- Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163915166
作品紹介・あらすじ
「飢えの雲、天を覆い、地は枯れ果て、人の口に入るものなし」――かつて皇祖が口にしたというその言葉が現実のものとなり、次々と災いの連鎖が起きていくなかで、アイシャは、仲間たちとともに、必死に飢餓を回避しようとするのだが……。
オアレ稲の呼び声、それに応えて飛来するもの。異郷から風が吹くとき、アイシャたちの運命は大きく動きはじめる。
圧倒的な世界観と文章で我々に迫る物語は完結へ。
感想・レビュー・書評
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ファンタジーだけど、植物と虫と人間の間の深いつながりをリアルにロジカルに描いている。
静的な存在の植物が、香りを使って雄弁に周りの生物とコミュニケーションを図っている。
そんな目に見えない、聞こえない世界を可視化している。
「周りの生物」の中には、当然人間も含まれている。
蒙を啓かれた。
上橋さんの本、次は、長いけど「鹿の王」に挑戦してみよう(今年の目標!)
あとがきより参考文献(覚書)
ロブ・ダン「世界からバナナがなくなるなえに」
高林純示「虫と草木のネットワーク」
藤井義晴「アレロパシー」
松井健二・高林純示・東原和成「生きものたちをつなぐ『かおり』ーエコロジカルボラタイルズー」
♪微かなカオリ/Perfume詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
さぁ、下巻です!
下巻になると物語は一気に加速ε≡≡( ・`д・´)
奇跡、そして最強の稲「オアレ稲」が〈救いの稲〉にレベルアップするんです!
しかし、物語はそんな上手くは進まないんですね
ピンチです!
〈救いの稲〉がすぐピンチなんです(゚д゚)!
虫害の被害に…
オオヨマという虫に集られるのです
虫にも強いはずなのになぜ…!?
〈救いの稲〉は強い香りを発して「来て、来て、来て」と助けを求めるのです
すると、その香り気付きやってきましたバッタたちが!
このバッタたちがオオヨマをムシャムシャ食べてくれるんです
このバッタたちが救世主!?
と、思いきやここからさらにひどい状態へ!
さぁ、こうなってしまったらアイシャたちはどうするのか…?
そして、香りで万象を知る香君はこの状態をどう救うのか?
さらに、香君はどうなるのか?
やっぱり上橋さんのファンタジー世界はすごい!(≧∇≦)b
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2022年3月文藝春秋刊。書き下ろし。予想の遥か上を行く展開に翻弄されてのラストまでの体験は驚きの連続でした。読了した夜はバッタの夢を見ました。
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面白かった!そして怖かった。ある意味パンデミックホラー、コロナ19とリンクして、目に見える襲いくる感染症を想像して、猛烈に怖くなる。上巻では、オオヨマというバッタというよりも、ヨコバイ的なものを連想する昆虫が大発生して、それが”カラミティ”なのでは、と思わされたが、ところがどっこい、まだまだ先があったのが下巻。ヒシャのニンフ達が空を覆うシーンは出エジプト記に出てくるローカストのアレ、十の災厄の恐怖。サピエンス全史の人口と食糧生産の問題だとか、今、問題は結構知られているのに一般的に全く啓発がおいついてない外来種問題だとか、種のミューテーションのことだとかが、どっさり盛り込まれていて、えらいこっちゃのエンターテイメント、異能で稲生の農業ファンタジー、農業サーガとかそんな感じ。
で、下巻。シン・コウクンが現れるわけですわ。初代的能力を保有するシンと当代コウクン、この二人の関係が優しいのもよんでて気持ち良い。ふと、紫の上と明石の君の出会いを思い出さされる。オリエは象徴だけの存在であったが故に、苦痛でもあったわけだが、本物の場合はその存在自体がもともと異質で孤独なものなので、シン・コウクンには耐えられるというか、衆人とまじわっても本物なので大丈夫っていう。いろんな方向に示唆的で考えさせられるポイントの多い、しかし押し付けがましくなく、優しく自分の脳味噌の森に入っていける感が素晴らしい。
落とし所のとても良い、すっきりした読了感。
全部読んだ後に、後書きと参考図書が掲載されていたが、やっぱり匂った図書がほぼ全部網羅されていて、なるほど。もちろんウルド先生の本もリストアップ、後書きでも触れられていて、本文中にものすごくウルド臭がしたんで、そこらへんも妙に嬉しかった(推しの影響が見えると尊い)。
