満州とアッツの将軍 樋口季一郎 指揮官の決断 (文春新書 758)
- 文藝春秋 (2010年6月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
- / ISBN・EAN: 9784166607587
作品紹介・あらすじ
昭和十三年、ナチスに追われたユダヤ人を満州に逃がした陸軍軍人・樋口季一郎。五年後、戦局が傾く中、今度は司令官として非情の決断を迫られる-。運命に翻弄されたヒューマニストの生涯を追い、戦場における生と死のドラマを描く力作評伝。
感想・レビュー・書評
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満州とアッツの将軍 樋口季一郎 指揮官の決断
著:早坂 隆
文春新書
陸軍の特務将校 樋口季一郎の生涯の記録です
・杉原千畝に先立つ、ユダヤ人特別ビザ発給事件 オトポール事件
樋口 「参謀長 ヒットラーのお先棒を担いで弱い者いじめすることを正しいと思われますか」
東条英機は頑固者で、こうと思ったら一歩もあとへ引かない性格の持ち主であったが、筋が通ればいたって話の分かる人である
樋口の学歴はかがやかしい
・淡路島 尋常小学校
・三原高等小学校
・大阪陸軍地方幼年学校 KD ドイツ語で士官候補生
・東京 中央幼年学校
・第一師団歩兵第1連隊
・陸軍士官学校
・陸軍大学校
陸軍の仮想敵国はロシアであるが、海軍の仮想敵国がアメリカという不思議、もともとベクトルがあっていない
特務機関員は外国語の達人、複数の言語を使いこなす
ドイツ語 ロシア語 フランス語 ポーランド語
ウラジオストック とは、ロシア語で、東方を支配せよという意味
ロシア人は一人一人は良いのだが、国家となるとあんなに危険な国はない
八紘一宇 日本書紀にある言葉で、八紘とは、四方と四隅、一宇は、一つの家を意味する
ポーランド公使館付武官というポストは、当時、対ロシア研究における最重要ポストとして位置づけられており、特に将来を嘱望された人物が代々その任についていた
クーデター史
1931(S06)十月事件
1932(S07)515事件
1935(S10)相沢事件 相沢は樋口の部下だった
1936(S11)226事件
樋口は東条と同じく、統制派のメンバーと目されていたが、ロシア通であったために、皇道派の将校もよく樋口のもとを訪れていた
樋口と石原莞爾は、盟友だった
アッツ島 大本営の方針で見殺しをせざるを得なかったことを生涯背負って生きている
キスカ島 米軍にパーフェクトと言わしめる采配
占守島 終戦後にソ連兵が攻撃してきた
樋口の持論のひとつは、「死ぬまで勉強」であった
目次
序章
第1章 オトポール事件の発生
第2章 出生~インテリジェンスの世界へ
第3章 ポーランド駐在~相沢事件
第4章 オトポール事件とその後
第5章 アッツ島玉砕
第6章 占守島の戦い
最終章 軍服を脱いで
あとがき
樋口季一郎年譜
ISBN:9784166607587
出版社:文藝春秋
判型:新書
ページ数:256ページ
定価:900円(本体)
発売日:2010年06月20日第1刷発行詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
オトポール事件のことがほとんど書いていなかった。当人はアッツ島玉砕、キスカ島撤退のことが頭にあったんだに違いない。オトポール事件か薄れていても感動は最上級した!
