CRISPR (クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907383

作品紹介・あらすじ

「君の技術を説明してほしい」ヒトラーは私にこうたずねた。その顔は豚である。恐怖にかられて目が覚める━━。ヒトゲノムを構成する32億文字のなかから、たった一文字の誤りを探し出し、修正するという離れ業ができる、その技術CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)。2012年にその画期的遺伝子編集技術を「サイエンス」誌に発表したジェニファー・ダウドナ博士は、またたく間に自分の開発した技術が、遺伝病の治療のみならず、マンモスを含む絶滅動物の復活プロジェクト、農作物の改良など燎原の火のように使われていく様におののく。豚の内蔵を「ヒト化」し、臓器移植するための実験も行なわれた。人間は自らの種の遺伝子までも「編集」し、進化を操るところまで行ってしまうのか?ノーベル賞確実と言われる画期的技術を開発した科学者の唯一の手記を独占出版。プロローグ まったく新しい遺伝子編集技術の誕生細菌がウイルスに感染しないために持っている免疫システムを、遺伝子の編集に利用できる。私たちが、その技術CRISPR(クリスパー)-(-)Cas9(キャス9)を発表したのが二〇一ニ年。以来、遺伝子を数時間で編集できるこの技術が、人類史上稀にみない変化をひき起こしている。第一部 開発第1章 クリスパー前史遺伝性疾患は、DNA上の配列の異常によって起こる。では、それを編集修正することができれば病気は治療できるのではないか? ある遺伝病患者の奇跡的回復はそのことを示唆していた。クリスパーが開発されるまでの、人類の遺伝子編集研究の歴史を辿る。第2章 細菌のDNAに現れる不思議な「回文」動物のウイルス感染の防御としてのRNA干渉を研究していた私のもとに、見知らぬ研究者からの不思議な電話がかかる。「クリスパー」。彼女は言った。それは細菌の中のDNA塩基配列に見られる不思議な「回文」のことを指していた。第3章 免疫システムを遺伝子編集に応用する CRISPRのⅠ型は、DNA塩基を高速で破壊する。ブレークスルーはⅡ型の方にあった。Ⅱ型のクリスパー特有の酵素Cas9 を研究するフランスの研究者から共同研究の申し出があった。それが、特定の場所で遺伝子を自在に編集できるツールの発見の鍵になる。第4章 高校生も遺伝子を編集できる私たちが二〇一ニ年に論文を発表してから、堰を切ったようにCRISPRの多用な利用法が発見されている。私を含む科学者は、医療ベンチャー企業をたちあげた。これまでの六〇〇分の一以下のコストで、短時間でできるこの「魔法の杖」を誰もが使い始めた。第二部 応用第5章 アジア象の遺伝子をマンモスの遺伝子に変える CRISPR を利用した様々な試みが,世界中の研究室であるいは企業で始まっている。ウドンコ病の遺伝子を除去したパンコムギの作成。角の映えない牛。ハードード大はマンモスを現代に蘇らせるプロジェクトも始めた。が、倫理的境界をどこにひくべきか?第6章 病気の治療に使う CRISPR は7000以上ある単一性遺伝子疾患の治療に福音となる。先天性白内障、筋ジストロフィーなどではすでにマウスでの治療は成功済みだ。TALENを使った遺伝子編集では末期の小児ガンを治療した例もある。その最前線を報告する。第7章 核兵器の轍は踏まない豚の顔を持つヒトラーは私にこう語りかけた。「君の開発した素晴らしい技術の利用法を知りたい」。CRISPRは核兵器の轍を踏むのか? そうさせないためにも、社会を巻き込んだ議論が必要だ。私たちは「サイエンス」誌によびかけの一文を掲載する、第8章 福音か疫災か?私たちの「よびかけ」論文の直後に、中国の科学者による人胚にCRISPRを使った論文が発表された。米国の諜報機関はCRISPRを「第六の大量破壊兵器」と指摘する報告書を書く。人間が人間の遺伝子を改変することはどこまで許されるのか?エピローグ 科学者よ、研究室を出て話をしよう細菌の免疫システムというまったく関係のなさそうな研究からこの画期的な新技術が生まれたように、科学においては、基礎研究ほど大事なことはない。そして科学が行なっていることを一般の人たちと共有することが、より一層重要な時代になっている