If you refuse to let them go, I will bring locusts into your country tomorrow. They will cover the face of the ground so that it cannot be seen. They will devour what little you have left after the hail, including every tree that is growing in your fields. They will fill your houses and those of all your officials and all the Egyptians—something neither your fathers nor your forefathers have ever seen from the day they settled in this land till now. -
胸の中に広がる暖かな悠久世界を想像し、静かながら大きな感動の余韻を残して読了しました。しばらく浸っていたいと思わせてくれる、良質な物語でした。
国の命運を左右する凄まじい災厄に対して、人は責任を他に求めて怒りの矛先を探します。しかし、万人が納得する打開策は生み出せず…。こうした状況下、ひとつのことに依存しすぎる危うさから逃れ、その幻想を壊そうとする展開に、ワクワク感が止まりませんでした。
コロナのパンデミックで翻弄され、国により対応・対策が違ったり、正義をかざして多国に侵攻したり…等、現代社会に通じることが多い内容だったと思います。
人どうしだけでなく、植物・虫も含めた共生・共存への警鐘とも受け取れます。
本書の中の「植物や虫が生命を繋いでいく力は圧倒的で人は敵わないが、人には知識や経験から推論を導き、考え、希望を見出す力がある」の一文に、大いに共感しました。
花の声を聞き取れなくても、花の気持ちを想像する人でありたいし、将来を担う子どもたちにも、そのように成長してほしいと願ってしまいます。 -
もう流石の一言。これだけ情報量が多い設定を、巧みに言葉を操って、魅力に溢れた物語に仕上げる上橋さんの技術には、本当に感嘆せざるを得ない。「守り人」「獣の奏者」「鹿の王」この3作とはまた違った雰囲気の物語。個人的にはこの作品が一番好きかも。今回のテーマである香りを表現するために、作中では香りを「声」に喩えている。香りという目に見えないものを可視化するために、「声」を使ったのは上手い表現だ。そしてこの物語の軸となるオアレ稲。かつて人々は、この奇跡の稲の力を使って帝国を作り上げ、香りで万象を知るという<香君>の庇護のもと、発展を続けてきた。しかしある時、オアレ稲に虫害が発生してしまう。オアレ稲に依存してきた人々は、飢餓の危機にさらされる。人並外れた嗅覚を持つ少女アイシャは、このオアレ稲の秘密に向き合っていく。オアレ稲の隠された謎とは何か、なぜアイシャはまるで香君のような力を持っているのか、気になることが多すぎて、一気に読み進めてしまった。それほど面白く、魅力的な登場人物とストーリーに存分に浸ることができた。上橋菜穂子さんらしさもよく出ていた素晴らしい作品。
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しばしの間、現実から離れて、どっぷりと『香君』の世界観に浸らせてもらいました。
文章を読み進みていると、あらゆる情景が目の前に浮かんできて、私もこの壮大な物語の一部となったような気持ちになりました。
辺り一面に広がるオアレ稲や、田んぼを流れる水の音、鳥の鳴き声、土の柔らかさ、虫の羽ばたき、穏やかな風…
文字を追っているだけなのに、なぜか、その全てが感じられてしまいます。
そして、アイシャが感じていた、植物や土の『香り』ってどんなものだろう…?
こんな感じだったりするのかな…?と、想像するのも楽しかったです。
下巻では、帝国に飢餓の波が押し寄せ、
皇帝や貴族、藩王たちは、虫害を防ぐためにオアレ稲を全焼却するべきなのかという、かつてない選択を迫られます。
その際、神として祀られていた『香君』が、その圧倒的な地位から何かを命令するのではなく、あくまで人々を支え、導く存在として君臨していた姿が印象的でした。
人々は、考えることを放棄してはいけない。
自分より大きな力などに無条件に従い、自らの進む道を委ねてはいけない。
そして、時代は移ろい、変わっていくことを認識し、一人ひとりが自分で判断して生きていくことが必要ー。
本作から大切なメッセージをたくさん授けてもらったので、今感じているこの気持ちを、大切にとっておきたいなぁと思います。