夜蜘蛛

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (147ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163817309

感想・レビュー・書評

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  • 硬質な文体が重く暗いテーマと相まって深く心に響く。のしかかってくるように言辞がひたひたと迫ってくる心地よさは田中氏ならではのもの。今回は読みやすさもあり痺れるような快感を味わえた。戦争との対峙、父子の相克、家族の中の父の立ち位置、老い、死生について、時間をかけ丁寧に描出されている。文体が醸す静謐の中で一つ一つのテーマについてじっくり考察することができた。

  • 「文学界」で読んだ。
    期待値が高すぎたのか、なんとなく消化不良感が残った。
    しかし、中盤あたりまでは引き込まれたし、まあ、こんなもんか、という感じで★3つ。
    単行本化に際して手が入ったのか否かもちょっと気になるので、また読んでみてもいいかな。

  • 芥川みたいな手法~自殺をテーマに扱う作家の私に記者を通して体験談を話したいという70代の男性が目の前では語らず,長文の手紙を送ってきた。父親は家業を継ぐために大阪修行後,故郷に帰るが実家を継がず,一度目の出生後に結婚した母の実家の運送会社を手伝い,二度目の出征で重慶手前で待ち伏せに遭い,部隊は全滅,父も脹ら脛に国民党軍の貫通弾を受け,死んだ振りをして敵兵に手帳を奪われるだけで生還した。三度目の出征は内地で終えた。弟や妹が死に,母が死んで昔語りを始めるようになった時,歌舞伎の話・日露戦争の話・戦争の話が混じり合い,父が乃木大将みたいだと云うと,父も何となく納得したような顔をしている。冷凍装置を販売する会社に勤める私は,父が脳血栓で倒れてから妻・娘との三人暮らしに父を加えるようになったが,父も遠慮があるようで,妻も娘も私も同様だ。孫娘におむつをするように云われ,私に云われるとこれもすんなり受け入れる父であったが,貫通弾を受けた左足が壊死を起こし足首から先を切断することになって,姉が任せてはおけないとしゃしゃり出てきた。病院付属の施設に入って,昭和天皇の容態が悪くなり,呼ばれた私に父はもうすぐお別れだと告げ,天皇の葬儀が行われる日,施設でシーツを裂き,ドアノブで首を吊って死ぬ~読者からの体験談の話を種にしているという手。世代的にずれるので,ちょっと違和感がある。創作なのだろう。こんなに理路整然と書ける人はそうはいない

  • 「お父ちゃんは乃木大将とおんなじだね」 父が戦争中の思い出を語ったのを聞いた若き日のA氏が何気なくつぶやいた一言.昭和天皇の大喪の礼の朝、自死したA氏の父の遺書にこの一言が書いてあった.淡々と進む話しが最後に重くなる.

  • 作者によると、純文学だそうだ。私には文学の分類は、よくわからない。ただ、親の老いていく姿、支えることが出来そうもない私の境遇を、読みながら考えることが出来た。

  • 「夜蜘蛛は親に似ていても殺せ」

    親にこんな風に死なれたら嫌だな。

  • これが純文学なんでしょうねぇ。

  • これまでの作品と同様に、父と子という題材ではありましたが、物語の射程が『時代』というものまで広がったようであり、そのため従来作よりも読みやすい、読者が感情移入しやすい仕上がりになっています。

    これから親の介護を考えなければいけない世代として、いろいろな思いが湧き上がってくると同時に、今は亡くした祖父母にも思いを馳せることができ、分量も長くないので一気に読めてしまいました。

    従来作のような刺々しい、身近な人との関係性を否定しながら逃れられないような感情は直接は表現されていませんが、このような関係性への客観的な距離感を持つために、直接の書き手ではなく手紙というギミックのを用いて、自分の作風からの脱皮を図っているように思えました。次回作も楽しみです。

  • 雑誌でこの作品を読んだ。
    作家に読者が直接あって話がしたいと言う。
    自分の話を作品化してほしいと頼む。
    直接会って話をするが、やっぱり直接では話しづらいから手紙を書くという。
    その手紙が小説になっている。
    手紙の中で語られるその人の父のこと、そしてその人自身のこと。
    戦争に向かった人たちの心。
    老いて死んでいく姿。
    とても重たい雰囲気の話。
    でも、すごくいろいろなことを考える。
    こうあるべきだ、っていう精神論を私たちはどう受け止めるべきなのかなと思う。

  • ある男の自殺にいたるまでの手記、という形式でその出来事が語られていく。

    もちろん男が自殺していることはわかっているんだけど、それでも読んで行ってそう至る部分ははっとする。

    硬い文章、硬い構成。良かった。

    デビュー作の次に好き。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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