地球最後の日のための種子

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163731506

作品紹介・あらすじ

北極圏の凍土の地下にある「地球最後の日のための貯蔵庫」。それは作物の遺伝子を守り、その多様性を伝えるための施設だ。世界を駆けめぐり、あらゆる品種の種子を集めた一人の科学者。その生涯を追い、環境保護と私企業の問題、遺伝資源の保全と知的財産権の対立を描き出す科学ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 農業という営みをひとつの巨大ないきものとしてみたとき、シードバンカーは白血球的な役割を担っている。

    「もし種が消えたら、食べ物が消える。そして君もね」

    本書の主人公、ベント・スコウマンがよくつかったジョークである。
    農作物は、効率のもっともよいひとつの品種に集約されがちである。が、このことは疫病が発生した場合、植えてあるすべての作物がそれに抵抗できないというおそるべきリスクを抱えていることになる。

    これに対抗する唯一の方法は、ただひたすら多用な種子を確保し、その疫病に耐性をもつ種子をみつけ、掛け合わせて耐性を持たせるということのみだった。そしてそれこそが、シードバンク(種子銀行)の役割でもある。

    その重要性に反して周りの理解を得にくく、スコウマンたちはきびしい逆境を生きてきたといえる。しかしそれでも疫病から、飢餓から、かれらはぼくらの食を守ってきた。この本は農業の現実をつたえる、訴えるノンフィクションであると共に、ベント・スコウマンというおとこの英雄譚でもある。

  • 夏に『かむ去りなあなあ・・・』を読んで、私の中でノーマークの林業というものの面白さちょっとだけ感じました。
    私は農業の方が林業より知っていると思っていましたが、今、農業の深い現実を知ってしまいました。

    大昔、小麦を作り始めた人たちは、その辺に生えている小麦の原種の中から扱いやすい種類の種を翌年にまくことを学びます。
    そして、数千年たった今、改良が重ねられた小麦は大規模農家で優良な品種のみが植えられるようになります。
    そこまでは、私の中でも想像がついていました。
    ところがある日、黒カビ病が発生して、そのカビに耐性のない小麦は全滅してしまいましたとさ。
    そこからがこの本の主題になります。
    小麦の農業が初めて起こった地方に今も細々と生えている、原種の小麦の中からそのカビに耐性のある種類を見つけだし、交配して新しいカビに強い品種を作り出すのです。
    何千年も前に農業には不向きと見向きもされなかった品種が人々を飢えから救う、だから、すべての種をいつでも発芽させられるような状態でとっておかなくてはならない、ということです。

    全部語ってしまいたくなるほど面白かった、注釈が山ほどついているような本は読みにくいと思っていましたが、事実のあまりの面白さにさらっと読めてしまいました。
    こんなに大事なことなのに、ほとんどの人がその事実を知らず、世界でほんの数人の人のみが関わっている、というこんな世界があったんだ。

    地球に巨大隕石が落ちて、農業が壊滅的被害を受け、新しい社会を築きあげようという時、永久凍土の中で眠っている種があるから大丈夫です。
    鍵が三カ所にしか保管されていないそうですから、まずはそれを取ってノルウェーの永久凍土の土地に行き、その種たちを眠りから起こしてあげましょう。
    ・・・って、かなり大変。
    日本沈没のラストシーンで、再び人類に巡り会えるかどきどきしたくらい、大変そう。

  • 邦題や売り文句は”doomsday vault”ことスヴァルーバル世界種子貯蔵庫を全面に出しているが、原題の”The viking in the wheat land”が示すように、種子貯蔵庫のことは一部だけで、植物学者ベント・スコウマンの伝記である。彼の生涯を通じて、世界中を探検したプラントハンターたちに始まり、品種改良による「緑の革命」を主導した農学者たちを経て、現代の遺伝子組み換え技術の発展までの歴史が語られる。

    しかしパッチワーク的な叙述スタイルというか、著者の視点がどこにあるのか分かりづらく、扱われている素材は興味深いものの、読後感はやや消化不良。こっちの基礎知識が足りぬせいかもしれないが、全体図が見えずに読みづらかった。また見た目より分量の少ない本で、あつかう範囲は手広いものの、細部の突込みがもっと欲しいと感じる。なんか、こう作文っぽい。

    さて、全体を通して考えさせられるのは、公と私の棲み分けについて。生物多様性や遺伝子保存のように、短期的な利益に結びつきにくく、しかもフリーライドが生じやすい公共財は、やはり公的セクターで責任を持って行わなければならないようだ。種子貯蔵庫なんかまさに民間では無理な例。一方、私企業も遺伝子組み換えには飛びつくので、資金、そして主に人材の配分をめぐってコンフリクトが起こる。CIMMYTも資金不足、人材不足に苦しんだ。これはバランスが必要とされる政治的問題。

    遺伝子組み換えひいては緑の革命により、世界の畑での遺伝子の単一化が進んでいるという説も。スコウマンらの立場は種子銀行のバックアップで多様性や病害への対応は担保されていると言うもの。種子銀行で人為的に多様性を保つのか、それとも、ある程度自然の成り行きというか、実際の田畑で多様性を保つのか。現実には、高収量品種があれば誰でも育てたいだろうから、単一化を人間の手で意識的に補正してやらないといけないのだろう。

    作物の原産地近くでは遺伝子の多様性が高いと。アフリカで人間の遺伝子の多様性が高いのと一緒ですね。

  • ゲイツ財団も寄付していたとは!世界を守る試みです!

