- Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163295800
作品紹介・あらすじ
すぐ隣で、ずっと遠くで、耳をすませばきっと聞こえる。芥川賞作家にして史上最年少の川端賞作家がすくいあげる6つの小さな奇跡。
感想・レビュー・書評
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六つの短編から聞こえてくる様々な お別れの音。前から後ろから斜めから、流されるように人混みを歩いているけれど、今少しだけ肩が触れただけのあの人、一瞬だけ目と目が合ってすれ違ったあの人、私も彼等もお互いのことは何も知らない。世の中にはこれだけ沢山の人がいるのに、出逢って関わりを持つのは本当にひと握り。そんな風に奇跡的な確率で出逢えたからこそ、お別れはいつだって心寂しい。何度もドアの閉まる音が聞こえた。一度たりとも同じ音などないのは、その一つ一つに特別な想いがある証拠なのでしょう。
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大体の短編集は、代表作?がタイトルになっていることが多いのだけど、この本には「お別れの音」という作品は収録されていない。
センスのいいタイトルだな、と思う。
どんな音か、なぞってみたくなる。
「うちの娘」という作品が入っている。
毎日、大学の学食でわかめうどんばかり頼む女の子がいる。
彼女をまるで母親のような眼差しで見つめ、彼女の生活を心配する店員のおばちゃんがいる。
おばちゃんには、おばちゃんの家庭がある。
なのに、そこから浮き出して、その女の子に肩入れをしてゆく光景が、なんだかとても切ないのだ。
あたたかいのではなく、何か寂しい。
女の子には、女の子に似合わない嫌味な彼氏が出来る。その彼氏に、おばちゃんは一言物申したことで、家族に非難されてしまう。
不思議と、残る話。良かった。 -
この作家さん面白いわ。特にこれ気に入った。特に新しいビルディングと役立たずとうちの娘が僕的に気に入った。話の進め方や‥いや作り込みかな、上手いな。
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読んでいると、居心地の悪い気分になってくる。
それはつまり、主人公たちが居心地の悪い思いをしているからだ。
結論はきっと読む人によって違う。
ただ、私たちの生活のひとこまにもきっとある
どう捉えていいか分からない瞬間を、作者はとても鮮やかに描いていて
どの話もまるで目の前で起こっていることのようだ。
最終話「ファビアンの思い出」は、堀江敏幸を思わせる清冽な印象。
ささやかな話であるが、温かく、やさしい。
作者の今後の新たな展開を思わせる作品。 -
青山七恵さんは本当に短編がうまいと思う。
長編も読んだが、少し冗長なきらいがあり、わたしは途中退屈した。
だが、短編はそんな間を与えない。
二十代の若さで、これだけ老成していて、かつ完成度の高い短編を書ける作家を他には知らない。
男女こだわらず、あらゆる世代を主人公に書ける人だ。誰にもできることではない。
単行本のタイトルは『お別れの音』。
表題の作品はなく、いろんな文芸誌で発表した短編をまとめてあり、なるほどどの作品も、別れがテーマとなっている。
印象的な作品は、「新しいビルディング」。
派遣のOLマミコは、たったひとりの女性上司とふたりきりで仕事をしているが、まったく心が通わない。その上司が妊娠して退社することになり、初めてつながりを持てそうになるが、時は遅すぎた。
イマドキの若者の、一見、複雑で冷淡な外見と、相反する弱々しく人恋しい精神のさまが、念入りに描かれている。
難しい表現はまるでないのに、なぜかどの短編も格調高い。
次作も楽しみ。 -
青山七重さんの作品は装丁が素敵でいつも気になっていました。
大袈裟でなくさりげなく描いている空気感に、色とか匂いを感じる種類。感傷的すぎない距離感だけど、自分のなかの思いあたる部分を掘り起こしてくれる感じがいい。 -
フラットに感じるいろいろが心地よかった。
靴の修理屋のがいちばんよかったかな。
なんとなくわかるようなかんじ。 -
「お世話になっているみなさん このたび再転職することになりました」 まったく覚えのない人から送られてきたメール。その後も近況が届いて・・・。『ニカウさんの近況』。大きな事件は何一つ起こらない。日常の中で聞き逃してしまいそうな、ほんの少し気になった人や二度と会うこともない人たちとの小さな別れの音を切り取って見せる短編集。
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途中まで。面白いというか、しんみりと浸透してくる塩梅が好き。
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青山さん初読み。芥川賞作家なので、大丈夫かなと手が出なかったが、読んでみたら好みの短編集。静かで凛とした文章で、「日常」が描かれる。どうにもこうにも「日常」。大きな出来事は起こらない。でも小さな、小さな些末な出来事や思いが重なって、時が流れていく様子が巧みに表現される。日常は程度も距離も様々だが、出会いに満ちている。良くも悪くも何事も人間関係。一方だけが勝手な人間関係を築き、やがて別れを迎える。取るに足りない、無意識の心の動きが何かを覗き込むようで面白い。言葉の心地よい世界にすっぽり。