ウォッチメイカー

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (511ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163263304

感想・レビュー・書評

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  •  ディーヴァーに関しては、ここ数年書き続けているように、ぼくは食傷気味である。物語がもう何年もの間パターン化しているために、ぼくは既に飽きが来てしまっているのだ。シリーズ外の作品もそうなのだが、ここのところのディーヴァーの作品は、読者サービスのための、イリュージョンめいたシーンを創出することを何よりも作品の核として優先させ、その点での面白さだけを幅狭く追及しているところがある。

     例えば、犠牲者と思われる人が襲われかかるシーンの頻出である。誰しもが息を呑むところで、ブラックアウト。遅いかかったのは犯人だとばかり思って恐怖に身をすくめていたのに、実は犯人と思われたのは救出に来た人だった、というような、一旦どきりとさせ、すぐにほっとさせる手法。これはもう、本シリーズだけではなく、ディーヴァーの作品において数限りなく見られる。いい加減読めるというところまで来ているのだ。まるで昔の少年探偵団のようにプリミティブで子供じみて感じられるのだが、他の方はそうは思わないのだろうか。

     本書もその種のシーンが山積みである。その上、最後にはツイストしたものをまたツイストするという、徹底してツイストにだけこだわりを持ってしまっている昨今のディーヴァー路線ばかりが目だってしまっている。もちろんこうしたツイストそのものが好きで、これこそが読書の醍醐味なのだと感じられている方々の邪魔をしたいわけではない。そういう方々は是非楽しんでいただいてけっこうなのである。

     しかし、毎度毎度、このシリーズが『このミス』のトップやベスト3くらいに評価を受けて、一押しのミステリーと紹介されるのはもういい加減にして欲しい。その都度、ディーヴァーの大化けに期待して、がっかりさせられる読者の身にもなって頂きたい。期待し続けて挫けている自分の方がバカといえばバカなんだけれども。

    ちなみに、本作からは、ぼくは購入して読むのをやめ、図書館で借りることにした。昨年の作品を今頃になって読んでいるのも、予約待ちの長い列を辿ってようやく順番が回ってきたからである。それほど絶大な読者数を誇るシリーズ、という感じは自分ではしないのだけれど、こうした派手な、コマーシャリズムに乗った作品の方が安心して手に取れるという人も沢山いるのかもしれない。

     世界にはいい作品が腐るほどあるはずだという確信の下で、こんなベストセラーに時を委ねていてはいけない、と真剣に思う。それでも、未だに愚かにもディーヴァー作品を手に取ってしまうのは、ぼく自身がこの作家の古い読者であり、かつてはもっともっと葛藤のある複雑で深い物語を作り出していた新進気鋭作家の別の魅力の部分が未だに忘れられないでいるからこその、なけなしの期待ゆえなのである。無念!

  • 映画にもなった「ボーンコレクター」のシリーズ。
    「ボーンコレクター」は原書でも読んだし、当時はこの作家の小説が世に出るとむさぼるようにして読んだものだ。

    読者を裏切ってくれる“どんでん返しプロット”がこの作家の身上であり、そこが映画化もされ、これほど次々と作品が世界中にベストセラーで通る最大の理由であろう。

    10年以上前はそのようにしてむさぼるように読んでいたが、子育てや毎日暮らしが忙しくなり、私自身は読書と長らく距離を置いてしまうことになった。

    今回図書館の貸し出しカードも新調し、また昔のように読書を楽しむ時間もできたことで、さあ、なにを読もうかしらん、と思ったとき思い出したのがこの作家「ジェフリー・ディーヴァー」という名前だった。

    検索してみると初期のころから変わらず今もこのシリーズはたて続けに刊行されていることを知った。

    そしてどれも相変わらず評価が高い。
    恐るべき、というべきか、相変わらずすばらしい、ジェフリー・ディーヴァーさん。

    とくに注目したのが、この「ウォッチメイカー」はこのシリーズのターニングポイントになるべきシリーズのなかでは重要な位置を締めることになる作品である、という講評だった。

    目立った諸表もすべて「おもしろい」「読み始めたら止まらない」など大絶賛である。

    そこで読んでみることにした。

    主要な人物2人以外はほとんど忘れてしまっているが、をを、読み始めるとたしかにおもしろい。

    文体も読みやすく、起こる事件も多少猟奇的だったりして、この手のプロットが嫌いじゃない人ならぜったい虜になるであろうストーリー展開だ。

    ただ、途中から、なんだろう、私にはその面白さがスピードダウンして感じられた。
    大絶賛されている講評も「本当にそんなにすごい?」と疑問視したくなるような感じ。

    これは例えていうなら、某テレビ局の日曜9時のドラマ帯「邪魔をしないでいただきたい! 私は5億を回収する!」にはじまるドラマが毎週新たな陰謀や相手を陥れようとするプロットの連続で、はじめはそれが面白かったけれど最近ではまったくの食傷気味でになってしまったのに近しい感じがする。

    たしかにこの作家の売りは「どんでん返しプロット」であり、それゆけそのスタイルは“ジェットコースター”と称されたりもする。

    でも、あまりの「どんでん返しに次ぐどんでん返しのどんでん返し」の連続で、うーん、ちょっとくどいかな。

    この本の評判は前述したように大絶賛なので、こんな印象を持つ私の感覚がおかしいのかな、と思ってネットで感想をググってみたところ、いや、同じような方たちがいらっしゃいました。