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アッツ島の玉砕・キスカ島の撤退時に北部軍司令官として指揮を執った樋口李一郎中将の人生を綴る本です。
樋口中将の人生には3つの大きな出来事が起こりました。上記のキスカ・アッツでの戦いに加えて、杉浦千畝よりも先にユダヤ人の命を助けたこと、ポツダム宣言受諾後にソ連軍を交戦したことです。
本著はこれら3つの出来事に対して樋口中将がいかに決断したか、中将の人生を紐解くことで、人柄の面からアプローチして理解しようとするものです。
日本の上級指揮官は当時の教育・人事もありますが、優れた戦略眼を持った人物は少なく、それが原因となって必要以上に命が失われた側面もあります。そのなかで樋口中将は人命を大切にする優れた戦略眼を持つ指揮官だということがわかります。どのような教育や経験を経て重大な決断を行うに至ったかを注目して読むことを勧めます。 -
日本人が戦時、多数のユダヤ人を救出した話は、リトアニア領事館の外交官だった杉原千畝がナチスに追われた6000人のユダヤ人に、日本領の通過を許可するビザを発行して救出した話は良く知られている。(命のビザ)
今回、早坂隆の「指揮官の決断」は太平洋戦争末期、アリューシャン列島のアッツ島玉砕、キスカ島救出、さらにポツダム宣言受諾後、日本の敗戦が確定した後、ソ連が樺太→千島列島と南下し、北海道占領まで目論んだ時、樋口季一郎(陸軍中将)の第五方面軍は、終戦後の戦いとして、樺太、占守島(しむしゅとう)で防衛戦をしていた。その北方戦争の内容を知るために購入した本であったが、意外にも軍人だった樋口には、杉原千畝を上回る2万人のユダヤ人を満州に逃し救出した過去があることを知った。
日本は、ドイツと軍事同盟を結んでいたわけだから、ナチスからユダヤ人を救出することは、ドイツに敵対する行為になる。命を賭けてユダヤ人を救出したことは、軍人(特務機関)であっても人の命を大切にする立派な人であると感嘆した。
晩年、樋口が不運だったとき、彼が助けたユダヤ人達に多いなる援助を受けたとのことである。
今日、イスラエルがガザのパレスチナ人を大量に虐殺している現実を見ると、ナチスのジェノサイドを受けたユダヤ人が、今立場を変えて同じような大量虐殺をやめない姿に悲憤を感じる次第である。
イスラエル軍人のパレスチナ人に対する行為は、異常そのものであり、どんな時でも人の命を大切に考えた樋口季一郎の行為を今日のユダヤ人達にも知って頂きたいものである。本書はなかなか良い作品であった。一読を推奨する。 -
第二次世界大戦において見事な撤退を成功させることができた樋口中将の生涯についての話。
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樋口季一郎と言う名前を知らなかった。大戦は、ネガティブに扱われる事が多いが、その中に尊敬できる人がいた事をたまに知る。
国の方針、上官の立場がある中で、自分の、人としての考えを述べ、難局にあっても最大限できる事を実行する。普通、どこかで諦めてしまう事を、彼は手を抜かずやり遂げる。
これは、彼だけができる事だったのか、学び、経験すれば、他の人もできるようになる事なのか。このような素晴らしいリーダーは、どうやって生み出されるのか、とても興味を持った。
良き家庭人という対象的な姿も、好印象に感じる。 -
アッツ島の戦いで援軍が送れなくなることを部下にどんな想いで伝えたのかと思うと考えさせられた。高級軍人でありながら部下想いでそして家族想いであった樋口季一郎の人間性が伺えました。この本からの気付いたことは明治から昭和にかけて数多くの優秀な軍人たちがいるが共通することは上を見ずとも信念に従って独断できる人だなと思う。
オトポール事件はそれが象徴される例かなと。ソ連から戦犯にされそうだったがユダヤ人が守ってくれるのを知り、最後は人間性やなとも思う。
キスカ島の撤退だって陸軍や海軍と連携できたこともすごいが、まずは人命を大切にする樋口季一郎だからこそ実現できたことだなと思う。
そんな人間性から占守島の戦いも勝てたのではないかと私は感じる。自分も人の上に立つ時がくれば樋口季一郎みたいになりたい。 -
オトポール駅のユダヤ人救出劇。アッツ島玉砕命令とキスカ島奇跡の撤退。占守島攻防戦。指揮官たるものの悲哀。今も昔も、人物はいるもんだ。淡々とした筆致で迫ってくるゼネラルヒグチ奇跡の物語。
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組織人としていかに生きるかという視点で読んだ。与えられた役割の中で何をなすか。満州やアッツでの決断。戦後の占守島での決断。人間性、教養を磨くのが一番。日々の実践で人間を磨いていく。
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陸軍中将の樋口季一郎は、ソ連通の情報将校であった。ハルビン特務機関長時代にユダヤ人難民を救出。玉砕したアッツ島守備隊を所管する北部軍司令官でもあった。
その経歴をみても、永田鉄山を刺殺した相沢三郎の上司だったなど興味深いものがあるが、本書を読むと陸軍の良識派であった事がある。
著者は、樋口を讃美する事なく迫ろうとしており、そのスタンスには好感がもてるが、巻末に参考文献一覧がないのは残念である。