陽だまりに至る病

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 656
感想 : 53
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163915012

感想・レビュー・書評

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  • 真壁&仲田シリーズ。といっても、仲田の出番は後半。出てくると解決しちゃうからな。

    今回は、ミステリよりもコロナと貧困に焦点が当てられている。一見貧困とは関係なさそうな家庭も一歩間違えば… という不安定さを感じさせる。
    仲田の体調も気になる。どこぞのスーパー女性刑事とは違って、生身の人間なのだな、彼女は。
    彼女が立ち向かっている問題は、個人の資質でどうにかなるものではない。まさに、政治の力が必要なのだが。
    それが及ばないなか、たぶん、現場では、彼女のように誠実に働いている人がいて…… その人から倒れていそうだ。

  • 小学五年生の咲陽は、家の隣のアパートに住む同級生「小代子」を、自宅に匿うことにした。
    新型コロナによる影響を受けた子どもたちと、若い女性がラブホテルで遺体で見つかった事件が少しずつ繋がっていく。

    新型コロナが広がり始めたころ、ある芸人が「これから若いきれいな女性が風俗に入るから楽しみだ」みたいなことを言ってた。
    実際のところ、この本に書かれているような女性の貧困について現実にどこまで起こっていることなのかはわからない。
    でも、亡くなった夏帆のような生活を不本意に送っている人が一人でも実在するのであれば、やはりそれは笑って語って良いことではなかったのだと思った。
    この本の夏帆の話を読むに、あの芸人のあの発言が頭から離れなくて(それまで、すっかり忘れていたのに)。そんなことを思いました。

    小代子の父親である虎生は、よくもここまで生きてこられたなぁと思うような人だ。
    なんでも娘のせいにして娘に謝らせるって…。
    かなり引いたけど、DV加害者ってこういう思考だよね、相手が悪いって心の底から信じてるよね、と思い直した。
    虎生みたいな思考の持ち主は、実は少なくないのかもしれない。ゾッとする。

    さて、タイトルの「陽だまりにいたる病」とは何か?
    最後にチラと「陽だまり」というキーワードが出てきたが、はっきりとは書かれておらず。
    小代子が、咲陽から匿われた一週間の間に、小代子の心に少しずつ芽生えたもの。その感情が「陽だまりにいたる病」なのだろうか。
    今回は仲田の登場は少なかったものの、仲田が咲陽にかけた言葉がよかった。
    確かにその通りで、人の不幸と自分の不幸を比べて我慢をしていると、他の困っている人にも「あなたより不幸な人はいる」という考えになるし、多分その気持ちを伝えてしまう。そんな風に相手を追い詰めるだけのことを言うのだとしたら、結局、虎生と同じだ。

    「誰かを助け、誰かに助けられること」これは、このシリーズの大きなテーマの一つだろう。人が孤独に生きるのではなく、誰かに助けられたり、助けたりする世界であってほしい。
    仲田の言葉のように、私もそう思いました。

  • 貧困とミステリーを扱った〈仲田・真壁〉の刑事コンビシリーズ第3弾。

    今までの2冊ともおもしろかったけど、今回もおもしろかった。
    今回のテーマは「コロナと貧困」。

    読んでいくうちに今回は普通の殺人事件の小説かと思いきや急に驚かされる。
    主人公咲陽のコロナ感染。
    コロナ禍舞台で両親がコロナにより生活が厳しいという描写が何度もありながら、小説に入り込んでいて誰かが感染するなんて思いもよらなかった。
    小夜子を必死に庇ってきた咲陽が感染してしまう展開に、驚きと同時に読んでて泣きそうになるくらいの悲しさを感じる。
    ここで“コロナ”がタイトルの『陽だまりに至る病』なんだなってなる。

    最後の最後で小夜子が咲陽に“陽だまり”を感じたと話す。
    最初は咲陽のことが嫌いだったが一緒に暮らすうちに気持ちが変わっていった小夜子。
    タイトルの『陽だまりに至る病』は個人的にはこっちの小夜子が咲陽に感じた気持ちなんだと思った。

    読者は神視点で全てわかって読んでいるため、上手くいかないもどかしさを感じながら話は進んでいく。
    また、しっかりした小学五年生とはいえ、小学生ということでなかなか考えが甘い行動が多い。
    ただ大人ではなく小学生同士の咲陽と小夜子だったからこそ生まれた友情、“陽だまり”だったと咲陽も気づく。

  • 安定に面白かったし、ラストは想像できないものだった!

  • コロナ禍でほんとに元々あった細かい問題が大きくなって 少しの歯車の違いがとんでもなぃ不幸に至る事が多くなったんだなぁ……って実感出来る作品でした。

    親の何気なぃ一言が子供を縛りつける事もあるのだっと思うと……子育ても大変!!

