マリエ

著者 :
  • 文藝春秋
3.68
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本棚登録 : 2524
感想 : 195
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163917405

感想・レビュー・書評

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  • 本作品は9編で構成されていて、そのタイトルが全て3つの言葉で表されている。そこに新鮮さを感じ興味を引かれながら、想像を膨らませて読み進めることができた。例えば、始まりの1編目は、「離婚、新しい香水、白いシーツ」。1編目からインパクトのあるタイトルで、物語が進む中で、主人公はどうなっていくのだろうと想像を膨らませた。主人公は桐原まりえ。冒頭、夫の森崎と2人で離婚届を役所に提出する場面から始まる。そこに悲壮感はなく、淡々とした手続を踏む2人のやりとりがあった。2人は、離婚に向けて2年近く費やしていた。円満離婚という表現に、まりえの心情を想像する。自分で離婚という選択をしているところが、まりえの清々しさに表れているのだろうか。森崎の方の離婚の理由は「恋愛したい」というもの。しかし、相手はいないという状況。それで離婚という選択に理解に苦しむのだけれど、そもそも当事者の2人にしか分からないことなのだろうな。一方で、相手の心の中は当事者でも分かり合えないこともあるだろうなと、そんなことも思いながら読み進めた。

    この作品の中で、香りが扱われる場面は、私が読了した『透明な夜の香り』と『赤い月の香り』といった千早さんの作品を思い出す。それぞれの作品世界とのつながりを感じ、そこも読み進める中での楽しさとなった。

    まりえは40歳手前である。その年齢からくる様々な心情が細かく描かれていて、まりえ目線になって読み進めている感覚をもった。離婚後、桐原まりえとしての生活が始まる。

    千早さんの細かで丁寧な描写により、個性的で魅力的な登場人物たちが表れる。その都度、まりえの心の動きを想像し、切なくもなり、嬉しくもなる。

    まりえがいきつけのフレグランスグッズを扱う店の店員である林。そのやりとりの中で、まりえは身に纏う新たな香りを求めていた。そこで選んだ香水が『マリエ』とい名前の香り、繊細なマリッジブーケをイメージして作られた香り、その表現からイメージすることは難しいが、幸せを彷彿するような印象を受けた。

    ワインバーで知り合った、親ほども年齢の違うマキ。まりえを心配するマキ。その関係は居心地がいいのだろうな。そんな人がいれば、癒されるし強くなれそうだし、前を向いて進めそう。

    まりえの大学時代のサークル仲間、早希。早希は結婚、離婚、不倫、そして、妊娠、結婚という人生を歩んでいた。そして、早希は不倫を続けていた。それでもまりえにとっては、笑い合える友人であった。まりえの纏っている香りで安心する早希、そこに2人のつながりの温かさを感じる。

    サークルの先輩、尊。尊は3年で離婚、たまたままりえと同じ時期に離婚していた。この後、尊と登場人物との関係が気になる。

    観月台先輩は、大学のサークルの女性の先輩。背が高く、女性が憧れるような外見なのだけれど、コンプレックスを感じていた。婚活をしていたが、なかなか進展せず、相手の「認める」という言葉に、すれ違いを感じていた。相手の趣味を認めるというのは、どうなのだろう、そこに対する納得できない感覚もあるのかな。

    林の紹介で出会う由井、銀髪の長身の男の子。7歳下の年が離れた若い男性、この出会いが、これからのまりえの生活を変化させていく。一緒に帰る夜道、お礼に出したガーダスープ、何か特別な状況を予感させていた。まりえの自宅で休日の昼間に、小麦粉料理を一緒にすることになる。そして、一緒に食べる。その関係は、自然な流れであるかのように感じた。由井の気持ちは明らかになっていない中で、物語は進んでいく。2人の進展を気になりながら読み進めた。

    まりえは結婚相談所に行く。紹介された3人と会ってみたまりえ。その中の1人である本田と再会をする。そんな中、由井との関係が進展する。それでも、本田との見合いは続けていくまりえ。そこに、難しい状況と心情を想像する。選べないのか、選ばないのか。

    まりえは、子供が授かりにくかった。産婦人科の経過観察は続く。由井との関係を続ける中で、結果的に判明した身体症状。不安を感じながら読み進めた。マキの明るい反応はまりえにとって救いだったろうな。困ったことを曝け出せる誰かがいることの救いを感じた。マキのアドバイスがまりえの心に沁みていく。由井との関係やマキとの関係を言葉にしようすることに、楽しむという自由さがもてればいいのだろうな。難しさも感じるけれど、それでも由井に口にしてしまうまりえの心も苦しいだろうな。

