フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163901411

感想・レビュー・書評

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  • ロイヤルカナダ銀行に勤める日系カナダ人ブラッド•カツヤマが、会社を辞めて公正な新しい取引所IEX(Investors Exchange)を設立し、High Frequency Traderに反逆する物語り。

    ルールに則って、時にはルールを自分に都合が良いように変更させて、自分ら以外の全ての市場参加者をカモにする、卑怯でかつ超絶優秀なウォール街の人たち。

    そんなことに偉大な才能を使うのは社会の損失なので、そういう出し抜き行為を無効化することに全力を尽くすブラッドたち。終盤にこの動きに同調するマネージャーがゴールドマンサックスのなかから登場するところが最大の救いだった。


    P4 ジェレミー•フロマーCEOの発言
    「自分がファーストクラスに乗っているだけではだめだ。友人たちがエコノミーに乗っていると知っていることが大事なんだ」
    (感心するくらいのくそ野郎発言だ。)

  • アメリカはウォール街。欲望渦巻く株式市場。21世紀現在は、コンピューターが支配する魑魅魍魎なブラックボックス。
    コンピューター回線の速度、万分の1秒、億分の1秒、というミクロな時間のズレを利用して、一般投資家を食い物にする「フラッシュ・ボーイズ」という悪党ども。
    その「フラッシュ・ボーイズ」を相手に、一介の日系カナダ人の銀行員が、徒手空拳で戦いを挑む。
    ノンフィクションなんです。実話です。

    2014年にアメリカで出版された本です。つい、最近の本ですね。
    マイケル・ルイスさんは、友人に勧められて「マネー・ボール」を読んで大感心。

    「フラッシュ・ボーイズも面白いですよ。株式市場の話です」
    「株に詳しいの?」
    「いえ、まったく知りません。でも、面白かったです」

    という友人のオススメで。

    自慢じゃありませんが、株式のことはテンで判りません。正直、興味もありません。人生で一度も買ったことがありません。ぜんぜん、何にも知りません。
    高速インターネットとか光回線についても、同じくです。
    それでも、矢鱈と面白かったです。

    本文中でも触れられていますが、<ミステリー>と<七人の侍>なんです。

    どういう仕掛けで「フラッシュ・ボーイズ」たちがずるをしているかというと、実を言うと読み終えても詳しくはわかりません(笑)。
    なんとなく分かったのは、つまり、「後出しじゃんけん」なんです。
    本文で触れられていますが、「絶対負けないジャンケンロボット」というのが存在するそうなんです。
    人間相手にジャンケンをして、ゼッタイに勝つ。
    どうしてかというと、当然からくりがあります。
    そのロボットのコンピューターは、相手が出したのが、グーチョキパーどれか、視認してから、それに勝つように出してるんです。
    なんだけど、その認知判断動作が、人間の感覚では早すぎて、後出しと認識できないんだそうです。

    まあつまり、そういうことなんです。

    まず、そういうことでずるをしている奴らがいるらしい、という気づき。
    カナダの二流の銀行の日系人、ブラッド・カツヤマさんが気づきます。
    そして、ほとんど個人的な捜査を続けていくと。
    なんと、その「フラッシュボーイズ」たちは、株式市場そのもの、あるいは投資銀行と実質上結託してるんですね。
    だから、年金などを投資しているいたいけな投資家たちは、ゼッタイに勝てない。
    それも、複雑怪奇な仕組みの上に、キワキワながら合法の砂上に立っている楼閣なわけです。

    ただ、それを誰も知らない。
    知っている人は言わない。

    さあ、ここからブラッド・カツヤマさん。

    彼らと結託すれば良いわけです。
    勝ち組に入れば済むわけです。

    けれども。釈然としない。

    独り、真相究明と糾弾、そして広報と対策に立ち上がる訳です。

    この蟷螂の斧のような戦いに、徐々に仲間が集まってくる。
    ここのところの見せ方が実に上手い。書き方、読ませ方ですね。
    もう、完全に「水滸伝」や「七人の侍」の世界なんです。
    奇妙奇天烈、個性横溢、変人奇人な金融マンや証券マンやSEや理系の天才などが集まってくる訳です。