    作品の中では、咲陽の暖かさに触れて これまでとは違う気持ちを持ち始めた小夜子……

    二人の成長も描いて欲しい。
    ゆくゆくは仲田蛍と一緒に仕事してたりして(笑)


    仲田-真壁シリーズ 第3弾

  • コロナのせいで大変な思いをした人は本当に多かっただろうな。特に社会人は。そんな中で、咲陽のように、素直で友達思いで、人を助けるために嘘をつくような、そんな子が報われる世界でありますように。タイトルの陽だまりの解釈がわかった瞬間は鳥肌でした。

  • コロナ禍を背景に、子ども・女性の貧困が描かれていた。
    正義のヒーローきどり人間のヤバさを、こんなに丁寧に描いていいのだろうか。同じ言葉を話してるのに、話の通じなさがあり、そこにぞっとしました。ミステリーとしては弱いけど、悲惨な子供の描写が上手すぎる。

  • 小学五年生の咲陽は、「父親が仕事で帰ってこない」という同級生の小夜子を心配して家に連れ帰る。
    だが、コロナを心配する母親に小夜子のことを言いだせないまま、自分の部屋に匿うことに。
    翌日、小夜子を探しているという刑事が咲陽の家を訪ねてくる。
    小夜子の父親が、ラブホテルで起きた殺人事件の犯人ではないかと疑念を抱く咲陽だが――。
    (アマゾンより引用)

    何か今までのよりちょっと微妙だった

  • 仲田シリーズ第3作品目
    『希望が死んだ夜に』『あの子の殺人計画』と順番に読了済です。

    相変わらず、子どもを描くのが上手。
    大人とは違う、冷静な判断が出来ない感というのだろうか…子どもに特徴的な思い込みが強い感じを上手く表現していると思う。
    本作も、主人公である咲陽(さよ)が「恵まれている自分は恵まれていない人を助けないと!」という盲目的な正義感から始まる。
    しかしそれだけでなく、その後に揺れ動く咲陽の心理が繊細に表現されていて、読みながら情景を想像できた。
    そして『陽だまりに至る病』というタイトル。
    その意味がわかったときは涙が溢れました。

    しかし、
    ・コロナ禍という社会情勢を盛り込まれていることで、読みながら自身が実際に経験したことを思い出して心が辛くなった。
    ・最後の最後のおかげで、読後感は何とか「良い」まで持ち上げられたが、ギリギリまで胸糞悪い展開だった。
    ・前作、前前作と比べると結末に衝撃は少なかった。
    という三点から、今作は★4で評価する。

    次回作あるのかな?
    出たら是非次回作も読んでみたいと思いました。

  • 「コロナと貧困」をテーマにした社会派ミステリ。まったくもって現実の世の中の暗い側面が浮き彫りにされてしまっていて、読むのがつらい面もあるのですが。つらいばかりではない、と信じたいです。タイトルの「病」は悪くないかな。これは救いにも思えるかも。
    貧困家庭の同級生・小夜子を家に匿うことになった咲陽。それまでは特に親しかったわけでないにもかかわらず、「自分は恵まれているから」と貧困家庭の子に手を差し伸べようとする咲陽の姿は、口さがない人からすれば偽善でしかないのでしょうね。そもそも親がかりの子供が自分で何かした気になって、などと思ってしまいそうですが。実際そうであったとしても、これだけのことをできる人がどれほどいるの? 咲陽のことを微笑ましく思える一方で、大丈夫なのかな、と不安な気持ちがいっぱいでした。いい子なんだけれど、世間のことを知らなすぎじゃない?
    それでも咲陽がさまざまなことに気づき、それがつらいことであってもきっちりと受け止めて立ち上がろうとする姿には力づけられました。そして事件に関わる大人たちの情けなさを見るにつれ、悲しくなるのですが。この責任を彼らだけのせいにするのは、やっぱり違うんだよねえ。それぞれに悪いところはあるけれどそればっかりでもないし。憎むべきはコロナか、本当に。
    今回出番はそれほど多くないけれど、仲田の温かさにはほっこりさせられました。が、大丈夫なんでしょうか彼女……たしかに心配になります。

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著者プロフィール

1978年生まれ。メフィスト賞を受賞し、2010年『キョウカンカク』で講談社ノベルスからデビュー。近年は『希望が死んだ夜に』(文春文庫)、『あの子の殺人計画』(文藝春秋)と本格ミステリ的なトリックを駆使し社会的なテーマに取り組む作品を繰り出し、活躍の幅を広げている。

「2021年 『Ghost ぼくの初恋が消えるまで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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