精選女性随筆集 第三巻 倉橋由美子

著者 :
制作 : 小池 真理子 
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 66
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166402304

作品紹介・あらすじ

二十代で鮮烈な文壇デビューを飾った頃から晩年まで、氷のように美しい文章で毒薬のように効くエッセイを書いた人。透徹した思考の痕跡を辿る三十一篇。

感想・レビュー・書評

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  • 倉橋由美子の随筆集。装丁がずるい。これは買わざるを得ない。
    わりと硬めの水みたいな感じ。
    作家が何を考えながら書いているのかというのを知るのが好きなので、面白く読めた。
    共感はしたりしなかったり。
    女性作家論は疑問を感じる(時代のせいもあるとおもう)
    吉田建一についての、飲み物にたとえたところはものすごく納得した。
    読んでいる途中に、文庫になってた酔郷譚まで買ってしまった!

  • エッセイも楽しく拝読させていただきました…よく考え、スタンスがしっかりしているので気持ちがいい。

    第一部「倉橋由美子の小説作法」
    「インセストについて」
    …近親相姦は人間が「社会」から「自然」まで下降しようとする「悪」なのです。これに対して、人間が「社会」から上方へ、「天国」のほうへ、「死」にむかって脱出しようとする場合の「悪」として、ルージュモンが「死への情熱」とよんだトリスタン=イズー的エロスがあります。この「悪」のヴェクトルは反社会という方向を持つと同時に「反自然的」でもあり、いわばエロス(愛)と近親相姦とは、「社会」の「上界」および「下界」をなす「悪」といってよいでしょう。この見取図によれば「近親相姦を聖化する」とわたしがいった意味もほぼ察していただけると思います。つまりそれは近親相姦にエロスの翼をあたえ、「社会」から「死」にむかって飛翔する情勢に転化せしめることです。…
    続いて、…しかしわたしの「理論」からいけば、最高の組合せは双生の姉弟(兄妹)ということになるのです。わたしのにせの恋人たち!
    いやあ好きですね。ほんとに。

    「小説の迷路と否定性」
    アクチュアルな小説のつまらなさ、《効用》を備えることを求める現代に対して、…わたしの書きたい小説は《形而上》的なものを指示し、《文学空間》においてそれに《形》をあたえている小説、という意味で《メタフィジカルな小説》でなければならず、あらゆる《形而下》的なもの、《事実》や《体験》や《日常性》は、《形而上》のものをしめすという目的のためにだけ利用されなければなりません。と断言している。彼女が呼ぶ《通俗小説》に対する嫌悪感めちゃくちゃわかるので、自分は創作者側ではないのだが、心の底から同意と思ってしまった。
    …小説家は猛烈な毒物の《観念》を美しい糖衣錠にしてそしらぬ顔で読者にのませています。またある小説家は、けっして到達することのない《約束の地》を読者にしめします。今日小説とはあらゆる《否定性》のぎっしりとつまった暗黒なのです。

    この問題意識はその後に続く「毒薬としての文学」「なぜ書くかということ」にも続く。それは驚くほど2023年の今感じている、世の中に消費活動がおびただしく溢れ、人々の思考を止めているという状態と同じように見え、逆にあと数十年は大丈夫なのか(?)と錯覚するレベル。

    「あたりまえのこと」倉橋由美子ルール!マジで好き…

    第二部「倉橋由美子の小説作法」
    「英雄の死」このあと、吉田健一の論なども読みマイルドに軌道修正されるらしいが、ここで書かれている三島は「天才」であり「英雄」と手放しの賛辞。
    …昔から日本では三島由紀夫氏のような人があんなふうに憤死すれば神になることになっていた。ここで神というのは英霊のもうひとつ先を考えているのであって、ユダヤ人が発明した神などとは無論関係がない。日本人がユダヤ人の神を何か普遍的で高級なもののように考えるのは滑稽なことである。日本人は昔から三島由紀夫氏のような人間の霊を祀り、それにつながってその先にあるはずのものを拝んできた。三島氏はみずから死んでそういう神と化す以外になかったのである。ここまで書いてしまえば、三島氏の冥福を祈るとか極楽往生を祈るとかいう気は起らなくて、神になったものに冥福も往生もない。三島由紀夫氏の死についていうべきこともこれにつきる。

    この二部を読んで、吉田健一と内田百閒は読まねばという気持ちになる。あと澁澤龍彦!

    第三部「倉橋由美子の性と死」
    「誰でもいい結婚したいとき」これが一番好きだった笑
    …だいたい、女性は計算高いようでいて、こと結婚に関するかぎりで案外そうではありません。多くの女性は自分の描いた「抽象的美徳」と結婚します。やさしくて、理解があって、まじめで明朗で飾りけがないetc. ダカラアノヒトヲ愛シテイルワ、といってもじつは自分て勝手にこんな幻をつくって愛しているにすぎないのです。…ダレトデモ結婚シテヤルワと思ったとき、女ははじめてほんとうに条件のいい結婚を選べる立場に立っているのです。わたしとあなたがたがいに選びあう恋愛結婚は?ああ、そんなものは偶然の衝突のようなものにすぎません。女は電車のなかで自分の足をふんづけた見知らぬ男を愛してしまうものです。が、いったん愛してしまえば、愛は怪物で、これを細く長く結婚という檻のなかで飼っていく算段なんか忘れるがいい、愛シテイルとは死ンデモイイということ、これは結婚というフィクションをすでにはみだしています。結婚生活のなかにある「愛」の正体は習慣となった性行為と共犯者同士のある種のintimité(したしさ)、それにがまんということで、これは恋や愛とはなんの関係もありません。…愛のために結婚という幻想をすてて結婚しようとする女性こそ、自分の好きなフィクションを選べる立場にいるのですから、アノ男ナラ条件モヨクテガマンデキソウダカラ良妻賢母ノ仮面ヲツケテヤッテイコウ。これはまことにおそるべき悪女であって、世の男性諸君は今後この種の悪女の増加に怯えなくてはなりません。それがいやなら、男性は結婚というフィクションの廃止にとりかかるべきではありませんか?
    最高では??????最高では倉橋由美子大先生??

  • ファンになった。
    完全に消滅すること、これがわたしの最大の希望です。
    シビレル!!

  • 再読……というか作家論その他をパラパラ。
    坂口安吾論は何度読んでも飽きない。三島由紀夫に関する文章は、色々な人が色々なところで書いているが、妙なリアリティと臨場感があるなぁ……。

  • 「わたしのなかのかれ」(講談社)からの収録作が多い。そういう意味では新刊というよりは復刊に近い。

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著者プロフィール

1935年高知県生まれ。大学在学中に『パルタイ』でデビュー、翌年女流文学賞を受賞。62年田村俊子賞、78年に 『アマノン国往還記』で泉鏡花文学賞を受賞。2005年6月逝去。

「2012年 『完本 酔郷譚』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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