    本田との3回目のお見合い。でも、そこでのやりとりによって由井との自然さに気づくのも、めぐり合わせかな。誰かとの関係は、他の誰かとの関係によって、気づくこともあるだろうな、その違いに気づくから。まりえ宛の結婚相談所からの封筒で、由井にそのことを気づかれる。由井の衝撃が痛みをもって伝わってくる。まりえの辛さも伝わっていくる。このようなことは起こりうるかな。結婚と恋愛の違いは何だろう。自分の気持ちは、どのようにして素直になるのか、ならないのか。まりえは結婚相談所を退会する。それは自然な感じであった。

    ラストは、まりえの心がはっきりと伝わり、ほのぼのとしながらも前向きな思いが心地よい。これまでに読了した千早さんの作品との違いを感じながら、登場人物の気持ちに寄り添って読み進める楽しさを存分に味わった。そして、新たな読了感を得た。次の千早さんの作品との出会いが楽しみとなった。

  • 赤い月の香りがいまいち合わず、離婚後の女性の複雑な心理を描く作品というだけあって、恐々と手にしてみたが、生々しいほどリアルで、千早さん自身の経験もあってか、さもノンフィクション作品と思うほどであった。
    おそらく、テーマは結婚とは、恋愛とは。そして、離婚だけでなく、フリーターなど、一般的にネガティブに見られがちなことに対しての問題定義だろうか。人間日々気持ちも上向き下向き変わり、不安定な時は人から多く影響受けたりもする。ただ、他人にどう思われようとも、自分の選択について、他人は責任を一切負ってはくれない。後悔のない人生とは、おそらく意志と信念で選択していくことではないかと思った。

  • 結婚ってなんだろう? 
    恋愛ってなんだろう?
    結局答えは出ないなぁ。人それぞれなんだろうなぁ。
    という結論に達する一冊でした。

    どう考えても理不尽としか思えない理由で離婚を切り出され受け入れた、まりえ。
    一人の生活をシャンと背筋を伸ばして充実させている姿に、私ならそうはできない‥‥寂しさでどうにかなってしまうと思った。
    まりえは「自由で自立しているから相手を尊重できた」けど、私にはそれが欠けているのだなと。
    若い頃は恋愛の延長線上に結婚があると思っていたけれど、そうではないということだけは確かですね。
    でも、やっぱり人って誰かと繋がっていたいんだなぁ。その気持ちが今までカッコよかった自分も、カッコ悪くさせちゃうんだなぁ。
    それでいいじゃん!とも思うけど、それだけじゃダメだから厄介なんだよ。

  • 最近気になっている
    千早さんの新作ということで手に取りました


    千早さんの作品は
    じっくりと時間が流れる作品が多いですね
    こちらも面白かったです(^^)



    主人公のまりえの
    モノの見方とかちょっとした台詞とか
    共感することや
    気づかされることが多くて
    唸りながら読んでました




    特に印象に残ってるところは


    『子どもが欲しい人だったから
    という彼女の
    みたことのない元婚約者に
    怒りが湧いた
    おこがましい
    そんな言葉が浮かんだ
    自分ができないことを
    どうして相手に求めるのだろう』


    というところ。


    確かに!!!!と
    強く頷いてしまいました。
    よく聞く話だけど
    本当にそうじゃん!!ってなりました。



    物語には
    出来事を楽しむものと
    心情を楽しむものと
    あるなあとよく思うんですが

    私としては
    この作品は心情を楽しむ作品で
    たくさん唸らせてもらいました!



    あとはバタバタと過ごしてる身としては
    丁寧に料理を作ったり
    自分のために運動したりする
    まりえの日々がちょっと羨ましかったですー



    終盤もう少し展開が欲しかったかな
    星は4つで

  • まず、表紙から美しい。
    ずっと眺めていたくなります。
    千早茜さんは初読み作家さんでしたが、紡ぎ出す文章が瑞々しくて、美しくて、虜になりました。
    まりえの迷いもいいし、香織さんの迷いのなさも逆にいいし、マキさんの達観している感じもいいし。読み終えたときの余韻も良かったです。

  •  千早茜さんの最新作、図書館で早めに借りられました!

     主人公は桐原まりえ、40歳を目前にしながら、夫の森崎から「恋愛がしたい」という理由で離婚することになり、おひとりさまに…。仕事も人並よりも収入もあり、今後の生活には不安を抱くこともない環境にあったが、軽い気持ちで結婚相談所に登録し、またひょんなことから年下の恋人もできる…。まりえにとって、恋愛とは?結婚とは?