  • ノルウェーの永久凍土に「地球最後の日のための貯蔵庫」は存在し、世界中の作物の種が保存されている。気候変動や病気によって農作物に甚大な被害が発生したとしても、残された種子の遺伝子で新たな品種を作り出し人類の飢えに備えるために存在している。SFの世界かと疑ってしまうが、これは、現在進行形で行なわれていることなのだ。

  • [ 内容 ]
    北極圏の凍土の地下にある「地球最後の日のための貯蔵庫」。
    それは作物の遺伝子を守り、その多様性を伝えるための施設だ。
    世界を駆けめぐり、あらゆる品種の種子を集めた一人の科学者。
    その生涯を追い、環境保護と私企業の問題、遺伝資源の保全と知的財産権の対立を描き出す科学ノンフィクション。

    [ 目次 ]
    プロローグ 小麦を全滅させる疫病
    第1章 世界の食糧を護る
    第2章 種子の銀行の誕生
    第3章 シードバンカー出動
    第4章 辺境の畑に満ちる多様性
    第5章 遺伝子組み換え作物の登場
    第6章 種の遺伝子情報は誰のものか
    第7章 遺伝子銀行の危機
    第8章 地球最後の日のための貯蔵庫
    エピローグ すべては保全されなければならない

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 読売新聞の書評を読んで、これは読まねばと思いつつ随分時間が経ってからの読了である。現在者会が抱えている問題を考えるためには読んでおくべき本であると思う。
    農耕を始めてから以来、人類はより効率よく収穫量が上がり、病虫害に強い作物を選抜してきた。生物の進化同様中世までの間はゆっくりと時間をかけた品種改良であったが、近世近代現代と、品種という概念の確立、遺伝法則の知見、遺伝子の発見という技術開発の中で加速度的な勢いで新しい品種が開発されるようになった。
    効率の良い品種を求める当然の欲求は、あらゆる農作物で同じ品種がどの畑でも栽培されるようになる。グローバリゼーションは農業にも及ぶので、この動きは世界規模になる。じゃかイモならこの品種というものが世界規模で栽培されるようになる。
    品種改良は農作物だけでなく、病虫害の方でも起こるので病気に強い作物であっても次の世代ではその作物に致命的なダメージを与える病原菌が生まれる可能性は十分ある。ひとたびそんな病気が流行れば単一品種の作物を育てている畑は全滅になる。病気は次の畑へと伝染し、さらに国境を越えて蔓延していくのである。
    生物進化に対する知見を持った人類側でもそんな現象に手をこまねいているわけにはいかないので、その病原菌に耐性をもつ品種を開発しなければならない。
    その時に必要なのが多様な品種の種である。実の付き方が悪い、寒さに弱い、不稔である等で栽培されなくなった品種の中で新たな病原体に耐性を持つ遺伝子を発見する必要がある。
    そのために、栽培されなくなった品種であろうが、原題までに存在した品種は一つでも多く種子の状態でストックされていなければならない。
    本書はそういった事態に備えて種子貯蔵庫を守り育ててきた人々の物語である。なかんずく本書では、植物学者ベント・スコウマンの生涯を追うことで、彼の理念が北極圏の凍土地下に作られた「地球最後の日のための貯蔵庫」に結実するまでを描く。
    昨今、生物多様性ということが良く言われるが、農作物の世界では生物多様性が人類の永続的な存続のために不可欠であることがよく判る。

  • (後で書きます。資源を公共の場に確保することにおける負け戦の話の風情。面白い)

  • 所々泣く。科学者の真摯な志。

  • 「種子が消えれば、食べ物が消える。そして君も。」ベント・スコウマンは小麦の遺伝子の多様性を守るために世界中を回り続け種子を集めた。生産性を高めるために品種改良を続けた結果、あらゆる農家が同じ品種を作りたがる。1998年ウガンダで発生した黒さび病は2007年にはケニヤの小麦の80%を死滅させた。耐性遺伝子を持った小麦の導入が対抗策だが菌も変化するため戦いは続く。
    こういった病気の耐性遺伝子遺伝子はこれまでの品種改良で捨てられてきた品種の中に存在する。種子を守ることは食べ物を守ること、こうして集められた種子は北極海の永久凍土に保管されている。

    ジーンバンクは世界中にいくつもありかつては日本が予算の多くを負担していたが、現在の最大のスポンサーはビル&メリンダ・ゲイツ財団だそうだ。一方、遺伝子組み換え作物は増え続け世界のカロリーの1/4を賄う小麦が次のターゲット。ちなみに一時話題になった2世代目は発芽しない種子はあまりに反対が強く現在では販売されていないらしい。2世代目は発芽するが特徴が消える種子を開発中だとか。遺伝子の特許を認めることはバイオテクノロジーによる品種改良を後押しするが、囲い込みにより利用できずに消えて行く種子が増えることで多様性にとってはマイナス面もある。スコウマンはジーンバンクは公共のものと言う信念から生物特許には反対ながら流れは止められないと諦観していた。バイオテクノロジー自体には肯定的だったらしい。

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