老人支配国家 日本の危機 (文春新書 1339)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166613397

作品紹介・あらすじ

本当の脅威は、「コロナ」でも「経済」でも「中国」でもない。
「日本型家族」だ!

核武装から皇室までを語り尽くすトッドの日本論!
磯田道史氏、本郷和人氏とも対談。

若者の生活を犠牲にして老人のコロナ死亡率を抑えた日本だが、社会の存続に重要なのは高齢者の死亡率より出生率だ。
「家族」が日本社会の基礎だが、「家族」の過剰な重視は「非婚化」「少子化」を招き、かえって「家族」を殺す。

(目次)
日本の読者へ――同盟は不可欠でも「米国の危うさ」に注意せよ

Ⅰ 老人支配と日本の危機

1 コロナで犠牲になったのは誰か
――「老人」の健康を守るために「現役世代」の活動を犠牲にした
「シルバー民主主義」
2 日本は核を持つべきだ
――「米国の傘」は実はフィクションにすぎない
3 「日本人になりたい外国人」は受け入れよ
――日本に必要なのは「多文化主義」ではなく「同化主義」だ

Ⅱ アングロサクソンのダイナミクス

4 トランプ以後の世界史を語ろう
――黒人を“疎外”したのはトランプではなく民主党だ
5 それでも米国が世界史をリードする
――民主主義の“失地回復”は常に「右」で起きる
6 それでも私はトランプ再選を望んでいた
――「高学歴の左派」は「低学歴の労働者」の味方ではない
7 それでもトランプは歴史的大統領だった
――トランプの“政策転換”が今後30年の米国を方向づける

Ⅲ 「ドイツ帝国」と化したEU

8 ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する
――ユーロ創設は仏政治家が犯した史上最悪の失敗だ
9 トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本』
――貧しい人々には「資本の相続人」よりも
「学歴があるだけのバカ」の方が有害かもしれない

Ⅳ 「家族」という日本の病

10 「直系家族病」としての少子化(磯田道史氏との対談)
――日本人は規律正しい民族だが“自然人”としての奔放な面もある
11 トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史(本郷和人氏との対談)
――女性天皇の登場は、中国の父系文化への反発でもあった

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)
1951年生まれ。フランスの歴史人口学者・家族人類学者。国・地域ごとの家族システムの違いや人口動態に着目する方法論により、『最後の転落』(76年)で「ソ連崩壊」を、『帝国以後』(2002年)で「米国発の金融危機」を、『文明の接近』(07年)で「アラブの春」を、さらにはトランプ勝利、英国EU離脱なども次々に"予言"。著書に『エマニュエル・トッドの思考地図』(筑摩書房)、『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』『シャルリとは誰か?』『問題は英国ではない、EUなのだ』(いずれも文春新書)など。

感想・レビュー・書評

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  • 「文芸春秋」に載った記事8本と、磯田道史、本郷直人の二人の歴史学者との対談。テレビや本で馴染んでいる二人だけに、質問から話がはずみトッド氏の考えが分かりやすく伝えられた。

    表題の「老人支配国家 日本の危機」は、
    「コロナで犠牲になったのは誰か」~「老人」の健康を守るために「現役世代」の活動を犠牲にした「シルバー民主主義」で端的に表明している。

    コロナ禍になって半年くらいの記事(2020.7文芸春秋)。トッド氏はコロナ禍は、歴史家、歴史人口学者として「グローバリズムに対する最後の審判」だと捉える。結果としては「グローバリズムの知的な敗北」だという。

    ロックダウンは、低リスクの「若者」と「現役世代」に犠牲を強いて、高リスクの「高齢者」の命を守った、ともいえる。だが、いま必要なのは、「生産力」=「社会としての活力」で、これは「老人の命を救う力」よりも、「次世代の子どもを産み育てる力」にこそ現れる。コロナ被害を最小限に止めた日本だが、唯一にして最大の危機は「少子化」であり、少子化対策こそが最優先課題だとする。

