- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784166607983
感想・レビュー・書評
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出版業界が崩壊しつつある元凶である電子書籍に対する鋭い分析と、たとえ電子書籍の脅威がなくとも現在の出版業界が崩壊していく必然性を突いた傑作。
これから求められる電子書籍が単に紙媒体書籍を電子化しただけでは済まないこと、それを普及させるためにはリーダー(ハード)とコンテンツ(ソフト)が揃わないと無理なこと、また普及しても無料ダウンロードが一般化しているネット世界で有料ダウンロードで収益を上げることの困難さなど、考えるべきポイントすべてに言及している点はこの種の書籍の中では一押しと言えるだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【目的】
紙の本と電子書籍の端的な違いは何か?そもそも2010年の電子書籍元年とは何だったのか考えてみたく手にとった。
【結論】
儲かるか儲からないかが非常に大きな違いということがよくわかる。儲からないからくりだからこの先、出版メディアの形は崩壊する。全くそう思った次第だ。
著者の取材と電子書籍出版の実体験から切々と出版の今後の行方が暗いということを訴えている。ネット(デジタル)社会の実情と紙からデジタルへの移行は全く儲からないばかりか既存の出版社は移行すればするほど自分の首を絞める結果にしかならないと警鐘を鳴らす。
ネット社会の習慣をほとんど「悪」と捉えているのが特長だ。本というパッケージメディアは作成するのに手間隙がかかる。しかしネット社会はコピーあるいはフリーの世界のため手間隙が評価されない。値がつく上限はお手軽な300円前後で電子書籍をこの価格で売ることは赤字を産み出し商売にならないと著者は言う。
最初から最後までこの調子だ。
しかし、「おわりに」を読めばわかるが意外な結論付けがされている。価値の源泉はリアル世界に回帰する。
簡単に言ってしまえば付加価値創造に対する対価がネットの世界では非常に低価格な上、コモディティ化への動きが早い(あっという間にただになる)。しかし、有史以来培ってきた出版技術は電子書籍へ使わざるを得ない。売上が上がらないのを承知でデジタル化へ行くが読書行為の持つリアルさはどこに回帰するのか?感動や情緒を楽しむという行為は何によってもたらされるのか興味深いところだ。
問題提起をして終わっているようないないような。気になる。
【詳細】
2010年は自分にとって活字と触れ合う機会が少なかった。だからというわけではないが電子書籍元年にピンとこない。デジタルギアには相変わらず興味はあったしスマートフォンが話題を集めていたのでシャープのガラパゴスは発表があってから直ぐに調べてみたが?がつくような仕様だったので興味を失ってしまった。何で今更電子書籍に特化した商品を作る必要があるのかという点でかなり疑問のつく商品だったからだ。その点、この本の論点は経験に基づいた鋭さはある。
簡単に言ってしまえばネットメディアにはそれ相応のビジネスモデルがあるはずだが既存の物差しばかりで議論して答えが出ていない。
何で読むのかという問題と教養や知性をどんな方法で磨くのか。そこに一体いくらの値がつくのか。色々あってたくさん商品が出て淘汰されてただでない相当額に落ち着くんだろうね。
ただでは知性は磨けんよ。 -
電子書籍は出版社も著者も救わない。儲かるのはただプラットフォーム側だけ。諸々経費がかかるのに、場所しか提供せずに編集も何もしなければ、販売データもくれないのに30%もっていくプラットフォーム…。
苦労して作り上げた作品に正当な対価を払わずにコンテンツが消費されるのは耐えられない。しかし、ネットは重力である。もうこの無料化と違法コピーの流れは止められない。
技術は基本的に人の仕事を奪う。それはメディアだけじゃないあらゆる業界で旧形態ビジネスの中から失業を生んでいく。
高給を支える出版社のビジネスは無くなるだろうけど、電子とリアルが適度にまざりあい、出版社の給料は低くなり、規模は小さくなり、リアル本の出版点数は少なくなりながら、生きながらえて行くのだろうと思う。 -