感想・レビュー・書評

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  • ノーベル賞をとった遺伝子編集技術「クリスパー・キャス9」の発見者の1人、ジェニファー・ダウドナさんが2016年に出版した書籍。

    革新的な素晴らしい技術=明るい未来!…ではないこと。それをこの本から知ることができました。もっと一般の人たちも、技術のいい面と悪い面を考える機会があるべきだとも思いました。いい本を読みました。


    第1部では、遺伝子編集技術であるCRISPR-Cas9を発見するに至った経緯が書かれていました。もともとは遺伝子編集を研究していたわけではない彼女が、導かれるように小さなきっかけを積み重ねていくうちに、この技術の発見にたどり着いてしまったことがわかりやすく書かれています。

    第2部では、発見された技術が、食品(植物・動物)の改良、病原菌の撲滅、病気の治療などにどのように使えるのかを説明(遺伝子ドライブ、ヒト化ブタ、マンモスの再生など)。

    そして、その技術に、明るい側面と、暗い側面があること、暗い側面に気づいていくさまが書かれていました。

    今までの遺伝子編集技術とは格段の差がある「簡単で正確な」技術(クリスパー・キャス9)は、今後の食料・医療などの分野に大きな期待が持たれる反面、それを利用したデザインベイビーや生物兵器の開発などの倫理的に受け入れがたい(という価値観も人や国によって違うのだが…)方向にも転用される懸念が大きくなる。

    原子爆弾の開発と、それが「戦争」という場面で「殺人兵器」として使われてしまった経緯を例に上げて、「クリスパー・キャス9」が同様に恐ろしい技術になりうること…。


    この本は、「クリスパー・キャス9」という技術が、どのような技術であるか、どのように発見されたのかという技術的な面を知るためにも十分な本でしたが、それ以上に、この技術の、今後の使われ方に警鐘を鳴らしたいと思っている開発者本人ジェニファー・ダウドナさんの声を、広く伝えたいと書かれた本であることに気が付きました。

    研究者が研究者どうしで話していればいい時期は過ぎ、一般の人達に広く知ってもらい、その使われ方の可否を考えなくてはならないフェーズになっているのだと、そのことを一番伝えたかった本なのだと思いました。



    多くの人に知ってもらうには、この本では難かしすぎると思うけれど、1つのきっかけとして、たくさんの人に知られるような流れができていってほしいと思いました。

    この本が書かれたのは2016年。あれから5年が経っていて、その間に、どんなふうに「クリスパー・キャス9」の議論がされているのか知りたくなりました。昨年ノーベル賞をとったことで、解説本などが出てきているのを期待して、ちょっと探してみようかと思います。