    コロナ禍は新しいことが起きたのではなく、すでに起きていたことを露見させたという。フランスでは、人工呼吸器もマスクも医薬品も自国では作っていない・・モノの生産は先進国ではなく後進国になっていた・・これは人口10万人あたりの死者数(2020.5.15時点)でみると、ベルギー77%、スペイン58%、イタリア51%、イギリス50%、フランス40%、アメリカ25%で、ドイツは9.5%、日本・韓国は0.5%。これは、高い国はトッド氏の家族分類での平等主義核家族の国で個人主義傾向が強く、グローバル化が進んでいる。ドイツ日本韓国は直系家族で権威主義的家族で「保護主義的傾向」が作用し、産業空洞化に歯止めがかかって、国内の生産基盤と医療資源がある程度確保された、ため被害の拡大を防げた、とみる。


    対談では、磯田、本郷両氏とも、トッド氏の40年に及ぶ研究の集大成ともいえる「家族システムの起源」(2011発表、日本版2016)を読んでいる。トッド氏の日本理解は日本の歴史人口学の父ともいえる速水融氏に負っており、磯田氏は速水氏の下で史料集めをしたという。

    言語の伝播過程は、「中心地で生まれた新たな語形が周辺へ伝播する結果、古い語形ほど外に、新しい語形ほど内に分布する」(ローラン・サガール)。それを家族形態にも応用すると、ヨーロッパはユーラシア大陸の周縁部で、ヨーロッパで核家族が中心的形態になっていることは、核家族こそが最も古い家族システムだと言える。これを実証したのが、「家族システムの起源」)。

    日本でも、磯田氏が調査した薩摩藩では、兄弟複数に対して禄が与えられるという兄弟の横の関係が重視されたり、家臣が農村に住むなど、江戸時代の直系家族以前の鎌倉期の武士を見ている気がする、と言う。

    1.老人支配と日本の危機
     1「コロナで犠牲になったのは誰か」(文藝春秋2020.7)
     2「日本は核を持つべきだ」(文藝春秋2018.7)
     3「日本人になりたい外国人は受け入れよ」(文藝春秋2019.6)
    2.アングロサクソンのダイナミズム
     4「トランプ以後の世界史を語ろう」(文藝春秋スペシャル2017.春号、アトランディコ2016.11.15)
     5「それでも米国が世界史をリードする」(文藝春秋スペシャル2017春号)
     6「それでも私はトランプ再選を望んでいた」(文藝春秋2020.11)
     7「それでもトランプは歴史的大統領だった」(文藝春秋2021.1)
    3.「ドイツ帝国」と化したEU
     8「ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する」(文藝春秋2018.1)
     9「トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本』」(文藝春秋スペシャル2014.秋号、マリアンヌ2013.9.14)
    4.「家族」という日本の病(対談)
     10「直径家族病」としての少子化:磯田道史×トッド(文藝春秋2016.12)
     11「トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史」:本郷和人×トッド(文藝春秋スペシャル2017冬号)


    2021.11.20第1刷 2021.12.15第3刷 図書館

  • 筆者はソ連の崩壊とトランプ大統領の当選を「予知」していたという、人口学に詳しい歴史学者。

    本書の中では、これまで世界が辿ってきたパワーバランスの変化や、現在の地政学的な問題やこれから取るべき道筋について語られる。それ自体は面白いのだけど…

    このタイトルのわりに、本書の半分以上は日本以外のトピックについて語られる。タイトル詐欺!と、どうしても言いたくなる。(最近こういう本増えたよね…)

    面白かったのだけど、事前の期待を(悪い意味で)裏切られたという意味で星三つ。

    (書評ブログもよろしくお願いします)

    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/2022/02/15/%E3%80%90%E3%80%91%E8%80%81%E4%BA%BA%E6%94%AF%E9%85%8D%E5%9B%BD%E5%AE%B6_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%8D%B1%E6%A9%9F_-_%E3%82%A8%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%88

  • 訳者が良いのか、とても読み易くスラスラ読めた。
    全く外れてはないが題名と内容の乖離が気になって想像してたのと違うと感じたし、2014年の文章があったりと、編集にも無理があったかなと思う。
    でもトッド氏の解説は目から鱗で、彼ならウクライナ問題をどう解釈するのか是非知りたい。