    「なんか、装飾過剰?」
    「こねくり回しすぎ」
    「ちょっと辟易」
    「さすがに疲れました。しばらくドンデン返し系は避けることにしよう」など。

    よかった~、私だけじゃなかったんだ~、とほっとした。

    全体のストーリーは最終的には本筋と無関係な話はまったくない。
    これ、なんの話?と思う話も、細かい描写まで微に入り細に入り計算しつくされているということが真相がわかると納得できる仕掛けになっている。

    でも、うーん、もうちょっとコンパクトにできないものか。
    冗長な感は否めない、との感想を私は最後まで払拭できなかった。

    ただ、ミステリ好きな人には間違いなく一度は読んでいただきたいと思える小説ではある。

    今回初登場した「尋問のスペシャリスト キャサリン・ダンス」の活躍シーンはなかなか読みごたえがあった。
    次はこのキャサリン・ダンスが主役話になっている小説を読んでみたいと思う。

  • 作家がどんでん返しを意識しすぎてるような。
    面白い部分もあったが、小手先で話をいじくってる感じがした。

    まずウォッチメイカー事件では、私は前作で「ピンチになったってどうせ助かるんだろーハイハイ正義正義」というようなやさぐれ病にかかっているので、今回標的が襲われた時も助かる展開が見えてしまった。ギリギリまで追い詰められる焦燥感が味わえない。

    もうひとつの警察の汚職事件については、サックスの父に対する葛藤と絡んでいく。
    どちらかというとウォッチメイカー事件より熱の入った描写で、私はがっつりウォッチメイカー事件を読みたかったので、「また紙幅を取られることになってほしくないなー」と思いつつ読み進めた。

    残り3分の1になったところで、ようやく事件が動いた手応え。
    殺人を依頼したのはベーカーで、汚職事件と連続殺人未遂事件とがつながる。
    「なるほど!だから汚職事件にも比重をおいてたんだ」と期待を込めて先を進めたら、ベーカーもあっさり捕まり「またこのパターンかー」と。

    さらにダンカンもさくっと捕まる。
    そこからの流れは予想がつかず面白かったのだが、

    ダンカン聴取 → 誰も殺してない。非道なベーカーをはめるためにやった事 → 実はそれも嘘、危険人物である

    この、危険人物と判断するにあたってのキャサリン・ダンスの能力がなあ。
    「嘘ついたらわかる」って最初は単純にすごいと思ってたけど、ここにきてこれって都合よすぎないか。
    時計店店主の時みたいに、もうちょい詳細に見ぬく描写があれば印象が違ったかもしれないが。

    で、その後

    ダンカン時計盗むよ → それも嘘、本当の狙いはテロ → 爆発するも大事になりませんでした

    そうだよな、サックスとライムはすごいもんなー。
    全然ハラハラしなかったよ、正直。


    犯人のキャラ造形は前作も今作も好きだし、うまい作家だと思うんだけどなあ。

    むかし面白い面白いと読んでいた頃のディーヴァーの本って、今読むと評価変わったりして、とちょっと不安になってしまったよ。

  • 読み終わった。有名なシリーズだそうだ。話の展開が複雑で、それを億劫に思うか、おもしろいと思うか、そこだ。

  •  ジェフリー・ディーヴァー著、リンカーンライムシリーズの6作目。今回も四肢麻痺患者であり、元科学捜査官でもあるリンカーンライムが犯人が残す僅かな証拠をもとに事件を追ことになる。ライムの公私にわたるパートナーであるアメリア・サックスは、今回も体の動かないライムの手足となり現場検証や犯人追跡を担当する。

     今回のライムの敵はウォッチメーカー(時計職人)と名乗る殺し屋。精密な時計のように一秒のずれもない計画犯罪を完璧にこなしていく。またウォッチメーカーが起こす事件と並行するようにサックスは別の殺人事件を追う。サックスの追う事件は警察中枢の汚職へと展開していき本線であるウォッチメーカーの事件へと合流していくことになる。

     この事件では後にキャサリン・ダンスシリーズの主人公となるダンスも登場する。彼女は尋問のプロだ。キネシクスという技法を用いて容疑者や目撃者から情報を導き出す。キネシクスとは相手の身振りや挙動から心理を分析し論理的に証言を引き出す技法だ。ダンスの尋問の技も、この作品でお披露目となる。ライムシリーズからスピンアウトしたキャサリン・ダンスシリーズの1作目であるスリーピング・ドールにも期待が膨らむところだ。

     感想となるが、今回は全体として大雑把であるという印象を受けた。ディテールはしっかりしていて楽しめたが読後に伏線を無理やり合わせたという印象が強かった。整合感に欠けていたように思う。ライムシリーズはどんでん返しの連続とアクションと推理分析、人間ドラマという要素が魅力のシリーズだ。要素が多い故に全体の整合感が得られない事が多いのも特徴としてあるように思う。次回作とウォッチメーカー事件の続編に期待したい。

著者プロフィール

1950年、シカゴ生まれ。ミズーリ大学でジャーナリズムを専攻。雑誌記者、弁護士を経て40歳でフルタイムの小説家となる。科学捜査の天才リンカーン・ライムのシリーズ(『ボーン・コレクター』他)や“人間嘘発見器”キャサリン・ダンスのシリーズ(『スリーピング・ドール』他)は全世界でベストセラーになっている。ノンシリーズ長編小説、短編小説など人気作品も多数刊行
『ブラック・スクリーム 下 文春文庫』より

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