  • クリスパー(CRISPR)(CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス・ナイン))は、細菌の「免疫系」から発見された遺伝子編集技術である。
    ・・・と言ってもいささかわかりにくいかもしれない。
    細菌とは、大腸菌や黄色ブドウ球菌、納豆菌やビフィズス菌など、単細胞微生物で、原核生物と呼ばれる仲間である。病気を引き起こすこともあるが、発酵など、人間に有用な仕事をするものもいるし、ヒト腸内にも多く共生している。
    病原菌にもなりうる細菌だが、それ自体がウイルス(バクテリオファージと呼ばれる)に感染することがある。そして、ヒトが病原体と闘う免疫系を持つように、細菌にも身を守る術がある。その1つがクリスパーだ。
    ウイルスが侵入すると、細菌はクリスパーを使ってウイルスを攻撃する。ウイルス遺伝子の特徴的な部分を認識して、ちょきんと切ってしまうのだ。この「はさみ」はかなり正確で、狙った遺伝子配列部分以外を切ることはほぼない。
    クリスパーの重要な点は、その機構自体が興味深いことだけではない。この仕組みを利用して、人間がほぼ自由自在に、ある標的遺伝子を切ったり、その部分を別の配列と置き換えたりすることが可能になった。つまりそれは、欠陥がある遺伝子を修正したり、別のものと変えることが可能になったことを意味する。ヒトの場合であれば、遺伝子が原因の病気を治すことが(理屈の上で)可能になり、場合によっては何か「好ましい」形質を導入することも(理屈の上で)可能になったことになる。
    これまでも遺伝子編集技術はあったのだが、操作が非常に煩雑で時間が掛かったり、限られた箇所しか編集できなかったり、狙ったところ以外も改変されてしまったり、熟練した実験者しかできなかったり、費用が掛かりすぎたり、多々、問題があった。クリスパーは安価であり、高校生レベルでも扱える上、正確さも段違いに高い。
    おそらく近いうちに、ノーベル賞を取るだろう。取らないまでも「ノーベル賞級」であることは間違いない。「百年に一度の技術」と称する人もいる。

    著者J.ダウドナはこのクリスパーの開発者である。共著者S.スターンバーグは著者の研究室の一員であり、多忙な著者を助ける形で、著者の一人称の形の本書をともに仕上げている。
    本書は二部構成で、前半は「クリスパー開発物語」、後半はクリスパーを用いて行われた、あるいは行われうる応用に触れている。
    前半では、ある種、小さな分野だったものが、大発見をきっかけに人々が注目する大きなトピックに育っていく様子が描き出され、スリリングですらある。研究テーマ自体としてのおもしろさ、一方で、研究室を運営していく実際的な問題に頭を悩ませる著者が活写される。人間味のある研究者描写がおもしろい。
    がらりと変わって後半は、クリスパーを使って何が可能かを述べる。病気に掛かりにくい作物の作製、絶滅した生物の「脱絶滅」、病気の予防や治療。できることやおそらく可能であることは非常に多様にある。だが、できるからといって、何の歯止めもなしにどんどん進めていってよいのか? 倫理的に、果たして行ってもよいことなのか。どこまではしてもよくて、どこからはやりすぎなのか。
    著者は開発者ではあるが、この技術の利用の広がりは、著者自身も驚くほどで、この先、どんな用途が出てくるか予断を許さない。
    著者自身は、ヒト胚などの生殖系列(子孫に伝わるもの)に改変を加えるのは、控えめに言っても時期尚早であると考えている。しかし、例えばデザイナーベビー(遺伝子改変によって作られる「理想的な」「完璧な」子供)を作ろうとするような試みを、近い将来に「誰か」が行ってしまう可能性はそう低くない。成果を求める科学者、利益を追う企業、子供の「幸福」を願う裕福な親。いくつかの条件が重なれば、(成功するかどうかは別として)着手するものはいるだろう。

    この問題には正解はない。というより、人の数だけ正解がある。遺伝子改変はいっさいNOだという人もいるだろうし、病気が治るならいいじゃないかという人もいるだろうし、個々人の意志に任せるべきだという人もいるだろう。さまざまな意見がある中で、大多数の人が「この線は越えてはならないだろう」という線を引き、実効性のある手段で違反を防ぐことは果たして可能なのだろうか。
    著者は最終章で対話を説く。一般市民にもこの問題に関心を持ってもらい、広く議論をしてもらいたい。そのためには科学者側も研究室の外に出て、市民との対話の機会を持つべきだ、と。
    理想的には市民の側も「好き・嫌い」や直観で判断するのではなく、ある程度背景を知った上で意見を持つべきなのだろうが、果たしてそのレベルまで対話を深めることは可能なのだろうか・・・?