     う…ん、まりえに共感できない…のが、正直な感想!こんなに次から次へとうまく立ち回れるものなのか…私が古い考えだからなのかもしれないけれど、これが“おとなの恋愛”なのかな…なんか、違う…とか、感じてしまって、もやもやしちゃう読後です。読みやすくて、一気に読んだけれど…ちょっとだけわかるかなって思ったのは恋愛することに慎重になっちゃうことくらいかな…。あ、モテない女のひがみかも(^-^;)

  • ――恋愛をしたい――そう言った元夫。
    今の生活が、そんなに不満げには思え
    ない。なのに何故?二年後結局別れた。
    慰謝料無しでだ。考えられない、私には
    許せない!でも、主人公まりえは考えて
    考え抜いて離婚を決めた。

    今、彼女の胸中は年末の大掃除の後の
    様に、すっきりと新しい家具に包まれ
    ている。これからの自分に不安はなかったのだろうか?

    この先に起きるまりえの様々なできごとについて綴ってある。切なくなってくること、楽しそうで羨ましいがそれと同時にハラハラしてくることも起きている。

    ひとりのほうがせいせいして良い!
    ひとりは将来的に不安、相手がいてくれたほうが。

    おひとり様、独身貴族、晩婚化。
    私が若い頃は女性はクリスマスケーキと
    言われた。現代そのようなことはない。
    却って昔の様に、皆早く結婚しお互いを
    尊重しながら生活していくことを、考え
    たほうが良いのではないか、と思って
    しまう。


    2023、10、10 読了

  • 40歳を目前に離婚したまりえ。
    夫から「恋愛したいから」と言って切り出され…何それ、意味がわからないというのが本音だったが。

    冒頭からその夫と一緒に離婚届けを提出する場面から物語は静かに始まる。

    仕事も順調で友人もいて、自分の時間も持てて充実しているのかと思えるのだが、なにか不安で迷いがあるような雰囲気である。

    周りから恋愛をしろと言われるのだが、よしっ!これからおもいっきり楽しんでやろうというのが伝わってこない。

    結婚相談所に登録をし、何人かと会うもののしっくりこない。
    同時期に7歳年下の恋人を持つのだが、彼に結婚という気持ちを感じられず…
    さて、自分は結婚したいのか、恋愛したいのかわからない。

    このなかで感じるのが相手の匂いなのである。
    別れた夫がつけていた香りは拒否しているのに年下の彼氏だと大丈夫というような。
    結婚相談所で会った男性も違うと感じる理由。
    それはやはり恋愛しているか、どうかなのでは…。

    忘れているのにちょくちょく連絡してくる元夫の結婚っていうかたちがなくても繋がっていられるか試してみたかったというのもどうなんだ?と思ってしまった。

    最後にまりえが思うのも色や匂いを記憶に刻んで、思いだしたり、思いだしてもらいたいという気持ちだ。
    それは、やはり恋愛相手なんだろう。

    惑い惑わされる40歳。



  •  アラフォー離婚でシングルになった女性の、生身の人間としての幸せについて描いたヒューマンドラマ。

     物語は、主人公のまりえの視点で描かれる。
              ◇
     吐く息の白さに目を奪われながら、まりえは朝の空を見上げた。ここ数日の雨が嘘だったみたいに晴れ渡っている。冬の澄んだ空気の清廉さは、今日という日にぴったりだと思った。
     「さて」とつぶやいたまりえは、出かける準備をするためベッドを離れた。

     車が行き交う通りの向こうに猫背で佇む姿を見つけた。森崎だ。まりえは歩道橋の階段を降りながら、2か月ぶりに会う男の顔を見た。
     森崎もまりえに気づいて表情を和らげ、「悪いね、休みを取ってもらって」と詫びる。その殊勝な態度は「ん」としか言わなかった以前とはずいぶん違う。
     珍しく気を遣ってくれているのは、夫側から言い出した離婚の届けを出すために、今から2人で区役所に行くからだった。

    まりえは40歳目前で離婚を決意した。夫が言い出してから2年を要した。離婚の理由として夫が挙げた「恋愛がしたいから」に納得できなかったからだ。そんな夫への愛情が冷めた今では、もう未練はない。
     こうしてまりえの結婚生活は7年半で幕を閉じることになったのである。