  • 文藝春秋への寄稿のコレクション。タイトル以外のテーマも盛りだくさん。人口統計をもとに、『中国が覇権国になることはあり得ない』と断じているのが印象的でした。

  • ソ連崩壊、トランプ勝利、イギリスのEU離脱など、歴史的変化点を見通してきた著者が、タイトルのテーマで何を訴求するのか関心をもって読み進めたが、半分肩透かしにあった。全4章構成のうち、最初の章のみであり消化不良気味である。
    著者本人の問題でなく、出版社の方で、日本の現状に対するインパクトを考えた上でのタイトルであろう。その中でも、日本政府がとってきた政策が、高齢者の健康を守るために、現役世代と若者の生活に犠牲を強いている、という論舌は鋭い。
    著者は決して経済や政治の専門家ではなく、人口動態や家族制度を調査する学者であるが、著者自身の専門を通した幅広い調査や深い洞察は、大変示唆に富んでいる。

  • 筆者の専門である「家族構造」を切り口とすると、各国の社会体制や歴史を異なった視点で見れて面白かった。

    例えば、資本主義はイギリスで始まり、アメリカではある種一番純粋なかたちで発展しているが、これはイギリス・アメリカで見られる「絶対核家族」(子どもが親元を離れて家族を構築する)による、個人の自由が尊重される価値観が
    ベースになっている。一方、ロシアは「共同体家族」(子どもは親と一緒に住み続け、遺産相続は平等になされる)であったため、資本主義を受け入れられず共産主義となった。
    確かにそのように考えると、資本主義や共産主義が発生した地域は必然だったと思わされた。
    また、ソ連崩壊は、平等を行きすぎた結果、現実との歪みが生まれたのが原因で、昨今のアメリカにおけるトランプ政権誕生やイギリスにおけるブレグジットは、自由が行きすぎた結果としての保護主義への回帰と解釈できる、とのこと。


    本書の構成が雑誌の連載を繋げているせいだろうが、読み進めることで議論が深まっていく感じがあまりなかったのが、少し残念。

  • 日本の少子化、非婚化は歴史的な直系家族の習慣による背景がある、と言う。所謂女性の地位が低く、男性、更に親、老人に対する「家族」敬いが高いことに理由がある、という。日本の少子化対策は目下政治家の最大の課題だが、既に30年前から言われていながら大胆な変革、政策が実行されないのは、その直系家族(政治家の2世3世)では無理だ、という事を言っているのではないだろうか。(政治家は現状維持が容易く批判も少なく、先延ばし策が最良だ、という考え方)

  • 著者の名前だけは、色んな方面で知っていたが著作を読むのは、多分初めてになる。

    人口学・家族人類学という研究があるのも初めて知った。

    ただ、表題につられて購入したんだが、内容は色んな雑誌記事の寄せ集めで、関係のないもの(それはそれでそれなりに価値はあった)が多かった。

  • 文春新書は本の題名と中身の落差が激しいと思うのは私だけでしょうか。この本は日本のメディアに載ったトッド氏のインタビューや対談などが集められており、老人支配国家や日本の危機というキーワードも外れてはいないものの、それだけではないという読後感です。時事ネタというか、その時々のトピックスが中心となりますが、トッド氏の発言は示唆に富んでおり、当代一級の知識人が見ている世界感をキャッチーに垣間見ることができます。文集的なものだけにちょっと重複感がありますけどね。あと、時系列が滅茶苦茶なのは不満でした。今後、文春新書のトッドシリーズは題名に惑わされずに買いたいと思いました。

  • タイトルに惹かれて読んだが、老人が支配している国家の問題について語られるわけではなかった。むしろ、他国の話が大半である。
    少子化は国家の衰退に繋がる。出生数の減少が当たり前になっている今日だが、日本は少子化問題に本気で取り組まないといけない、危機的状況が来ているのだと感じた。

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著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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