    人間は、この鋭利すぎる道具をうまく使いこなしていくことができるのだろうか。

    わかりやすく、読み応えある1冊である。
    解説は『捏造の科学者』の須田桃子。

  • 2020年ノーベル化学賞を受賞した技術
    倫理観、社会的責任に対しても言及してある。

  • CRISPR-Cas9の技術的な創設と、誕生秘話、と、その後に続く、科学者の倫理について。

    以前の同僚が、いじっていたが、
    詳細は知らなかったCRISPR-Cas9について知りたいなと思って、久しぶりに科学的な書物を読む。

    やっぱり、その分野の一線級の人がかく
    技術的な説明は、わかりやすい。(PFNの深層学習しかり)

    と言いつつも、細かい技術部分は端折りながら、
    特異的な病態や、極限生物など
    イレギュラーな状態の解析を通じて、
    バイオテクノロジーの飛躍的な成長はみられる。
    (PCRしかり)

    ひとの希少疾患で、さらに自己治癒してしまった例などは、
    思わず、見て見ぬふりをしてしまうけれども、
    そこに大発見が潜んでいる場合がある。
    多くの場合はアーティファクトだと思うけど。

    第一線の科学者だからこそ、共同研究が舞い込み、
    さらに新しい分野を開拓できる。

    詳細は分からないけれども、
    遺伝子治療に向かう、今までの技術とは大きく異なる
    革新的ない技術なのだろう。
    だからこそ、倫理的な問題に直面する。

    治せるとわかっているものを直さないのは倫理的なのか?
    Googleが倫理家を雇ったように、
    新技術に伴う新価値創出は、
    今後は倫理感を問われるような技術となっていくのだろう。

    著書は、後半部分を話すために、この本を書いたのだろう。CRISPRの革新性と、危険性を分かってもらうための
    前半の技術論。

    逆にテーマがシンプルなので、
    メッセージは、豊富ではなかった。

    面白かったけど、得るものがそれほどない。
    私自身が、そのレベルの研究者ではないということ。

    自分の子供が、そういう判断をせざるを得なくなる時代で、
    どう生きていくのか?の思考実験は必要

  • 約1ヶ月かけて読む。
    遺伝子編集技術 少い手書きの図解がホットする。難しい本だからね。

    人類にとっての素晴らし大発見は人類を脅かす恐怖でもある。生殖細胞系の遺伝子研究は一旦開発の速度を落とそうと。
    医療からの偉大な発見は表裏一体。今はどこまで進んでいるんだろう。研究を後退させても行けないし。研究者だけでなく多くの人々がこの研究の原点を知るようになるといいですね。

  • クリスパーは少しだけ聞いたことがあるもののほとんど知識になく、気になったため本書を手に取った。ノーベル賞を取った科学者自らが執筆している。前半は発見までの経緯、後半は倫理的な問題に対する考察。
    遺伝子の操作がもたらす危険と可能性には果てしない論争がつきまとうことを実感。
    著者のメッセージとして1番心に響いたのはこの言葉。自身も科学を知るように心がけたい。

    科学と一般自民とを隔て、不審と無知をはびこらせてきた壁を壊さなくてはならない

  • お勉強用として購入。
    クリスパーキャス9の作成までのいきさつは、とても面白いし、胸が熱くなった。
    個人的にはダウドナの指導教官が、リボザイムの発見で有名なトム・チェックであったことには驚きました!

  • 調子乗りすぎ

  • A crack in creation
    研究者としての矜恃
    研究 好奇心 運営
    デュアルユース
    膾炙への努力 科学者と一般の対話

  • 2021/10/17 喜久屋書店北神戸店にて購入。
    2022/1/17〜1/25

    2020年にノーベル化学賞を受賞したダウドナ博士がどのようにCRISPR-Cas9の発見をしたか、また、その波及効果に心を悩ませたか、について綴った自叙伝。浅学にも名前程度しか知らなかったが、発見の歴史から応用の広さ、倫理的難しさまで非常によく理解できた。

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