お言葉ですが 10

著者 :
  • 文藝春秋
3.82
  • (3)
  • (3)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 33
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163679808

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「お言葉ですが…」は、言葉についての話という意味と、貴下の意見に同意できませんというという意味の掛詞だそうである。相変わらず、新しい知的興奮と驚きを与えてくれる。
    ・四字熟語という言葉は比較的新しいもので、四字成語というべき。歴史的に由緒来歴のある言葉を意味しているのだろうが、たくさん出ている四字熟語事典は節操のないものばかりである。
    ・音楽学者兼常清佐の数々の毒舌が面白い。ピアニスト無用論やアララギ派を馬鹿にした論評など世間を騒がせた。斎藤茂吉は、頭から湯気を立てて怒ったらしい。それをまた面白がってからかったとか。
    ・ドナルド・キーンさんが源氏物語の研究を目指した経由。
    ・平成の大合併のあれこれ。呆れることが多い。
    ・ハトは八幡様の使いで、そこから全国の神社・仏閣に広がった。
    ・国際語になったTSUNAMIのうんちく話。江戸時代から津波は使われるようになった。中国だけはTSUNAMIを採用していない。
    ・森鴎外の甘ちゃんパパぶりの話。
    ・夏目漱石が意気投合した祇園のお多佳さん。
    ・寺田寅彦の泣ける「團栗」というエッセイ。
    ・古語で短歌・俳句を作るなら「何々している」という表現を使うなという荻野貞樹先生の本の話。昔の人の作にはほとんど見ないという。
    ・野球で使われている軍隊用語が多い。
    ・特攻隊では出撃の前にヒロポンを使ったとか。

  • 最初のお題が四字熟語。
    二字以上の漢字で作る言葉が熟語。
    四字で作れば四字熟語?
    漢字四つでできた言葉=四字の熟語とはならないだろう。

    「焼肉定食」とか「藤原鎌足」とかね。
    でも「天手古舞」「我武者羅」「滅茶苦茶」になると、判断に迷うね。
    と言うわけで、『四字熟語辞典』が売れているのだそうです。
    私が学生の頃は『故事成語辞典』はあったけど『四字熟語辞典』はなかったような気がします。

    目を酷使する仕事の高島さん、とうとう本を読むことが難しくなって本を読んでくれる人を探すことになります。
    が、その前に本を読む機械なんてのも試してみます。
    2005年頃の時点で、6万円くらい。
    やや平板で抑揚に乏しいけど、聞いて十分にわかるそうです。
    おお、未来に少し光明が…。

    森鷗外のことについて少し。
    彼は完璧と言っていいほど周囲の期待に応える人だった。
    息子として親の期待に応え、職務を忠実に遂行したうえに作家としても大成した。
    子どもたちにはとても面倒見のいい父親だった。
    周囲の若い人たちにも温かく親切であった。
    誰に聞いても鷗外の人柄を褒めるのだが、ひとり芥川龍之介だけが「インヒューマン(人間味がない)」と言ったのだって。

    それを読んで、どうしても「舞姫」を思い出してしまう私。
    ドイツ留学中に付き合った女性に「必ず迎えに来るから」と言って迎えに行かなかった鷗外。
    と言うか、別れ話を友だちにさせたんだよね。

    親の期待に応えるために、自分の心を殺した鷗外。
    と思っていたけれど、もしかすると恋愛の方も彼女の期待に応えただけで、鷗外自身はそれほどではなかったのかもしれないなあと、今になって思ってみたり。
    誰にでもいい人だったけど、本当の鷗外の姿を知っている人は誰もいないのね。

    鷗外自身も
    “……併し自分のしてゐる事は、役者が舞台へ出て或る役を勤めてゐるに過ぎないやうに感ぜられる。その勤めてゐる役の背後に、別に何者かが存在してゐなくてはならないやうに感ぜられる。(…)赤く黒く塗られてゐる顔をいつか洗つて、一寸舞台から降りて、静かに自分といふものを考へて見たい、背後の何物かの面目を覗いてみたいと思ひ思ひしながら、舞台監督の鞭を背中に受けて、役から役を勤め続けてゐる。”
    と書いている。

    まだ日本語訳が出版される前のダンテの『神曲』を、絶賛した人たちのひとりが鷗外だった。
    文学的価値を認めてのことだと思っていたけれど、もしかしたら長所や短所と言う人間的な、個人的な部分をそぎ落とさないと到達できない天国への道を、自分の生き方に重ねあわせて見ていたのかなと思った。
    考えすぎかもしれないけれど。

    「週刊文春」に連載されているコラムをまとめたのがこのシリーズだけど、連載は続くが本にするのはこれで最後と言うことになった。
    なぜなら本が売れないから。
    (実際は出版社を変えて、別巻として刊行されています)
    本が売れないっていうけど、私ずいぶん9巻も10巻も本屋さんで探したけど、出会えなかったんだよ。
    8巻まではちゃんと買ってたんだから。
    多分初版の数を減らしたんだろうなあ。
    こんなに面白い本なのになあ。

  • 【図書館】
    高島先生、相変わらずいいお味を出してらっしゃいます。

  • 文藝春秋発行版はこれで終わり。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

高島 俊男(たかしま・としお):1937年生れ、兵庫県相生市出身。東京大学大学院修了。中国文学専攻。『本が好き、悪口言うのはもっと好き』で第11回講談社エッセイ賞受賞。長年にわたり「週刊文春」で「お言葉ですが…」を連載。主な著書に『中国の大盗賊・完全版』『漢字雑談』『漢字と日本語』(講談社現代新書)、『お言葉ですが…』シリーズ(文春文庫、連合出版)、『水滸伝の世界』『三国志きらめく群像』『漱石の夏やすみ』『水滸伝と日本人』『しくじった皇帝たち』(ちくま文庫)等がある。2021年、没。

「2023年 『「最後の」お言葉ですが・・・』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高島俊男の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×