひとり箕子は憂国の想いを強めていく。

    10.黎の蒐
    帝辛は都から離れた平原で狩りと名目した軍事演習を断行する。これを機にこれまで商に順服していなかった異族からの入貢があいつぎ、直轄地を拡大していく。

    11.炮烙の刑
    帝辛は諸侯に対し忠誠を徹底させ、従わない者には見せしめとしての火刑を行うなど、強行政策を断行していく。

    12.盂方討伐
    叛違を見せはじめた遠国の盂に対して、帝辛は討伐を開始する。箕子の言により、表向きは狩りと見せかけ、隣国の蘇を順わせ、討伐を完遂させる。

    13.酒池肉林
    謀叛を企てる九候と鄂候に対して、未然に企てを察した帝辛は、諸侯を大会合させた席でこの二人を処刑する。その後の宴で、帝辛は動物の肉を木に吊るし、酒を地に注いで祭祀という名の饗宴をとり行う(酒池肉林の語源)。

    14.羑里
    周の君主である姫昌と子の伯邑考が突然捕らわれる。王の不在時に西方で領地を拡大し、革命を企てているとう疑いが持たれたためである。それを知り君主救出を急ぐ周の臣はある智慧者と出会うことになる。太公望という二十歳なかばの羌族の遺児だが、彼は過激派を形成し商の主要都市に地下組織を拡充していた。

    15.太公望の暗躍
    自分たちの活動を有利に導くために、姫昌の救助に動き出した太公望。彼を動かしていたのは、羌族が商から積年うけてきた虐待の怨みである。太公望は商の重臣となっていた悪来嬴来の弱みにつけ込むと共に、商王の正妃への接触も試みる。稀代の兵略家とも称される彼の尽力により、姫昌は無実となり、解放される。

    16.虁の社
    解放された姫昌は帝辛から西方を任される。日本でいう征夷大将軍のような立場である。周が日に日に増強していく脅威を感じ、反逆が近いことを進言した箕子だが、帝辛には聞き入れられず罷免させられる。それに憤慨した干子も辞職する。

    17.死と狂と
    帝辛は西方の周の強大化には無関心で、逆に東方討伐遠征に出る。王不在となった都の危険を察した干子は独断で兵を率いて上京する。これに不快感を覚えた帝辛は干子を処刑してしまう。
    これを知った箕子は自ら狂人となり、以後商滅亡まで閉居することになる。
    一方、周では姫昌が亡くなり次男の発が後継となる。

    18.牧野の戦
    遂に商と周の全面衝突がはじまる。この一進一退の戦いに敗北した帝辛は自ら鹿台に登り火をかけさせ自害する。これにより600年間続いた商王朝は崩壊する。
    「維新」の語源ともなった有名な詩
    「周雖旧邦 其命維新」
    (周は旧邦なりといえども
    その命これ新たなり)

    19.王者の国
    勝利した周は都に入り、周王の発は箕子と会い彼の博雅の世界に呆然とする。その後、箕子は密かに北へ逃亡していく。


    2015.6.1

  • 商周革命のお話し。宮城谷昌光はたまに読むと面白いし、沁みます。続けて読むと同工異曲感に飽きが来ます。夏から春秋戦国までと年代は長いのだが、同じ昔の中国の話しにしか読めないのは私だけでないはず。

  • 横道にそれ過ぎ。小説としては余計な文が多い。

  • 元々、封神演義を読んだときから受王贔屓だったので、読んで見ました。物事の考え方や政治的な事が、まだこの時代には早すぎた王という売り文句が気に入りました。この時代の事が良く分からなかったですが、わかりやすく書いてありとても読みやすかったです。宗教的な国家なので祭礼として行なわれていた行為だとしたら、強ち受王が暴君とも思えなくもない。才があれば身分問わず受け入れ、中には諫言で惑わす人も混じっていたのでしょう。家臣を気遣う受王を見てみると、やはり巷で英雄となる周を謀叛を起こす輩と思ってしまいます。受王贔屓なんで・・・。

  • 感想は、こちら → http://mdef.blog29.fc2.com/blog-entry-116.html

  • すごいけど『太公望』のほうが面白かったな。宮城谷昌光は、初期より後の小説のほうがどんどん面白くなる。ご本人も、初期はコトバに縛られて(しがみついて?)いたと認めておられる様子。

  • 『太公望』が殷周革命の周サイドなら、この本は殷サイドですね。箕子さんかっこよすぎる。
    封神演義のSFが抜けて現実味を帯びた感じです。

  • 「太公望」の話を商(殷)サイドにした感じです。これだけでも面白いですが、これ読むと「太公望」がもっと楽しくなります。

  • 殷周革命を殷側から書いた小説。文献や文字、言葉に誠実であろうとする著者の姿勢が感じられます。読み心地がややカタイ感じがするのは、この著者の初めて出版された本だからなのかもしれません。後に書かれた「太公望」の方が口(目?)当たりが丸くなってる気がします。これを読むなら「太公望」を先に読んだ方がわかりやすいかも。

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著者プロフィール

宮城谷昌光
1945(昭和20)年、愛知県蒲郡市生れ。早稲田大学文学部卒業。出版社勤務のかたわら立原正秋に師事し、創作を始める。91(平成3)年『天空の舟』で新田次郎文学賞、『夏姫春秋』で直木賞を受賞。94年、『重耳』で芸術選奨文部大臣賞、2000年、第三回司馬遼太郎賞、01年『子産』で吉川英治文学賞、04年菊池寛賞を受賞。同年『宮城谷昌光全集』全21巻(文藝春秋)が完結した。他の著書に『奇貨居くべし』『三国志』『草原の風』『劉邦』『呉越春秋 湖底の城』など多数。

「2022年 『馬上の星 小説・馬援伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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