岐路に立たされた出版業界、そしてプリントメディアのこれからはどうなるのか?帯のキャッチがセンセーショナルだったので、衝動買い。
かつては2兆円産業、重版で「お金を刷ってる業界」といわれ黄金時代を生きてきた出版業界がここにきてデフレ不況、人口減、そして電子書籍の出現というかつてはなかった新しい変化によって衰退し、ジャーナリズムは今や辞めたい業種No.1・・・。このような視点から、事細かに書いてある内容は、確かにセンセーショナル。豊富なデータに裏打ちされた出版業界ベテランの著者の問題提起は非常に興味深いのですが、出版の出身者としてのポジティブな示唆が少ないのがちょっと残念でした。
むしろ、このような現実を受け止めることによって、アンチテーゼとして、こんな時代だからこそ新しいコンセプトで市場を作る。そのための紙と電子メディアの融合とは?そんなテーマについて想像力を掻き立ててくれるきっかけにはなりました。☆3つ。 -
電子書籍に批判的な内容の本を読んでみたいな〜、と思って購入しました。
電子書籍はビジネスとして成り立たないのではないか、という議論は興味深いし、そうかもしれないな、とも思います。
一方で、著者は、紙の書籍を電子化するだけの電子書籍ということに対してダメだしをしているにもかかわらず、電子書籍特有の取り組み(動画とか音楽とかとの組み合わせなど)を盛り込んだ作品について、書籍とはいえないみたいなことを言ったり、「そこまでしないと売れないのか」と暗澹とするみたいなことを書いていて、結局、この人が一番、電子書籍=従来の紙の内容をデジタル化、という概念から逃れられていないのではないかな、という気がします。 -
出版業界が迎えているその課題。昨年ごろから電子書籍の登場もあいまって、出版業界はその岐路に立たされている。ただ、何も本がなくなるとかそういったことではなく、そのコンテンツの在り方、表現の仕方、流通の仕組みが変わろうとしているということだ。その流れを察知してか、若者が出版・印刷業界を志望する割合も、以前と比べると少なくなっているようでもある。作者が自分の作品を自由に作成し、出版できるようになった分、読み手を集められる一部の人とそうでない多くの人が生み出されることも予想される。また、ネットにおけるコンテンツ課金は、まだ抵抗もある人が多く、そうやすやすと急速に広がっていくのは難しいだろう。ネットの登場、技術の発展は人々の生活を便利で快適なものにするが、全部が全部当たり前に受け入れられるものではないことも忘れてはならない。そういう意味でも、今後この業界がどの方向に向かっていくことになり、どこで落ち着くことになるのかから、まだまだ目が離せないといえる。
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この本の著者って、ちょっと前に話題になったリストラなうの方なんですね。話によるとその後予定通り光文社を退職されたらしい。著者は出版業と紙のメディアの衰退、そして電子メディアの勃興を同時に描いていて興味深い。その辺りの描写は割合リアリズムに富んでいる。なんだけど、イマイチ後ろ向きというか現状では電子書籍の未来は全く見えないと述べるにとどまっている。全く先がみえないのは新しい領域の新しいビジネスなんだからいわば当たり前なんだが、そういうキャズム超え前のビジネスの絵を描けない所がこの産業の方の最大の問題点なのかと思った。
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電子書籍の現実みたいなものは1年前から不安視されていたものなのでどうってことないが、横川くんの話が最高に面白い
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電子書籍はビジネスにならない。われわれが薄々気がつき始めていた結論に向かって丹念に論を積み重ねており、説得力がある。終盤の情報階層社会を意識しすぎた論の展開はいささか鼻白む部分もあるが、ネットの発達によるブロードキャスティングモデルの崩壊を冷徹に見通して、おためごかしの明るい未来など提示していないのには逆に好感を持った。