    そして、とうとうブラッドさんは「新しい株式市場を作る」という最終勝負に出る訳です。
    大手の圧倒的な迫害や妨害に晒されながら、「フェアな株式市場」を立ち上げる。
    誰もが、あっというまに潰れると予想していた…。
    もう、この辺のワクワク感は、「プロジェクトX」なんです。風の中のすーばるー。

    最後は、ハッピーエンド。

    もちろん、「フラッシュ・ボーイズ」的なずるい手段や、それを覆い隠す不要に複雑な仕組みやら、と言うこと自体は解決しません。
    それは日本でも、企業でも、行政でも、僕らが安心している「世の中の仕組み」の隙間にゴキブリのように入り込んでいるんだと思います。
    それを黙認したり承諾したりすることで、利益を得ている人も大勢いるんだと思います。

    そんな現実の厳しい寒風も感じさせながら、エンターテイメントとしての読み物になっている。
    「マネー・ボール」もそうですけど、マイケル・ルイスさん、すごい。
    日本語の作家さんではありませんが、同時代にこういう人がいるっていうのは、わくわくしますね。

  • 高速取引行為、高頻度取引行為、HFT業者、普段の生活の中では見えてこない、市場が電子化されたこと等により生まれた、スピード勝負の取引ビジネス。彼らの中で勝負しているだけならよいが、それにより他の投資家が不当な損失を被っている、金融市場の安定性が脅かされている、となると見過ごすわけにはいかない。
    このような新たな取引者の実態と、それに対抗しようとした人達の戦い、大手金融機関や政府関係者の動きなど、10年ほどたった今でも、どこかで戦いが行われているだろうと思える、大変参考になる一冊。

  • 10億分の1秒単位で取引を繰り返す超高速取引業者が、証券取引所や機関投資家と投資家の間に入ってサヤを抜き、ボロ儲けしている事実を暴いた本。

    恐ろしいのは、この行為が法律に違反しておらず、また、証券取引所も超高速取引業者に便宜を図ることで多大な利益を得ていたこと。

    損をするのは個人投資家や個人が預けた年金基金のみ。

    これは昔の話ではなく、今の日本にも超高速取引業者は進出しており、東京証券取引所は彼らに便宜を図ることで、年間20億円もの利益を上げている。

  • 金融取引はとてもゲーム的な要素が強い。資産をより多く増やすという分かりやすい目的があり、ひたすらにあるシステムにおける攻略法を極めたものが勝利するゲームだ。
    複雑な現実を相手にするため、攻略法には様々なものがあるが、この本に書かれている高速取引業者のやり方ほど単純明快なものはないだろう。

    これほどまで金融商品の取引速度にエネルギーを注いで成功した人がいるとは本書を読むまで全く知らなかった。しかし、いつの時代も良心の問題から圧倒的な勝者を生むシステムに疑義を呈する人間はいる。ブラッド・カツヤマは高速取引業者優位の時代におけるそんな人間だ。新しい公正な取引所を作るというスケールの大きさは、読み進んでいても驚くばかりだった。
    ただ、終章で暗に示されていたように高速取引業者もさらに上の段階を目指しているのだろう。金融取引における駆け引きが、本能に近いところで人間を惹きつける限りこのゲームはまだまだ続くのだろう。

  • まさに虚業。
    フラッシュボーイズを他の世界で役立てられないか思案し始めている。

  • 面白かった。超高速取引について。衝撃的なのは、あとがきにも日本の実態が書かれてるが、情けない限り。同じような取引所がないと、日本の株取引は海外にカモられるばかりだ。

  • 上司におすすめ頂き、今更ながら読了。
    アメリカ株式市場における「後出しじゃんけん」を暴き、それに対抗する仕組みを作る一連の流れを小説化したもの。
    金融用語は飛び交うものの、ストーリー仕立てのドキュメンタリーなので楽しく読めました。ナノ秒では読めなかったけど(笑

    読後RBCへの印象が相当良くなります。GSは…したたかだなぁ、という感じでしょうか。

  • 安心と信頼のマイケルルイス。アメリカは良くも悪くもダイナミックだなあ、とか、やはりこうなると少なくとも時間単位以上のスパンで取引しないと勝ち目は薄いんだろうなあ、とか、ぼんやり思いながらも、圧倒的勧善懲悪現代版七人の侍面白いいいと読める。

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