     気持ちに踏ん切りがついたこともあり、届けを出すときは清々しささえ感じていたし、1人の身軽さは心地よいほどだ。
     ワインバーで知り合った年配女性のマキさんなどは「あんたもこれから恋愛できるわね」と微笑むが、まりえは今のところそんな気になれない。人生の幸せは人に気を遣いながら得られるものではないと痛感したからだ。

     けれど行きつけのフレグランスショップで、「マリエ」という香水に出会ったことでまりえは……。( 第1章「離婚、新しい香水、白いシーツ」) 全9章。

         * * * * *

     「マリエ」というフレグランス、なかなか妖しい。

    マリエ(Malie)は「穏やかな」「静かな」という意味のハワイ語だそうで、破綻した結婚生活の残滓をきれいに拭い去り、心身を癒やしたいまりえにはぴったりです。

     けれど、ショップで店主の林が新しい人生の門出にと勧めてきた「マリエ」のほうは、マリッジブーケをイメージして調香されたフレグランスでした。
     次なる恋、そして結婚へとステップアップするアイテムとしか思えない香りを、まりえは買ってしまいます。

     さらに林は、まりえに由井という若い男を紹介します。当初は可愛げのある「年下の男の子」らしく振る舞っていた由井は絶妙にまりえとの距離を縮めていき、2人は恋人のような関係になるのですが……。


    この年上の女性が好みだという由井も気持ち悪い ( 金銭を引き出そうとしないだけマシかも知れませんが……) し、林の持つ淫靡に傾いた(マトモな倫理観とは思えない)感覚にも嫌悪感が先立ちます。それに翻弄されていくまりえが主人公なので、苦手なストーリー展開の作品でした。
     ただ、「結婚」や「恋愛」についていろいろ考えさせられる作品でもありました。

     恋愛の成就形が「結婚」だと思っていたので、孤独死への恐怖や、家電や建具等の不具合に1人で対処しなければならないことへの不安から「結婚」を望むのは、少し不純な気がします。
     特にまりえは、夫との2年にも及ぶ離婚協議に嫌気が差し、独り身になった解放感を感じていたはずです。なのに結婚志向へと傾いていくのです。
     ただし、まりえの婚活の姿勢はどこか煮えきらない。結婚相談所の紹介相手に対しても、由井に対してもです。 ( 由井の持つ観念は最後まで理解できませんでした。)
     
     ただ由井だけでなく、まりえの友人や先輩たちの結婚観や恋愛観にも首を傾げるようなところが多く感じられたので、それらのベースとなるのは究極の個人主義なのかもと思ったりもしました。 ( 相談所仲間の香織などまさにそんな感じですし、離婚を主導したはずの森崎が未練がましさありありの連絡をまりえに取ってくるのも自分勝手の極致だと思いました。)

     登場人物のなかでは、飲み友だちのマキさんの潔さがもっとも好もしかったです。

  • 作品紹介として「等身大の女性」という言葉が使われておりますが、1人の女性の悩みと葛藤をリアルに感じることが出来るような作品で、読む側の視点によって凄く印象の変わるお話だなぁと思いました。

    主人公は離婚を離婚を経験し、清々しく生きる40歳の女性、マリエ。しかし、そんな生活の中、ひょんなことをきっかけに自身の生活に寂しさを感じてしまいます。そしてマリエは、その寂しさを解消したいと結婚相談所や友人のツテを頼り、男性と出逢う中で、結婚と恋愛について考えるという物語。

    恋人の延長に結婚があるのかどうか、「好き」という感情だけで将来をともにするパートナーを選んで良いのかを等身大の女性の立場で書いている点が凄く素敵でした。

    作品としては女性の立場から読むと多くのことに共感できるのかなと思いましたが、男性の私の立場としても、恋愛のまどろっこしさ、結婚の煩わしさ、どっちも正直めんどくさい。それでも恋愛と結婚の良いところを味わいたいという思いは凄く共感でき、多くの人に刺さるのかなと思いました。

    • ネモJさん
      にゃおちぃさん
      コメントありがとうございます
      近年の傾向見ますと、話題作でも文庫になるのは2年後なので、もし気になるようでしたら、図書館とか...
      にゃおちぃさん
      コメントありがとうございます
      近年の傾向見ますと、話題作でも文庫になるのは2年後なので、もし気になるようでしたら、図書館とかで借りるのが早いのかなと思います…
      本作の主人公は著者の千早さんと似たような境遇かつ人物像だったと感じたので、千早さんの作品が好きならハマるかなと思いました。
      今回は僕のレビューを参考にしていただきありがとうございました!
      2024/01/27
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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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